今日は待ちに待った初任務。
今度は吐き気なんかではなく、正真正銘、期待に胸が高鳴っているのを感じる。
『レイヴン、コーテックスからの依頼です。音声データを再生します』
オペレーターであるレインちゃんは、録音を再生し始めた。
『──我がグローバルコーテックスに対する、テロ計画の情報を入手しました。犯人の正体は現在のところ不明ですが、レイヴンに恨みを持つ者は少なくありません。情報によると、彼らは近日中に予定されているアリーナの会場を破壊し、開催を中止に追い込むつもりのようです。レイヴンには施設内で待機し、侵入者を──』
「……ちょっと、レインちゃん。止めて」
『? どうしたんですか、急に。まだ「1.状況説明」の項目の途中ですが』
「これ、自分の会社の案件なんだから、レインちゃんが直接説明すればよくない? わざわざ録音を流す必要ある?」
『……「マニュアル第4条:依頼の説明は、公式に記録された音声ログを優先して使用すること」と定められています』
「頭が固いなぁ……」
『続き、再生しますね』
『──侵入者を殲滅してください。なお、今回の依頼には、彼らに圧倒的な力の差を見せつけ、今後のテロ活動を抑止する目的があります。中途半端な成果では意味がありません。そのため、撃破した敵の機体数に応じて追加報酬を支払います。そのつもりで。』
「うーん、説明が長い。 レインちゃんが要点だけかいつまんで教えてくれたら良くない?」
『……ですが、ブリーフィングは規定のフォーマットで行う決まりで……』
「今の時代、決まりになんて縛られてちゃダメなんだよ。試しにさっきの説明を三行にまとめてみてよ」
数秒の沈黙の後、レインちゃんが渋々と口を開いた。
『……アリーナ破壊予告あり』
『……侵入者を殲滅せよ』
『……報酬は歩合制。……以上です』
「ほら、それだけで伝わるよね。こういう無駄を効率化するためのオペレーターでしょ」
『…………』
「レインちゃん、自分のことバリバリのキャリアウーマンだと思ってるでしょ。違うよ? それじゃただのマニュアル人間」
数秒の沈黙の後、スピーカー越しに奥歯を噛み締める気配が伝わってきた。
『……マニュアルにはそんな事記されていませんでした。私に落ち度はありません』
向きになったような、ハッキリとした早口で反論してきた。
「だからそのマニュアルを捨てろって!」
「それは出来ません。、マニュアルを捨ててはいけないとマニュアルに書いてありますので」
「んなわけあるかマニュアルバカ!」
『……』
「れ、レインちゃん?おーい」
スピーカーから、すすり泣くような音が流れ始める
『ば、ばかって言われた。ひどい……』
「バカ」に反応して突然泣き出すレインちゃん。
メンタルが弱すぎる。
でもこういう時は謝らないといけないって俺は小学校で学んだんだ。
「ご、ごめんって、泣き止んでよ」
レインちゃんはしゃくり上げながら答えた。
『な、泣いてなんて居ません。目から液体を出して、それを目薬として売ってグローバルコーテックスの株価を上昇させようとしているだけです!』
「なに言ってんの?」
意味不明な事をのたまいながらも啜り泣き続けるレインちゃんを宥めていると、作戦時間が目前に迫ってきたので、取り敢えずアリーナへと向かうことにした。
『そこの角を左でずぅぅ』
レインちゃんのナビで
――――
「ここがアリーナか。まだ何とも無さそうだが」
静まり返った巨大なドーム状の施設。観客席を照らす照明は落とされ、俺の機体のセンサー音だけが虚しく響いている。
『情報によれば、計画時刻は二分後です』
通信越しに聞こえるレインちゃんの声は、先程までのぐずぐずな泣き声から一転、不気味なほど落ち着いたトーンに戻っていた。
「あれ、泣き止んだんだ」
「……先程はお見苦しい所をお見せしました。確かにマニュアルを優先するばかりに業務が非効率になっていたのは確かです。これからはマニュアルを捨て、効率的にサポート致します」
「おお、頼もしいな。さっきはバカって言ってごめんね」
『!敵影接近しています。迅速に排除して下さい』
突如、アリーナの搬入口ゲートが火花を散らして爆破された。
『三時の方角敵機二体』
『小さいのと大きいの』
『出現しました』
「それは普通に報告しろよ」
逆に長くなってしまっているではないか。
『三行が効率的と言ったのはあなたです』
「意趣返しかよ!」
全然吹っ切れてねぇじゃん
マイク越しでもしたり顔が伝わってくる。顔見たことないけど。
「うっ」
『ミサイルが飛んできています。避けて下さい』
「その指示が間に合う訳ないだろ」
『飛んで』のあたりで着弾してたわ。
『敵が撃ちました』
『当たりそうです』
『死なないで下さい』
「後でグローバルコーテックスに苦情入れるからな」
『えっ……』
俺は毒づきながら、強引にブーストを吹かして応戦を開始した。
――――
ミサイルの噴煙をENブーストの強引な加速で振り切る。
そのままブーストを吹かし、敵機を置き去りにするようにブレードのトリガーを引く。
プラズマの刃は敵機の装甲をものともせず焼き切り、背後で爆風が巻き起こる。
俺は立ち止まる事無く、レーダーに映る赤点へと旋回した。
「同じ所から来いよ!一々移動すんの面倒くせぇ!」
敵機は一定の間隔を置いて、別々のゲートから代わる代わる侵入してくる。広大なアリーナ内を右往左往させられ、俺の機体も精神も滅茶苦茶に削られていた。
そんな命のやり取りの最中、通信機から妙に湿り気を帯びた声が聞こえてきた。
『レイヴン、嘘ですよね?本社に連絡するなんて酷いこと、しませんよね?』
「いつまで言ってんだ。やるって言ったらやるぞ」
男に二言は無いのだ。
『……』
『三時の方角』
『敵が一体』
『増えました』
「……」
俺は開き直ったレインを無視して、敵機に照準を合わせる。
2、3発撃ち込んでやれば、敵機は煙を上げ炎上した。
それと同時に、機体の自動音声が残弾の低下を知らせる。
ここからは、ブレード主体で攻めるしか無さそうだ。
『目薬』
『瓶詰め』
『完了しました』
「冗談だから黙っててくれ!」
レインちゃんって、めんどくさい。