「わたしはおおきくなったらこのゲヘナを……いや! キヴォトスをしはいしてみせる!」
公園のジャングルジムのてっぺんで、私の幼馴染である羽沼マコトちゃんが指を大きなヘイローが浮かぶ空に立てながら言い放った。
ジャングルジムなんて高いし落ちたら痛いしで怖くて登れない私から見たら、その姿はとてもかっこよく見えた。
「マコトちゃん! すごーい!」
「キキッ! そうだろう! そしてそのときはおまえもいっしょだ! サツキ!」
掲げていた指をそのままピッと私に向けて言い放つ。
堂々と言い放つ彼女の姿はきっと成し遂げてしまうんだろうという説得力が感じられて、輝く太陽を背にしている姿がとても格好良くて、自信に満ちた笑顔がとても愛らしくて、私はそんなマコトちゃんに満面の笑みで返した。
「うん! わたしもたのしみにしてるね! マコトちゃん!」
幼い頃の、暖かい春風の日の思い出だ。
*****
当たり前の話だけれど、自治区内に大きな火山があるゲヘナだろうと冬は寒い。
この時期の風は骨身に染みるし、とりわけ寒い日には雪だって降る。
でもやっぱり火山があっていろんなところから温泉が掘れるらしいんだからもっと暖かくてもいいんじゃない? ってイロハに言ったら「ああ……そうですか……」と軽く返されて終わってしまった。
さっくりと話が終わってしまった事を淋しく思いつつも、私は椅子に座ったまま振り向いて窓の外の空模様を見る。
放課後の空は曇り空で、この
ずっと見ていると実際になんだか寒くなってきた気がして、私は手元のリモコンで暖房の温度を上げた。
「邪魔するわ」
暖房が唸りを上げるなか、正面の扉が開かれて芯の通った声がした。
小さな身体ながらに迫力を備えたゲヘナ学園の風紀委員長、空崎ヒナだ。
「あらヒナじゃないの。どうしたの?」
「……一応、前から打ち合わせの予定は入れていたはずだけれど?
名前に続く、今の私の役職名。万魔殿のトップである証。
今被っている制帽と共に私がマコトちゃんから引き継いだ、重圧の形。
「あー……そうだったわねごめんなさい。すっかり忘れてたわ」
「まあ、別に故意に約束を反故にしたわけではないしいいわ。なんなら前はこういった交流の場すらなかったのだから」
「そうね。マコトちゃんは凄い風紀委員会の事を敵視していたけれども、他のみんなはそこまででもなかったし、ね……」
私は苦笑しながら制帽のつばを軽くさすった。
あの頃に風紀委員会と敵対していろいろと嫌がらせしていたのはマコトちゃんがそうしろと言っていたからだったけれど、それはそれとして別に風紀委員会と敵対していたのが嫌というわけでもなかった。
ただマコトちゃんが突き進んでいく事についていくのが、みんな好きだったのだ。
私もチアキもイブキも他の部員のみんなも、そして普段は辟易とした姿を見せていたイロハだって。
なので風紀委員会のみんなには悪いなぁとは思いつつも、特に罪悪感など抱く事なくやっていたわけで、言ってしまえばそういった行為すら楽しい日常だったのだ。
「……静かになったわね、ここも」
ヒナがふとそうこぼした。まるで私の心境を察したかのように。
そしてその言葉はあまりにも同意できるものだった。今みたいな呟きなんて、マコトちゃんがいたときなんて流されるようなものだったのだから。
「ええ。本当に、そうね……」
私はさすがに暗い顔になってしまい、それをヒナに見せるのはちょっとばかり恥ずかしくなってしまったので背中にある窓の外に再び目を向けた。
曇り空の下にある敷地内の通学路にはコートを着た生徒達が校舎から出ていく姿が見える。楽しそうにしている子や一人で寒そうにしている子など、様々で大勢だ。
「……あ」
ふと、声をこぼしてしまった。
窓にそっと手を置きながら、私はその見つけた姿に目を凝らす。
そこにはマコトちゃんがいた。
沢山の生徒の中で、他の生徒と同じように冬用のコートを身に包んで大人しい様子で歩いている。
道の中央を威風堂々と歩くわけでもなく。
道の端っこで一人孤独に歩くわけでもなく。
ただ、他の生徒の中に溶け込むように、その他大勢の一人であるかのように、静かにコートのポケットに手を入れながら寒そうに歩いていた。
「…………」
窓の向こうのマコトちゃんが不意に立ち止まり、振り返ってきた。
彼女と目が合い、逸らす事ができない。でもマコトちゃんは、数秒私と見つめ合ったかと思うと、申し訳なさそうに俯いて、また前を向いて私に後ろ姿を見せてしまった。
それだけで、私はもう、耐えられなかった。
「……マコト、ちゃん……!」
後ろにヒナがいるというのに私は嗚咽を抑えられない。
ヒナもそんな私に動揺する事はなく、ただ静かに私の感情の決壊が収まるのを待ってくれている。
ああ、どうしてこんなことになっちゃったのかしら……。
始まりはむしろ、楽しくて輝かしい、そんな温かな日々だったのに……。