【完結】羽沼マコトが席から降りた日   作:詠符音黎

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4.不思議な邂逅

 これまでのティーパーティーは実質的にこの私、フィリウス分派トップである桐藤ナギサが一人で独占していたと言われてしまっても否定できませんでした。

 他のメンバーであったパテル分派のトップであり私の幼馴染でもある聖園ミカさん、そしてサンクトゥス分派のリーダーである百合園セイアさんはそれぞれこれまでの経緯からティーパーティーとしての参加ができなかった期間が長く、多頭政治というお題目は形骸化していたとも言えます。

 ですが、あくまで現在は立場を降ろされてもなお後任問題から暫定的にトップのままのミカさんをとりまく環境もだいぶ落ち着きを取り戻し、セイアさんの体調もすっかりと回復した今、ティーパーティーというトリニティ独自のあり方を再び内外に知らしめる必要が来たと私は見ました。

 お二人がまたティーパーティーのホスト代行としての役割を担えるようになっただけでなく、先日ついにずっと気を揉んでいたアリウス分校がトリニティとこれまで数百年もの間続いてきた確執を乗り越え、一つの学校として復活したのもよりこのティーパーティーの復活を喧伝せねばなるまいと決めた理由でもあります。

 これからのトリニティ、アリウス、そして周囲を取り巻く他の学校との関係を前に進める次の段階のため、私はゲヘナ学園との会談をセッティングする事にしました。

 ここに至るまでの道のりは決して容易な事ではなく、内外からの強い批判、ときには妨害もありましたがついに会談の成立までこぎ着ける事ができたのです。

 会談場所は超法規的な立場を持つ先生のいるシャーレ。

 完全なる中立地帯であるシャーレが所属しているD.U.地区の治安維持担当はヴァルキューレ警察学校なので個人間の関係性においても一定の健全性は保たれますし、何よりこのキヴォトスすべての生徒の事を慮ってくれる先生の下でなら感情ありきの舌戦ではなく未来を見据えた話し合いへと至る事ができるだろう、そう思い指定しました。

 こちらのメンツはもちろん私、ミカさん、セイアさん。それに加えて警護担当として正義実現委員会の委員長を担っている剣先ツルギさんにも同行してもらっています。

 一方でゲヘナからは議長のマコトさん、情報部長のサツキさん、肩書は戦車長ですが実態としてはナンバースリーと見なされているイロハさん、そして彼女らの警護担当として風紀委員会の委員長である空崎ヒナさんとなりました。

 ここにシャーレそのものとも言える先生と中立の立場からの警護及び立会人としてヴァルキューレ公安局局長、尾刃カンナさんに会談会場に同席してもらう事となりました。

 錚々たる面子が揃ったこの会談は、これからのトリニティとゲヘナだけでなくキヴォトス全体の未来へと繋がる新たな一歩となるでしょう。

 ええ、それほどにこの場はとても重要なモノなのです。そのはずなのですが……。

 

「キキキッ、どうした桐藤ナギサ。そんな難しい顔をして。このマコト様の顔に何かついているとでも?」

「バウバウバウッ」

「いえ、顔ではなく……」

「あーほらバーちゃん、駄目よー大人しくしてなきゃ。ほらジャーキーあげるから大人しくしてなさい」

「あの、マコト議長の膝上に……」

「バウバウッ!」

「おわっ!? こら止めないか! 私の上でそんなはしゃぐのは! サツキ、そうやってすぐ甘やかすからバーゲストも堪え性というものが――」

「――だから! なぜこの場にペットがいるのですかっ!?」

 

 ……思わず大声を上げてしまいました。感情的にならないと決めたはずなのに。

 何故かマコト議長は今回の会談にペットを連れてきたのです。

 そしてそのまま万魔殿との会談が始まってしまい、今この状況という訳で。

 まあ声を荒らげ問いただすような感じになってしまったのは反省点ですね。

 ですがこれはさすがにあちらがよろしくないのではないでしょうか。この会談の重要性は彼女らも理解しているはずなのに、そこにどうやらマコト議長が飼い始めたらしい子犬がいて時折それにかまって話の進行が滞っているのですから、これくらいは怒る権利はあると思うのです。

 

「……すみません。どうしてもマコト先輩から離れようとしないので……苦肉の策としてこうして連れて来る事になりまして」

「あーまぁそういう事かなぁとは思ってたよ……」

 

 イロハさんの言葉に大部屋の隅でパイプ椅子に座る先生が苦笑しながらリアクションしています。

 どうやら先生はあのバーゲストと呼ばれた子犬の事をご存知のようで。

 あの先生の感じからすると、どうやら本当に子犬相手に根負けしてここに連れてきたようです。

 だとしても真面目に話す気があるのでしょうか彼女らは……。

 

「…………ねぇ」

 

 と、そこで私の右隣にいてずっと沈黙を保っていたミカさんが口を開きました。

 正直、悪い予感がしました。

 ミカさんはパテル分派のトップとしてここにいますが同時に活動を控えている立場でもあります。

 そんな繊細な立場の彼女ですが、同時に他のトリニティ生と同じくゲヘナ生には良い印象を持っていないはずです。何なら相性が悪く強い敵意の方をはっきりと持っているでしょう。

 そんなミカさんが、この状況でもし爆発してしまったら……!

 

「ずっと我慢してたけど……うん、もう無理かな」

 

 そう言うとミカさんはすっと席から立ち上がってマコト議長の前に歩いていきます。

 私、そしてそれぞれの背後にいるツルギさんやヒナさん、私達を隔てるような感覚すら覚える会議用のテーブルの奥で立っているカンナさんにも緊張が走ったのが分かりました。

 まさかミカさん、ここでマコト議長と……!?

 

「いっ、いけませんミカさ――」

「――そっちばっかりズルい! 私にも抱っこさせてっ!」

「……え?」

 

 マコト議長の前で可愛らしい声で両手を広げて言った彼女に、思わず間抜けな声を上げてしまいした。

 さっきとはまったく違う驚きをツルギさんヒナさんカンナさんも見せています。

 その一方でミカさんはぎゅっと手を握りながら可愛らしい表情で叫んでいました。漫画で見るプンスコという擬音が聞こえてきそうなほどです。

 

「お、おお……?」

 

 そして一番面食らった様子でいるのはもちろんそんなミカさんを目の前にしたマコト議長でした。

 初めて彼女と気持ちが一緒になったのでは? という感覚すら私の中で生まれてしまいます。

 

「バウ~!」

 

 などと思っていると、事態は動きました。

 マコト議長の胸元でじゃれてきた子犬が急に飛び出し、ミカさんの方へと飛び込んだのです。

 

「わぁっ! もうヤンチャなんだから~!」

 

 ミカさんはそれはもうとても嬉しそうな笑顔で言いました。

 それを見て、なんだか急に私の中の緊張が溶けていくのを感じました。

 正直こちらの一番の不安材料だったミカさんがここまで朗らかにしているのですから、私一人で固くなっているのが馬鹿らしいと思えたのです。

 なんというか肩肘を張り過ぎていたのかもしれません。まさかそれをミカさんに教えられる事となるとは。

 

「なっ……!? バ、バーゲスト貴様っ……! 誇りというものはないのか!?」

 

 対して目の前のマコト議長はあんぐりと大口を開けて驚いてしまっていますが、まあミカさんのこの笑顔と比べれば些細な事でしょう。

 

「……やれやれ、まったくミカ。君というやつは」

 

 と、そんなところで今まで静観していたセイアさんが口を開きます。

 む……これはセイアさんからの迂遠な言い回しでの小言が始まる流れでしょうか。

 私自身はだいぶ気持ちが落ち着いたところはありますが、セイアさんからしたらミカさんに何か言いたくなっても仕方ないでしょうね。

 

「君一人で独占しているのは面白くないな。良い所で区切りをつけたら次は私に頼むよ」

「セイアさんっ!?」

 

 えっ!? セイアさんもそっちの方にノリ気なんですか!?

 いえ、確かにセイアさんはいつも体のどこかにシマエナガを乗っけていますし動物自体への愛情が強くて今のミカさんを羨ましくなるのも納得……いや、まずなぜ常日頃からシマエナガが飛んで来て乗っかるんでしょうか……?

 普段気にしない事を気にしだすとなんだか無性に気になって来ますね……今度のお茶会で本人に聞いてみましょう。

 

「バウバウ~!」

「えっ?」

 

 そんな物思いに耽っていたせいで、私はその接近に気づくのが遅れてしまいました。

 先程までミカさんの胸元で頭を擦り付けていた子犬が、いつの間にか私の足元に飛び乗ってきたのです。

 

「バウっ!」

「ほえっ!? えっ、ちょっと……その、困ります……!」

 

 別に動物が苦手というわけではありません。ミカさんと公園に繰り出していた幼少期は散歩中の飼い犬に率先的に関わっていた事だってあります。

 ですが今こうした場でいきなり膝上にジャンプされるとさすがにびっくりしますし、あとその衝撃で緊張で凝り固まっていた太ももに軽い衝撃が走り、そのまま体がビクリと震えてしまいます。

 

「クゥ~ン……」

「あ、えっと、その……」

 

 しかもこの子犬さん、私の膝上で体を縮めてすっかりくつろぐ体勢へと移りました。

 いえ、それはさすがに本当に困るのですが、無理矢理どけるなんて事もできず私はただただ手詰まりになってしまいました……本当に、どうすれば……。

 

「……まったく!」

 

 と、そこで一通りの姿を見ていたマコト議長が呆れた様子で立ち上がりました。

 ズカズカと荒っぽい歩き方で私の目の前まで来ると、膝上でくつろいでいた子犬をひょいと持ち上げました。

 

「バウバウバウッ!」

「こらっだから暴れるな! まったく外では大人しくできるようになったと思ったらこれだ! だがその奔放さ自体は我らゲヘナの模範としては悪くない! まだまだ愚かしさはあるが将来への有望さも秘めているようだな……キキッ!」

「あの……ありがとうございました」

 

 なんだかよく分からない事を言っていますが少なくとも私を彼女が助けてくれたのは事実です。

 昔なら考えられないことです。あのマコト議長が私に助けの手を差し伸ばしてくれるなんて。

 なんというか、今後のトリニティとゲヘナの関係に光が見えた、そんな気がしました。

 

「ふん、勘違いするな。私は私のペットの面倒を見ただけで翼付きのボスである貴様のことを慮った訳では――おわっ!?」

「へっ? きゃあっ!?」

 

 マコト議長がいつもの調子で尊大な態度と言葉を言っている最中(さいちゅう)でした。

 彼女の腕の中にいた子犬さんが不意に元気よく腕を抜け出して、それに驚いたマコト議長がバランスを崩してしまったのです。

 そして、ふらりと揺れた体は私の方へと倒れてきて、私も普段とは違うシャーレの会議室の椅子に座り慣れていないのもあってそれを受け止めきれずにそのまま倒れてしまい……。

 

「うぐぐ……くっ、まったくヤンチャなバカ犬……め……」

「くぅ……って、こ、これは……」

 

 結果として、私を押し倒すマコト議長という姿になってしまったのです。

 我々は互いの鼻先がギリギリこすり合わない程度に顔が近づき、マコト議長の右手は私の顔面横の床に押し付けられ左手は倒れた勢いで私の右手と指が絡んでいる形になってしまっています。

 なぜただ倒れただけでこんな形になってしまうんですか!? いえ、しかしこうしてまじまじと見ると本当に顔が綺麗に整っていますねこの人……なぜこれで普段はああなのでしょうか……。

 ……と、そんな事を思っている中で私はやっと気づきました。えっとこれ、一部始終を見ていたとしても周囲からしたらよろしくない絵面になっているのでは……。

 マコト議長も似たような事を思ったのか、二人して周囲の様子を伺うように顔を動かしてしまいます。

 すると、

 

「……ふぅむ。なるほど、なかなか面白い構図だね」

「オッ、オオオッ……!?」

「チアキがここにいなくて良かった……」

 

 セイアさんは何故かニヤけていますしツルギさんはどうしてか凄い形相で赤くしていますしイロハさんは既に苦労した表情になっていますし。

 

「……はぁ~。うちのナギちゃんに何やってるのかなぁ角付きさん?」

「はっ、はわわわわわっ!? だっ駄目よマコトちゃん!? 私達にはまだそういうのは……!?」

「……面倒臭い」

 

 状況を分かっているはずなのにミカさんとサツキさんは変なスイッチが入ってますしヒナさんは倦怠感が溢れていますし。

 

「……アリっ!」

 

 よりによって先生は先生でなんか妄言を吐いています! なんですか「アリ」って!? そんな決め顔で言う事じゃないですよ!?

 

「バウバウバウバウ~……」

 

 と、こんな状況下を作った当の本人……本犬? な子犬のバーゲストさんの鳴き声がふいに聞こえてきました。心なしか元気がちょっとなさそうです。

 

「……ふむ」

 

 そしてそんなバーゲストさんを抱きかかえているのはカンナさんです。

 彼女もトリニティとゲヘナの会談の警護として来てみたらこんな状況でさぞかし呆れたでしょうね……。

 

「……『さすがにはしゃぎ過ぎた、今は反省している』だそうです」

「言葉分かるのかっ!?!?」「言葉分かるんですかっ!?!?」「言葉分かるのっ!?!?!」

 

 マコト議長、私、先生、他全員諸々が同じ言葉で一つになった瞬間でした。

 

 

   *****

 

 

「はぁ……これでは会談ではなく交流会でしたね」

 

 私はシャーレの化粧室の洗面台の前で手をハンカチで拭きながらこぼしました。

 あの後なんとか仕切り直して話は進めましたが、すっかり緩くなった空気は戻らずだいぶまったりとした内容となってしまいました。

 ただ、それが悪いとは思いませんでした。少なくとも下手に剣呑な空気で終わるよりはよっぽど。なんなら先生は「お互い歩み寄るのを目的とした集まりなんだからこれ以上の成功はないよ」とニコニコしながら言ってくれました。

 確かにそうかもしれません。

 一番の目的はトリニティのティーパーティーは健在であると世に知らしめす事です。

 ですが、同時にまた対等に笑えるようになった私達とアリウスの皆さんのように、ゲヘナの皆さんとも手を取り合える未来が来たらいい……そう望んでいたのも間違いなく本心なのです。故に、そうした観点だとあれくらい砕けた内容なのはむしろ幸運だったのかもしれません。

 そう思っているからこそ、鏡の向こうの私は笑っているのでしょう。

 

「さて、ミカさん達を待たせてはいけませんね」

 

 私はハンカチをきれいに畳んでしまうと化粧室から出ていきます。

 と、そうして廊下を歩いているときでした。

 

「おや……?」

 

 ふと見た廊下の横から伸びる通路の先にある休憩スペースに人影が見えたのです。

 ツルギさん、ヒナさん、そしてカンナさんでした。

 珍しい組み合わせだな、となった私はついそこに足を向けました。

 

「……ん? これは……ナギサ様」

 

 気付いたツルギさんが私に頭を下げます。それに続きカンナさんも軽く会釈をし、ヒナさんは軽く顎を引くぐらいの動きでこちらに挨拶をしてきました。

 

「お邪魔してすみません。まさかあなた方が友人だったとは知らず、つい物珍しさで来てしまいました」

「友人……いえ、そうわけではなく、むしろこれは仕事の延長線上と言いますか……」

 

 するとカンナさんが少し歯切れが悪い感じで答えてきました。

 休憩室においてあるオフィスコーヒーをそこで彼女は軽く口にしながら、ヒナさんやツルギさんに目配せをします。

 ……これは、かなり真面目な話のようですね。私も幾度となく経験したやり取りです。

 

「……私は別に。それはそちらの事情だから、そっちで決めて」

「ああ、そうだな……うん。近々ハスミが正式に途中経過の報告を提出するし、先に聞いてもらってもいいだろう」

 

 ヒナさんの言葉を受けたツルギさんがしっかりと確認を口にしながら言いました。

 ハスミさんが報告をするということは、つまりは明確に治安維持上の話なのは間違いありません。

 私もまたティーパーティーのホスト代行として気を引き締めツルギさんに向かい合います。

 

「実はここ最近、キヴォトスのいたるところで散発的ですがペットの盗難事件が続いているんです」

「ペット盗難、ですか……?」

「ええ。各所で立て続けに起きているため、組織的な犯行の可能性を考え各校の治安維持組織があくまで個人間での情報共有をしていたぐらいの話だったのですが……ここに来て、少しきな臭くなって来まして」

「きな臭く……何か大きな陰謀が背景にある、と?」

「あくまでそれぞれの調査や取り調べでそう言った証拠が出たわけじゃないの。でもね、私達のような仕事をそれなりにしている者からすると……あまりにも匂い立つのよ、今回の件は」

 

 ツルギさんの言葉に続けてヒナさんが休憩室の壁に背中を預けて腕を組みながら言いました。

 その姿勢は彼女の物怖じのなさの表れでもあるのでしょうが、それと同時に「これはあくまで個人間の雑談に過ぎず正式な内容ではない」という事でもあるのでしょう。

 いわゆる密談における体裁というやつです。トリニティではよくある形式なので私も特に引っかかりはなく受け入れられました。

 

「あくまでこれは私達のただの直感です……ですが、現場証拠も取り調べ内容もあまりにも何もなさすぎるというのは不自然に感じますし、これほど大規模なペットの盗難がされているというのも金儲けとしては不効率極まりますので」

「故に我々ヴァルキューレ、ゲヘナの風紀委員会、そちらトリニティの正義実現委員会……他にも百鬼夜行の百花繚乱紛争調停委員会や山海経の玄龍門、最近できたアリウス分校のニコメディアトゥループともあくまで非公式に情報共有をしています。この集まりも我々がこうして居合わせたのでその一環、というわけでして」

「なるほど……」

 

 どうやらだいぶ頭の痛い問題に彼女らは悩まされているようです。その苦しみはよく分かります。ティーパーティーを取り巻く内外の陰謀策謀を静かに「処理」して来た身としては痛い程に。

 

「分かりました。そうとも知らずお邪魔してしまい申し訳ありませんでした」

「いえ……こちらも報告をなかなかまとめられず、こうした形で知らせる事になってしまいましたので……。こちらこそ謝罪申し上げます」

 

 私の言葉にツルギさんも謝罪で返して来ます。

 もちろん、私にツルギさんを問い詰める気などありません。むしろ憶測が混じった半端な報告を公式のものとして上げられてしまえば未だ潜む毒蛇に這い出る機会を与えていたでしょうから、彼女の判断はこの上なく正しかったと言えます。

 

「いいえ、それこそ謝罪されるような事ではありません。ツルギさんはツルギさんの仕事を正しく行っただけなのですから」

 

 でも、あえてそのままは言いませんでした。

 お互い理解しているしそばで聞いているヒナさんとカンナさんも実際の所は分かっているのでしょうが、だからといってそのまま内情を口にする事はしません。

 勝手に安心して生んだ油断が小さなほころびを生み、やがて致命傷へと至らないとも限らないのですから。

 私はそこで「それでは」と簡略的に別れの挨拶をしてその場を去ります。

 ミカさん達が待っている部屋に戻るときにあったガラス張りの廊下から外が見えましたが、いつもと変わらぬ街並みはなんだか不思議と静かに見えました。

 

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