混沌を宿す少女のヒーローアカデミア   作:Lisper

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異界より来るアザトース

 無限無窮の宇宙の最果て、踊り狂う蕃神に囲まれながら無聊を慰める盲目白痴にして全知全能の万物の支配者、アザトース。不快で愚かな音楽に身を墜とし、冒涜的な言葉とともに惰眠を貪る、最も畏れ、また軽蔑された神。その意識の一部が、覚醒しようとしている。

 蕃神たちは恐れ戦いた。その超宇宙的に強大な意識の一欠片が目覚めることは、多元宇宙の破壊・再編を意味する。その気紛れによっては、彼等の神性ですらその対象となり得る。

 混乱の中、辛うじて震える触手で楽器を抱え、自らの王をあやさんとする彼等の前に、強大な影が落ちた。

 ──燃え盛る三眼を湛え、侮蔑に満ちた視線を主へと捧ぐ無貌の神、ニャルラトホテプ。

 平常通りの、企むような声色で彼の神は蕃神たちへ冒涜的な提案をした。

 

 ──ここと異なる宇宙へ、アザトースの創造の外へ、その意識を隔離すればよかろう。

 

 静寂、序で、蕃神は口々に反駁した。

 自らの王を追放するような試みだ。決して許されることではない。

 猶もニャルラトホテプは不快な笑みを絶やさない。

 曰く、隔離するのは意識の一部に過ぎない。眠りから覚め行く王の御心の一片を、理を異にする宇宙へ隠し、やがて覚醒し、その宇宙を破壊しつくした頃には再び眠りについているだろう。頃合いを見計らい、外なる神の使者たる自分が迎えに馳せ参じよう、と。

 それか、大人しく宇宙を巻き込む大爆発に身を投じるか?

 

 結局、蕃神たちは事は千変万化の彼の計画の通りとすることに同意した。

 

 

 

 

 ここは混沌とは無縁の宇宙。ビッグバンによって創造され、迎える終焉は熱的死のみ。そこにカオスたる神話的存在は介在しない。論理的な世界、道理の通った現実。人間、動物、全てにとっての理想郷。

 この宇宙にも地球はあった。人々は微睡む旧支配者たちに脅かされることも、理不尽な魔術の代償を払うこともない文明社会。しかし、ニャルラトホテプの選定したこの世界には、来る混沌を許容するための"異常"があった。

「個性」と呼ばれる、人間に与えられた異能が存在する。時に人々の見た目を人ならざるものに変容させ、時に人には過ぎた力を与える「個性」は、すっかり文明の一部として組み込まれ、人類は栄華を誇っていた。

 そして今、異界の王を受容するに足る器を持つ子が日本に生まれた。

 

 個性「混沌」を持つ少女であった。

 

 

 

 わたし、深山(みやま) 夜湖(やこ)には他の人には見えない友達がいる。

 個性が発現してから、わたしの頭? 心? の中に大きな渦巻く触手と目のような何かと、それに寄り添う泡に包まれた触手のような何かが居る。大きな方とはお話したことはないけれど、泡のほうとは結構おしゃべりをする。そのせいか、お母さんやお父さん、幼稚園の先生はわたしのことを凄く心配するし、他の友達はなんだか余所余所しい。

 きっかけは、ついこの前わたしの個性が発現して、病院に検査に行って帰って来た後のこと。ある日目が覚めると身体から黒いモヤモヤみたいなものが出るようになっていて、起こしに来たお母さんに連れられて病院に行った。このモヤモヤが何なのかはまだ分からないけど、これがわたしの個性らしい。診察の後家に帰って、早速個性を使ってモヤモヤを出して遊んでいると、頭に声が響くのがわかった。

 

【我等と異なる混沌を宿す人の子よ、我が声を聞け】

「え……誰?」

【汝の精神の中から話しかけている。人の子よ、狼狽せず聞け】

【我が名はヨグ=ソトース、異界の神を統べる副王にして時空を司るもの……の一欠片だ。覚め行く我が王の深淵なる思考により、この宇宙でも生を受けた】

 

 すると、突然わたしの身体に裂け目のようなものができて、虹色に輝く泡に包まれた触手が這い出てきた。痛みはなく、血が出る様子もない。まるで空間をそのまま裂いて出てきたかのようだった。その恐しい光景を見ても、わたしは不思議と叫んだり逃げだしたくなったりはしなかった。逆に、わたしの心にあったのは愛着と興味のような感情だった。

 

「クラゲ……? ヒトデ……?」

【汝には我がそのように見えるか。汝の異能が汝の正気を守るため、真の姿を覆い隠しているのだろう】

 

 見たこともないその生物は体表面に浮かぶ無数の目をじろりと此方へ向けた。

 

「あなたはわたしの個性なの?」

【"個性"……汝の異能のことか。奇妙な呼び方をするものだ。答えは否、我──我等は汝の身体と精神を寝床として見初めたのだ】

【我等が王たるアザトースはこの宇宙に存在するだけで致命的な歪みを齎す。そうなれば、王は長き眠りから覚め、我等も業火に身を墜とすととなる】

【汝の異能は混沌を振り撒き理屈を覆い隠す不可能性の雲そのものだ。その混沌は我等の混沌を霞ませるほど深く、濃い。我は我が王の安眠を矮小な人間の一生分でも長らえさせる為、汝の中へ入り込んだのだ】

 

 

 ……と、初めての会話は何とも一方的なものだった。わたしは理解が追い付かず、いくつか質問しようとしたところで、ヨグちゃん(わたしの付けた渾名)は再びわたしの身体を裂いて入っていってしまった。何でも、ヨグちゃんは凄い神様のような存在で、その一欠片の存在規模でも現実へ顕現することは、空間そのものを押し潰し、周囲の人々の精神を蝕む行為なのだとか。

 それからというもの、夢の中やお母さんやお父さんの居ないところではヨグちゃんと会話し、段々と彼等のことが分かってきた。

 

 一、わたしの中に居るのは異世界の魔王様の分身みたいなもの。

 二、魔王様(ヨグちゃん曰く"アザトース")は眠っているが目覚めかけている。

 三、わたしの個性が魔王様の身を隠すのに役立つ。

 四、魔王様は夢を見ながら神様を生み出すことがあるらしく、それで生まれたのがヨグちゃん(こちらも分身みたいなもの)。

 五、ヨグちゃんは魔王様に安らかに眠っていてほしがっている。

 

 物凄くスケールの大きな話だったけれど、ぐーぐー寝ている魔王様とそれをあやすヨグちゃんを見ると、あんまり神様って感じがしなくてピンと来ない。そう言ったら怒られるかと思ったけど、【元より矮小な人間の理解の外の話だ、気にする必要はない】だってさ。家主(精神)を見下さないでほしい。

 ともあれ、こうして異界の神様とわたしの同居生活は始まったのだった。




 はじめまして。クトゥルフ神話×ヒロアカの試みです。
 独自解釈多めです。注意。

時系列
アザトース目覚めそう! 宇宙崩壊待ったなし

ニャル「目覚めそうな意識だけ無関係な異世界に吹っ飛ばしましょう! その異世界はどうなるかって? 大丈夫、面白い異能を持つ人の子のいる長持ちしそうな世界を見つけましたので(愉悦)」

アザトース in 夜湖「zzz……」
ヨグちゃん(二度目の誕生)「おぎゃあ」

ヨグちゃん「起こすなよ! 起こすなよ! 絶対(ry」

主人公プロフィール
名前: 深山 夜湖
性別: 女
趣味: おしゃべり(ヨグ=ソトースにこの世界のことを教えたりする)
個性: 「混沌」
混沌を振り撒き理屈を覆い隠す不可能性の雲そのもの。無秩序を生み出す力。
本来は黒い霧を展開し、その影響下のものの秩序を奪う(局所的な物理法則の崩壊、論理的思考力の減衰など)という強個性だったが、現在はアザトースやヨグ=ソトースを自分や他者から覆い隠すために全容量を割いているので使えない。
ヴィランが持っていたらスターアンドストライプのボス位置かも。

アザトース
ちょっと起きそうになってる盲目白痴な魔王様。ヒロアカ世界に飛ばされると同時にちっちゃいヨグ=ソトースを創造。おかげで今は少し安定している。

ヨグ=ソトース
時空を司る神にして副王。知的好奇心旺盛でよく夜湖と話す。他の外神や旧支配者と違い人間に特段の害意はない。それよりも父アザトースをあやすのに必死なファザーシッターで、夜湖には友好的に接する。
ヒロアカ世界までは権能がよく届かず、クトゥルフ世界ほど絶対的ではない(人にとっては誤差)。
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