伝説を超えてゆく   作:蒼ノ狐珀

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 前々から暖めてた話なんですが、シングレの最終話2つ前で久住先生が投稿した一枚絵に話の全てが崩壊させられる恐れを抱いたので「これは前々から暖めてた僕の創作ウマ娘の二次創作です!」をするために間に合わせで書き上げました

 上編と下編で時系列が少し異なるのでご注意を


プロローグ

「へぇ、ヒシアマちゃんにもそんな時代があったんだ」

 

「女傑なんて言われてる今じゃ想像つかないな……」

 

「からかうような言い方はよしてくれ。アタシも常にこうだったわけじゃないし、今でも姐さんやフジに色々頼ることはあるよ」

 

 ある日のトレセン学園内。

 ナリタブライアン、ヒシアマゾン、サクラローレルの3人は取材を受けていた。

 取材しているのが3人にも馴染み深い記者なこともあってか、場の雰囲気は和やかで談笑に近い。

 

「けど、2人は遅いですね。元々の時間からもう30分も過ぎてるのに」

 

 ローレルの言う2人というのは、この取材を一緒に受ける予定だった3人と同期のウマ娘。

 前日から『取材日に他の予定が立て込んでるから、少し遅れる可能性がある』とは記者もローレルたちも聞いていたが、当人たちの事を思えばあまりにも大きな遅刻だ。

 

「まぁ、今日は緩めの取材だから問題ないよ。ゆっくり待つさ」

 

「記者のアンタがそう言ってくれるのは有り難いが、午後の――あん?」

 

 部屋の時計を見ながらヒシアマゾンが話していると、部屋にピリリという通知音が響いた。

 

「私だ。……『今から急いで行く』だそうだ」

 

「なんでアンタに――私らは携帯をマナーモードにしてると踏んでか。コラ、どこに行くんだい、ブライアン」

 

「飲み物を入れにいくだけだ。どうせ、アイツらが来るまでこのつまらん取材が続くんだろう」

 

「つまらんって……せめて言い方ってもんを考えないかい」

 

「いいよ、ヒシアマゾン。ナリタブライアンからしたら退屈な取材なのは確かだろうから」

 

 口の悪いブライアンの物言いをヒシアマゾンが叱るが、記者はそれをたしなめる。

 

「私らに話を聞きたいというのも嘘じゃないんだろうが……アンタが本当に話を聞きたい相手は、私らじゃないんだろう」

 

 コップに新しく注いだお茶を飲みながら、キッと睨むような目つきでブライアンがそう言うと、記者の目つきが少し変わった。

 

「鋭いね。その勘が、三冠の秘訣なのかい?」

 

「知らん。アンタの目が分かりやすく語ってるだけだ」

 

 ぶっきらぼうな態度に、記者はヤレヤレといった感じで肩をすくめ、意を決したように小さく深呼吸をする。

 

「阪神レース場で四月十日に行われた、走破タイム1分36秒4のメインレース」

 

 語られる情報に、3人はピクリと反応を示す。

 

「いきなり自分語りを始めちゃうけど……僕はあの日から色んなレースを見てきた。けど、あの光景以上に僕の中に焼きついてるものはない」

 

 記者の言う色んなレースの中には、最初に挙げたレースよりも話題性や世間の熱狂度合いがもっと大きなレースが沢山あった。

 けれど、どれだけ話題を呼んで観客を沸かせたとしても、記者にとっての一番が塗り替えられる事はなかった。

 

「フフ。記者さんのその気持ち、少し分かります。……ヒシアマちゃんは特にそうだよね?」

 

「あぁ。アンタは、あのレースで『浪漫』ってやつをみせられちまったんだろう?」

 

「もしかして、君たちも?」

 

 記者の問いに、ヒシアマゾンとサクラローレルの2人はコクリと頷く。

 

「割り切ってたつもりだった当時のアタシが、たった二度だけ、自分にクラシック出走権がない事を恨んだ時があった。その内の一つだよ、アイツのあのレースは」

 

「私たちの中で同期の誰よりも早く、1人のウマ娘が大きな夢を叶えた瞬間ですから。例え走ってなくても、思い出深いですよ」

 

「……ナリタブライアン、君も彼女には注目してたのかい?」

 

「当時は興味がなかった。……今は、あの日の奴を喰らってみたいと思うがな」

 

 3人の答えに、記者は少し驚いた顔をする。

 記者の思っている以上に、彼女たちの同期のあの少女は大きな存在だったから。

 

「良かったら2人が来るまでの間、私たちがお話しましょうか?」

 

「ぜひ、お願いするよ。君たちから見た『葦毛の桜』の話を」

 

 

――――

 

「帰省?」

 

「あぁ。半分仕事なんだが、数日ろっぺいさんと笠松に帰る事になったんだ」

 

 引退レースの有馬記念から数年たった、ある日の夏。

 研修で北海道にいる私へ、トレセン学園にいる北原から電話があった。

 

「せっかくならお前もどうかと思って声をかけたんだが、どうだ?」

 

「すまない。一緒に帰りたいのはやまやまなんだが、しばらくはちょっと北海道から出られそうにないんだ」

 

 研修先から配布された予定表を見ながら答える。

 予定の調節の仕方次第では半日程度なら空き時間を作れそうだが、流石に笠松へ帰るだけの休みとなると難しい状態だ。

 

「そうか。悪かったな」

 

「構わない。誘ってくれてありがとう、北原。ところで、帰るのは北原と六平だけなのか? ベルノは?」

 

「さっきも言ったが今回の帰省は半分仕事で、その仕事がベルノにはできないんだ。チームの事や学業との兼ね合いもあるし、残念ながら居残りだ」

 

「そうなのか。なら、私の分のお土産をベルノに渡してあげてくれ」

 

 自分は帰省できないと知り、落胆しているベルノの姿が頭に浮かぶ。

 ……いや、帰省できるのが六平と北原だけな事に落胆するのはベルノだけじゃないな。私がいないことで、ノルンたちが詰め寄りそうだ。

 落ち着いたら、ちゃんと帰ろう。そう思って皆の顔を思い出して――最近全く連絡を取っていない相手がいることに気がついた。

 

「すぐ行きます! ……悪い、ろっぺいさんに呼ばれた。そろそろ切るな」

 

「あ、待ってくれ北原。最後に1つだけ。笠松に行くなら様子を見てきてほしい相手がいるんだ」

 

「様子を見てほしい相手? マーチたちの事か?」

 

「いや、マーチたちも勿論気になるが違うんだ。笠松に在籍してるウマ娘なんだが……もしかしたら、北原は知らないかもしれないな」

 

 脳裏に浮かぶのは、私もまだ小さかった頃、半泣きになりながら私にすり寄ってくる姿。

 その光景を見たのは十年近く前で、彼女のもっと大きな頃の姿も沢山見ている。

 だが、私にとって彼女の印象が一番深いのは、その幼い頃の姿なのだ。

 

 鮮明に記憶を呼び起こし始めたら余計に心配になってきた。

 怖がりで人見知りな彼女は、ちゃんとトレーナーを見つけられただろうか。

 

「俺らが知らなくて、お前がそんなに気にかける相手なんて珍しいな。そいつの名前は何て言うんだ?」

 

「名前はオグリローマン。……私の、可愛い妹なんだ」

 




シンデレラのお話には、ほんの少しだけ続きがあるのじゃ
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