今日は研究会の活動を終えた後、学校から少し離れた場所にある塾に来ていた。
近々定期テストがあるのだ、勉強しておかねばならない。
そしてその帰り、俺にとっては見慣れた顔を見つけ、近づいていく
「よお、ツム。珍しいなこの時間までいるの」
中学からの同級生、ツムギ。
ポケモンバトル研究会のマネージャー的な役割を担っていて、相棒のピンプクと共にみんなをまとめるお姉さん役をしている。
「キミが遅いからでしょ。暗い中一人で帰るのは怖いし」
…そう、みんなには優しいのに俺には少し冷たいし、怖がりなのだ。正直面白い。
「まあまあ… そんじゃま帰ろうぜ?公園通っていきゃ人通りも多いし安心だろ」
「そうだね。…というか、平日にしては、人多くない?」
片言になりながらツムギが言葉を発する。
確かに、いつもなら帰宅途中の社会人や学生がある程度いるくらいなのに、今日は目視できるスペースだけでも5割増くらいの勢いで人が集まっている。
「なんかのイベントかな?軽く見ながら帰ろうぜ!」
「そうだね、行ってみy….」
ツムギがそこまで言葉を発した時。
公園のバトルスペースから、轟音が鳴り響いた。
「い、今のって…!?」
「わかんねぇ!!見てみるしかねえだろ!!」
俺はルカリオのボールを握りながらバトルスペースへと走る。
ツムギも少し後ろをついてくる。
バトルスペースに着いた瞬間、
視界いっぱいに影が落ちた。
――羽音。
いや、羽音というには重すぎる。
空に舞っていたのは、
巨大で、鋭利な、漆黒の翼だった。
「……オンバーン……?」
思わず声が漏れる。
でかい。
単純な感想が、遅れて頭に浮かんでくる。
野生にしては異様だ。
あれは……所謂オヤブン個体というやつか。
ツムギが息を呑む。
「お、オンバーン……。大き……」
だが、俺の視線は空ではなく、
その真下に釘付けになっていた。
オンバーンの前で倒れているのは、
サイドンだった。
「……は?」
タイプ相性が頭をよぎる。
岩タイプを持つサイドンは、
飛行タイプ相手なら有利なはずだ。
それなのに、
サイドンは倒れ、
オンバーンは――無傷に見える。
周囲のざわめきが耳に入る。
「さっきの一撃で……」
「爆音波だって……」
爆音波。
その単語を聞いた瞬間、
胸の奥で、何かが弾けた。
「……すげえ」
理由は分からない。
だが分かる。
これは、ただの野良バトルじゃない。
空を舞うオンバーンは、
無駄な動きを一切見せず、
まるで“空を泳いでいる”ようだった。
――そう、泳いでいるのだ。
“肉体の先に至るまで、緻密に制御されている”。
その事実に気づいた瞬間、
胸の奥で闘志が燃え上がる。
この次元に辿り着くまで、
俺はどれだけ勝ちを積み重ねればいい?
俺は、あの人と互角にやりあえるようになるまで、
どこまでの経験を積み上げたらいい?
あの人は、一挙手一投足が、全て洗練されている。
経験どころの話ではないくらいに。
隣で、ツムギが小さく呟いた。
「……そういえば。
今日、非公式の大会があるかもって……噂で」
なるほど。
噂の大会。
道理でレベルが高いわけだ。
そして――
あのオンバーンは、異様なほど、綺麗だった。
オヤブン個体である以上のナニカを纏っている。
そこまで思考が巡った後、空気が変わったのを本能が感じ取る。
直後、さらなる轟音が響く。
今度は音が小さめだが、その分骨に響く音をしていた。
驚いて顔を上げた時、俺の目には。
オンバーンを使っていた白パーカーのトレーナーが
ズルズキンを使い
相手のガブリアスを圧倒している光景が映り込んできた。
「……は?」
思わず、声が漏れる。
凄まじい体格差があるはずだ。
素の能力の差だって、技のスペックの差だって、あるはずだ。
ガブリアスは、やわなポケモンではないはずだ。
脳が軽く理解を拒む。
眼前の光景を、認めない。
次の瞬間、ガブリアスは地に伏せていた。
「すげえ」
そんな単純な言葉しか、出てこなかった。
その時、俺は目の前の光景に見惚れるあまりに手に持っていたボールが揺れていたことに気が付かなかった。
そして、帰り際。
どこか懐かしいような匂いがした気がした。
その正体を確かめる前に俺はツムギに引っ張られ、帰路についていた。
「すごかったねえ、私目で追えなかったや」
「ズルズキンってあんなに力あるんだね!すごいなあ」
ツムギが半ば一人で感想戦を行う中、俺はあることを考えていた。
俺が白パーカーの男、「白影」を認知したあたりで、ルカリオが少し騒いでいたこと。
『ある男』のポケモン特有の、焦げたきのみの匂いがしたこと。
単純に考えるなら、『アイツ』はその場にいたことになる。
どの立場で?観客?通り過ぎただけ?それとも、試合に出ていた?
これらのことを偶然とは思えない。
偶然とするには、白パーカーから覗く「白影」の目の色が『アイツ』に似すぎていた。
観戦していた人が話していた。奴はいつも白パーカーを目深に被っていて、ここいらじゃ誰も敵わない強さをしているから「白影」なのだと。
強さのレベルが違って、掴めないという意味なのだろうか。
とにかく、確証は持てないが、恐らく『アイツ』に近い人物なのだろう。
「……あのパーカーの人、戦ってるとき楽しそうじゃなかったなぁ」
「…そうかもな」
ツムギの感想戦に適当に相槌をしながら、思考の海へと沈む。
帰路に立ちながら考えていたのは、あのオンバーンとズルズキン、白パーカーのことだった。
パーカーが好きです。