あなたに続きを歩いて欲しいから   作:\︎☝︎☻︎☝︎/

10 / 11


祝10話!これも読んでくださっている皆様のおかげです。気長に続いていけばいいな、目指せ100話。
修行パート、どんな風に挟み込めばいいのかわからん過ぎて……。




背伸びはしがちなお年頃

 

 

 

「フッ」

 

 クサビは軽く息を吐く。そしてその息とともにオビトの顎へと叩き込まれるのは、小さな手のひらからは想像もできないほど強い威力を持つ掌底の一撃。仰け反って避けたオビトの顔スレスレを通るクサビの手のひらからは、細い縄が風を切るような音がしている。

 

(早ぇ! 写輪眼があってもこれかよ……!)

 

 裸足でオビトの顎を狙うために宙へと飛んだクサビを、オビトは蹴り上げようとした。だが、空中に浮かんでいるはずのクサビは無理やりオビトの服を掴み、蹴り上げられた反動を利用してオビトの肩へと乗り、肩車のような体勢に落ち着く。

 だが、そのまま楽しく肩車で散歩を開始する訳では無い。クサビは細く白い足でオビトの首を締め上げ始める。オビトの意識を落として、気絶させる気だった。

 

 

「もうちょっとキツくしてみようか」

 

「二回も同じことされてたまるか、よ!」

 

 薄く目を細め、少しづつ足に込める力を強くしていくクサビに対抗するため、オビトは自分の視神経へとチャクラを流す。熱が籠るような感覚の後、目を開けばその瞳は、万華鏡写輪眼へと変化していた。

 そして万華鏡写輪眼の能力である神威を発動し、自身の体を神威空間へと転送する。そうすれば、今オビトの肩に乗っているクサビは重力に従って、ストンと地面へ向かって落ちていく。驚いた表情のクサビが落ちていくのを万華鏡写輪眼で確認しながら、オビトは足を一歩前へと踏み出し、クサビのいる後方へと向かって蹴りを放った。

 

「前は手も足も出ずに気絶してたのに、オビト成長したねー」

 

「クサビノ手足ガ短イダケジャナイノカ」

 

「回してたあんよ、明らか足りて無いッスからねぇ。足の甲引っ掛けてほんとギリ絞めれてたみたいな」

 

 脇の方では岩に座って膝に頬杖を着き、地面から顔を出しているゼツとお喋りをしているグルグルが待機していた。その足元にはパチパチと燃える炎と、金やら何やらが入ったポーチがぽつんと置かれている。荷物持ちの仕事を任されているのだ。

 

 

 オビトの足がクサビの体へと当たる。咄嗟にクサビは両腕を交差させ防御したが、クサビの身長が低いせいで、オビトの想定よりも遠くへとクサビは蹴り飛ばされる。

 オビトは思ったよりも強く蹴ってしまった勢いにバランスを崩し、「ウォッ!?」と言いながら手足を暴れさせ、どうにかして地面に足をつけようと踏ん張っていた。そこを蹴り飛ばされたはずのクサビに後ろから蹴り返され、地面へうつ伏せになる。

 

「危ねぇ!!」

 

 這いつくばったオビトへ追い打ちをかけようと、クサビの小さく握られた拳がオビトへと向かっていく。オビトもまた神威を発動させ、顔にめり込むはずだった拳を地面へとすり抜けさせる。

 顔面をすり抜けさせたせいで、瞳の中に拳がするりと入る視界を見た。肝が冷えたオビトの背面の地面には、狙ったはずのものに当たらなかった拳が、地面へと叩きつけられている。

 殴りつけられた地面は強い力に一点を叩かれたガラスのようにひび割れ、クサビの拳からはパラパラと地面に触れた時に着いた砂が落ちた。

 

 クサビの筋力は、水影と戦った時よりも増加した。というのも、偶然とはいえクサビは一度、現代の忍界の中において、チャクラコントロールに関しては随一と言える綱手姫の一撃を自らの眼で確認している。

 写輪眼も発動できず―――簡単にうちは一族だとバレ、里外にうちはの子供が一人でいることに疑問を持たれてしまうため―――、ただの瞳で見たのみではあったが、手本とするにはこれ以上ない程に完成された一撃だった。写輪眼で見ることができれば、更に綱手の一撃を再現できたはずだったが、今のクサビでは技量が足りない。

 

「やっぱり、一、二発が限度かな」

 

 ビリビリと雷遁を流されたように痺れる自分の腕を軽く振り、手のひらを開いたり握ったりしてみる。このまま続けて同じように無茶なチャクラコントロールを続けては、またいつかの時のように柱間細胞製の腕を溶かしてしまうことだろう。緻密なチャクラコントロールはクサビも得意とするところではあるが、綱手のものは別格。

 そもそも、重ねてきた年月からして違うのだから、当然だった。今こうして腕にチャクラを流し込むのも、生身の体であればチャクラが暴発して大怪我に繋がっている。クサビの腕が人造の物であるおかげで、クサビは無理やり綱手の力を―――十分の一もできていないが―――再現できている。

 

 

「オラァ!!」

 

 高く飛び上がったオビトが、大岩を殴って溶けたはずの左腕を携えて、クサビへと殴りかかる。ヒラリと身を翻し、自らに飛んでくる拳を軽く受け流してオビトの腕を掴んだクサビは、オビトの使った力の流れを利用し、一本背負いでオビトを地へと伏せさせた。

 重い音が辺りへと響き、「グェッ」とカエルが潰れた時に出す声に似た叫びが、がクサビの足元から聞こえる。脇からはグルグル達が「オォ〜」とやる気なさそうな歓声を上げ、緩く拍手をクサビへと送っていた。

 

「イッテェ……」

 

「うん……前よりかはいいんじゃないかな。神威の能力も考えて、私はカウンター前提で動き作ってるから反応できたけど、初めて見る人なら大半の人は反応できないと思う。体は大丈夫?」

 

「いや、大丈夫……ありがとな」

 

 差し伸ばされたクサビの手を掴み、「イチチ……」と背中から地面に叩きつけられたせいで痛めた尻を擦りながらオビトは起き上がる。続けてクサビが間髪入れずに、ツラツラと口を開いた。

 

「それで気になったところなんだけど、踏み込みが甘い。全体的な動きに無駄が多い。チャクラコントロールが雑すぎて、変なところに力が入ってる。他にも気になるところはあるけど、先に直した方が良いのはこのあたりかな」

 

「ハイ……」

 

「それに、カウンターをカウンターしなきゃ攻撃されちゃうから、どうにかしないとね」

 

「ハイ…………」

 

 グサリ、グサリと眼には見えない矢印が心に突き刺さっているオビトに気付かず、クサビは自身の体をお手本としながら、()()()()()()()()()を言語化しようとしている。

 

 

 オビト達は現在、クサビが大勝して手に入れた金を時々使いつつ、雨隠れの里を目指しながら―――オビトの―――修行を行っている。今までの旅ではグルグルを着なければ日常生活もままならなかったオビトだったが、ようやく溶けた右腕が体に馴染んだお陰で、グルグル無しで近頃は生活していた。

 一度右腕は本来の肉体と馴染んでいたおかげか、今回取り付けたものも前回と比べ飛躍的に早いスピードで馴染んでくれた。リハビリも激しいものをした方が良いとクサビが判断し、最近のオビトは一日に10回は地べたに転がされている。

 

 

「柱間細胞のおかげでチャクラ量は底上げされてるはずだから、前みたいな配分じゃなくても大丈夫。チャクラが尽きても私のチャクラをあげるから、ちょっと休憩したらまた始めよっか」

 

「お前……結構スパルタだよな!?」

 

「え、そうかな……」

 

 「じい様ならもっと色々するけどな……」と言いながら、心底不思議そうにオビトを見るクサビは、まだマダラが生きていた時を思い出す。

 

 「ここがいくら現実に見えようとも、所詮は幻術。疲れるわけがないだろう。もっとキビキビ動け」という声が、低い声で頭から聞こえてきた気がした。ついでにこっちに指差しながら睨みつけてきてるじい様まで見える。

 今クサビがいるのは現実世界だが、あの幻の世界の中で行われてきたことと比べれば、クサビがオビトへとしている仕打ちは人の心があるだろう―――と、クサビが思っているだけ―――。

 

 

 

 

 

 

 オビト達は軽い水分補給と息抜きを兼ね、木陰に座って休憩した。オビトはゼツとグルグルのおしゃべりに付き合わされ、クサビは今後の成長のためのため補食―――という名のおやつ―――にチマチマと干し肉を食べていた。

 思っていたよりも硬かった肉に苦戦しているクサビの横では、木の筒に入れた水を飲んでいたはずのオビトはグルグルに肩を組まれ、コソコソと内緒話をされている。

 

 いつもヒソヒソと話をする時に全く音量が落とせておらず、丸聞こえなことにやっと気がついたのか、今回のグルグルはひと味違った。なんと、クサビに一切内容が聞こえてこなかったのだ。

 どんな話をしていたかは分からなかったが、特段クサビが気にする様なことではないだろう。アホが何を話してもアホな話に結局は辿り着く。

 

 

―――――――そう思っていた、のだが。

 

 クサビは物言いたげな目で、ひとつの体を使って器用に口論している二人組を見る。

 

「なんでグルグル……」

 

「今回だけ!! 今回だけだから!!! ね、たまにはイイでしょ〜? ちょっといつもと違う部分を作るだけで、なんかこうさぁ? 気分転換って言うかぁ、オビトが言い始めたコトっていうかぁ……」

 

「言い始めてねーよ!! 平気で嘘つくな!!」

 

(オビトまでアホに……?)

 

 休憩を終わらせ、またオビト達は組手を再開した。何故かは分からないが、オビトはグルグルを着ている。休憩中のヒソヒソ話で何かを話し合ったのか、「オイ、こんな作戦でいけんのか?」「ダイジョブダイジョブ!!」「ほんとかよ……」と話し合いをしていたようだった。

 

 クサビは本来であれば、オビトにグルグルを着続けることはオススメしない。言わばグルグルは、柱間細胞に適合した人間の強化パーツ―――これは逆も然りではあるが―――だからだ。外付けの力に頼ってばかりいては、自分本来の実力が伸びず、「自分は強い!」と自惚れる―――オビトに鍵ってそんなことは無いとクサビは思っているが―――可能性が出てくる。

 それに、グルグルとオビトでは体格が違う。多少であればだが、グルグルは自身の体長を着用者に合わせて変えることができる。しかし、それも()()だ。数センチ腕の長さが違うだけで、人の感覚というものは簡単にズレる。肉弾戦においては致命的であり、だからこそクサビは初めから()()()()()()()という選択肢を除外している節がある。

 

 マダラならば、オビトがグルグルを着て修行を行うことを許さないだろう。一度や二度であっても、体の感覚にズレが生じてしまえば、それは一流の忍にとっては大きな隙となる。ほんの一瞬、瞬きの間だったとしてもだ。マダラはそれを許さない。

 

 

――――――だが、現在この場所でオビトの修行を見ているのはクサビであって、マダラではない。元々、クサビはオビトに対しては強く出られない。グルグルの虚言かもしれないが―――ほぼ確定で虚言だが―――簡単にオビトに向かって「ダメ」というのは内なるクサビが―――「オビトがガッカリしちゃうかも……」と言いながらしょぼくれてしまうので―――許さない。

 

 

「今回だけ、だからね。……グルグル、次は無いから」

 

「エー? たまにはイイでしょ? ほらクサビもさ、弱っちいオビトの相手ばっかしてても」

 

「返事」

 

「ウス!!!」

 

 グルグルの経験が言っている。さっきの返事を求める声は、猛吹雪の中、裸一貫で放り出されるよりも冷たい声だった。つまり()()()()()()である。しかも写輪眼付き。

 死んだマダラも背後霊みたくくっついているようにグルグルには見えたので、空気の読めるグルグルは大人しく従う。賢い―――自称―――ので。

 

 

「ゼツ、合図して」

 

「ッシャー!! やるぞォ〜!!」

 

「クソ……今回こそ、絶対勝ってやるからな」

 

「ドウシテオレタチガ毎回コンナコトヲ……」

 

「まァイイじゃん……それじゃ、よぉい―――――ドン!」

 

 

 白ゼツの声を合図として、クサビ対オビトのグルグルの組手が始まる。

 

 土を踏みしめ、力強く地を蹴ったオビトがクサビに向かって走り出す。オビトは攻撃を行い続ける姿勢を崩さない。対してクサビは、瞳を写輪眼に変化させ、防戦のみを行なっている。

 クサビは打ち込まれる拳を軽々といなし、意識が自分の腕と攻撃を避けるクサビばかりに集中しているオビトに、足払いをかける。あくまでこの組手の目的はオビトの修行であり、クサビからアクションを起こすのはあまりにも()()()()()()()()である時のみだ。つまりは、今のオビトは懐がガラ空きだった。

 

 バランスを崩し、尻もちをつこうとしているオビトに対し、クサビは左足を思い切り振り上げる。そのままかかと落としをオビトの脳天に直撃させようとすれば、バランスを崩したと思っていたオビトが両腕を使って飛び跳ね、半身を回転させる。地面へ手をついた後、逆立ちをするように足を蹴り上げた。

 

 だがクサビは動じない。写輪眼による動体視力の強化によって、顔の真横まで来た足を掴み、捻りあげる。そしてチャクラコントロールにより得た怪力で、オビトのことを地面へと叩きつけた。

 

「痛ってぇ!!」

 

「やっぱりムリかもー!!!」

 

 土埃に巻き込まれながら、オビトに着られているグルグルは地面と熱烈な口付けを交わす。なにか作戦会議をしていたはずのオビト達があっさりと地面に転がされてくれたので、クサビとしては拍子抜けだった。

 

「1回くらいは勝たせてくれてもよくない!? あと、手心とかさあ!!」

 

「痛くないと、体は覚えないから…」

 

「マダラ、教育に失敗してるよ!!」

 

「うるせぇぞグルグル! クサビ、もう一本だ!!」

 

 雨隠れを目指す旅の間、マダラの元で療養中に伸びた髪を整える暇もなく、さらに無造作になってしまった髪をオビトは振り回す。悔しげに顔を歪め、再チャレンジを要求しながら地面に倒れ伏すオビトに手を貸し、クサビ軽く手でオビトの服をはたいた。地面に転がしすぎたせいで、黒いはずのマントが焦げ茶のように見えるまでに汚れていたからだ。

 

「いいよ。忍術もありでやる?」

 

「……いや! 無しだ、無し!! クサビが怪我しちまう」

 

 少し考える仕草を見せると、オビトはクサビの提案を断った。しかし、クサビにはオビトが自分に怪我を負わせることができるとは、到底思えない。

 

 オビトの実力は現在、中忍の域を出ない。クサビの日頃の指導によって、木ノ葉にいた頃と比べれば強くはなった。それでも中忍の上澄み程度であり、かなり贔屓目に見たとしても上忍には指先が少しかかる程である。

 そしてクサビは、並の上忍ならば相手取れると言われている。中忍が、上忍を撃破することができるだろうか。

 

「オビトは弱いから、怪我とか無理だと思う。……あ、オビトだけ忍術を使う、とかなら」

 

「……はぁ?」

 

 カッチーンと、どこからか音が聞こえた。眉をピクピクと上下させ、オビトは幽鬼のようにクサビに向き直る。オビトから燃え上がる―――そう見えるだけ―――怒りの炎を感じ取ったのか、クサビは瞬きを数回繰り返した。

 

「おいグルグル……!」

 

「ね? だから言ったでしょ?」

 

「あぁ、よーく分かったぜ……クサビがオレのことを舐めてるってな!! さっきの話、乗ってやる!!! 手伝え!!!」

 

「オッケー!」

 

 腹立たしさからか、眉を釣り上げたままに口の端を震わせるオビトとは対照的にグルグルは楽しげに答えた。そして、クサビへひとつ提案をする。

 

「今度は対面スタートじゃなくて、この森一帯を使って修行するのはどう? それでクサビはハンデとして、ボクらよりも遅れてスタートするっていうの!」

 

「……なにかの準備時間?」

 

「………………ノーコメントで!」

 

何かを準備されたとしても、真正面から叩き潰せばいいだけだろう。そう思ったクサビは、二つ返事で了承を出した。

 

「まあ別に、自由にしてくれていいよ。スタートはゼツたちに任せるから」

 

「え? またボクらァ?」

 

「それじゃよろしく。私、一回水飲んでくる」

 

「マタカ……」

 

 

 

 

 

 少しだけうんざりした顔をしたゼツが、白い左腕でサムズアップしているのを確認し、クサビは「よーい、どん」と大きめに声を出した。その言葉をスタートとし、随分前、森の中へとドスドス足を進めていたオビトを思い出しながらガザガサと茂みを掻き分ける。

 

 きっと自分はあまり聞かない方がいいと思って、水を飲みながらぼうっと雲を見ていたけれど、意識外にしていても聞こえてくるくらいに大きな声でオビトとグルグルは言い争っていた。何かしようとしているのは明白だが、あんな状態では連携もクソもないのでは?クサビは訝しんだ。

 

 

 クサビはチャクラの感知はそれほど得意ではない。元々感知タイプでもなく、マダラからは気配を察知するように指導を受けたが、どちらかといえば苦手だった。

 基本、クサビの隣にはクサビとは比べ物にならぬ程に莫大なチャクラを持つマダラや、そのマダラにチャクラを供給している外道魔像があった。ゼツ達のチャクラも、ゼツ達がクローンとして生み出されているせいで外道魔像と似たようなチャクラの質であり、人数が多かったとしても全員ほぼ同じチャクラであるせいで、クサビのチャクラ感知の練習にはならなかった。

 

「オビト達はこっちに来たみたいだけど、足跡はここで無くなってるな……木に飛び移ったのかな」

 

 オビト達が作ったであろう踏み分け道を歩きつつ、足元を見ながら考える。周囲には鬱蒼とした森が広がり、足跡が途絶えれば頭上で揺れる木の枝に道を変えたと思うのが当然だった。

 

 

――――――そして、他になにか痕跡が無いか調べるために、地面にしゃがみこんだ時だった。

 

 ツンツンとはねたマダラに似たクサビの髪を、風が通り過ぎ去った。ユラユラと髪が動くのをそのままに、頭を掠めた()()を見る。

 木のツタと、ツタに括り付けられた木遁で造ったであろう木の破片。クサビの身長ピッタリに合わせられたそれは、揺れていた動きの勢いが徐々に無くなり、風が靡かなければ動かなくなってしまった。

 

「オビト?」

 

 返事は無い。だが、近くにはいるはずだ。破片を繋げているツタには、なにか鋭いもので斬られたかのような跡がある。ツタがくくられている木の後ろを見れば、鋭い枝が木に突き刺さっていた。挿し木の術だ。

 挿し木をクナイとして使い、ツタを斬ることでクサビの頭に当たる

 

―――――はずだったが、クサビがしゃがみこんでしまったから当たらなかった、と。

 

(あ、危ない……)

 

 自慢気に「オビトが私に怪我させる? 無理無理」とか言っていたのに、しゃがんでいなければ早速気づかないまま頭に破片が当たり、良い音を辺りに響かせていたことだろう。クサビは素知らぬ顔で、いかにも気がついたからしゃがみこみました、というように振舞った。

 

「ハンデが欲しいって言ってたのはこういう仕込みをするから、ってことか」

 

 力任せにツタをちぎり、手のひらで握り込む。円を描くようにして振り回して、意識を集中させた。木片は軽いが、速さは重さ、とどこかの誰かは言う。ヒュンヒュンと音を立ててクサビに回される木片は、残像しか見えなかった。この状態で体のどこかに当たれば、内出血くらいにはなるだろう。

 

 

 迂闊に動けば、またオビトとグルグルが作った仕掛けがまだ出てくるはず。それなら、既に仕込みを使い切った、もしくはまだ使い所のないこの場所で、オビトが痺れを切らして出てくるのを待てば、クサビは安全にオビトとの勝負に勝つことができる。

 

 そう考えたクサビは土を踏み、どこへ行くでもなく何かににじり寄った。クサビが動くと判断したのか、何かが茂みを軽く揺らし、クサビの黒い瞳が鋭く光る。

 

「そこ!」

 

 振り回していたツタと木片の簡易武器を、音を立てた茂みの方へと投げつける。思い切り投げつけたはいいものの、クサビが思っていた結果にはならなかった。

 

「違う罠? 何が発動し……うわっ!!?」

 

 足元から何かに引きずられる。武器を投擲した茂みを、引きずられながら確認すれば、またツタと木と岩で作られた仕掛けがあった。そして足首にかけられたのは、さっきよりも随分と太めなツタ。それがクサビの足に輪っかを作り、どこかへと連れて行っている。

 手にチャクラを込め、クサビは地面へと突き立てた。引きずられていた体が止まり、ガタガタと揺れが止まる。クサビの口の中では、砂利が我がもの顔で居座っていて、気分が悪かった。

 

 

「覚悟ーーー!!」

 

 地に伏せるクサビの頭上から、グルグルの声が聞こえる。木の上から様子を見ていたようで、クサビは目に入った砂に苛立ちながら、急いでゴロゴロと土の上を転がった。地面に強く何かを叩きつけた感覚があり、クサビの顔の横には、白すぎる腕が居座っている。

 

 拳を避けたあと、クサビは急いで立ち上がった。雑に腕を振りながら向かってグルグルには、武術の心得が無い。グルグルは体術に秀でているタイプではないし、そもそも木遁忍術の応用といったものの方が得意である。オビトには繊細な木遁の行使は不可能なため、この森一帯に広がっている仕掛けの数々はグルグルが作ったと考えられる。

 

「当たんないんだけどぉ!?」

 

「だって軸がブレブ、れっ!?!?」

 

 クサビにはヘニョヘニョに見えるグルグルのパンチを避けながら、後方へとバックステップを繰り返す。下がりながら踊るように動いていれば、落ちた青葉が重なった場所に足を踏み入れた。

 硬い地面があると思った場所は、かかとが平面にならずに下へ下へと沈んでいく。浅く掘られた落とし穴へと誘い込まれたクサビは、バランスが不安定になって後ろに倒れて行った。

 

「隙あり―――ってイッタァ!!? マダラにも打たれたことないのに!」

 

 クサビの隙を見逃す訳のないグルグルだったが、クサビもタダでやられる訳ではない。体勢を崩しながらではあるが、短い足を無理やり引っ張って、グルグルを力いっぱいに蹴りつけた。

 かなりのチャクラを込めたため、クサビの足が痺れる。もう一度、というのは上手くいかないだろう。チャクラも少なくなってしまう。

 

 

「ビックリしたけど、落とし穴を掘るならもっと深く掘らな、きゃ……?」

 

 違和感があった。こんな浅い落とし穴なんて作っても、せいぜいさっきのグルグルのように一瞬の不意を突くのが関の山。なら、なぜこんな罠を作ったのか。

 

―――――――そして、オビトはどこへ行ったのか。

 

「火遁・龍火の術!!」

 

 グルグルの相手をしていたせいで気づけなかったが、ある木を起点として、周囲をぐるりと円を描くようにしてツタが配置されている。明らかに、人工的に作られたものだった。

 そのツタを伝うようにして、木の上からクサビとグルグルの戦いを見ていたのだろうオビトの口から、炎が吹き出される。

 

「ここへ連れてくることも計算済み、か」

 

 一気にツタが燃え上がり、クサビの視界に炎が広がる。ガサガサと木の揺れる音が聞こえるが、クサビが追いかけることはできなかった。

 

「挿し木の術……!!」

 

 なにか細工がしてあったのだろう。ツタが燃え尽きるにつれて、どこからともなく土に転がるクサビを狙って、チャクラの籠っていない―――棘のようにはならないということ―――挿し木が飛んでくる。

 

 手首を起点として、クサビは体を無理やり起こした。手首や足首を痛める、などの心配は無用だが、火の粉がクサビの体の近くを舞う。そして転がっていた場所から離れれば、また白い影がクサビを襲った。

 

 

「グルグル……じゃないね」

 

 暗いひとつの穴から覗くのは、オビトの写輪眼。鋭く放たれる拳を掴んで横へと流す。一気にクサビの体に引き寄せられたオビトへ向けて、クサビは蹴りを放ったが、神威によるすり抜けで避けられてしまった。

 クサビの攻撃を回避したオビトは、クサビの腹へと掌底を向ける。腹に当たった衝撃にクサビの軽い体は吹き飛び、受け身を取って地面に着地した。

 

「グルグルの言った通りだな」

 

「でしょ? いやー、これは後々お礼してもらわなきゃね?」

 

「……勝てたら、の話だな」

 

――――――――クサビは()の可能性を考えない。

 

 

 この世の柱間以外の人間を弱者と言い、真正面からねじ伏せることを好んだマダラに師事していたせいだった。知識としては頭にインプットされているものの、方法としてアウトプットする、という考えにクサビは思い当たらない。

 弱い人間は大抵、徒党を組んでくるとマダラから言われてきたクサビには、罠を仕掛けて一人で相手取る、という選択肢が思い浮かばないのだ。

 

「マダラが好きじゃないからさ、()()()()コト!だからクサビはなーんにも知らないってワケ」

 

「忍者なら罠は使うだろ。木ノ葉なら、アカデミーで習うぜ?」

 

「だってマダラだよ? 唯我独尊、傍若無人、傲慢不遜!! 自分ができるようなことはクサビもできて当然にさせてたからねー。そりゃマダラに比べればクサビは弱いけど、中忍レベルの相手くらいなら、仕掛けとか気にしなくても瞬殺だよ、瞬殺。だからクサビは罠のセオリーとかぜーんぜん知らないの!」

 

 クサビの眼前にいるオビトは肩で息をしていた。罠を張り、クサビとグルグルがどこにいるかも確認しつつ、気を張り詰めたままで移動し続ける。それにオビトは、寝たきりも同然だったところから今もリハビリをしている。当然ずっと修行をしているクサビよりも、体力が落ちていた。

 

「もう終わり?」

 

「……舐めんなよ、クサビ!!」

 

 クサビに人差し指を向け、オビトはニヤリと笑う。そしてまた、拳と拳の応酬が始まった。巴のみの写輪眼と、万華鏡写輪眼がかち合う。

 グルグルよりかはキレの良い足蹴りを避けて、クサビはまたオビトの頭を地面へ向けて蹴りつけた。オビトは頭から地面へ倒れ込み、土を握りしめた。そして、万華鏡写輪眼でクサビを見る。

 

 

(神威は囮、本命は地面からの木遁で私を捕まえること……)

 

 クサビの思った通り、オビトの万華鏡写輪眼にはチャクラがあまり込められていない。足の裏からは、土が隆起し何かが突き出てこようとする感覚があった。

 

「だよね、バレバレ」

 

「くそっ……!!」

 

 軽い動作で空中へと飛び上がったクサビは、足元から伸びる太い木の根を踏みつけ、オビトと距離を取った。土を握り込むオビトの―――――というよりも、グルグルの手先を見れば、細く柔らかい木の根がひっそりと伸びている。

 指先から木の根を出し地中へと潜り込ませたあと、チャクラを流し込んで成長させ、クサビを捕まえようとしていたのだ。

 

「失敗したァ〜!!!」

 

「上手くいったと思ったんだけど、な!」

 

 オビトの伸ばしっぱなしな髪が揺れる。一気に起き上がり、クサビに取られた距離を詰め直した。下方から右腕を大きく振り、クサビのガードされた腕へと当てる。クサビは衝撃に耐えるために足へと力を込め、反撃を行なった。腕を振り払い、オビトの肩へとクサビの拳が掠った。

 体術勝負でなら、分があるのはクサビだ。このまま続けていても、オビトは少しづつ体力を削られて、また地面に転がされてしまうことだろう。

 

「左側は死角だから、注意した方がいいよ」

 

 両目の存在は大切だ。常人でも、戦いにおいて片目を失っているというのは不利に働くことで、それが写輪眼を持つうちは一族ならば更に如実に現れる。写輪眼は両の瞳が揃ってこそ、真価を発揮する。

 いまのオビトには、左目しかない。左半身への攻撃は、やはり右側と比べて反応が遅かった。防戦一方のオビトは、ジリジリと後退を余儀なくされている。

 

 

 ついにオビトの背中が、硬い何かにぶつかった。森に自生している木に、背中を預けるようにして前を見据える。近づいてくるのは、構えをとかないままのクサビ。

 

「逃げ場、無くなったね」

 

 土を踏み、オビトへとにじり寄るクサビに、オビトはたらりと冷や汗をかいた。一歩、また一歩と近づくクサビに、もうオビトはなにも―――――。

 

 

「へ?」

 

 コトリとなにかが地面に落ちた音がして、クサビが足元を見てみれば、土と葉の中から勢いよく出現した、ツタで編まれた簡易的な網。間抜けな声を出して、何がなにか分からないままクサビは網に捕まった。

 

「……ふぅ、焦ったぜ…」

 

 捕まったクサビを見て、オビトは安心したように息をつく。モゾモゾと網の中で動き、どうにかして脱出しようとしているクサビに人差し指を向けながら、グルグルはオビトと分離した。

 

「みたかクサビ!! まさか下忍の時の猫探しがここで活きてくるなんて、思ってなかったけどな……」

 

「クサビに勝つためにはなんでも上等でいかないと無理ってオビトに提案してさぁ、一回は断られちゃったけど、キレたオビトさんはやっぱ違うね!!」

 

(まあ、最初にもう捕まえられるだろ、って思ってたのは失敗したけどな……)

 

「………」

 

ニヨニヨ顔の―――実際に顔はないが、言動からして―――グルグルが、とても鬱陶しい。網の中で俯いたクサビの表情は伺えないが、フルフルと体が震えていた。

 

「……………」

 

「……おい? クサビ?」

 

網に入れられて地面を見つめるクサビを、地に立つオビトが見上げる。空中に吊り下げられているクサビの口が小さく動き、オビトの耳に掠れた声が届く。

 

「……ぃ……つ」

 

「も、もしかして泣いてんのか? 怖かったのか? ごめん、今下ろすから……」

 

「アレレ、クサビちゃん泣いちゃったんスかァ? プププー! 泣き虫ちゃんじゃーーん!」

 

「…………」

 

 オビトが余計なことばかり言うグルグルの頭を思い切りシバく。「アイタァ!?」「うるっせぇよお前、ちょっと黙っとけ!!」と話す2人に目もくれず、クサビは黙ったままだった。

 こういう時、オビトはどういう顔をすれば良いか分からない。弟も妹もいなかったし、木ノ葉にいた頃に一緒に遊んでやっていた子供達とは公園で遊んだり、広場で忍者ごっこをするくらいで、クサビのように四六時中一緒にいるような関係ではなかった。関係値が違うせいで、どんな反応をすればご機嫌が取れるかが分からない。

 

「悔しかったのか? はい下ろしたぞ……ごめんな、あー……飯食うか。今度は魚も取ってくるか?」

 

 「ヨーシヨシヨシ」と網から出され、抱き上げられてあやされる。ギュムッと顔の中心に力を寄せ、抱き上げられているクサビは頬を膨らませた。

 マダラにいくらコテンパンにされたとしても、クサビにとっては負けではなかった。勝てるわけが無さすぎるからだ。だが今回の相手はオビトとグルグルで、余裕綽々のまま始まった。

 

 クサビのまだ短い人生において、この勝負によって初めて経験することが()()()だった。困ったような顔をしたオビトはついに体を揺らし始め、下忍の時に受けてきた子守りの任務を思い出す。

 

(まだクサビも、子供だもんな……)

 

 いくら強いといえども、自分よりも小さな子供であることは変わりない。小さく鼻を啜る音が、オビトの肩から聞こえてくる。

 

「……つぎは、ぜったぃかつ」

 

「お、おう…そうだな……?」

 

「ぜったい、絶対勝つから!!」

 

「イテテテテ!!わかった、わかったから肩!!!めり込んでるめり込んでる!!」

 

――――――次の日、グルグルの顔面は明らかに陥没していたし、オビトはクサビの気が済むまで何回も土の上を転がされた。

 

 

 






クサビちゃんが「コッチはカウンター前提で動き作っとるんや」を言ってくれなくてメチャマイルドな言い方になっちゃった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。