あなたに続きを歩いて欲しいから   作:\︎☝︎☻︎☝︎/

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アンケート置いてあるので良かったらやってほしいです!!お願いします。




陽が落ちてきた日

 

 

 

 

 

 ちゅんちゅんという鳴き声が、木々の隙間を通ってクサビの耳に入る。

 この鳥たちの鳴き声は、マダラが幻術世界の中で創り上げた、仮初のものではあるが、クサビにとってはコレこそが本物の鳥だった。

 人のようにコミュニケーションを取り、縄張りや巣を守る。オスとメスで求愛―――クサビがそれについて聞こうと思ったら、ゼツに「お子ちゃまにはまだ早いから、あっち行ってな」と、誤魔化された―――する鳴き声。そして、自分たちの縄張りに入ってきた敵を、仲間に知らせる声。

 

 けたたましく耳に届く鳴き声が、森の奥深くから聞こえてくる。鳥たちの止まる木々が燃え、灰となって辺りに散っていく。

 

 

 

 今クサビが立っているのは、マダラの幻術空間で作った、マダラの記憶を元にして再現された森だ。まだクサビが実物を見たことの無い太陽や、光を反射してきらめく川、小さな若葉が、風に吹かれて舞っている。

 

 今日、この幻術空間にやってくる前にクサビがマダラに言われたのは、「今の実力を見てやろう」とという言葉だった。そして無理やり目を合わせられて、気づけば森の中に放り出されていた。

 私が生まれてから、今までの成果を見る、とじい様は言っているのだろう。クサビはそう仮説を立てた。毎日修行をして、メキメキと力をつけている―――と、クサビは思っている―――クサビに、マダラは期待してくれている、と。

 じい様の期待に報いるためにも、気張っていかなくてはならない。小さく腕を曲げ、ひとりで誰に見せる訳でもなく、クサビはやる気を表現した。

 

 

「何をしている」

 

 高い木の上から、聞き慣れた―――だが、現実よりも若々しく、力強い声がした。クサビを見下ろす瞳には、三つ巴の写輪眼が煌々と輝いている。クサビと同じような、長い闇より暗い黒髪が、激しく吹く風に揺らされている。

 

 

「フン…お前の悪いところだ。ここは幻術の中だと分かっているせいで、危機感というものが足りん。ここが戦場で、オレが敵ならば、今の時間でお前を縊り殺すことも簡単だ」

 

 マダラの手が、即座に印を結ぶ。熟練の忍にとっては、戦いながら印を結ぶことは、息を吸う様なものだ。骨ばった手が、流れるような所作でチャクラを練り上げる。

 マダラの印を見たクサビは、術に対抗するために印を結ぶ。まだ体もできておらず、精神も幼いクサビでは、大きな術は使えない。適切なタイミングで、適切な術を出せるような修行代わり、ということだろう。

 

「火遁・豪火球の術」

 

 マダラの口から、大木を優に飲み込むほど大きな火球が吹き出された。轟速でクサビに向かう火球を消すため、体の中でチャクラを練る。クサビのチャクラ適正は生来のものである火遁、そして後天的に手に入れた―――柱間細胞によるもの―――水遁、土遁である。

 得意なものでは無いけれど、少ないチャクラを活用しようと思えば、相性の良いものを選んで使う必要がある。頬を大きく膨らませて、クサビは高熱を発する火球に向かって、水を吹き出した。

 

「水遁・水乱波!!」

 

 水と火なら、火は水に打ち消される。クサビが吹き出した水が、勢いよく炎に当たって、白い煙を出しながら火球の勢いが落ちていく。

 だが、実力差は歴然。いくら相性のいい技を繰り出したとしても、それだけで打ち破れるほど甘くは無い。

 現に今も、落ち着いたと思った火球の勢いが強くなり、クサビの術を無視して轟々と燃え続けている。このままでは、クサビは豪炎に飲み込まれ燃やされ尽くしてしまうだろう。

 

 口から水を出し続けることをやめ、足にチャクラを込め、瞬身を使い森の中へと身を潜ませた。押し止める水が無くなった豪火球の術は、林をなぎ倒しながら燃え盛っている。

 

「手加減はしてやっているんだ。このザマでは、遊びにもならんがな」

 

太陽を背に、仁王立ちでマダラは笑う。マダラの瞳には、瞬身の術―――マダラにとっては、赤ん坊がハイハイをしているようなもの―――で森に隠れたクサビを簡単に捉えていた。クサビにとっては本気の戦闘でも、マダラにとっては片手間に遊んでいるだけ。

 森に隠れ潜んだクサビは、荒れた息を整える。

 

「はぁ、はぁ…………」

 

 そっちがその気なら、私だってやってやる。じい様に認めてもらえれば、私に後を任せても大丈夫だと、安心してもらえるかもしれない。そう思ってクサビは、また新しく印を結んだ。

 

 

「む…」

 

 林の中から、小さな影がマダラに向かう。

 

 小さな体を精一杯使って、クサビはマダラに吶喊した。チャクラコントロールも込みであれば、クサビの力は万力―――とまではいかないが、成人男性よりも強くはなる。

 チャクラコントロールに関してだけ言えば、クサビは得意な分野ではある。手足が造り物である分、替えがきくクサビにとっては、莫大なチャクラを入れ込んで失敗してしまっても、次がある。

 

 クサビのチャクラは、常人よりかは多い。尾獣と比べてしまえば、天と地ほどの差があるが、人間と人間で比べれば、比較的には多いと言われるほどチャクラがある。そして普通の人間の手足では耐えきれないチャクラ量でも、クサビの柱間細胞で造られた手足であれば、簡単に制御が可能だ。

 

 短い腕が風を切る。マダラの顔へ殴りかかった腕は捻られて止められてしまい、クサビは捻られた体の勢いをそのままに、自分の足を掴んだままのマダラの腕を踏み台にして、かかとを落とす。フイと首を横にされ、掴まれた腕を振り回されて木へぶつけられた。

 

「木分身か」

 

 倒れ伏した自分の分身が木に戻るのを見ながら、クサビは更に分身を作る。作った分身は全てマダラの方へと突撃させ、時間稼ぎを行わせる。

自分に集るハエを散らすのと同じように、たくさんのクサビがマダラによって蹴散らされていく。

 自分が蹴散らされていく様子を見るのは、気分の良いものではない。クサビはいつか、マダラを超えるとまではいかないものの、有象無象を蹂躙できるような強さを手に入れろ、と常々言われている。

 今お遊びとして付き合ってくれているマダラに一撃も入れれないようでは、クサビのことをマダラは弱いままだと認識するだろう。己の実力を誇示するためにも、クサビはこの前散々練習した印を結んだ。

 

「木遁・木龍の術!」

 

 たくさん練習した印を結び終わり、地面へと手をついた。若葉が芽吹き、それがグングンと成長する。2匹の決して大きいとは言えない龍が、マダラへと向かっていく。木分身の自分を離れさせ、マダラにそのまま激突させた。土埃のせいで前が見えない。

 いくらじい様とは言えども、土のひとつやふたつは付けられただろう。そう思い、巻き起こる土埃に目を細めながら、声を漏らした。

 

 

「やった…!」

「何をだ?」

 

「はや………ッ!!!」

 

 だが、現実はそうは甘くない。突然クサビの後ろに現れたマダラに、腹を蹴り飛ばされた。クサビの体が軽く小石を蹴ったかのように吹き飛ばされ、腹部には強烈な痛みが走る。唾がせり上がってきて、クサビの口から少しだけ漏れた。

 大木から枝分かれした小枝にぶつかり、それをへし折りながらもクサビは森の奥深くへと飛んでいく。体にかかる負担を無視して、クサビは現状から抜け出すためにチャクラを練った。

 

「…影、分身……!」

 

 影分身をクッションにして、飛ばされた時の推進力を殺させる。飛んでいく時ぶつけた箇所に、痺れるような痛みが溢れてくる。マダラが本気を出せば、まだ幼子で実力もないクサビなど、1秒もいらずにグシャグシャにされる。手加減はしてくれているんだろう。

 クサビを吹き飛ばした張本人が、瞬身の術で飛んきた。木にもたれかかりながら荒く息を吐き、体が草や木々の葉まみれになったクサビを見るマダラの目には、明らかな落胆が浮かんでいる。

 

「こんなものか…お前なら、もう少しできると思っていたが…。思い違いか」

 

 大袈裟に肩を落とすマダラは、クサビには意識が向いていない。油断や慢心は、下から伸びる手にも気付けなくなる。

 私は弱い。弱いからこそ、強いじい様に1つの傷くらいはつけたい。クサビは、痛みに呻きながらも、動こうともがいた。

 

「ハァッ…ハァッ…」

 

 クサビが土を握りしめる。ジャリ、と音がなり、マダラの目がゆるりと細められた。

 

「やる気か…いいだろう。子供のワガママに付き合うのも、たまには良い……まだまだ遊んでやる。幸い、時間はたっぷりある」

 

 手の中にある土を、クサビはマダラに向かって投げつけた。動物は、体を守ろうために危険が迫った時、反射的に行動してしまう。火に触れた時、高い場所から落ちた時などだ。

 目は、どんな動物にとっても急所。反射的に目を閉じてしまっても不思議じゃないーーーとは思うが、クサビの脳内では、あのうちはマダラが砂ごときで怯むとは思っていない。だが、マダラにとって今はお遊び。目くらましが成功したと信じて、クサビはまた瞬身の術で森の中へと逃げ込んだ。

 

 燃え上がった草木の匂いがする。黒ずんで風に吹かれて崩れていく木々が、マダラの強大さを象徴しているようだ。

 

 

「火遁…豪龍火の術…!」

 

 クサビは小さな火の龍を生み出して、その場に止めさせる。チャクラで作られた火の龍に細工を施して、腹の傷の痛みを無視しながら逃げ回った。そしてクサビの周りには、クサビの木分身を待機させてある。四方に木分身を散らばらせると、クサビは当たりを見渡す。

 じい様は不意打ちなんてしない。正面から捩じ伏せてこそ、うちは一族であり、忍界最強を示すものだと言っていた。奇襲される可能性は少ないと考えていいだろう。

 

 クサビの残りチャクラは、そう多くはない。火遁では分が悪すぎる。

 片や、あの戦国最強と謳われたうちは一族の頂点であり、忍の神と拮抗する実力のマダラのじい様。片や、地下から出たこともない、経験の浅いうちはの小娘。いくらじい様に様々なことを教えて貰っているとはいえ、6歳と老齢、そして熟練の忍でやりあえば、勝ち負けは見えきっている。

 クサビは思考を回し、勝ち筋とまでは行かないが、どうにかして切り抜けられないかを考える。

 

 

 クサビを探し―――という振りを―――しているマダラの下から、クサビが飛び上がって顎を狙った蹴りを放つ。クサビはまだ体ができあがっていない分、小さくて気づきづらい。それを生かすために、死角からの攻撃を行って着々とダメージを狙っていく。

 だがクサビの足がマダラに届くことは無く、足首を掴まれて投げ出された。

 タダでやられる訳にも行かず、クサビは待機させていた豪龍火の龍を、自分に意識を向かせたマダラにぶつける。

 

「フン、随分と小さいな」

 

 クサビの頭ほどの大きさだが、マダラから見れば手のひらよりも小さな火龍がマダラを取り囲む。クサビはチャクラを流し込み、マダラへと火龍を仕向けた。

 避けられることは想定済み。マダラの体どころか服にも当たらず、回避された龍の中から、木でできた棘が生え出てくる。火遁の火が燃え移った木の端は、黒焦げになって木炭と化していた。

 

 

 ほんの一滴、クサビが流す汗よりも少ない血が、小さく飛び散った。

 

 マダラの頬に、薄く赤い一筋が浮かんでいる。薄皮1枚だけだ。

 だが、今のクサビにとって、マダラに傷を小さくともつけたことは、偉業そのものだった。

 自分につけられた小さな傷を見て、マダラは不気味に笑った。そして地面にねじ伏せたクサビを見て、言葉を口にする。

 

 

「挿し木の術を豪龍火に組み込み、遠隔で作動させたのか…」

 

 クサビが豪龍火の術に組み込んだのは、自分の腕から作った挿し木の術の欠片。腕を木に変えてから、枝分かれする欠片をへし折り、豪火の龍の体内に入れ込む。

 普通の豪龍火の術では、ただ龍は消えるのみ。追尾させることもできるが、クサビの力量ではチャクラが足りず、不可能だった。

 そして、クサビの挿し木の術は、まだまだ成長途中だ。クサビが前にマダラに見せて貰った術よりも、細く脆い。至近距離で挿し木を成長させることができれば、一撃必殺の技とはなるだろう。

 だが、相手はあのうちはマダラ。クサビでは、戦いの最中、マダラの体に挿し木を突き刺すことは無理だ。

 だからこそ、その挿し木の規模の小ささを活かして術に組み込んだ。火龍に持たせた挿し木をそのまま起爆させ、かすり傷を負わせられた。

 

 好機を手にしたクサビは、地に伏せられた状態から抜け出して、口内に熱を籠らせる。

 

「火遁・豪火球の術!!」

 

 先程のマダラのものよりも、何回りも小さい火球を口から出す。小さいと入っても、大人一人は簡単に飲み込める大きさだ。口元から火が出ているせいで、クサビの頭に熱が伝わってくる。いままでかいていた汗と混じって、服にへばりつくような気持ちの悪い感覚がした。

 

「いいだろう。成長はしている」

 

燃え盛る炎の玉の奥から、嫌でも通る声がした。さらにチャクラを込めて、もっと大きく火を育てる。火を吹き続けている間も、休むことなく印を結び続けた。

 

 

「なっ!?」

 

突如として、クサビの豪火球が縦に割れる。豪火の奥から、威圧感を溢れさせ、莫大なチャクラを漂わせるマダラが歩いてきた。その瞳は写輪眼ではなく、さらに特別なもの。

 

 

「万華鏡写輪眼…」

 

 写輪眼を開眼した者が、最も近しい者の死に経験する時、その瞳は更なる進化を遂げる。深い悲しみや深い絶望を味わった者だけが手にできる力、それこそが、万華鏡写輪眼。

 マダラの万華鏡写輪眼は、三つの巴が繋がり、それを柱が支えているような模様をしている。クサビが聞いた話では、じい様の弟であるイズナのじい様から受け継いだ瞳によって永遠の万華鏡写輪眼になった時、形状が変化したと語っていた。

 

 万華鏡写輪眼の瞳力は、写輪眼のそれとは比べ物にならない。写輪眼も持たないクサビでは、マダラから放たれる瞳術に抗うことすらできないだろう。

 

「まだ終わらん」

 

 マダラの足元から、クサビの出した小さな木龍とは比較にならないほど大きな龍が、群れをなしてクサビに襲いかかる。殺気立ったようにクサビに向かってくる木龍の上を、チャクラで補助をしながら走り抜ける。

 クサビを執拗に狙い続ける木龍たちをお互いにぶつけ、マダラへと手裏剣代わりの挿し木を投げた。

 

「返してやろう」

 

「やっぱりだめだ……!」

 

 クサビの小さな口から、舌打ちが聞こえる。容易くマダラの手によって掴まれたクサビの挿し木が、クサビが投げた時の数倍の力を込めて投げ返される。飛んでくる挿し木に、マダラの口から出た火がまとわりついた。

 

「鳳仙花爪紅か…!!」

 

 弾け飛ぶ炎が、パチパチと音を立てる。視界がとたんに明るくなった。クサビは空へと飛び、燃える木の棘を避けると、自由落下するクサビの下から木でできた手のひらが向かってきた。初代火影である千手柱間が、九尾の化け狐を捉える時に使ったという、皆布袋の術だ。

 

「手加減とか、本当にしてる…!?」

 

 思わずクサビの口から憎まれ口が飛び出した。自分の力をじい様に示せたことは嬉しいが、こんなに厳しいなんて聞いていない。

 木の手に対抗するようにして、クサビも口から火を出した。

 燃えながらも向かってくる手は、クサビを優に閉じ込められる大きさだ。燃えつつも後ろから迫ってくる手から逃げていると、意識外にあった目の前に、何かが向かってきた。

 クサビの胴に噛み付くようにして激突してきたそれに、空中へと打ち上げられる。痛みに耐え、目を見開くクサビの手元には、硬い木で作られた龍。

 

「皆布袋の術は囮…ッ!」

 

 木龍の術だ。さっきの木龍のうち、燃え尽きなかったものがクサビをまた狙っている。龍に打ち上げられたまま、体にとてつもない重力がかかっていた。

 

「…火遁・豪火滅却!!」

 

 体内で練りこんだチャクラを一気に放出した。辺り一面に広がる炎の海が、木の龍や木の手に燃え移った。打ち上げられたクサビは、まだ木龍に掴まれたままだ。炎が、クサビに燃え移る。

 炭になった木龍の牙を折って、空へと身を投げ出した。空気抵抗を受けつつ、クサビはまだ黒色から変えれない瞳を使って、必死に水辺を探した。

 

「あった…!!」

 

 必死に宙を移動しながら、見つけた湖へと着地点を変更する。燃える炎が体を焦がして、熱さに皮膚がヒリついた。

 

 

 

 

「ゴボボボ……」

 

 大きな水柱を伴って、クサビは湖に落ちた。水にぶつかった衝撃で、体全身が痛い。口の中から空気が漏れ出る。

 肺から空気が無くなっていく。燃えた体はもう熱くはないが、痛みはそのままだった。体が燃えてしまうと人は、こんなに痛いものなのか。

 

 苦しい。苦しくて、息を新しく吸おうとする。だけど、口に入ってくるのは水ばかり。水を吸って重たくなった服が邪魔で、水上を目指しても、体は下に沈んでいくだけだった。

 クサビの視界が霞む。酸素が不足している―――現実世界ではないが、精巧すぎる幻術のせいで、クサビは本来の自分の体が安全な場所にあるということさえ忘れている―――クサビの頭では、この水の中でどうするべきかが分からなかった。

 

 

 突然、クサビの首元の襟を何かに引っ掴まれる。グングン水の中から引き上げられて、陽の光が水の中から見ると綺麗だということも、初めて知った。

 

「ゴホッ、ゴホッゴホッ!!!」

 

体の中から水を吐き出す。咳き込むごとに肺が水を出して、息苦しさがマシになる。クサビの背中が、なにかによって優しく叩かれ続けていた。背それに合わせて水を吐き出せば、肺や気道に入り込もうとした水が口から出され、息切れを起こしながらも体が楽になってくる。

 

 

「まあいい、及第点だ」

 

 

「じい様……」

 

 息苦しさか、命が助かったことによる安心感か、マダラに抱かれたまま、クサビはベソをかいた。

 「おい、泣くな」と言うマダラを無視して、クサビはマダラの肩に頭を押し付けた。グリグリと頭を押し付けて、声にならない呻き声をあげ続ける。

 

「おい…ハァ。オレにほんの少しだけとはいえ、傷をつけたところは評価してやる」

 

 マダラは左腕に軽々とクサビを抱き上げたまま、空いた右手で自分の頬に着いた、小さな小さな傷を指さす。

 

「でも、でもじい様…」

 

「なんだ」

 

「わ、私、泣いてなッ、泣いてないし……!!」

 

「どこがだ…」

 

ジトリと肩にあるクサビの後頭部を見るマダラは、またため息を着いた。

弱い女、しかも子供の割にはまだ―――クサビと同じ歳の頃のマダラには遠く及ばないが―――動ける。

 しかし、滅多に泣かないとはいえ、クサビは泣き始めると長かった。夜泣きも酷かったあの頃を思い出し、マダラは―――基本的にはゼツ達に丸投げしていたが―――6年前の赤ん坊時代のクサビを思い出した。

 

 あの頃は、本当に大変だった。

 幸いにも柱間細胞に適合したお陰で、熱や病にかかることはなかったものの、夜泣きが酷かった。

 腹が空いて泣き、飲ませたミルクが気に入らなかったのか泣き、自分が眠たい事に泣く。ことある事に泣いていたせいで、あの時は下に兄弟のいたマダラですら手を焼いた。

 今はそこまで手はかからなくなったのものの、泣かれるとあの時の大変だった頃を思い出す。

 

 マダラは自分の腕の中で泣く子供に、どうすればいいのか分からず、赤ん坊の頃はこうすれば泣き止んだことを思い出し、クサビごと体を揺らした。

 腕の中で泣きじゃくるクサビは、赤ん坊をあやそうとするようなマダラに不満を募らせる。私は赤ちゃんじゃないのに。

 

「小砂利が。こんなもの傷に入らん。早く泣き止め」

 

 クサビのことを揺らし続けるマダラに、体を委ねてもたれかかった。水に濡れたはずの体が乾いて、若い体で健康的なマダラの体温が伝わってくる。火遁使いだからか、あたたかい体に眠気を誘われて、だんだんクサビのまぶたが落ちてきた。

 

「はぁ…()が思いやられるな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じい様…ふぐっ…えっぐ……」

 

「……クサビ、離れろ」

 

「水…ごわぃぃぃ…」

 

「…離れろ」

 

「ずびっ…じい様…」

 

「オレの服で鼻をかむな」

 

 幻術世界から現実に戻ってきて目が覚めた後、、クサビはマダラに引っ付いて離れなかった。

 現実では無いということがわかっていたとしても、クサビは本気で命の危機を本能が感じたのだ

 正直―――トラウマだった。底につかない足、重すぎる服、段々霞む視界。クサビの―――本人は―――優秀だと思っている脳味噌が、水辺というものに恐怖しているせいで、クサビにとって唯一の頼れる大人―――マダラに帰ってきてから、コアラのようにベッタリ引っ付いていた。

 

「なんでクサビずっと泣いてんの?」

 

「……さァ?」

 

 いつもなら、クサビは文句のひとつやふたつをゼツ達に言う。だが、ゼツ達に構っている暇が無いくらいには、クサビの余裕はなかった。幻術世界の中ほどは泣いてはいないが、半ベソくらいをかきながらクサビはマダラにしがみつく。

 若い体ではないマダラでは、クサビを引き剥がそうとも筋力が足らず、好き勝手されたままだ。ので、クサビもマダラのことをお構いなしに抱きついままだった。

 弱々しく頭を遠ざけられそうになるが、それもフル無視してひっつき虫をする。

 

「めずらしーこともあるもんだね…アレ?」

 

 急に、ゼツが声を上げた。暫くうんうん唸ると、「フーン、りょ〜か〜い」と言って、クサビと格闘しているマダラと、マダラにまだ引っ付いておきたいクサビに向かって歩いてくる。どうしたんだろうか、とクサビは泣き腫らして真っ赤になった目元をゼツに向けた。

 

「仲間が地下通路に人間が落ちてきたって言ってるよ。どうする?」

 

「……人間?」

 

 マダラの作った地下通路は、基本的には誰も入れない。地中を潜れるゼツ達と、地下通路へ続く出口のあるこの場所から行くしか方法はない。外へと続く出入口は、外からは滅多なことがない限り見つからないようになっている。

 そんなところに、人間が落ちてきた。どうやってだろうか?クサビは考える。じい様のことに勘づいた―――有り得るはずがないが―――木ノ葉隠れの里の追い忍?それとも、何かを嗅ぎつけた他の里の忍者か。

 

「木ノ葉の忍みたい。それに…うちは一族っぽいよ」

 

 ゼツの話を聞くことに意識を割いたクサビの隙をつき、マダラはクサビをひっぺがした。そのままマダラはクサビを床にほっぽり出すと、ゼツに顎で指示を出す。

 

()()を連れて、その人間を拾ってこい。死んでいれば、そのままでも構わんが…生きていれば、連れ帰れ」

 

「ハァイ……ほらクサビ!行くよ!!」

 

 

 

 

 ゼツに引きづられながら、クサビは地下通路に連れてこられた。幻術世界でも嗅いだことのある、青々とした土の匂いが充満している。そして、少しだけの鉄の匂い。

 案内された通路には、大岩が落ちてきていた。どこかの岩山が崩れたりしたのだろうか、道の大部分を塞ぐようにして鎮座している。

 そしてその大岩の横には、オレンジと青色の服を着た、木ノ葉の額当てをつけた少年。その半身は、この崖崩れのようなものに潰されたのか、血で真っ赤に染まっている。鉄の匂いの元は、きっとこの人間だとクサビは当たりをつけた。

 

 クサビは足音も無くそっと近づきしゃがみこみ、少年の形の良い口元に手を置いた。か細いが、まだ生暖かい息を感じる。

 

「あちゃあ……もうこの道、使えないかなぁ。クサビ、ソイツ死んでる?」

 

「ううん…生きてる」

 

「え、生きてんの?」

 

 心臓に耳を当てる。本当に弱々しくだが、少年の心臓はトクトクと動いていた。

 マダラは、生きていれば連れ帰れと言っていた。クサビは自分の服の袖をちぎり、軽く応急処置を施す。出血が多すぎて、この場所では本当に軽くしか治療ができない。この少年の命を助けるためには、急いでマダラの元へと戻るべきだ。

だが、小さなクサビでは、少年の体はとても大きく、抱えて戻れそうもない。

 

「ゼツ、背負って」

 

「えーーー…」

 

「じい様からは、連れて帰ってこいっていう命令だった。早くしないと、この人死ぬよ」

 

 

 

「血で汚れるからヤダなぁ」と言うゼツに、無理やり少年を背負わせ、急いでクサビはマダラの元へと戻った。少年が倒れていた場所から、いつも根城にしている外道魔像の部屋へは思ったよりも距離があり、急いで帰ったせいで乱れた息を整えた。

 

「じい様、生きてたよ…この人。どうするの?」

 

「……」

 

 血に汚れた服の背中には、うちは一族の証であるうちはの家紋が縫われている。短く整えられた黒い髪も、クサビたちと同じようにうちはの特徴の一つだ。

 

「手当をしてやれ……ああ、それから…」

 

 

 

マダラの口から、クサビには信じられない言葉が飛び出した。荒い息もそのままに、クサビはマダラへと食ってかかる

 

 

 

 

「でもじい様、それは……!!」

 

 

 

「黙れ」

 

 低い声に、クサビの肩が震える。動きを止めたクサビの足元に、少年を回収したゼツとは別の個体が現れる。その手には、古ぼけた文字の書かれた、風化寸前の紙。

 クサビの顔が強ばる。マダラの命令は、クサビにとっては絶対だった。だが、できない、やりたくないことももちろんある。

クサビがいつも寝ている、真っ白なベッドの上に寝転ばせられた少年は、このままクサビが手当をしなければ死んでしまうだろう。クサビには、少年の潰れた右側の顔が、嫌にきらきら光って見えた。

 

 

 やるしかない。死んでしまうよりはマシだと、受け入れてもらうしかない。ごくりと固唾と、体の中心からせり上がってくる何かを飲み込んで、手元にあるそれを、クサビはもう一度グチャリと握った。

 クサビは意を決して、少年の()へと手を入れ込む。生命の温かみと、グチャグチャとした感覚が気持ち悪い。吐きそうになるのを抑えながら、処置を続けていく。

 

「……あ」

 

 弱々しく鼓動する心臓が、クサビにとってとても愛おしかった。

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 聞こえるわけもないのに、クサビは祈るように呟いた。

 

 

 

 





正直1話はあとで書き直そうと思ってます。オビトの誕生日に間に合わせたくて…
あとクサビちゃんも例に漏れずメンヘラにしていきます。
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