ゼツ達は変なところで紳士だと思うんスよ。
―――――呻き声が、聞こえる。
「……ァ」
地下通路にて死にかけていた謎の少年ーー額当てから、きっと木ノ葉の忍だとクサビは当たりをつけたーーを拾って2ヶ月、少年は眠ったままだった。
クサビはこの2ヶ月、いままで自分の眠っていたはずのベッドで眠る年上の少年の顔を見つめ、水を満足に使えないがためにゴワゴワしている髪を撫でたりして、マダラ以外の初めて触れる
少年が着ていた、青とオレンジを基調とした服はもうボロボロで、血が固まって使い物にならなくなっていた。この空間では水も貴重で、ずっと着ることもできない鉄臭い匂いを発したままの服を置いておく訳にもいかず、仕方がなくクサビが火遁で灰にしてしまった。
燃やした服の裏には、うちはの家紋が刺繍されていた。クサビやマダラと同じ、木ノ葉隠れに住むうちは一族の一員なのだろう。
「……ここ…は………?」
マダラはもう少年が起きると分かっていたのか、クサビにとっては珍しく、立ち上がってベッドの近くで少年の様子を見ていた。
クサビはというと、いくらマダラが杖―――仮だが―――を持っているとはいえ、マダラは後期高齢者。マダラが動き回る手伝いをするために、マダラの横でマダラの体を支えている。
「あの世との狭間だ…うちはの者よ……」
クサビは「たしかに」と納得した。
本当なら死んでいてもおかしくない人間が3人と、故人の細胞を培養して造られた人造人間しかいないこの場所は、確かにあの世とこの世の狭間と言えるかもしれない。
「身体に違和感は…もちろんあるか。
マダラのそばにいるとは言っても、マダラは老人扱いされることを嫌う。さりげなくもすぐに手伝えるよう、クサビは少年が頭を置く枕が置かれた上から、腹を支点として足を地面から浮かせた。
マダラはクサビの知る限り、写輪眼のままで生活している。常在戦場として、写輪眼が鈍らないようにしているとクサビは聞かされている。
クサビも写輪眼を常に発動させておけとマダラに言われてはいるものの、そもそもの写輪眼が発動していない。少年を見下ろすクサビの瞳は、黒曜石のように鈍い輝きを放つだけだった。
うちは一族しか持ちえない瞳に気がついたのか、少年は驚愕を露にする。
「その眼…!まさか、じいちゃんに、隣のちっちぇ子も、うちはの…?」
「さあ…どうだろうな」
少年は辺りをキョロキョロと見回して、ここがどんな場所なのかを確認している。目が覚めると、よく知らない怪しげなおじいちゃんがいたら、クサビだってこんな反応をしていただろう。
「あの世との狭間って言ったよな…どこなんだここ……?暗くてよく見えねーし…それにじいちゃん達…一体誰なんだ?」
少年は、クサビの想定よりも元気そうだった。声を出していなかった―――唸ったりはしていた―――から、てっきり言葉を出しにくいかと思っていたが、流暢に喋っている。これも柱間細胞の治癒力のおかげか、柱間細胞はすごい。
「ヘッ!もしかして、死神じゃねーよな…?天国が地獄に連れてくって言うアノ……」
クサビには、死神というのがなにかは分からなかった。だが少年は、今マダラが杖代わりとして使っている大鎌を見て、途端に怯え始める。ジタバタともがいていて、急に片腕と片足が無くなったにしては、とても良く動けている。
少年の頭上を陣取るクサビの顎に少年の短髪が当たり、チクチクとした感触に身を捩った。危険を感じたクサビは、トテトテとマダラの元へと歩く。
「イ゛ヤーー!!!まだ死にたくないよォ〜〜!!!助けで〜〜!!!」
「落ち着かないと、傷口が開くよ」
善意からの言葉も、今の少年には届かなかった。パニック状態に陥っている少年は、ブンブンと唯一動く頭を振り回して、自分が死んでしまっているのではないかと心配を口にしている。
「鎌とかチラって見えたし〜〜!!!ぜってー死神だよォ〜〜!!うちは専門の死神だよォ〜!!!!」
そんなに動いたら、傷口が開いて柱間のじい様細胞が取れる。せっかく助けたのに、自滅されては寝覚めが悪い。
「死んじゃったらどうしよう」かと思う不安がクサビの顔に滲み出たのか、落ち着けと言うようにマダラに頭を撫でられた。
「オレ…!!オレ、困ってるお年寄りを助けるのをモットーに生きてきました!!確かに悪さもかなりやったし、決まりを破ってばかりだったけど…差し引きイーブンってことはないと思いますっ!どーか地獄だけは!!」
本当に元気が良すぎる。
クサビの脳内には、少年の顔がくっついた魚が思い浮かんでいた。
ゼツ達から外の話を聞く時、マダラから何か言われているのか、大抵は人間以外の動物や植物の話をされる。
鳥、鹿、たんぽぽ、ワニなど、クサビの知識量の中で少年の元気の良さに当てはまる動物は、魚だった。
水を得た魚のよう、ということわざを思い出して、クサビの脳内で少年の顔面を取り付けられた人面魚が、パクパクと口を動かす。
「痛みを感じるということは、まだ生きているということだ」
「あんまり動かない方がいいって、ずっと言ってる。寝ておいた方が身のためだよ」
「しかし、助かったのは奇跡と言っていい。よく岩に潰されなかったものだ。まるで岩をすり抜けたとしか思えんほどだ……」
血みどろで悲惨だった、少年が落ちてきていた場所をクサビは思い出す。たしかに大きな岩がゴロゴロとあるなか、右半身を潰されただけで済んでいるのは奇跡に等しい。
クサビでさえ、柱間細胞による生命力のブーストがあるとは言えども、生き残るのは難しいだろう。それだけ、少年の中に
少年はまだ記憶が混濁でもしているのか、右側に残った片目を生身の左手でおさえ、思案する。
「オレ…どこにいたんだ?」
「じい様の作った地下通路に倒れてたの。ぐしゃぐしゃの岩の横で、虫の息だった」
「と言っても、身体の半分はほぼ潰れてしまっていた。一応手当はしておいてやったが…」
私が主に手当をしてあげましたけどね。功績を誇るように、クサビはしたり顔でまな板に似た胸を張った。
「じいちゃん達が助けてくれたのか……ありがとう」
望んでいた言葉とは違った言葉だったが、温かい言葉をかけられた。硬い表情を綻ばせて、クサビに笑顔を向けてくる少年に、クサビの脈拍が早くなる。
マダラ以外の初めて見る人間に、自分が滅多に掛けられない言葉を投げかけられたからか、顔に一気に熱が集まった。居心地が悪く感じて、クサビは思わずマダラの足元へと隠れてしまう。
ジロリとマダラに横目で睨まれたクサビは、マダラの視線に気づきながらも袖を離すことはしなかった。
「礼を言うのはまだ早い…。その分の恩は、しっかり返してもらうつもりだ。年寄りを助けるのがお前のモットーなのだろう?」
「それはまぁ、そうなんだけど……。じゃ、何をすりゃいいんだ?」
少年は杖を着くマダラのことを、上から下までじっくりと見た。白くなった艶のない髪、頬の痩けた生気のない顔、袖から覗く皺まみれの手。少年の記憶にある木ノ葉隠れの里でも、ここまで歳を食ったじじいはいなかった。
そしてもう一人。陶器よりも白い肌、手入れのされていない長く黒い髪、自分よりも何倍も小さな体。
明らかにちっちゃな女の子と、見るからに老人。少年は考える。
女の子とじじいだろ…?ここ真っ暗だしなんも見えねぇけど、埃っぽい感じはしねぇ。掃除は行き届いてるし、じいちゃんとチビッ子が着てる服もボロくはない。それなら、オレにしかできないこと…。ちいせぇ女の子には、あんましやらせたくねぇ事か…。
「下の、世話とか……?」
「……それもいい」
クサビは「じい様のおトイレか…」と小さく呟くと、黙りこくってどうやってマダラのトイレ事情について考える。
魔像に根を繋げているマダラは、クサビと違って食事を必要としていない。
といっても、クサビが食べているものといえば、小さく1日分の栄養を丸ごと取れる兵糧丸ばかり食べている。これを少年が聞けば、ひっくり返って無理やりにでも美味しいご飯に舌鼓を打たせることだろう。
じい様は本当に何も食べない。だから出しているところも見た事ないので、おトイレのお手伝いは必要ないんだろう。ちょっと面白い。
「フヘヘ……」
漏れた笑い声が聞こえてしまったのか、クサビの頭上から感じる視線がさらに鋭くなった。慌てて口を手で塞ぐも、きっともう遅い。後で淡々とお叱りを受けてしまうだろうか。
「悪いけど、ずっとここには居られねーよ!生きてるって分かったんなら、オレは木の葉に帰る!今は戦争中だ。写輪眼もやっと開眼したし、これで今度は、もっと仲間を守れる!」
仲間。この人には、自分を守ることよりも大切な人が、たくさんいるのか。少し羨ましいと感じた。
ゼツ達はたくさんいるので代わりはいくらでもいるし、個では無く群として活動している。じい様は私に守ってもらわなくてもピンピンしている。
クサビには、縁遠い話だった。
「もっと仲間を守る、か……」
「何だよ……?」
「…その体、もう忍者としてやっていくのは難しいんじゃない?」
忍の世界というものは、簡単では無い。下忍はともかく、中忍や上忍、暗部にまでなれば、命のやり取りは日常になるだろう。
片足と片腕の無い身体では、忍として必須である忍術を扱うこと――クサビは知らぬ事ではあるが、世の中には忍術を一切使わない忍も存在する――も、ましてや歩くこともままならない。
そんな身体じゃ、役にも立てないまま死んでしまうことだろう。
「イヤイヤイヤ!!まだ子供だから分からねぇのかもしれねぇけどさ!やっと…やっとこの眼を手に入れたんだ!今ならもっとコンビネーションもうまくいける自信があるし、今度こそ、仲間を守れる忍にオレが」
受け入れたくない現実に、少年は早口で理想をまくし立てる。この眼というのは、2つの巴が浮かぶ写輪眼の事だろう。そこへ、マダラが口を挟んだ。
「現実を見ろ…。この世は、思い通りにはいかぬことばかりだ。長く生きれば生きるほど、現実は、苦しみと痛みと、空しさだけが漂っていことに気付く……」
「いいか、この世の全てにおいて、光が当たるところには必ず影がある。勝者という概念がある以上、敗者は同じくして存在する。平和を保ちたいとする利己的な意思が戦争を引き起こし、愛を守るために憎しみが生まれる」
「これらは因果関係にあり、切り離すことができん。本来はな…」
マダラは、クサビが今存在している世界のことが嫌いだと、クサビは思っている。人が憎み合い、人が争い合うこの世界のことを、新しくしたいと言っていた。
クサビがベッドの方へと視線を向けると、少年はいかにも「老人の難しくて長い話が始まったよ」とでも言いたげに、げんなりした顔をしている。
「…で、ここはどのへんなんだ?」
少年がまだ完治していない体のまま、急かすように自分の居ているこの地下空間のことを聞いてくる。
この人は木の葉の里に早く帰って、仲間に会いに行きたいんだろう。もっとゆっくりして行けばいいのに。ゼツ以外の人と長く喋るという経験が無いから、一緒に話をして欲しい。外の、その守りたい仲間の話も聞かせて欲しい。
そんな欲望を胸にしまって、クサビは「私にも分かんないの。じい様は教えてくれないだろうし、分かるのは出払ってるから…」と少年に伝える。
「ハァ?おかしいだろ。ここから出たことくらいあるなら、場所くらい…」
「出たことないから、私」
「ハ!?だからそんなに真っ白なのか!?!?」
少年はブツブツと、クサビには聞こえないような声量で考えを口にする。
が、元々の声が大きいのか、クサビにまで丸聞こえだった。クサビの聞き取れた範囲まででは、「やっべぇじいさんに捕まったんじゃねーのか、オレ……」と言っていた。
もしもこの少年がここから離れることになったら、少年はどうなるんだろうか。この少年は、クサビからしてみれば未確認生物にも等しい。もっと仲良くなりたいと思ったことは、クサビにとって初めてだった。
だが、
「お前が傷ついたからこそ、代わりに助かったものがいる……。違うか?」
マダラの言葉を聞いた少年は、ハッとした顔をして柔らかくなった顔をまた固くする。笑ってくれなくて、クサビは心底残念だと思った。
「さっきからるっせーよ!!オレはこんなとこに長居はしたくねーんだ!さっさとーーーぐっ…!」
「動いちゃダメだってば!」
ずっと大声を出して、無理やり身体を動かそうとしているからだろう。ツギハギにされた部分が痛むのも無理はない。普段は出さない大声を出したからか、クサビは軽く咳き込む。
クサビにとっても衝撃の事実だった。こんなに大きな声を出したこともなかったし、咄嗟に、反射的に出てしまった声だった。
「出て行きたければ出て行くといい…動ければ、の話だがな。…クサビ」
「ゴホッ……はい、じい様」
クサビはマダラの言いたいことを汲み取り、マダラの身体を支えながら、隣を一緒に歩く。
前よりも、じい様の身体はさらに衰えているように感じる。手を添えている身体も、こころなしかやせ細っている気がする。
枯れ枝と似た腕を掴み、杖を着いた腕に、クサビは自分の小さな手を添えた。
「じじい、てめェ…抜け忍だな。それにそっちのチビ……何者だ!?」
今までの会話と部屋の様子を見て、少年はマダラに吠える。うちは一族の居住区でも、木ノ葉の中でも、こんな老齢の忍は見たこともない。そきて、その隣にいるうちはの少女も見たことはなかった。
「オレは………うちはの亡霊」
コトリ、と軽い音で鎌を置いたマダラは木で作った硬い椅子に座り、ベッドから動けない少年に向き直る。少年は、暗闇に目が慣れてきたのか、クサビとマダラの後ろにある巨大な何かに視線を向けた。
「うちはマダラだ」
「マダラって…オレの御先祖の、うちはマダラか……!?マダラなら、とっくに死んでなきゃおかしいだろ!!いつの時代の話だよ!?」
クサビがゼツ達から聞いた話の通り、マダラの外での知名度は時が経ったとしても、大きなもののようだ。
子孫…というよりも、同じ一族で語られ続けているような言い方。伝説的忍なのは間違いないことがこれで分かった。
いままでクサビは信用していなかったゼツ達の面白半分な話を、少し見直した瞬間だった。
「お前にとって、オレは死神の方がまだ信憑性があるか?…そうだな、ある意味死神かもな……」
「この現実こそ………地獄だ」
「産まれる前に死ぬ赤子、1人では何も出来ない子供…満足に生きることのできなかった子というのは、とてもじゃないが見てられんだろう……」
力の無い、シワだらけの細い腕に、クサビのハリネズミのような髪がまとわりつく。冷たく死体同然の体温が、髪の毛越しにクサビへと伝わった。
じい様は、頭を撫でるのが上手い。歳のせいか開ききっていない手のひらに、クサビは自分から頭を擦り付ける。
「確かに、オレは後ろの魔像からチャクラを常に供給し続けなければあっという間に死んでしまう、死に損ないだがな……」
じい様が長生きなのは、大量のチャクラ供給があるからという理由だったのか。クサビは初耳だった。
自分が思っているより、じい様には何も知らされていないのかも。でも大人というのはズルいから、「キミみたいなガキンチョにはなんにも教えてくれないよ」とゼツが言っていたので、クサビより歳上なこの少年には教えているんだろう。
「オレは帰る!」
少年は右半身と比べれば、まだ自由の効く左半身を使って、死にかけている芋虫のようにベッドを這った。
「そんな体で動けるわけない」と、口には出さないが、這いずり回る少年をクサビは見つめる。あ、ベッドから落ちた。
「ぐあっ!」
「…ほんとに、死んじゃうって言ってるでしょ」
思わず駆け寄って、状態を確認する。クサビは自分でも、どうして少年に駆け寄ったのか分かっていなかった。
少年は顎を思い切りぶつけていたので、顔を無理やり持ち上げた。血は出ていない。無理して動いているから息切れが激しいだけで、新しい傷はついていなさそうだ。
クサビはぶつけて赤くなっている少年の顎に、地下空間という環境のせいか、人造の冷えた自分の手のひらをあてた。少しでも痛みが早く引けばいいな、という気持ちからだったが、少年から見れば正体不明の子供に、急所である首元をさらけ出していることと同じ。
少年の強ばった体を無視して、クサビは赤みを引かせるために手を当て続けた。
「やめておけ…。ここに出口はない。なによりもお前もオレ達も、ここより出ることはできん。…オレのこの身体ではな」
痛みに呻きながらも、少年は這うことをやめない。自分の身体より、その木の葉にいる仲間がよっぽど大事らしい。そんなにこの人に大事にされている人達が、と考えるモヤモヤする。何でだろうか。クサビには分からなかった。
「動くと折角くっつけた柱間の人造体がハガレる…死にたいのか?」
何とかして―――クサビが―――くっつけた接合部が、ミチミチと鳴らしてはいけない音をたてている。激痛が走っているはずなのに、それでも尚動こうとする身体をクサビは馬乗りになって押さえ付けた。とは言っても、クサビの成長途中の身体だと、ほんの少しの重さが加わるだけだ。
「ほんとに死んじゃうから…動かないで」
「離してくれ…!オレは、木の葉に帰らなきゃなんねぇんだ!」
「お前には今後、クサビと共にやってもらいたいことがある…オレと一生な。せっかく助けたのだ…死に急ぐな」
「何が望みだ!?アンタみたいなクソじじいが、こんなガキとチビ捕まえて、なにしよってんだァ!?」
「…この世の因果を断ち切る」
「勝者だけの世界、平和だけの世界、愛だけの世界。それらだけの世界を造る」
負けた者は奪われ続ける。奪われ続けた先には平和が無くなる。平和が無くなれば、愛が消えていく。戦いという因果がある限り、人は何もかもを失う。クサビは、そういったマダラの理想を実現するために、いままで修行に明け暮れていた。
「…知るかよ、そんなのっ……!オレはただ、皆の所へ…帰りたいだけだ!」
「じい様が言ってたでしょ。ここじゃ…なんでも思い通りになるわけじゃない」
「お前もいずれ気づくことになる…。勝手に死ぬならそれでもいいが、代わりに写輪眼はいただくぞ」
「なんで眼を欲しがる!?じじいはもう写輪眼を持ってんだろ!!」
少年の言葉を聞き、マダラは顔にかかる長い白髪を手で持ち上げた。隠されていた右眼には、本来あるべきはずの瞳はなく、ポッカリと空いた眼窩が見えるだけだった。
「イヤ…オレ本来の眼は他の者に預けてあってな。この眼はその後移植した余りモノだ。それにクサビは無茶をする……もう少しストックがあってもいい」
え、そんな風に思われてたのか私は。じい様からの信用がない事が発覚してしまった。確かに手と足はハガレても「どうせくっつくし」って思って特攻上等で突っ込むけど、うちは一族にとって、命の次くらいに大切な眼を、そんなバカスカ無くしそうだと…そう思われている?クサビはちょっとへこんだ。
マダラも本来はそこまでの馬鹿をするとは思っていないが、ストックというものはあるだけ良い。そういった考えからの発言だったのだが、クサビには伝わらなかった。
「右目がまだ入っていなくてな…写輪眼は、左右揃って本来の力を発揮するものだ。だが、その体ではまだろくに動けん。クサビ、寝床に戻しておけ」
「はい、じい様。動かすから、じっとしててね」
馬乗りになっていた身体から降りて、クサビより3回りほど大きな身体を、チャクラで強化した力でゆっくり持ち上げた。
今のボロボロの少年の身体にこれ以上負担がかかると、無理に動こうとしたダメージの蓄積でくっつけた半身が取れてしまう。クサビは少年を慎重に横抱きにした。
「ぐっぅ…お前は、なんであんなじじいに付き従ってんだよ…!外とか、出てぇと思ったことねぇのか!?」
「私がもっと大きくなったら、嫌でも出ていくことになるって言われてるの。だから、今は我慢」
そっとベッドへと抱いた身体を降ろす。このお兄さんは、私の言っていることが分からないみたいだ。私よりも大人なのに。
少年には、クサビの考えていることがずっと分からなかった。眉ひとつ動かさない能面のような表情は、その心の内を外部へとさらけ出さない。自分がこの少女の歳の頃は、もっと馬鹿なことばかりしていた。
心配だった。もっとはしゃいで、もっと気楽に生きて、笑っているべき子供が、こんな薄暗い場所にいるだなんて。
「おかしいだろ、そんなの…お前みたいなチビは、もっと外で遊んで、寝て、なんにも考えないで暮らしてるはずだ!なのにあのじじいは、こんな暗いところにお前を閉じ込めて、よく分からねぇことをやらせるって言ってんじゃねぇか!なんにも思わねぇのかよ!」
「思わないよ」
ピシャリと、周りの音が全て止まる。赤ん坊の頃からここにいて、ずっとマダラのじい様との修行を続けて。これがクサビの普通だった。
おかしいなんて、思ったこともない。
少年が息を飲むのが、クサビには聞こえた。これ以上この話を続けていても、お兄さんの身体の負担になるだけだ。そう判断したクサビは、ずっと聞き忘れていたことを聞こうと、口を開いた。
「…私、うちはクサビ。お兄さんは?」
「あ…?」
「名前だよ、名前。名前が無いの?」
「……うちは、オビト」
少年―――うちはオビトは、木ノ葉隠れの里の忍だった。
仲間を守り、岩に押しつぶされたオビトは、死んだはずだった。
死んだはずだったのに、薄暗くジメジメした、こんな場所で、わけも分からず同じような死んだはずの爺から、訳の分からない話をされる。そして今、自分の目の前で笑う浮世離れした少女は、この場所から出たことが無い。
クサビはうっそりと笑い、理解が追いついていないオビトの左手を握った。
じい様とゼツ以外では、初めてできた人間の知り合い。
その人の名前は、私の中ではいちばん綺麗な名前だと思う。二つ巴の赤い瞳と、黒い瞳が交わった。
「これからちょっとの間、よろしくね」
正直1番色気あるオビトはリンが死んで暴走している時のオビト。