あなたに続きを歩いて欲しいから   作:\︎☝︎☻︎☝︎/

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グルグルって多分オビト用に調整された個体ですよね???
色んなこと見越して作られてるって絶対。




夢のような日々

 

 

 

 ジャラリ、とクサビの手首に付けられた鎖が音を立てる。

 重い鎖を引きずりながら、クサビは紙のように白い足へとチャクラを込め、自分よりも数十倍、もしかしたら百倍以上の高さがあるかもしれない外道魔像の側面へと足を掛けた。

 

 

 木に似た材質を足に感じながら、クサビは魔像の側面を上へ上へと駆けずり回る。

 ココ最近で、クサビが新しくマダラに修行として課せられた日課だった。鎖を扱う時の重みになれることと、物理的に体重を重くすることで体力をさらに消耗させることを目的として鎖をつけられている。

 

 

 

―――つまり、もっとキツイ修行をやれと言われてしまった。

 

 

「ハァッ、ハァッ、お、重い……」

 

 一般人なら1歩も動けないであろう重みを支えるために、クサビは腕にもチャクラを込めて身体を強化している。鎖を引き摺る腕、壁に張り付くための足とで、用途の違うチャクラの込め方をしなければいけないために、チャクラをコントロールすることが難しかった。

 肌が白いせいで頭に血が上ると、クサビの顔は真っ赤に染まる。汗をかくようなことをした後は、ゼツ達から「トマトみたァい」と―――クサビはトマトを知らない―――言われるくらいには、赤色に頬が染まる。

 

「ゼェッ!!おも、重すぎる、腕がちぎれる………!!」

 

 何メートルあるかは知らないが、少なくとも5メートルくらいはあるんじゃなかろうか、この鎖。そして全て鉄製である。

 ブツブツと独り言を言いながら、魔像の肩あたりまで駆け上がったクサビの速度も、重みと集中力の欠如により落ち込んできた。

 クサビは「フンッ……!!」と言いながら、一歩ずつ着実に足を進める。顔は紅色、腕はプルプルと震え、足は時たま片足だけチャクラのコントロール不足により滑る。顔のパーツ全てを中心に寄らせ、必死にクサビは歩みを進めた。

 

 

「ダァッ!!!」

 

 気合いに一声、魔像の頭の端へと手を掛けた。そのままの勢いで足も魔像の頭の上へと乗せ、ローリングしながら頂上へと登る。

 

「ハッ!ハッ!ハッ!⋯⋯⋯しっんどぃ」

 

 今までも、クサビがマダラに「やれ」と言われやってきた修行もしんどかった。

 外道魔像に()を繋げたままならば、ある程度は強化されるゼツ達を相手に素手での百人組手―――ゼツ達は木遁の行使も可能とする―――、マダラがそこら辺から取ってきた岩を拳の一突きで殴り砕く、などである。

 クサビはしっかりとそれらをこなした。百人組手では最後の方など記憶が無いし―――ゼツ曰く「いやー必死すぎて怖いよね。母熊って感じだった。子供が近くにいる時の」ということである。なおクサビは熊を知らない―――、岩を砕くためにチャクラコントロールによる怪力と、基礎である筋力トレーニングを死ぬほどした。手の皮はめくれて、年頃の少女とは思えないような手のひらではあったが、クサビには些細な問題だった。

 

 そんな苦行をしているクサビからしても、この外道魔像上りはキツかった。百人組手も岩砕きも、1回やってしまえばそれで終わりだったのだが、この作業は違う。()()である。

 

 

 ヒィヒィ言いながら深呼吸をして、額の汗を拭う。滝の如く流れる汗と、顔に集まった熱を汗を拭った腕に感じながら、クサビは寝転んでゴツゴツとした岩の天井をぼうっと見つめた。

 

「あつ…⋯⋯」

 

 血が通っていないお陰で、ヒンヤリとした白い手を丸みのある頬へと当てる。気持ちが良い。心做しか、赤みも引いた気がする。

 

「アレェ?クサビは?」

 

「さっきめっちゃデカい声でなんか喋ってたし、どっかにはいるでしょ」

 

 岩肌に反響するようにして、歯の抜けたような間抜けな声―――クサビの主観だと―――がクサビの耳に届く。

 ひょっこりと魔像の頭から顔を出し、声の聞こえた方―――包帯でぐるぐる巻きにされたオビトと、真っ白人間が2人いる地面へと視線を向けた。

 

 

「ここへ来て…どのくらい経つんだ?もうずいぶん居る気がする」

 

 ゴロリと―――元はクサビの―――ベッドに横になるオビトには、オビトをこの場所に保護した時よりも、しっかりとした左足が生えていた。

 

 オビトの半身は未だ回復せず、満足には動けない。なのでこの地下空間にオビトが来てからしばらくが経つが、時間があればクサビによってオビトは寝かしつけられている―――オビト本人は「()()が、目ェ離したらやらかしちまう()()()を!!!寝かしつけてんだ!!!」と供述している―――。

 

 ちなみにオビトが来てからのクサビのやらかしとは、よくわからん所でありえない怪我をしてくることである。

 足が短く、あまり感覚が鮮明だとは言えないクサビは何も無いところでズッコケたりする。それから1度だけだが、前には外道魔像に登っている時に足を踏み外し、頭から落ちた―――これにはさすがにゼツの助け舟が入った―――ことだってある。

 それからオビトはクサビに対して過保護に―――というか、一般的な感性を持つオビトからすれば、普通の心配が大きくなった。

 

―――――閑話休題。

 

 クサビは両手で頬を叩き、ギュッと目を瞑る。パチリと小さく音が鳴り、目を丸く開くと、()()()を見据えた。

 

 

「えいっ」

 

 気の抜けた、可愛らしく甲高い声が魔像の上で木霊する。軽くジャンプして、クサビは外道魔像の頭から飛び降りた。

 これくらいの高さなら、鎖がついてても着地できるはずだ。多分、きっと。クサビに確証は無かったが、自信だけならあった。

 お腹の中の物がふわりと浮き上がって、高いところから急に落ちた時特有の感覚がする。楽しい。

 

 石壁と鎖がぶつかり合い、とてもじゃないが鳴ってはいけない音が、クサビの落ちる軌道上で鳴っている。

 軽い足音でクサビは床に着地する。その後ろでは、クサビの周りを取り囲むようにして鎖が落ちてきていた。ジャラララッと連鎖するようにして鳴り響く鉄の音が想定よりも大きく、クサビはひとり心の中で「じい様にうるさくするなって怒られたらどうしよう」と呟いた。

 オビトは急に上から落ちてきたクサビと、地下室一面に跳ね返る轟音に驚いたようで、大きく肩を揺らしている。

 

 

「うおおお!?!?」

 

「……おはよう、オビト」

 

 横目で見た床のヒビを見なかったことにして、クサビは自分の服に着いたホコリを払うと、オビトの横たわるベッドに舞った土を、手で軽くはたいた。

 その横顔は、先程冷たい手で冷やされて赤みが引いたはずの顔よりも、ほんのりピンクに色づいている。クサビはオビトに見られないよう、自然に顔を伏せた。

 

 目を白黒させるオビトは、「親方、空から女の子が!」とは桁違いのスピードで落ちてきたクサビに、「いや、おま、おま…足とか、え!?」と混乱している。

 ベッドの脇にいたゼツ達は、巻き上がった土埃に口をへの字に―――約1名に口は無いが―――曲げながら、手を横に動かして顔から遠ざけていた。

 

「ボクらの心配は?」

 

「…? いらないでしょ?」

 

 下ではオビトとゼツともうひとりのゼツーーオビトが言うにはグルグルなので、クサビも最近はグルグルと呼んでいるーーが、雑談をしていたようだった。オビトと自分たちだけ喋って、私は呼んでくれないなんてずるい。

 ぷくりとこれ見よがしに頬を膨らませたクサビに、何故かクネクネしながらグルグルが近づく。ハリセンボンに似た顔になったクサビを、グルグルが頬に指を突き刺した。

 口から空気の吹き出る音がして、「なに…?」とクサビはグルグルの手を振り払った。「あ〜ん、釣れなあ〜い!!」と内股になり大声を出すグルグルは、オビトから「うっせぇよ!」」と言われてしまい、さらに身を縮こませた。

 

「なんの話をしてたの?」

 

「あ、食費のいる子いたね。クサビはご飯食べないと生きれないよ。手足は人造体だけど」

 

「……なんの話?」

 

 クサビは知らぬ話だが、先程オビトとゼツ達が話していたのは、この地下空間での食費や生活費、家賃について、である。

 クサビは四肢のみが柱間細胞でできており、内蔵は普通の人間と変わらない。内臓があり、食事を必要としている。

 逆にゼツ達はもちろんのこと、オビトの場合では、半身が柱間細胞でできている分、内臓も常人とは変化していた。食事は不要であり、植物のように睡眠を取ることで体力を回復させることができる。

 マダラはというと、その体は外道魔像からのチャクラで成り立っている。魔像からのチャクラを止めなければ生命を維持できるため、食事は必要としていない。

 

(ほんとになんの話だろ……)

 

 話の流れが分からない振り方をしないで欲しい。クサビは眉を顰めて、飛び降りた時に乱れた髪の毛を手ぐしで梳かした。

 オビトがこんな時間に起きてくるとは思ってもいなかったので、汗もだくだく、髪の毛はボサボサ、服も修行によるホコリまみれ。誤魔化すように動く手に目を向けると、腕の内側から気泡がひとつ、か弱く主張をしていた。

 

「…あ」

 

 それに気づいたクサビは眉を下げ、困った顔でゼツとグルグルの方を見る。両方とも呆れたような顔ーー1人は顔がないので雰囲気ーーでクサビの方を見ていた。

 

「腕ヤバいよ」

 

「見なくてもわかる…」

 

 そう言われゼツに指をさされた方を確かめると、両腕が内側から沸騰したように泡立っていた。

 

「ちょ、おまッ………ハァッ!?」

 

「じい様には、ナイショに…」

 

「まただよもー…」

 

「アラー、タイヘン!」

 

 「仕方ないでしょ、なっちゃったんだし…」という前に、クサビの両腕がどろりと溶けていく。

 マダラが言うには、クサビの手足に取り付けてある柱間細胞の強度を抑えているせいで、今のように大きな負荷が急にかかると、このように溶けてしまうらしい。

 昔から新しい修行初めは良くこうなってしまうので、クサビはマダラに「柱間の細胞を無駄にするな」と怒られることが通例だった。

 

 

「ドゥワァッ!?!?えっえっ、何だよそれ!ど、どうしたんだよ、腕が!!」

 

 オビトはまだ、突然人の腕が溶ける、なんて経験を―――あったら驚きだが―――したことがなかったからか、新鮮な反応だった。それに比べてゼツ達は、呑気に「新しい腕造らないとねー」なんて話している。

 

 ワタワタと焦って動くオビトに、クサビはどうすればいいか考える。

 「ほっとけば直るよ」? ちょっと突き放したような言い方になって、あまり良くない気がする。

 「心配しなくても大丈夫」? オビトに心配されるのは、正直嬉しかった。

 

 ヘラりと笑って、クサビは思考を巡らせた結果を言葉にする。

 

「私もね、オビトとお揃いだよ」

 

 腕が溶けてしまったせいで、床に落ちた鎖が鈍い音を立てる。無くなった腕の付け根を軽く振って、へへへと笑ってみせた。

 オビトは顎が外れてしまうのではないかという程に口を開けると、その形の良い眉毛をピクピクと震わせた。

 

「お揃いって、お前…」

 

 このままだとお説教が始まってしまう。そう感じ取ったクサビは、オビトを混乱させる―――黙らせるべく、ふにゃりとした笑顔を浮かべたまま、ペラペラと言葉を並べた。

 

「オビトもたまになっちゃうかもしれないよ」

 

「オレも!?!?」

 

 オビトに使った細胞は生命維持の役割も果たしているので、クサビに移植されている柱間細胞より、数段強度の強いものを使っている。だが、適合し損ねる、無茶をするなどをすれば、今のクサビのように溶けてしまうだろう。

 

 

 驚くオビトは、いつもこんな風にしてクサビに()()()()()()()()。踏み込むべき場所と、そうでない場所の線引きがオビトはうまかった。

 力無く笑うクサビを見て、オビトはジトりと目を細めながらも少々乱暴にクサビの頭を撫でた。せっかく手櫛で整えた髪の毛を乱されたからか、クサビは「ワーッ!」と撫でられながらも抗議の声を上げる。

 

「反省しろ!は・ん・せ・い!!」

 

「クサビ〜、持ってきたよ」

 

 いつの間にか離れていたゼツとグルグルが、小さな腕を片手に持ちながら近づいてくる。

 ブツブツと文句を言いながらも、どこか嬉しげに顔を緩ませたクサビはまた、自分の長く黒い髪を手で梳かす。そしてゼツの方へと向かい、溶けた腕の断面をゼツに差し出した。

 

 

「ありがと」

 

 はい、と軽く人造体の腕を持ってくると、ゼツによって柱間細胞と自分本来の腕の裂け目へくっつけられる。それを見たグルグルが、「じゃ、くっつけますねー」と言って留め具を付けた。

 この場所に来たばかりの頃のオビトにもつけられていた黒い留め具が、クサビの白い柔肌にキツく食い込む。

 

「いっ……!」

 

 一瞬の痛みに耐えるため、顔に力が入った。挟まれた肉が、ジクジクとした痛みを訴える。

 クサビの痛そうな顔を見て、無理やりにくっ付けられた腕をゼツがペチペチと叩いた。

 

「はい我慢。これ痛いってわかってるのに、クサビはなんで毎回こうなるのかなぁ」

 

「まだちっちゃいからじゃない?」

 

「お前ら軽すぎるだろ!!人の腕溶けてんだぞ!!クサビ、大丈夫か!?」

 

 

 ゼツ達は慣れすぎて心配なんて一つもしてくれないけど、オビトは心配してくれる。優しい。

 心臓の近くがあたたかくなって、顔が緩む。ポポポと染まる頬に気づいているのかいないのか、クサビは小さくオビトに向かって「うん」と頷くと、俯いてしまった。

 

「ウワ…罪な男だね」

 

「そッスよねやっぱりそッスよね!?後で根掘り葉掘りですよねアレは」

 

 外野がコソコソとうるさいが、オビトには聞こえていない様子なので、クサビは全てを無視した。心配してくれていることが嬉しくて緩んだ顔を必死に引き締めて、両腕を軽く動かした。

 

「大丈夫。これくらい、慣れてるし痛くないよ」

 

「痛くないはウソだろ!!」

 

 クサビは無意識に目を泳がした。そんなクサビを見てオビトは「ほら痛いんじゃねぇか!!」と言うが、クサビは都合が悪くなるとオビト相手ならば黙る。

 オビトも共に居た期間は短いとはいえ、そういったクサビの()()は受け入れていた。ゼツ相手ならクサビはプンスコと怒るし、マダラ相手に詰められるとクサビは一瞬で白状する。

 溜息をつき、オビトは諦めてベッドへと体重をかけた。

 

 

 手のひらを軽く開けたり握ったりして、腕の接続の感覚を確かめる。

 指の関節も動く、肘もヘッチャラ。うん、問題無し。

 プラプラと腕を動かすクサビに、オビトが手招きをする。動かすことのできる生身の左腕を使って、ベッドの脇へと寄ったクサビの頭へ手を置いた。

 

「お前、チビだし無理するしで心配なんだよ。いいか、腕が溶けるのは一大事だ!いくら治るからって無茶ばっかりしたら、いつか死んじまうかもしれねぇだろ!」

 

「私、足も溶けるよ」

 

「足も一大事に決まってんだろ!!」

 

 ギャーギャーと騒ぐこの声も、いつか木ノ葉にオビトが帰る時が来たら無くなってしまうんだろうか。洗えていないせいでゴワゴワとしているオビトの黒髪が、身振り手振りに合わせて揺れている。

 

「つーか、あのじじいはこんなチビっ子を口先だけのデク人形共にお守りさせておいて、自分はおねむかよ!」

 

「マダラももう歳だからね。それにボクら、クサビの面倒見るのとオビトのリハビリも手伝わなきゃなんないんだよね。君らを起きるまでに使えるようにしておけって命令されてるから…」

 

「ぜってーこんなとこクサビと抜け出して、リンとカカシに会うんだ!!」

 

 最近のオビトは、木ノ葉隠れの里にクサビも連れて帰る気らしかった。「こんなジメジメして辛気臭い場所より、楽しい場所にオレが連れてく」と言って、クサビに『木ノ葉隠れの里プレゼン―――口頭で―――』を繰り返し伝えている。

 

「無理無理…出口無いし、クサビはうちの子だし…」

 

「出口…っていうか、地下通路に行ける道は全部じい様が岩でふさいじゃったから、通路にすら行けなくなっちゃったんだよ」

 

 お陰で修行のできる範囲が狭くなって、走り回る景色が代わり映えのしないものになってしまった。地下通路が解放されていた時ならば、クサビの日課のひとつである筋トレの走り込みは、迷路のように入り組む地下通路内で行われていた。

 どこまでも続きそうな、冷たい石に囲まれた道の中央を走り、壁の端には地面と同化して移動速度を早めたゼツが着いてくる。罠の位置や、たまに岩壁と岩壁の小さな隙間に生えた花について教えてくれる。そんな機会も、今はもう失われてしまった。

 

 これもじい様がしたことなので、仕方がない。そうクサビは結論を出した。初めて見た―――幻術では無く現実で―――大規模な忍術に、マダラが大岩でこの部屋を塞いだ時は大興奮したものだった。

 「じい様スゴい!」「どうやってするの?」「私もじい様みたいにやりたい!!」と移植手術が成功し、眠り続けるオビトの横で大はしゃぎしていた。一喝され、黙らされはしたが、マダラは一声上げただけで、クサビはクドクドと長い説教はされなかった。

 

 

 過去に出入口だったはずの場所に置かれた、天井までに届きそうな大岩を仰ぎ見る。

 この大岩も外道魔像と同じように、クサビの数十倍のサイズを優に超えているだろう。マダラが大岩を動かしていた時のことを見るに、横にも相当分厚い。オビトが一人で岩を壊そうと試みても、ヒビすら入らなさそうな程だ。

 

 でも私なら、あの出口の大岩くらいなら壊せる。

 クサビはたった1度だが、大岩を拳の一撃のみで破壊している。自分が壊した岩よりも、数段硬さも大きさも上。だが、クサビが岩を壊したのも、随分前のことだった。

 日々成長を続けるクサビなら、()()という目標には到達できる。自分の腕は、今のように強い負荷を受けて使い物にならなくなるはずだが、オビトを逃がしてやれる。

 

 けれど、クサビは岩を壊さない。

 

 

 オビトはまだ全快ではない。外の世界では、未だに戦争―――敗者の生まれる、じい様が忌み嫌う行為が続いている。オビトをこのまま木ノ葉に送り返せば、オビトがこの場所に来るキッカケになった時のように、また戦地に送られるかもしれない。

 

 そういって、クサビは自分の内に蔓延る欲に言い訳をして、岩を()()()()()()

 

 

「そもそも前からずっと()()()()()()寝言言ってますけど、外に鈴でも拾いに行きたいんですか?」

 

「たまに“バカバカバカバカ”―――バカカシ…とも言うよね」

 

 眠っていることの方が多いオビトの寝言なら、クサビもほぼ毎日、というように聞いていた。

 よく出てくるのは、()()()()()()……バカは悪口だとこの前ゼツに教えてもらったので、カカシという名前か、カシという名前の人だろうとクサビは当たりをつける。

 このふたりが、オビトが里へ置いてきた大切な仲間というやつだと思う。クサビには分からない、未知の存在だった。

 

 ベッドの脇で、ゼツとグルグルがヒソヒソと会話をしている。

あの2人が揃うと大抵アホみたいなことしか言わないので、絶対に今回もろくな事は聞かない。

クサビは知っている。今まではゼツ1人だけだったからまだ良かったものの、グルグルか増えてからのこのおバカ2人組は、人造人間だからか天性のものなのか、デリカシーに欠けた発言ばかり―――前々からかもしれない―――している。オビトも今までの生活で分かってきたのか、しかめっ面でゼツ達を見ていた。

 

「あの〜、ちょっと質問いいですか?」

 

「あ!?」

 

「あ、ちょっとクサビさんは向こうに行ってもらってですね……」

 

―――――ゴニョゴニョゴニョ。

 

 オビトへと耳打ちで会話を続けるグルグル。けれど、クサビの耳にはしっかりとグルグルの会話が聞こえていた。声がとにかくデカい。ヒソヒソ話とは?

 少なく見積っても、3割4割程の話の内容がクサビの耳に届く。今便意って言ったよね?

 

 

「バカカシじゃねーのかよ!!?うんこにどんだけ興味あんだお前ら!!」

 

「ちょ、声デカイ!しかもなんでそんなに怒ってんの…ここには女の子のクサビもいるから、大きい声でうんことか言ったらクサビの教育に悪いでしょ!そんなにバカカシとリンについて聞いて欲しいんなら、後で聞くよ!」

 

 ゼツが大きい声でうんことか言ったら、もうそれは意味が無いんじゃないか?

だがクサビはもう知っている。ここでクサビが口を出すと、おバカ人造人間2人がうるさくなることを。これまでの教訓を胸に刻み、クサビは口を横一文字に結んだ。

 

「特にそっちのグルグル…お前は嫌!それより、他の白いのどこいった?」

 

「他のゼツ達は外に行ってるよ」

 

「マダラもクサビも君も動けないし、情報収集だね…」

 

「え!!?外出れんのかよお前ら!!」

 

「ボクら、地面の中を移動できるからね」

 

 ゼツが軽くオビトの疑問に答える。オビトはため息をつくと、げんなりした顔をして眉を顰めた。

 

「オレはこんなとこに閉じ込められ…訳分かんねー話をされ…」

 

「うんこの話してスンマセンッス!」

 

「絶対に違うと思う」

 

「そうだよその話じゃねーよ!!マダラの話した方!!」

 

 じい様の話は難しい。概ね同意する。

 クサビがウンウンと深く頷くと、「やっぱクサビも難しいと思うよなぁ!!オレよりちいせぇんだからなおさら!」と1人納得したオビトに撫で回される。マダラに似た、毛量の多い髪がモフモフと揺れた。

 

「ガキに合わせて話すほど人間できてないからマダラ」

 

「……ブフッ」

 

「クサビちゃんマダラの悪口好きッスよね」

 

 そういう訳では無い。断じて。クサビはマダラの悪口が好きな訳ではなく、()()じい様が本人の預かり知らないところで、こんなに言われているのが面白いだけで。

 前にゼツの話でものすごく笑っていたら幻術世界でずっと扱かれたのが怖いから、マダラのじい様が起きてる時は大人しくしているとかじゃないから。畏怖と尊敬の念を持っているだけだから。

 

「インガを切るだのなんだのと…」

 

「マダラのじい様は、この世の中の汚いところや嫌なことを捨てようとしてるの。それで、捨てたいものを捨てるために…いい事しかない、そんな夢の世界に私とじい様ならならみんなを連れて行けるって」

 

「そのクサビが連れてってくれる夢の中に逃げちゃえば、なんだって思い通り…死んだ人だって生きてることにできる」

 

「夢の中…?」

 

 例に挙げるのであれば、小国の人間などが分かりやすい。

 

 自国で保有する土地や人員が少なく、資金繰りも難しい。争いが無くとも、明日を食いつなぐことで精一杯。

 金銭が無く、土地が少ない故に食料も取りづらい。当然流通数が少ない物で需要があるのであれば、その物の値段は高騰する。だが、如何せん金がない。

 こうなってくると、富裕層のみが満足できる食事にありつけ、富裕層から溢れ出た中流、貧民層が困窮してしまう。口減らしや労働者の低年齢化が進む、ということである。

 

 その飢えに苦しむ状態で、マダラの追い求める夢の世界へ行くことができれば、腹を空かせる必要も無く、懐にも余裕があり、余裕が生まれたがために愛される。

 そんな暮らしを夢の中で、永久に享受することが出来る、という算段だ。

 

「幻術ででっかい夢の世界造って、そこに皆で行こう!ってこと…行こうって言うよりは、無理矢理連れてく感じなんだけど……しかも一生ね」

 

「幻術で…?今度はバカバカしすぎて意味がわかんねーよ」

 

「マダラぐらい力があれば、なんだってできるよ…」

 

「ただ、じい様は今弱ってるから何もできないの」

 

「今はそのための色々な準備があんのさ…クサビを拾って育ててんのもそのためだよ」

 

「あっそ…興味ねェーな。ンなことより…オレは絶対、クサビと外へ出るからな!」

 

 

意気揚々と外への渇望を声に出すオビトが、明かりのないはずのこの場所でクサビにはとても眩しく思えた。

 

「じい様の言う幻術は、術者がいるんだよ」

 

―――――太陽の対。

草木が眠って静かになる、夜に出る月。空に浮かぶ満月を見ながら、じい様はお酒を飲むことが好きだったらしい。

全ての人間を幻術世界に招くためには、現実の空に浮かぶ月を利用して、世界中に術に掛ける。どんな忍術だってそうだが、術を発動させるためには術者が必要だ。現実に誰かが残って術を使わなければならない。

 

 

「オビトが私と木ノ葉に行けるような、そんな世界を私が創ってあげる」

 

「ちげーよ!!そんなよく分かんねぇとこでじゃなくて、ここで!!オレと一緒に、木ノ葉に行くんだよ!!」

 

「……そっか」

 

――――クサビは、ただ曖昧に微笑むだけだった。

 

 

 






育児パート(大嘘)



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