あなたに続きを歩いて欲しいから   作:\︎☝︎☻︎☝︎/

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前の最後のセリフをクサビちゃんに言わせたかっただけなので、三代目水影の名前はもう出ません。

もうそろそろストックが無くなるので投稿頻度絶対落ちます。
そして2月は結構忙しい方なのでさらに投稿頻度が落ちます。
ごめんちゃい。




五里霧中

 

 

 

 

「ほう、子供⋯⋯忍か?オレの名を知っているとは…」

 

 

 三代目水影、雪一族の蛍雪。

 

 

 霧隠れの里が、()()()()と呼ばれるようになった由縁を作った忍。

 

 うちはマダラと初代火影・千手柱間が木ノ葉隠れの里を作ったあと、各国に隠れ里が興るようになった。そして初めて開かれた五影会談にて、初代水影の護衛を務めた人物だ。

 だが二代目水影にはならず、実際には鬼灯幻月が二代目水影へと就任。紆余曲折あったのか、秘密主義を貫き通す霧隠れの里から外に情報が漏れ出ることは無く、いつしか鬼灯幻月が死に、三代目水影となった。

 

 

―――――そして、血霧の里の歴史が始まる。

 

(雪一族⋯⋯確か、私達うちはと同じように、血継限界を持つ一族だったはず⋯⋯)

 

 ジリジリと、クサビは後退する。裸足の足の皮が、砂利によって剥がれることなどなく、無機質な白い肌が、黒く大きさのあっていないコートから見え隠れするだけ。

 足と同じように白い腕にチャクラを込め、手のひらの肉が回転しながら、せり上がってくる。細い棒状になった白い肉は、材質を肉から硬いものへと変え、その色を木々とおなじ物へと変えていく。

 

 

―――――挿し木の術。

 そうして作り上げた2本の鋭い木の刃を、クサビはクナイの代わりとして、両手に握りしめた。

 

「人柱力の小娘とお供の野良犬には部下達を向かわせたが…こんな辺境に、貴様のような子供はいないだろう。どこの差し金だ?」

 

「………」

 

 身長はじい様と同じくらい。動きは無し。周りにいる人間は、私と三代目水影以外には人間はいない。

 枝分かれする木を椅子として座る男は、足を組む。周囲について分析するために視線をキョロキョロとさせるクサビを、つまらなさそうに見つめているのだ。

 

「だんまりか…大して答えに期待はしていないがな。今ここで貴様を殺せば⋯⋯⋯他里の者でも、他の組織の者でも⋯関係無くが無くなるだろう?」

 

 気が付けば、辺りには真っ白な霧が立ち込めている。

 霧隠れの忍が得意とする霧隠れの術だ。チャクラを込めれば込めるほど、霧の濃さは強くなる。大量にチャクラが込められているのか、一寸先すら見えないほどに視野が狭まり、目の前にいたはずの男の姿が歪む。軽い幻術という程でもないが、視界を撹乱する術が組み込まれている。

 

(どうする⋯⋯?)

 

 みすみす逃す気は無さそうだ。いつの間にか木から飛び降り、ゆっくりとした足取りで水影はクサビに近づく。

 

 写輪眼なら、この白霧の中で飛び交う攻撃を見切ることも簡単だろう。写輪眼は、チャクラを色で見分ける。だがクサビには、未だに写輪眼が発現していない。白い霧の中で、必死に目を凝らした。

 戦において、後手に回るのは不利。視界は悪く、敵がどこにいるかも分からない。なら、相手の出方を見るためにも、先に行動するべきだ。そう思ったクサビは、体内でチャクラを練り、先手を打つ。

 

 

「火遁・豪火球の術!!」

 

 クサビのすぼませた口から、燃え盛る豪炎が吹き出される。以前マダラと手合わせした時よりも、2回りほどは大きいだろうか。修行を重ね、精神エネルギーと肉体エネルギーの量も多くなった。そのおかげか、クサビの術の練度は前回と比べれば、成長したと言える。

 炎が大きくなった分、火力も増加していた。だが、まだ足りない。クサビは更にチャクラを込め、火球の威力を限界まで上げきった。

 

 視界の霧は晴れないまま、クサビの吹き出す火球から白い煙が上がっている。水影によって消化されているのか、それともまた別の要因でか。

 

 

「その歳で、もう火遁を使いこなすか…」

 

 際限なく吹き出され続ける炎の先が、パキパキという音を立てながら白く()()()()()

 

 

「私の豪火球が…!」

 

―――――豪火が氷に包まれた。

 

 火炎を凍らせるほどの術の強度。術者であるクサビにまで氷が肉薄し、冷 気が感じられる。クサビは己の体まで凍らされないよう、後ろへと跳躍し飛び避けた。

 

(これが、()⋯⋯!)

 

 忍の中でも最高峰。クサビの見据える先に立つ水影に、消耗した様子はない。ただ、そこいらにあった邪魔なものを払い除けただけ、というようにプラプラと手を動かしていた。

 

(口元にある手⋯それなら、口から氷になるようなチャクラを出した?そして手で軌道を定めて、私の火遁を凍らせた?)

 

 即座に次の手を打つため、思考を巡らせる。凍るということは、水のチャクラと何かを利用した血継限界だろうか。土と水では木遁、雷と水では雷遁の性質が強化され、火では氷などはできない。つまりこの氷は、水のチャクラ性質と風のチャクラ性質を組み合わせたもののはずだ。

 

「水と風…水を風で凍らせている…?」

 

「聡いな。だが、タネが分かったところでだろう?」

 

 忍法―――氷霧の術。

 

 小さく呟かれたその言葉に、クサビは周囲を警戒した。氷霧―――氷の、霧。水影の姿は、全く見えなくなっていた。

 クサビの周りを覆う霧全てが、水影の術だと思っておいた方がいいだろう。クサビが全身全霊を持ってして放った豪火球の術でも、この霧は晴れなかった。何かが――――来る。

 

「氷遁・冰剣剣山」

 

 氷霧の中から、小さな氷の粒が集まり、剣の形を成す。クサビへと向かって何重もの剣が、水影による小さな指先の動作で放たれた。

 駆けるクサビの足元に、氷剣が突き刺さる。時に燃やし、時に挿し木で弾き、時に森に生える木を盾にする。

 

 氷霧の目的は、雪一族の血継限界―――氷遁を使いやすくするための補助だ。氷剣ひとつの大きさは大したものではないが、それが何本も何本も、クサビを貫こうと向かってくる。空気を裂く音がクサビの耳には入ってくるが、それだけで避けることができる程、水影は甘くはなかった。

 このままでは、ただ消耗させられるだけ。クサビが森を縦横無尽に駆け回るのに対して、水影は姿を見せない。遊ぶようにして、時折氷剣を投げつけてくるだけ。

 

――――――ジリ貧だ。

 現に何本かの剣が、クサビの体を掠めた。ずっと走っていれば、疲弊もする。短い髪の毛が数本、パラパラと地面に落ちた。

 

 

 瞬身で身を翻し、先程の呟きがした方へと挿し木の術を千本のようにして投げつけた。

 挿し木の術―――というより、木遁による忍術には、相手のチャクラを吸い取るという能力が存在する。そのお陰で―――本人の実力があったことが一番の要因ではあるが―――、過去に千手柱間は尾獣を一匹残らず捕らえることができた。

 少し離れた場所で、挿し木の術が発動した感触がクサビに伝わる。だが同時に、投げつけた方から氷の砕けたような音がした。

 

(氷遁で作られた分身⋯氷分身か)

 

 足を揃えるようにして体制を整えると、クサビの視界の端に、()()による青白い反射光が映る。身を捻って避けると、傷とシワの多い手に握られた氷の短剣。そのままクサビは左手で剣を持つ腕を掴み、右腕から挿し木を生やした。

 今ここで水影を仕留め無ければ、次に狙われるのはオビトだろう。そう考えたクサビの使命は、ただ一つのみに絞られた。

 

 

「ここで、殺す……!!」

 

 そうした決意を言葉に出し、力強く水影を睨みつけるクサビの瞳には。

 

 

――――――――巴がひとつ浮かぶ、赤き瞳。

 

 そうなった自分の瞳にクサビは気付かぬまま、思い切り振りかぶって、掴んだままの水影の腕へと、挿し木の術を突き刺す。

 

 だが、それは不発に終わる。ポフンっと軽い音がして、クサビの目の前には氷でできた氷像が置かれていた。美しい意匠が施された氷像は、余裕綽々というように、目をバッテンの形にし、口からは舌を出した水影のぬいぐるみのような形をしている。変わり身の術によって、知らぬ間に入れ替わられていたのだ。

 挿し木に貫かれた氷像からは、クサビのチャクラを吸わせたことによって成長し、簡単に人間の皮膚を突き破れそうな程に成長した棘が、無数に生えている。

 

(舐められている⋯)

 

 形の良い眉が歪む。明らかに煽る為だけに造形に凝っただろう氷像を、鬱憤を晴らすようにしてクサビは片手で握りつぶす。挿し木によって空けられた穴で脆くなっていたこともあるが、分厚く造られた氷像は簡単に砕け散った。

 

 

「ハッ。大きく出た割には、まだ何もできておらんな」

 

 白い何かが自分に向かってくることを、クサビの写輪眼は捉える。

 早い。写輪眼で捉えることができたとしても、それを避けることができるかどうかは別だった。

 

 クサビの頬に鋭い痛みが走る。傷口から、温かいものが垂れる。口元まで来たそれを舐めとると、血の味がした。

 氷で作られた千本が、大量にクサビに向かって投げられている。咄嗟に火遁のチャクラを練り、小さな火球を吹き出し、全て溶かし尽くした。だが、氷を溶かせば、水が発生するのが自然の摂理。氷を溶かしたとしても、水によって消化されるせいで、火力が伸びない。

 

 

「相性が悪い…!」

 

「その幼さで、その火遁の精度…そして黒い髪に、写輪眼。やはり、似ている」

 

 白い霧が鬱陶しい。今も絶えず放たれ続ける氷と、何も見えない視界。氷も霧も、発動させる術者がいる限りは消えない。一時的とはいえ、今のクサビでも消すことができるのは。

 

 

(まずは、霧を晴らす!!)

 

―――火遁・豪火滅却!!

 

 一気に辺りを燃やし尽く、氷霧を晴らさせる。その場しのぎであるとは言え、霧のせいで隠れていた月光が輝き、視界が良好になった。

 すぐに新しく霧は出てくるだろう。水影のチャクラが尽きない限り、無尽蔵だと思った方がいい。

 炎と寒い環境のせいで出る、白い息を口から吐き出す。晴れた霧の中、水影を探した。

 

「⋯⋯⋯」

 

「ハハハ、無駄な足掻きだな」

 

 月に照らされ、変わらず木の上に座り込んだ水影に対して木龍を召喚する。勢い良く向かっていくクサビの木龍は、前回のマダラとの戦いを参考にして、ただ愚直に突っ込むのみではなく、追尾機能を持たせてみた。

 チャクラの消費量は多くはなるが、次の攻撃へと繋げやすくなる。クサビも木龍と連携し、挟み撃ちを試みようと、挿し木を振るった。

 

「お喋りをする気も無いか…いや? その余裕がないのか」

 

「木遁・木龍の術!!!」

 

「どうして貴様が千手柱間の木遁を扱っているのかが分からんが…貴様、うちはの者だな。だがその写輪眼⋯⋯未熟なものだ」

 

 木龍は軽々しく凍らされて、水影の裏拳によって粉々に砕かれた。チャクラコントロールによる身体強化にも抜かりがない。体の小さいクサビでは、一撃でも喰らえばひとたまりも無いだろう。

 

(うちはだとバレても、まァ⋯殺せば⋯⋯⋯ん?写輪眼?)

 

 うちは一族以外にも、黒髪に黒い瞳なんて大量にいるはずだ。それにさっき、水影はなんて言った?

―――――写輪眼。もしかして、私に?そっと自分の目元へと、クサビは手を添えた。確かに先程とは、視界の感覚が違う。

 

 

「黒い髪、火遁⋯何よりも、戦う時の癖。戦国を思い出す…⋯あの紋様。吸い込まれるような、あの憎たらしいほど赤い瞳…子供、うちはマダラの縁者だろう。木ノ葉を九尾で襲ったと聞いてから、うちはマダラの血縁は見せしめに処刑されたものだと思っていたが……隠し子か?」

 

 うちはマダラ譲りの戦いの癖。それだけでクサビのことを、うちは一族、しかもうちはマダラの関係者だと分かる程には、場数を踏んだ実力者だということだ。

 しかも、マダラの戦い方を覚えるまで、あのうちはマダラと同じ戦場にいたとしても生き残っているということ。

 ここで水影をクサビが仕留め損ねると、クサビが殺された後、この氷の牙はオビトに噛み付く。

 

(私が死ぬことは構わない。だけど、オビトは⋯⋯オビトは、木ノ葉に帰らないと⋯!!)

 

 いつか教えてくれた、オビトの夢。それを叶えさせるためなら、私は今、死んだって構わない。

 

 

「私はただの子供だよ。でも、今からは――――」

 

 

 

 

「お前を殺す、うちはの者だ」

 

「ほざきよるわ、小童が」

 

 飛んでくる千本の雨を掻い潜り、水影の懐へと拳を叩き込んだ。クサビの体は小さいおかげで挙動が読みにくく、小さな隙にも入り込みやすい。その分リーチはないが、柱間細胞の手足には通常よりもチャクラを込めることができる。スピードはチャクラ量でカバーして、インファイトに持ち込む方が得策だろう。

 打ち込んだ拳は、案外軽く狙いに当たった。布越しに触れた体は、クサビが思っていたよりも分厚くはない。皮と骨と、少しの肉のみ。チャクラで強化しているとはいえ、あまり硬いとは言えない手触りだった。

 

 

 雪一族の扱う氷遁と、クサビが得意とする火遁の相性は悪い。お互いにとっても、という意味ではあるが。

 

 お互いの術を、お互いの術で消し合う。その時に発生する水によって火が消えてしまうため、このまま術の応酬を続けていれば負けるのはクサビだ。

 

(忍術がダメなら、物理で叩く⋯!)

 

 クサビの体術は、マダラにもお墨付きを貰っている。子供の体からは想像もつかない程の重い拳、忍界の歴史を隅々まで見たとしても、有数の実力者のひとりに入るマダラ仕込みの技術。

 足にチャクラを込め、爆発的な推進力を生む。そのまま強く走り抜け、水影へと肉薄する。

 

 

―――――生きる残ることは狙わない。狙うのは、共倒れのみ!!

 

 

「中々、いい拳をしているが⋯まだ未熟だな⋯…!!」

 

 身をひねられて、拳をいなされる。そして体制を崩したクサビの肩へ、氷で作られた千本を突き刺された。クサビの肉のさらに奥へと刺さる氷に、水影によってチャクラが込められる。マズイ――――そう思った時には、もう遅かった。

 

「肩が…!!」

 

 意趣返しかのようにしてクサビの体から突き出る、氷でできた無数の棘。クサビの肩は、クサビの数少ない生身の部分でもある。ポタリと垂れる血が土に落ち、少しだけ足を滑らせた。

 

「氷遁・挿し木の術…と言ったところか?」

 

 にやりと笑う水影。いかにも余裕綽々な態度に、腹が立った。穴だらけの肩から、自分の熱が外気に晒され、失われていくのを感じる。体の震えは、寒さのせいか、それともまた別の要因か。

 

「ハァッ⋯⋯フッ!!」

 

 体から生える氷の棘を、力で無理やり引き抜いた。自分で抜くことができる範囲は全て抜く。出血する部分は寒さによりパキパキと凍り、傷口から体へと、凍傷が広がった。

 

「随分ボロボロじゃないか。対して、オレはどうだ? ほんの少しの傷だけしか与えられていない。さぁ、もっと実力を見せてみろ」

 

 会話をする気など毛頭無いというように、クサビは水影へと挿し木を投げつけた。

 水影の肩から、空気中の水分を凝固させた手が自らへと投げつけられた挿し木を掴む。チャクラはさほど込められていないのか、挿し木は小さな棘が生えるだけだった。

 

 

「こんなものか⋯⋯死ね、小童」

 

「な……!! ぐぅッ、つっ…!!!!」

 

 鋭さを増した千本が、クサビの体に降り注いだ。避けきれずに、何本も突き刺さる。手に刺さったものは貫通し、地面に鈍い音を立てて落ちていく。

 手足に刺さる分には問題無い。後で取り替えれば済む。だが、生身に当たるのはあまり良くない。幸いにも内蔵に痛みは無いが、穴でも空いたら行動できなくなってしまう。手のひらに突き刺さって落ちなかった千本を引き抜いて、水影へと投げつけた。

 

「血が吹き出ん…その四肢、作り物か。化け物め、心の臓や臓腑のみが本物ということだ」

 

 首や肩、腹に突き刺さった千本からは血が滴り落ちているが、手足に刺さった千本からは血は出ない。作り物、正解だ。だがクサビには、答え合わせをしてやる義理は無かった。

 

()()()は気づかれてない⋯今!!)

 

 パシリと水影が千本をキャッチしたことを確認し、無理やり片手で印を結んだ。

 

 

「何ィッ!!」

 

 驚愕と苦悶の入り混じった声が、森に反響する。

 

 引き抜いた千本、というのはブラフ。クサビはただ、()()()()()()()()で発動する幻術を水影にかけ、水影自身がクサビに突き刺した千本だと誤認させた。

 本当は、クサビの手から生やした挿し木の術。そして、水影はその挿し木を掴んだ。直後、木遁としての性質により、自らのチャクラが水影の手中で爆ぜる。

 

(読み合いに勝ったのは上々!)

 

 ニヤリと笑うクサビに、水影が激昂する。

 

 

「無様だね…三代目水影…!!」

 

「ハッ…無様なのはどちらだ!!」

 

 お互いだろう。クサビには身体中に千本が刺さり、血だるま。水影には、挿し木を握った手を中心に生える木によって体はズタボロ。だが、水影の着物が所々破れ、痩せ細った体と傷が見え隠れする部分に、氷霧が集まる。

 応急処置とはいえ、止血をされてしまった。クサビは口の中に溜まった血を、唾混じりに地面へ吹き捨てる。

 

 

「木遁・木龍の術」

 

「それしか芸が無いのか!!」

 

 再び現れた木龍が水影に巻きついた。ギリギリと締め上げる木龍を意にも介さず、大きく口を膨らませた水影に向かって、更に木龍を向かわせた。そしてクサビも一撃を叩き込もうと、水影に近づく。

 

 

「氷遁・口氷千!」

 

 水影の大きく膨らんだ口から、氷の千本が放たれる。だがクサビは避けはしない。腕にも足にも千本が突き刺さり、ハリネズミのような風貌になったクサビはそのまま、水影の脳天に一撃を叩き込む!!!

 

「何ッ…グァッ!!!!」

 

 木龍に捕まったままの水影では、クサビの拳を避けることはできない。人の肉を強く殴りつけた衝撃が、柱間細胞の腕を伝ってクサビに伝わった。

 

 だが、思い切り殴りつけた水影の姿が、鏡のようにひび割れる。そしてすぐに砕け散り、氷の粒となって飛び散った。パラパラと宙に浮かぶ氷が、光を反射する。

 

 

「幻術⋯!!」

 

「小童ァ!! 後ろがガラ空きだぞ!!」

 

「ごっ…⋯!!」

 

―――――早い。

 

 いつ、幻術と本物が入れ替わったか分からなかった。クサビの写輪眼は、まだ未成熟なもの。捉え切ることができなかった。クサビの腹部に、氷によって補強された水影の拳が食いこんでいた。

 ポキリと妙に響く音が、クサビの耳に入る。あばらかどこかがイカれてしまったみたいだ。骨の軋みを身に感じながら、痛みに朦朧とする意識に耐え、水影の肩を掴む。離すまいとしてチャクラを込めた手の内からは、水影の肉と骨を感じる。

 

 ミシミシとなる肩に、自分の手をそのまま使って術を発動した。

 

 

「捕まえ、た……!!!」

 

――――――木遁・挿し木の術。

 

 血飛沫が飛び、クサビの顔に血がかかる。三代目水影の肩から半身にかけて、体の内から食い破るようにして木々が生える。浅くは無い。体の奥深くまで棘が届いている。致命傷だろう。

 

 だが致命傷なのは、クサビも同じ。水影より何倍も小さな体に、クサビより何倍も大きい拳が、思い切り叩き込まれた。腹とは言ったが、上半身全てだと言ってもいい。

 水影の拳は、確かにクサビにとっては一撃必殺。拳の触れた箇所全てに、ずっと痛みが残っている。

 それに、肩にかけての偽挿し木―――水影による、偽物の挿し木の術のこと―――。これまでの戦いの中で、クサビが取れなかった背面の氷の棘。パキパキと外へ出ていた物は折れているが、体の中に生えた物はまだ刺さったまま。

 いくら柱間細胞によって身体能力や自然治癒力が上昇しているからといっても、放置していれば出血多量により死ぬだろう。それに、体温が低下しているはずだ。凍死も有り得るかもしれない。

 

「ヒューッ⋯⋯」

 

 呼吸は無事だ。異音もしない。だが、ひとつ問題があった。

 さっきの水影の拳によって、いままで体表に突き刺さっていた千本が、体の奥深くにも刺さっていた。貫通はしていないようだが、このままにしていれば体内の熱で溶け、出血が始まる。そうなってしまえば、水影の命が尽きることを確認する前に、クサビの命が灰となるのも時間の問題。

 

 まだ息のある水影に向かって、歩みを進める。薄く開かれた水影の瞳には、チラリと覗く見慣れた()があった。

 

 

「その瞳、は……!」

 

 驚き、クサビは足を止める。そんなはずは無い。外に出ているところなど、クサビが記憶にある限りでは、見たことも聞いたこともなかった。そんな状態で、こんなことができるはずが無い。

 まさか、クサビの産まれるずっと前から、この男は―――――!!

 

「ぉ…ご…マダ…ラ…」

 

 

 

「うちはマダラァァァァァァァ!!!!!!」

 

―――――チャクラの暴風。

 

 思わずクサビは水影の体を離し、地面を転がった。水影の見開かれた瞳には、見慣れた()()()()()()の紋様。赤と黒に明暗するその眼に、正気はない。

 

「どうしてマダラのじい様の瞳が⋯⋯!?」

 

 顔周りまで腕を運び、チャクラによって発生する風に乗って飛ぶ小石や氷粒から目を守る。赤く染まったクサビの瞳には、ハッキリと先程までとは比べ物にならないほどチャクラを解放した水影が映っていた。

 

「ハァッ…オレが、このオレが!! こんな小童ごときに、遅れを取るわけがなかろうがッ…!!! マダラァ……うちはマダラァァァ!!!」

 

 半狂乱になりながら見境なく辺りを凍らせていく水影は、頭を掻きむしり、クサビに向かってブツブツとうわ言を吐いている。フラフラと歩く水影が、次にどんな手を使ってくるかが、クサビには読めなかった。

 

「クソ…オレが、こんなにも長い間…!! マダラ…お前、マダラだな⋯?」

 

 ピタリと錯乱した様子だった水影が足を止め、立ち尽くしたままクサビに一瞥した。瞳孔が開いたまま、水影は印を結ぶ。

 放出されていたチャクラが水影へと集まり、水影の足元から、突如として大きな水龍が現れた。

 

(氷遁を溶かした時の水⋯!)

 

 その水により、激しい戦闘を繰り広げた森の中には、至る所に水たまりができている。とはいえ、その総量は湖などと比べれば微々たる物だ。だが水影は、その水たまりから水遁を発動させた。ほんの少しだけの水だったはずだ。それだけで、クサビを簡単に飲み込むほどに大きな水龍を作り出した。

 

「大きすぎる…!!」

 

 いままでとは比べ物にならないような、上等なチャクラが練りこんである。老齢とは思えぬ程、無茶苦茶なチャクラの使い方。クサビは痛み軋む体にムチを打ち、防御のための術を発動させた。

 

「木遁・木錠壁!!」

 

 地面から、クサビを中心として半月状に盛り上がった木々が繋がっていく。簡単には破ることができない木の防護壁はずだが、水影の水龍はそれさえも飲み尽くさんとする力強さで攻撃を続ける。この壁を突破されるのもすぐだろう。

 水影は放っておけば、怪我による出血で死ぬ。老人であの怪我だ。霧隠れの里へと生き延び、治療を受けるまで体が持つとは思えない。このまま水に飲み込まれる訳にもいかず、木のドームの中から飛び出した。

 

 

「逃がさん⋯⋯逃がさんぞ、マダラァ!!! 死ねェ!!!!!」

 

「しつこい…!!」

 

 霧の中から水影が飛び出してきた。そのままのクサビの体を狙って放たれた殴打を弾き返し、クサビは足を木に変質させ、蹴りを放つ。尖った枝が水影の顔を掠めたが、掠めただけだった。少し前の出来事を忘れたのか、挿し木の術によるカウンターを考えていないように掠った枝を掴まれ、クサビの体は水影の方へと引っ張られた。

 チラリと見えた水影の手の中には、一本の氷槍。それが、クサビの体に向かって放たれた。

 

 

「木龍!!!!」

 

 地中から、細い弱々しい木龍が飛び出す。クサビが初めに、挟み撃ちをしようとして作った木龍の残りカスだ。細いとはいえど、人間の腕くらいは噛みちぎれる。

 水影の腕へと噛みつかせ、地面に落ちた氷の槍をクサビは自分の手元へと抱えた。そして木龍が噛み付いたせいで、皮一枚で繋がっている腕を斬り飛ばす。

 

「…チィッ!! 大人しく死ね、うちはマダラァ!!」

 

「じい様とは似ても似つかないでしょ、節穴!!」

 

 腕を失っても、水影の威勢は変わらない。普通の人間なら、とてつもない激痛のはずだ。骨は見えているし、血も、とめどなく溢れ続けている。だというのに、水影は動きを止めない。

 だが片腕を吹き飛ばされた忍者は、もう印を結べない。忍界にてスタンダードとされる戦術は、忍術の応酬ただひとつ。もう水影は、何も―――――――。

 

 

 

「氷遁秘術……魔境氷晶ォォ!!!!」

 

「片手印!?」

 

 クサビは油断していた。忍界は広い。様々な術があり、様々な歴史がある。その中で、()()()()()()()()()()()()()()()という固定観念を持つことは、間違いだった。

 

 片手で印を結ぶ水影は、死の間際にせめて、()()()()()()を殺そうとしている。鏡のように反射する氷が、霧の中から現れた。

 ダラダラと目や鼻から血を流す水影は、クサビのことを()()()()()()だと思っている。そして水影の瞳。過去の遺恨か何かか、巻き込まれるのは御免こうむる。思わずオビトと過ごし始めてから、少しだけ悪くなった言い草が、クサビの口から出てしまった。

 

「勝手にやってよ…!!」

 

「何が血霧だ…何が霧隠れだ!! アァ反吐が出る!!! 白蓮様からお預かりした里を、オレが…マダラが!!!」

 

 鏡の中に水影が溶け込んでいく。何十枚とある氷の鏡と鏡を超スピードで移動する水影を、私の写輪眼は捉えることができない。肉が断たれ、新しく傷が増えていく。

 水影はそのうち死ぬだろう。あれだけ体に穴を空けておいて、柱間細胞もない水影に生き残る術は無い。元々共倒れは覚悟の上。

 

 

――――オビトが里に帰ることができたなら、なんだっていい。

 

 動きを止め、虫の息で座り込むクサビ。それを見て水影は、穴だらけの体を引きずりクサビへ近づく。そして残った手にチャクラを込め、冷気を放つ大刀を作り上げた。

 クサビの細い首に当てられた大刀は、ほんの少しだけ刃が当たった場所の薄皮を斬り、血が零れる。

 

 目を見開いて感情のない顔で、水影の黒い髪がざんばらに揺れた。クサビはもう、動くこともできない。血を流しすぎたし、チャクラを使いすぎた。大刀が、頭を垂れたクサビの上へと運ばれる。

 

「死ね、うちはマダラ」

 

 

 

 

 目を閉じて、自分の運命を受け入れる。頭上から、鋭いものが風を切る音がした。

 

 

 

 

 

「クサビ」

 

「………は?」

 

―――――受け入れた衝撃は、やってこなかった。

 

 オビトの声がして、クサビは目を開ける。クサビの前に仁王立ちで立つオビトの右腕からは、鮮血がとめどなく流れていた。

 緩慢とした動作で横を見る。手に大刀を持ち、驚きの表情を浮かべたまま、喉をオビトの腕から生える挿し木で貫かれている水影。オビトからは、むせ返るような血の匂いがしている。だがクサビが赤から黒へと戻った眼で観察しても、オビトの体に傷は無い。

 

「…オビ……ト?…カカシのお兄さんは…?リンの…」

 

 つい先ほどまで、マダラへの憎悪に囚われたままクサビの首を斬り落とそうとした水影が、物のように投げ出される。貫かれたまま痙攣を続けていた水影は、ゴシャリという音ともに動かなくなった。

 いつもの、朗らかに笑うオビトではない。クサビはどこか、マダラを思い出した。

 

 チャクラの性質も、異質なものに変わっている。真っ暗闇の奥底にいるような、暗い、黒いチャクラ。頭から垂れた血か、目元を一筋、ぬるいものが通った。

 

「一人にして……ごめんな。クサビは、クサビだけは…オレが、守るから」

 

 地面に膝を着くクサビに合わせて、オビトは膝を着く。()()()は、という言葉に、嫌な考えがクサビの脳裏に過ぎる。

 

―――――水影は、最初になんと言っていた?

 ()()()()()()だ。小娘…リンのお姉さんことだろう。考えたくもない予想に、今のオビトを重ねると、辻褄が合う。合ってしまう。

 

 オビトは自分の血と、水影の返り血で汚れたクサビを、存在を確認するかのように強く抱き締めた。トク、トクとお互いの心臓が鳴り合う。オビトの瞳は、写輪眼とはまた違った物に変わっていた。

 

「ァ………」

 

 オビトはきっと、見てしまったんだろう。なにか、おぞましいものを。クサビに仕向けられた、マダラに幻術にかけられた水影。全ては手のひらの上、ということか。

 クサビは行き場のない手を脱力させ、月を見上げた。術者が死に、霧が晴れきった空で輝く月が、やけに気色悪いものに見える。

 

 

「…行こう、クサビ」

 

「………うん」

 

 水影の死体を置いて、クサビは大人しくオビトの腕に抱かれる。もう動けないクサビでは、ここからマダラの元へと帰るには他人の手が必要不可欠だった。クサビはただ、オビトが幸せに過ごしてくれれば良かった。

 

(私の⋯⋯せいだ)

 

 この()()では、そんな些細な願いも叶わなかった。

 

 

 

 

 





三代目水影もきっとマダラに操られてたはずなんですよね。血霧の里は三代目水影からだと思いますし。オビトに殺されてる霧隠れの暗部からの発言より。
だからこの三代目水影はマダラにとって利用価値が無くなり、当て馬として幻術で操作されるというデバフ持ちです。
だいぶデバフかかってんだな、と思っといてください。本物はこんな小娘にここまでやられないし、オビトにもしっかり気づきます。
ここで始末しないと、やぐらが四代目になってくんねぇんだ…

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