あなたに続きを歩いて欲しいから   作:\︎☝︎☻︎☝︎/

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評価が色つきやーーー!!!いつもありがとうございます。いっぱい書くやでがんばるで。
1両=10円換算です。漫画に書いてた気がする。間違っていたら教えて頂けると嬉しいです。



はじめてのおつかい

 

 

 捨てられていた家で、様々な物資を拝借してしばらく。

 

 水の国近くにあったマダラのアジトを出発し、火の国と水の国の国境近くにあった廃屋で一夜を過ごしたあと。オビト達は野宿を繰り返しながら、火の国へと入った。

 火の国は国土が広く、国中に豊かな大地が広がっている。砂漠が広がり、作物の育ちにくい土地が多い風の国や、海に囲まれている代わりに国土の狭い水の国などと比べれば、戦時中と言えど一般市民の大半は戦争前と変わらぬ生活をしていた。

 

 野を駆けずり回れば、味は二の次として食べ物は手に入れることができた。偶然人が住んでいる集落や街に出ることができれば、マダラの残していた金を使って調味料や服を手に入れる。

 そうしてオビト達は火の国を北上しながら、輪廻眼を持つ人間がいるという雨隠れへと向かっていた。

 

 

 焚き火の前に座り、オビトは頭を悩ませる。グルグルを着たまま―――溶けた腕は移植したものの、まだ馴染んではいない―――の手の中には、ゼツから手渡された時と比べれば少々土に汚れた麻袋。小さな金属同士がぶつかり合う音を響かせながら、オビトは眉を眉間に寄せた。

 

「どーすっかなあ…稼ごうにもな……」

 

 麻袋を持った手を上下に振れば、その中から聞こえてくるチャリチャリとした音は随分小さなものだった。「調子に乗って買いすぎたよな、コレ……」とぼやくオビトの目線の先には、小さなポーチに入った白い粉や黒い粉。

 

「黒胡椒に、前の家から持ってきた大量の塩、トウガラシパウダー……黒胡椒はともかく、トウガラシパウダーはぜってぇ必要なかったよな…」

 

「エー!! 必要でしょ、絶対!!!」

 

「お前、食えねぇのに何に使うんだよ」

 

 食べ物を食べるための口もないくせして、文句を言うグルグルにオビトが呆れる。

 

 ポーチの中に入っているのは、オビトがクサビに()()のためにと買った調味料だった。他にも、醤油、味噌、カラシ、ワサビなどが、小さな小瓶に入れられている。

 オビトは最初、醤油と味噌、それから塩があれば、基本的な料理はなんでも作れるだろうと考えていた。オビトはあまり料理をする人間ではなかったが、たまにはと作ったことくらいはある。焼き魚とかくらいなら余裕で作れる。1度うたた寝をして黒焦げにしてしまったこともあるが、それはそれ、これはこれ。

 

 テキパキ試行錯誤を重ねつつ、オビトはクサビに料理を振舞った。どれだけ焦げていても、どれだけオビトが失敗したと思っていても、クサビがオビトの作った料理全てを「おいしい」と言いながら食べるものだから、オビトも段々色々な料理を食べさせていった。

 その結果、ちょっぴり残った調味料達を詰めたポーチがクサビの肩へと下げられるようになった。

 

 

「オビト、グルグル、今日のご飯」

 

「今日は何するの? ボクアレがいい、味噌塗って焼いたヤツ」

 

「作ッタトシテモ食エナイノニカ?」

 

「匂いは嗅げるじゃん」

 

「ああ、おう……」

 

 ガサリとオビトの後ろの茂みが揺れる。その中からは、ボリュームのある長髪と、やっと新調することのできた服に大量の葉をつけたクサビが出てきた。

 

 その足元には、大地と同化しながら移動しているゼツが顔を出している。クサビの引率と補助をさせるためにオビトが同行させたが、ほぼ山菜をむしるだけで終わった。

 クサビが狩りに走っていったのを見て、早々について行くことを面倒くさがり、森の至る所に生えた草という草を根こそぎ取ることへと仕事を変えた。

 

 葉っぱまみれのクサビの脇に抱えられているのは、大物の魚。もう既に動くような力は無く、クサビの腕から抜け出そうとはしていないが、時折ピクピクと動いている。

 

「デッカイな、コイツ……」

 

「今日はどんな料理を作るの?」

 

 クサビはオビトへと魚を手渡す。魚を受け取ったオビトは、クサビの髪の毛や服についた葉を手際よく取っていく。クサビはされるがまま、上目遣いでオビトが取ってくれることを待った。

 

「こんだけデケェとそうだなぁ……無難に焼き魚でもするか。最近塩っけのあるもん食ってなかったし」

 

「味噌焼きは? クサビも味噌焼きの方がいいよね?」

 

「別に」

 

 「味噌、美味しいけどもう無いし」と呟きながら、カパリと調味料の蓋を開けていくクサビ。味噌の香ばしい匂いが漂ってくるが、もう味噌は小瓶の2割程度しか残っていなかった。

 

「もうそろそろ大きい街に着くみたいだし、買い足せばイイじゃん」

 

「買い足し、買い足しな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「金が、ねぇ⋯⋯」

 

 魚の鱗を取り、塩を軽く振り、火遁で落ちていた枝を燃やして魚を焼く。そうしてオビトの職人が如き火加減によって作られた焼き魚は、外側の皮は一口噛めばパリッと弾け、内側にある身の部分はふわふわと舌に乗る。

 

 これまで繰り返してきた野宿の経験のおかげで、オビトのサバイバル飯の腕前はメキメキと上達した。だが、その上達と反比例して、ずっと減り続けているものがあった。

 

 

―――――――金である。

 

 魚を綺麗に骨だけにし、火の始末や痕跡を消し、出発の準備を整える。大きな街とは言っていたが、街で物資を手に入れようと思えば、金がいる。

 

 今クサビ達が持つ有り金全てが入った小袋を、オビトは真っ逆さまにひっくり返す。重力に従ってオビトの手のひらに乗る小銭は、ざっと数えても――――。

 

 

「15両⋯⋯」

 

 現代での、150円ぽっちの価値である。

 

 大きな街に行けるのであれば、立ち寄って物資を補給したい。調味料は、最悪無くても支障は―――野性味溢れる料理になってはしまうが―――ない。それよりもオビトが買いたいものは、生活必需品である。

 まずは服。今のクサビの格好は、サイズの合わない服を上から1枚着ているだけ。贅沢はさせられないが、せめてサイズのあった物を着せたい。

 

 それに医療セット。忍者として行動する時、医療忍者のいない小隊などであれば、いつでも簡易的に処置を行えるようなキットがあれば、治療を行うまでの猶予ができる。

 クサビの怪我は柱間細胞による自然治癒力の増幅により、常人の数倍のスピードで回復していた。小さな傷であればもう跡もないほど回復しているが、見た目が痛々しいことに変わりはなく、病院とまではいかずとも、新しい包帯に巻き直したり、軟膏のようなものもオビトは手に入れたかった。

 

 

 

 

 

 日は沈みかけ、空は茜色に染まっていた。ゼツの案内に従いつつ、オビトとクサビは例の街を目指して、グルグルと白ゼツの中身のない会話をBGMに、森の道無き道を歩く。

 

「見えてきたよ。あそこなら、基本的な物ならなんでも揃ってるはず」

 

 そう言ってゼツが指を指す方向を見れば、堅牢そうな壁に四方を囲まれた、人が多く出入りしている城下町らしき場所。検問などをしている様子はなく、誰でも自由に出入りができるようだった。

 大勢の人が往き交い、子どもも大人も、楽しげに歩いている。腕を組みながら歩く男女もいるし、老人の乗った車椅子を押す年若い少年も見受けられる。

 

「……人、多いね」

 

「前行った村は小さい村だったからな。こんだけ人が多いのはクサビは初めてか」

 

「とりあえず入ってみる?」

 

「そうだな……」

 

 

 オビトはグルグルを着た自分の体を、上から隅々まで見直してみる。大きくなった身長、渦を巻いたような腕や顔、ひとつの体から2人分の声。

 このまま一般人ばかりの街中に、放り出されたらどうなるか。

 

「オレとグルグルはここで待機だ」

 

「なんでなんで!!」

 

 グルグルから、抗議の声がオビトへと飛ぶ。耳元で鳴り響く騒がしい声に、オビトは眉を釣り上げた。

 

「オレ達じゃ目立ちすぎるだろ! !騒ぎになっちまうから、ゼツ……も目立つな…クサビ一人だけは、ダメだろ」

 

「今は他のヤツらも全員出払ってるからね……成り代わりの術も使えないや」

 

「フード被ってもダメかな?」

 

「タッパがな……下からフード覗かれたら、誤魔化し効かねぇし」

 

 うーん、うーんと人の往来が絶えない街の門を見ながら、少し離れた林の中で唸る。騒ぎを起こせば、追い出されるか、最悪警備兵や雇われた忍との戦闘になるだろう。

 それは本意ではない。だが、このままだとクサビ1人が街に繰り出すことになる。オビトはクサビのことを信用していないわけではないが、心配なのだ。

 

「やっぱり私が行ってくるしか……」

 

「待てクサビ、一旦待ってくれ」

 

 オビトの脳が高速で回転する。そもそもクサビは今まで、人間社会にろくに触れてこなかった人間だ。しかも小さい。今までの道中、一般常識だと思うようなことはがんばって教えてきたつもりだが、1人だけで野に放っても良いものか。

 

「ぐ……仕方ねぇ、か……!! ……クサビ、いいか?」

 

 

 

―――――――――クサビ、()()()()()()()()()、スタート!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは皆様、よォござんすね!?」

 

 熱気が溢れる、ぼんやりとしたカンテラのあかりのみの暗がりで、大声が上がる。ヤジの飛び交う小さな賭場の中、深くフードを被った子供がちょこりと畳の上に座っている。

 だが、異様であった。積みに積まれた札束の山は、正座で座った子供の身長を優に超え、立ち上がったとしても頭をすっぽり隠すほど高い。それほどまでに高い金の山が、子供を囲むようにして四方八方に作り上げられていた。

 

「丁か、半か!!!」

 

「丁に2000両」

 

「半だ!!! 半に5000!!」

 

 その隣には、緑色の法被に、艶のある金髪をふたつに結んだ、豊満な胸を持つ若々しい女。子供と比べれば、女が持つ金の量は月とスッポン―――子供が月、女がスッポン―――ほどの差がある。

 しかし、この女を知る人間からしてみれば、この光景も異様である。この女が、()()()()()()()()()()まだ金を持っている。見る人が見れば、顎が外れるほど驚くだろう。

 

 なぜ今このようなことになっているのかは、数時間前に遡る。

 

 

 

「忍具って、思ってるよりも高い……」

 

 フードを深く被った子供――――クサビは、武器屋を訪れていた。火の国では、忍の数も多く各地へと派遣されるため、大きな街であれば武器屋に忍具の取り揃えもある。

 そうオビトから聞かされて、クナイや手裏剣を買うためにやってきたクサビであったが、今の所持金を思い出して欲しい。

 

 クナイや手裏剣に限らず、戦いのための道具というものは大抵鉄製である。鉄ではなくとも、金属が使われているため、総じて高価になってしまうのだ。

 そして今のクサビは、全財産を握りしめているとはいえ、金欠である。

 

「嬢ちゃん、15両じゃあなんにも買えねぇよ。何に使うかは知らねぇけどよ、せめてあと10倍は持ってきなね」

 

「150両…………」

 

 

 トボトボと武器屋を出て、クサビはフラフラと街中を歩く。このまま何も収穫が無いままだと、オビトがガッカリしてしまう。せめてクナイか手裏剣を1つくらいは持って帰りたい。そう思っても、金が足りなかった。

 

「お金、欲しいな……」

 

 小さく放たれた独り言を1人の男が、耳聡く聞きつける。下卑た笑みを浮かべた、小太りの男だった。

 不自然に指通りの良さそうな黒髪を揺らしながら、人混みを意にも介せず通行人と肩をぶつけながら、ズンズンとクサビへと近づく。男の息は荒く、頬は紅潮していた。

 

「お、お嬢ちゃん、今、今なんて言った?」

 

 普通の子供なら、明らかに不信なこの男が近づいてくるのを見るに、泣き出したり逃げることを選択するだろう。だがクサビには、危機感が無かった。この世の中には自分の想像の域を超える人間がいるとは知らず、「親切な人かな」などと思いながら、ガシリと外套越しに掴まれた腕を振り払うことは無かった。

 

 男は振り払われなかった自分の手を見て、何かを独り合点し、「そ、そうだよね、ヒ、ヒヒ! ほ、欲しいよね、お金」とブツブツとうわ言を言っている。

 

「誰?」

 

「ぼ、ボクはただの親切な、おに、お兄さんだよ。こっちにおいで、ボクの()()()()をき、聞いてくれたら、お金あげるから……」

 

「おねがい?」

 

 今までクサビのされてきたお願い事と言えば、前に立ち寄った村での「近所の暴れイノシシを退治して欲しい」「溜まったゴミを燃やして欲しい」といった、日々の困り事といったことがメインだった。

 そして対価として食料や小額のお金を受け取ってきていたので、今回の小太り男のお願いごともそのような物だと考えていた。そんなわけがない。

 

 細い腕を掴まれたまま、クサビは引きずり込まれるようにして路地裏へと連れてこられた。男の息は更に荒く、熱くなり、クサビの耳に届くほどの音量にまで大きくなっている。

 

「そ、それじゃあ、まずはね……」

 

 

 

「死ねェ変態が!!!!!」

 

 男が次の言葉を話し出そうとした次の瞬間、クサビの頭上にあったはずの顔が、硬いコンクリートでできているはずの壁に、ヒビを入れながらめり込んでいた。

 

 パラパラと破片が地面へと落ち、男のめり込んでいる頭から、ポトリと黒い何かが落ちる。

――――――髪の毛だ。頭をもう一度見れば、太陽光を反射してライトのように光っていた。カツラである。

 

「フン、これに懲りたらもう二度とこんなことするんじゃないよ」

 

 手をはたき、「イヤなもん触っちまった」と舌打ちをする、端正な顔立ちの美女。パチパチと瞬きをするクサビへと女は体を向けると、人差し指をクサビの頬へと突き刺した。

 

「ガキ、知らない人にはついて行かないって習わなかったか?」

 

「んわぁうわぁう」

 

 グリグリと頬に指を突きつけられ、頭をグラグラと揺らされる。

 

「ハァ………コッチもボランティアじゃないんだよ。あんな連れてかれる場面見ちゃ、目覚めが悪いからね……」

 

「ありがとうございます?」

 

「お前、自分が何されかけてたかわかってるのか?……たくっ、こっち来な」

 

 ハリのある、クサビの手を包むようにして握られた女の手は、少し震えていた。深々と被っていたはずのフードは、男が殴られた時の風圧により落ち、クサビは慌てて被り直す。

 

 

 

 甘味処へと女に連れてこられたクサビは、ソファ席で向かい合ってお茶をしていた。テーブルの上に置かれたみたらし団子を、一口頬張る。モチモチとした食感に米の甘みと、醤油ベースのタレがマッチし、クサビの頬が緩んだ。

 

 女はクサビがあの小太りの男に連れ去られた―――未遂に終わったが―――一部始終を見ていたようで、急いで助けに入ってくれたのだ。そしてどうしてそうなったかを、根掘り葉掘りクサビから聞き出すために―――という名目だが、気遣いもあった―――甘味処へと連れてきた。

 

「アンタ、金が必要なのかい」

 

「今、15両しかなくて……」

 

「15両ォ? やっすいわね、何にも買えやしないじゃない」

 

「せめて150両は欲しくて……」

 

「フーン……」

 

 女は手元にある湯呑みを掴み、口元へと運ぶ。飲み口に口をつけたまま、女はクサビを観察した。ある程度は身綺麗にされているが、()()()()は5歳から7歳ほど、すぐに入用の金、一人でフラフラと歩いている。

 「柄じゃないんだけどねぇ」と心で思いつつ、女は自分がこの子供の歳の頃、何をしていたか思い出す。今は既に亡き祖父に、たいそう可愛がって貰っていた時期だった。祖父の趣味を真似し、甘やかされていたので、現在の趣味にもなっている事をできる場所へと、よく内緒で出かけていた。

 

 

「いい話をしてやろう。すぐに金が手に入って、お前の今ある金でもできることだ。私のツテがあってこそだがな」

 

 たまには、こういうこともいいだろう。気まぐれだ。丁度行こうと思っていたし、貸しをひとつ作るのも良い。

 

「私は()()

 

 翻った緑色の法被の背には、()の一文字。

 

「ガキ、名前は?」

 

「……クサビ」

 

「クサビ、お前、運は強いほうか?」

 

「…………?」

 

 

 

 

 

 

 

「あの()()()()()が連れてきたガキだから、弱いと思うじゃないですか……!!」

 

 俱利迦羅紋紋の入った若い男が恐れ慄く。目線の先には、賭け金は少ないくせに、勝ちの回数が多すぎるあまり着々と金を増やし続けるフードを深く被った男か女かわからない子供。

 

 クサビが綱手から紹介された()()()というのは、賭場を荒らすことだった。150両だけでは賭け金が少なすぎるため、綱手に借金をするという形で1度金をかさ増しし、勝った分の7割を綱手に譲渡するという契約で博打を打つ。

 

(思わぬ拾い物をしたもんだ……!!)

 

―――――――豪運。

 

 

 普段の綱手と対をなす言葉である。クサビの勝ち金の分前はすでに綱手の元の所持金を超え、うなぎ登りに増え続ける。だがその増える金を、一瞬で無に帰してしまうのが綱手だった。

 

「半、6000」

 

「2万両!!! 丁に賭ける!!!」

 

「…………半!!」

 

「ダァーーーッ!!! また負けたァーーー!!!」

 

 勝負をし続けかれこれ2時間ほど、綱手の勝利回数はゼロ。どこかの蝦蟇仙人が見れば、「そりゃあそうだのォ、あの綱手姫が勝てるワケないない」と言う負け具合だった。

 

 脇に控えていた若い男が、クサビの近くに勝ち金を積んでいく。現在のクサビの所持金は、クサビ自身も把握していなかったが、1500両など端金になっていた。

 

「あ」

 

 小さくクサビから声が漏れる。誰にも聞こえなかったようだったが、その目線の先には、少しだけ盛り上がった畳の()から半目で自分のことを見る、見覚えしかない白と黒の顔。

 夢中になりすぎていたのか、ゼツたちが様子を見に来たようだった。その目が物語るのは、「とっとと帰ってこい」ということだろう。だが、クサビは帰れない。

 

 身の回りにある金が多すぎる。山盛り積まれた金は、オビトから預けられた麻袋だけでは到底入り切らず、大きな袋があったとしても、半分ほどしか持って帰れない程。

 持って帰れないのなら、誰かに差し出すか使うしかない。とりあえず、半額までは減らしたい。そこで、クサビが考えている間も賭ける手を停めない綱手に、白羽の矢が立つ。

 

「綱手さん、これ全部あげる」

 

 短い手で半分に割られた札束の山の半分を、体全身を使って綱手の方へと押し出す。町民が一生を掛けて働いたとしても、手に入るか難しい額をポンっと差し出したクサビに、綱手が驚愕した。

 

「は? ちょ、アンタ」

 

「私、人を待たせてるから、帰るね。これ、貰っていってもいい?」

 

 そう指で示すのは、年季の入った―――人ひとりを包めるほど大きい―――風呂敷。この賭場の運営者である男が、見栄と自らの権威を表すために飾っている調度品を持ってくる時に使った物だった。安物ではあるが、若い時に購入して以来買い換えていない。折り畳まれて机の上に置いてあったものを、クサビが目敏く見つけ出したのだ。

 

「……金をくれりゃァ構わねぇよ」

 

――――――男の直感が言っている。

 

 長年、賭場の中で様々な人間を見てきた。下っぱから始まり今のこの地位に居座るまで、底辺の人間からありえないほど高潔な人間まで、幅広い人間を。

 そして、今までの経験から、確信している。こう言っておけばこの男か女かも分からないガキは、金に糸目をつけない。100両に届くか届かないかの値段で買った1枚の風呂敷が、10倍の値段で帰ってくる可能性があると。

 

「ありがとう。これ、どれくらいものか分からないから、全部あげるね」

 

 そう言われて男の前に差し出されたのはクサビの勝ち金の一角――――約1万両。

 

 

 

 

「……よし!」

 

 思わぬ大金を子分たちと山分けしている男を尻目に、クサビは男から買い取った風呂敷に金を詰めていた。大きく息をつき、背中に風呂敷を背負う。所々から札が溢れ、枝毛のように飛び出しているが気にしない。

 

「凄まじいな」

 

 クサビから貰った金を数え終えた綱手が、クサビの背中から飛び出したままの金を見る。

 

「綱手さんはあんまりお金貰えてなかったね」

 

「黙りな。……ひとりで大丈夫か?」

 

 綱手とて、鬼ではない。これでも戦争に参加した身だ。親を無くした孤児や、大人の食い物にされている子供など、掃いて捨てるほど見てきた。だが、たった少しの時間と言えども面倒を見た子供が食い潰されるところなど、見たくは無い。

 

「ひとりじゃないから、大丈夫だよ」

 

「はん……そうかい。ならさっさと行きな」

 

 澄んだ目をしている。昔の自分も、こんな瞳をしていたのか。賭場から出て、少しづつ、少しづつ小さくなっていくクサビを見る。しんみりとした気分にため息を着き、切り替えようと賭場の中へ綱手が戻ろうとした、その時だった。

 

 

「綱手さーーーん!!」

 

 大きな声で、後ろから名前を呼ばれる。綱手の足が止まり、首だけを動かして振り返った。

 

「ありがとーーーー!!!」

 

 大きく息を吸い込んだクサビが、口元に手をやりメガホンに似た形にして、叫んでいる。綱手は目を閉じて軽く笑い、組んでいた右腕を上げ、背を向けたままヒラヒラと振ることを、別れの挨拶とした。

 

 

 

 

 

 

「それでオビトに()()()()()はちゃんと言えって言われてたから、ちゃんと言ってきたよ。これ買ってきた物と余ったお金」

 

 ドサドサドサッとオビトの隣に落とされる袋の数々。中には保存の効く食料に服、頼んでいた忍具―――オビトとしてはクナイ1本買えたら良い方だったが、ありえない数が入っている―――など、旅に役立つだろうとクサビが思った物が入っている。

 それに、金も余りに余った。節制を心掛ければ、しばらく働かなくても良いほどの額である。

 

 

――――――それよりもまず、オビトの中で引っかかることがあった。

 

「つ、綱手ってもしかして、()()綱手か……??」

 

「え、誰? オビト知ってるの?」

 

グルグルが困惑しているオビトへと声をかけるが、聞こえていないようだった。オビトの頭で思い出されるのは、木ノ葉で噂されていた強者の3人。リンも「同じ医療忍者として尊敬している」人だと言っていたその人。

 

「伝説の三忍の、綱手か……?」

 

「なんかそんなこと言ってた、かも?」

 

「うおぉぉマジかよ……」

 

 今の自分たちでは、逆立ちしたとしても勝てない忍だ。すっ飛んでこられると一瞬で地面に埋められるだろう。しかもクサビはあの綱手に、知らないオッサンに連れて行かれそうになったところ―――落ち着けるところに着き次第説教―――を助けてもらったと言っている。

 真っ白な見るからに人じゃなさそうなヤツと、トゲトゲアロエ野郎に挟まれたクサビを見て殴りかかってこない保証はあるだろうか。

 

「離れた方がいいな、これは……」

 

「コノ大量ノ荷物ハドウスル」

 

 ゼツの疑問に答えるようにして、オビトの黒い瞳が赤く変わる。三つ巴が回転し、オビトだけの固有の文様へと変化していく。荷物の置かれた空間が渦巻き、一定の空間を中心としながら荷物が吸い込まれていく。

 

「オレがどうにかする。離れてろよ」

 

 

―――――――――()()!!

 

 何も無かったはずの空間に荷物が吸い込まれ、持ちきれないほどあった荷物が全て消える。オビトの後ろで興味深そうに荷物が消えていく瞬間を見ていたクサビが、「すごいね」と声をかけた。

 

「オビトの万華鏡写輪眼、やっぱり便利だね。違う空間に荷物とか人とか、たくさん入れられるし」

 

「前に色々と試しておいて良かったぜ……こんなことに使うとは思ってなかったけどな」

 

 クローンゼツを実験体に、神威で行くことのできる空間―――――オビト達が神威空間と呼ぶ空間と神威については、研究しつくしていた。

 神威空間には自分や他人、物体など関係無く、なんでも転移させることができる。オビトが何故か攻撃をすり抜けることができたのも神威の能力のおかげであり、チャクラの消費量はものによって変わってくる、というものだった。

 

 だが、懸念されることがひとつ。万華鏡写輪眼は通常の写輪眼とは違った、絶大な力をもたらす代わりに、リスクを背負うことになる。

 

「柱間細胞のおかげで失明する可能性は少ないらしいけど、気をつけてね」

 

「わかってる……」

 

「万能ダナ、千手柱間ノ細胞ハ……」

 

 

―――――失明。

 

 万華鏡写輪眼を酷使し過ぎた人間は、光を失う可能性を常に孕んでいる。その危険性は柱間細胞という万能な細胞が何とかしてくれるが、万が一、億が一という可能性もある。クサビはその可能性がある限り、オビトにはあまりその瞳を使って欲しくなかった。

 

「クサビ、行くぞ」

 

「うん……後で食べようと思って、お肉とか買ってきてたの。後で出して焼こうよ、お腹すいちゃった」

 

「何肉ッスか?」

 

「鶏肉ってお店の人は言ってたよ」

 

「人間ってあの白い羽生えたヤツの肉って食べれるんだ」

 

関心の声を出しながら雑談をしているクサビ、グルグル、ゼツの会話に、オビトが、冷や汗を一滴垂らす。

 

「……もしかして、今神威の空間の中には生肉が()()で放置されてるってことか…?」

 

「ソウイウコトニナルナ」

 

「知ってるかクサビ!! ナマモノってなぁ、腐るんだよ!!! 早く行くぞ、臭くなる!!」

 

 

 「急げ!!」と言うオビトに、「腐る?」「後で教えてやるから!!」というクサビと、「急いでるのはボクなんですけどォ?!!」と野次を飛ばしながら走らされているグルグル、その後ろからは「元気だねぇ」「落チ着キガナイノ間違イダロウ」とゼツが地面に潜って追いかける。

 

 目的地は雨隠れ。そこへ向かって、オビト達は今日も前進していた。

 

 

 






今回綱手様を出したのは「出せるな……」と思ったからです。
あとは五代目火影になって頂いてからしか出せないんじゃないか?あと綱手様難しい。
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