済まない、我慢出来なかったんだ。
箸休めに書いてしまったんだ。
済まない、本当に済まない。
皆は、仮面ライダーの怪人と聞いてどんな怪人を思い浮かべる?
電王のイマジン? ブラックのゴルゴム?
それとも……原初の怪人ショッカー?
歴代仮面ライダーのいずれも敵組織に相応しく、強く、恐ろしい怪人達。彼等とライダー達の戦いの歴史はテレビを通して当時の子供達の記憶に根強く残っていた事だろう。
ただ、俺自身は仮面ライダーを詳しくは知らない。祖父が厳しく、習い事をやらされていた為、テレビ自体あまり見せて貰えなかったから、そもそも当時どんな特撮やアニメの番組があったかなんて知らなかった。
お陰で学友達の間で仮面ライダーの話題が出来た時は………少し、寂しくもあった。
でも一時期、俺が小学二年生の頃。とある事情で転校する前に、俺は一つだけある仮面ライダーの番組を一年通して見ることが出来た。
その仮面ライダーに出てくる敵怪人はどれも生々しくて恐ろしく、それでいて不思議な魅力で溢れていた。
皆は、仮面ライダーの怪人と聞いてどんな敵組織の怪人を思い浮かべる?
そして、もし怪人に改造させられるのだとしたら、君はどんな怪人になりたい?
俺は………。
◇
「おーい白銀、それ片付けたら昼休憩なー!」
「はーい! 分かりましたおやっさん!」
とある喫茶店。コーヒー豆の入った袋を倉庫に置き、着けていたエプロンを取り外す。
「おやっさん。コーヒーの豆、何時もの所に置いておいたよ」
「なぁ白銀、お前バイトなんだからいい加減俺の事は店長って呼べよ」
「えー、良いじゃないですか。親しみありますよ? おやっさん」
「お陰で堅物イケおじを通していた俺のキャラ作りが台無しだ。どうしてくれるんだよ」
「いや、店名の時点で絶対狙ってたでしょ。この間もバズりを狙いに来た自称ライダーファンが来てたし」
この喫茶店【ポレポレ】は店の名前から多くの仮面ライダーファンが訪れる謂わば穴場な店、店の内装や雰囲気はまさに当時の子供達が見ていた
「仮面ライダーなぁ、俺あんまり詳しくねぇんだよ。ガンダムだったら一日中語れるんだが……」
そんな一部界隈では人気を博している【喫茶ポレポレ】だが、店長であるおやっさんは生粋のガンダムオタクで仮面ライダーの事は触り程度しか知らない。店の名前の由来も背中を
ただ、おやっさんの作る珈琲や料理は絶品で、値段もお手頃な事から良く学校帰りの生徒や仕事帰りのOLのお姉さんなんかも脚繁く通ったりしている。
俺のおすすめはオムライス、カレー、ナポリタン。特にカレーはおやっさん秘密のスパイスがブレンドしている為に絶品で、これが不思議と珈琲と良く合うのだ。
「ホレ、カレーが出来たから食ってけ。今日は午後も宜しくな」
「ウッス、ゴチになります!」
バイトで稼ぎながら大学に通う。そんな、どこにでもいる大学生の
◇
「いやー、やっぱりおやっさんの作るカレーは絶品だなぁ。アレで大盛込みで500円って、採算取れてんのかなぁ」
夕暮れ時。バイトも終わり、俺は現在の住みかであるアパートに向かって中古で購入したバイクに跨がり、エンジンを吹かせながら風を感じていた。
高校を卒業し、大学へ進学する事になった俺は都会に出る事を反対していた両親を説得し、見事一人暮らしを勝ち取る事になった。
説得といっても、両親は幼少の頃から何かと虚弱体質で、そんな俺の事を心配していただけ、昔の俺は今と違いガリガリの細身で、吹けば倒れる程のモヤシっ子だった。
小学校に上がっても同年代の子達と比べて痩せていた俺は、端から見れば栄養失調児童にも見えたのだろう。学校から指導が入り、どうすれば良いかと頭を悩ませていた両親は医療薬学の資格免許を持つ田舎の祖父の下へ預ける事になった。
祖父は優しくも厳しい筋骨隆々な人物で、昔は熊を素手で倒したと言う逸話があったりする(ホントかよ)。
そんな祖父の下に預けられた俺は、祖父のしている習い事───空手をやらされ、徹底的に身体を追い詰める特訓をさせられた。
祖父との特訓は中々に厳しく、控えめに言って地獄だった。長い神社の階段をうさぎ跳で駆け上がったり、川辺では上半身に重りを付けてのタイヤ引き、昭和も画やという特訓の数々に当時の俺は祖父に対して相当口が悪くなっていた。
けれど医療薬学精通していたのも事実で、祖父が山から取ってきた薬草を処方されたりしていたら、いつの間にか虚弱体質は改善し、俺の身体は小学四年生に上がる頃はクラスの中で頭一つ分体格も大きくなっていた。
そんな祖父から習った鍛錬を今も自分なりにアレンジして続け、大学にバイトと充実した日々を送っている。
幼少期に比べたら破格の健康優良男児。風邪も引かず、大きな怪我なく成長できた今となっては、祖父に感謝してもしきれない。
「いや、それでもやっぱ小2の子供に延髄蹴りはないだろ………ん?」
当時の思い出を思い返していると、ふと視界の端にあるものが映る。中古雑貨店のショーウィンドに飾られている緑と赤と白、独特なコントラストが描かれているソレは、まるで遠い誰かを待っているような……。
普段は寄り道なんかしないのに。気付けば、俺はバイクを駐車し、店の中へと入っていた。
◇
「まさか、俺が衝動買いしてしまうとは………」
現在住居のアパートの自室、俺はあの雑貨店で購入したブツをテーブルの上に置き、我ながら呆れていた。
【仮面ライダー】
それは知る人ぞ知る知る、日本に住まう者であれば知らぬものはいないとされる三大ヒーローの一角。怪人組織であるショッカーと戦い、あの伝統的な必殺技であるライダーキック等の生みの親。
昭和から平成、令和と時代が移ろう度に姿形を変え、時には怪人と戦い、時にはライダー同士で戦ったり等、様々な経緯で戦う仮面のヒーロー。
中でも、俺が購入したフィギュアである仮面ライダー一号は、歴史の長い仮面ライダーの中でも始まりの存在である事から、その界隈ではレジェンドヒーローとして語られている程であるとか。
そして目の前にあるフィギュアはその中でもプレミア価格で販売され、中古の品でありながら2万もした。お陰で購入した際は顔がひきつり、今も尚箱から取り出せずにいる。
「店員さんが言うには、かなりのライダーオタクだそうだけど……そんな人がどうしてこんな状態の良いヤツを手離すんだ?」
店の人が言うには、売りに来た男性は相当な仮面ライダー………それも、一号のオタクなのだという。処分する形で売りに来たグッズの数は百を優に超え、アレだけの数のグッズを揃えるには100万や200万では利かないだろうと。
好きなモノを集めるのに、コレクターなら金額に左右されないと聞くが………だからこそ俺は気になった。それだけの情熱を持ちながら、どうしてその人は手離してしまったのだろうか。
単に飽きたのか、それとも何か別の理由があるのか、売りに出した人の胸中を思うと、何故か胸の置くが無性に締め付けられる気がした。
「………ま、たまには無駄遣いも良いだろ」
まるで言い訳みたいな言葉が口から溢れる。それは、一体誰に対する言い訳なのか。
「っと、それはそれとして夕飯の買い出しに行かないと………仕方ない、今日は近くのコンビニへ向かうか」
昼はバイト先の賄い飯を食べられたから、夜はコンビニ飯でパパッと終わらせるとしよう。
そうして再び外行き用の服に着替え、俺は夜の外へと脚を進めた。
………今思えば、この時が分岐点だったのだろう。
あの時、俺が夜のコンビニに向かわず、家で大人しくしていれば、俺は今も普通の大学生でいられたかも知れない。
「「「イーッ!!」」」
「………は?」
それは、全身黒ずくめの変態………いや、戦闘員だった。
昨今街を騒がせているショッカー強盗じゃない。
俺に向けている殺意が、俺が感じている殺気が。
全身を刺してくる様な、底無しの悪意。
何より、俺の鼻から流れる血が、フィクションではないと教えてくれる。
俺の、目の前にいるのは───ショッカーだ
「目撃者か」
「ッ!?」
複数の戦闘員の中から現れるのは、異形の者。
「………怪………人」
「蜘蛛男様。この男、どうしますか?」
見下ろしてくる三つの複眼、おぞましく、恐ろしく、そして気色悪い。人と怪物が融合した怪人。
「今の所、戦闘員に困ってはいない。────殺せ」
「ッ!?」
その場から立ち去りながらの無慈悲なまでの宣告、戦闘員を束ねている蜘蛛男の一言はその場にいる戦闘員にいとも簡単に殺害許可書を与える。
「「「イーッ!!」」」
右手を上げ、戦闘員達が任務受諾のサインを告げる。逃げ場はない、逃げ道もない。それであれば………戦うしかない。
「イーッ!」
「アグゥッ!?」
戦う? バカを言うな。相手はフィクションから飛び出してきた創作物のキャラクターだぞ。ただの人間でしかない俺が、どうやって戦うと言うのだ。
そもそも、ショッカーは戦闘員という下っ端扱いされているが、その膂力は常人の数倍。生身の人間とは根底から違っているのだ。
ただの、少しだけ空手を齧っただけの大学生が、武器も持たずに戦える相手じゃない。
そんな、どうしようもない現実が、瞬く間に俺自身を追い詰めていく。
「イーッ!」
戦闘員が殴り、防いでいた腕が折れる。
「イーッ!」
戦闘員が蹴り、肋骨が砕ける。
口から血が吐き出し、顔を殴られて歯が折れる。
複数人からの袋叩き。なんだこれ、なんだこれ?
「結構しぶといな。人間にしちゃあ中々に頑丈だ」
「戦闘員にすりゃあいい線行きそうなのに………運がねぇな」
「た、たすけ……」
髪を捕まれ、無理矢理に立たせられる。顔はボコボコ、全身血塗れ。全身が冷たくなっていく……。
「悪く思うなよ」
そういって、握り締めた拳を振りかぶってきたショッカー戦闘員。
(……これ、が。俺の最期かよ。なんてふざけたフィクション………なんだ)
嗚呼、こんな時“彼”であればどうするのか。
いや、決まっている。彼ならば、あの
きっと───
「アハハ───」
「────え?」
ふと、俺の口からそんな間の抜けた声が漏れる。
何故、俺は生きている? 殺されることを悟った俺が最期に記憶していたのは、俺を殺そうとしていたショッカーの戦闘員。
痛みは
いや、それよりも何よりも………何故、ショッカー戦闘員達は消えている? 辺りに散らばるのは何かが
それも複数。い、一体何が起こったのだろう?
「それとも………全部夢? 妙に現実味があったけど……」
確かに体幹は鍛えている方だとは思うが、それでも立ったまま居眠りするか? それも、夢を見る程の。
「ひ、ひ……」
「ん? うぉ! ショッカー!?」
声のする方へ振り返れば、そこには例の全身真っ黒の戦闘員。やっぱり夢ではなかったのかと唖然とするが………どういう訳か、様子がおかしかった。
脅えている? 腰を抜かし、その場に座り込んでいる戦闘員は俺の方を見てガクガク震えている。あ、コイツ小便漏らしてる。
「だ………だ………」
「ん? だ? なんだよ、何が言いたいんだよ!」
「ヒィィィィッ!!!」
俺に指を向けて何かを言っていたその戦闘員は、俺がつい声を荒げてしまうと、涙と鼻水、それと小便を撒き散らしながらその場から走り去ってしまった。と言うか、戦闘員って生理機能あったのか。
人を指差し、化物を見るような目で走り去っていく戦闘員。未だ混乱の淵から抜け出せていない俺は、ふと路上駐車された車に眼を向ける。
「……………………………………………………は?」
サイドミラーに映るのは───白と金。
俺は、この姿に見覚えがあった。
白の体躯に金の角。原始的な姿でありながら何処か神秘的でもある。とある特撮ヒーローのラスボス。
【白き闇】或いは【究極の闇をもたらす者】。
「だ、ダダダだだダダダだ………」
皆は、仮面ライダーと聞いてどんな怪人を思い浮かべる?
カブトのワーム?
そしてもし、もしも怪人になるのであれば、君はどんな怪人になりたい?
俺? 俺はね…………
「だ、ダグバだぁぁぁぁぁッ!!!」
なんか知らんが、ダグバになってました。
Episode01【からっぽな星】
File01
白銀白斗
本作の主人公。幼少期の頃は身体が弱く、両親によく心配されていて、病院でも原因不明と匙を投げられていた。
山沿いの田舎町に住む祖父が一時引き取り、日々荒療治という名の鍛錬を叩き込まれる。
祖父の煎じた薬草や自然に囲まれた環境のお陰か、虚弱体質は改善。
その後も日々鍛錬し、高校を卒業する頃には立派な細マッチョになる。
ただ本人としては細マッチョよりももっとがっしりした体型に憧れている模様。
熊は倒せない。
趣味はバイク。仮面ライダーは【クウガ】しか詳しくは知らない(自称)。
蜘蛛男や蝙蝠男もいるんだからダグバがいてもええやろ。