ダグバになっちゃった。   作:アゴン

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 今回は話がくどいかも知れません。
 ご容赦ください。

 そんな訳で初投稿です。


Episode10

 

 

 

 島村一葉さんの自宅にお邪魔して翌日、俺が創っている東島さんのベルトは元々進んでいた事あって、既に全工程の八割ほど完遂された。

 

 オッサン達が寝ている間に行っていた作業だった為に徹夜となってしまったが、この数日はここ数年体験したことのない充実した日々だったと思う。

 

 そう思える時点で、俺もだいぶあの人達に毒されたんだなー。なんて思ったりしたがそれはそれ、ベルトに対する改造工程はもうすぐ終了するという事で、今日俺は東島さんに仮面ライダーのお面の貸し出しを申し出た。

 

「仮面ライダー変身ベルトの完成が近いから、予定通りお面の方を貸して欲しい」

 

 そんな俺のお願いに東島さんは歓喜の涙を流しながら承諾してくれた。

 

 お面の方はベルトと違って其処まで難しい改造ではないが、ベルトとの相互作用の為の繋がり(リンク)を構築しなければならない作業がある為、少しばかり時間を必要としてしまう。

 

 故に完成まではあと一週間、或いは五日程掛かるかもと言葉を濁したが、東島さんは相変わらず号泣したまま承諾してくれた。

 

 40年の月日を生きて漸く自分の願いが叶う。そんな喜びを前にしたら数日待たされる程度なんてどうとでもないらしい。

 

 ただ、その代わり興奮が覚めず、その日はまるで遠足を前にした子供のように眠れなくなったらしい。今日俺の作業を身に来た時もかなり濃い隈が出来ていたから、本当にそうなんだろうなぁ。

 

 こちらとしては、期待ばかりされてプレッシャーが半端ないけどね。試運転(テスト)とかしてないし。

 

 ただ、創っている途中の現段階において俺はこのベルトの完全なる完成を確信している。このベルトに動作不良は起こらない、然るべき条件が揃った時必ずこのベルトは本来の力を発揮するのだと。

 

 ダグバとしての勘か、それとも別の要因か。創り続けていく内に俺の中にはそんな根拠のない確信と自信が芽生えつつあった。

 

 そんな今日、俺が東島さんのお面を改造していると、ふと外から気配がした。何だと思い玄関先の戸を開けて外に出ると、其処には先日裏切り者の戦闘員を粛清して回っているという女戦闘員が立っていた。

 

「んなッ!?」

 

「あ、お前……」

 

 向こうも俺が出てくるとは思ってなかったのか、驚いて目を見開いて驚きを顕にしている。前も思ったが背丈がデケェな、肩幅もあるし全体的にイカツイ。

 

 戦闘員になる前はプロレスラーでもやってたんかな?

 

「何の用だ。ワザワザ命を拾ったってのに……自殺願望でもあるのか?」

 

「あ、あう……」

 

 アカン、命のやり取りをした相手だからついドスの聞いた声が出てしまう。実際目の前のデカ女からは命を狙われたのだ、警戒するのも仕方がないと言える。

 

「一体何しに来やがった。中尾さんを殺しに来たか? それとも……蝙蝠男の敵討ちか?」

 

「っ!!」

 

 俺の言葉にデカ女はその顔に敵意を滲ませて後ろに飛ぶ。困惑と恐怖に苛まれ、顔から大粒の汗を幾つも垂れ流している。

 

 やはり、蝙蝠男が死んだことは半信半疑だったか。酷い緊張状態となっているデカ女に、俺は作業を一時中断することにして前に出る。

 

「中尾さんは今東島さん達と特訓中だ。つーか、アンタはまだ裏切り者の粛清とかやってんのかよ」

 

 中尾さんもショッカーの洗脳から逃れた個体とされており、現在は俺達の仲間として特訓している。恐らくは、中尾さんを付け狙った女戦闘員もコイツなのだろう。

 

「お前は……」

 

「あ?」

 

「お前は、ショッカーじゃないのか?」

 

「違うな。俺はショッカーの怪人になった覚えはない」

 

 グロンギ最強の怪人(ン・ダグバ・ゼバ)にもなった覚えはないんだけどね。

 

「それで、ショッカーの処刑人が何の用だ? 殺すつもりで仕掛けてくるってんなら……相手になるぞ?

 

「ヒッ」

 

 どうやら、彼女の中ですっかり俺はトラウマの対象になってしまったらしい。少し凄んだだけで怯えてしまう彼女は、もうマトモに会話する事は叶わないだろう。

 

 どうしたもんかなと、俺が頭を悩ませていると……。

 

「ライコ! サンダーライコじゃないか!!

 

 午前の特訓を終えたらしい東島さん達が雑木林の向こうからやってくる。中尾さん、コイツと知り合いなんです?

 

「中尾さん、このデカ女と知り合いなんですか?」

 

「あぁ! サンダーライコっていう女子プロレスラーだ! 俺、ファンだったんだよ!!」

 

 このデカ女───サンダーライコは、その界隈の中では結構有名な女子プロレスラーらしく、その熱い戦いに中尾さんは真性のファンになったらしい。

 

 数着しかない直筆サイン入りTシャツを持っているらしく、その熱の入れようは凄まじい。それを聞いたライコは見るからに嬉しそうにしているが……。

 

「でもコイツ、ショッカーですよ」

 

「エッ!?」

 

「ッ!?」

 

「なに!?」

 

「ショッカー!?」

 

  俺の何気ない一言に動揺する中尾さんとライコ、東島さんと一葉さんの二人に至っては既に戦闘態勢に入っている……が、東島さんはお面を手元に置いていないことを思い出し、一人アワアワしていた。

 

 一触即発の空気。けれどその中で最初に動いたのは意外にも中尾さんだった。

 

「待ってくれ! ライコとは俺が相手をするから、どうか待ってくれ!」

 

 余程デカ女に思い入れがあるのか、懇願する中尾さんに俺達も困惑する他なかった。顔を見合せ、視線でどうするか話し合う俺達は一先ずそちらから仕掛けなければなにもしない事を約束した。

 

 一葉さんは妙な真似をしたら即座に電熱チョップを叩き込むと息巻いていたが……まぁ、当然な対応だよな。

 

 因みに東島さんは自分だけ仮面ライダーとして戦えないことに肩を落としていた。ごめんて。

 

 俺は……特にないかな。中尾さんや俺達に危害を加えない事を約束するなら、俺から何かするつもりもないし、干渉するつもりもない。

 

 俺も………人殺しだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから二日の時間が流れた。サンダーライコはオッサン達との特訓に参加し、中尾さんの作る料理に舌鼓を打ちながら堪能し、心身ともに回復してから田舎から去っていった。

 

 サンダーライコがやってきたのは、蝙蝠男の行方を追い助成するつもりが途中で道に迷ってしまい、空腹状態で田舎道を彷徨っていた所、感じ取れる戦闘員の気配を感じ取り、それを頼りに歩き続けた結果、一葉さんの家にやって来たという。

 

 本当は直属の上司である蝙蝠男の為にダグバ()とは刺し違えるつもりでいたが、蝙蝠男は既に殺されたという現実を前に心が完全にへし折れたという。

 

 自分を最強の怪人に育て上げると言ってくれた蝙蝠男が死に、自分だけが生き残った。ショッカー戦闘員としての生きる目標を失った彼女は、結局次なる目標を定められず───。

 

「俺と、付き合って欲しい!!」

 

「お、オッサン過ぎて100%無理!!」

 

 何と、ファンから一転して一切の脈絡も糞もない勢いだけの中尾さんのガチ告白に圧倒。サンダーライコは逃げるように去ってしまった。

 

 いやどういう事? 何で急に告白なんてした? そんな自分の問いに中尾さんはファンとしての好きから異性の好きに昇格したのだと、そう豪語する。

 

 なに? 前向きに生きることを決意すると其処まで心が強くなれるの? 一回り以上年下の女性にガチの告白とか、一周回って劇薬じゃねぇか。ダグバにだって創れねぇぞそんな劇薬。

 

 でも、一葉さんも岡田先生に手酷くフラれて尚、片想いでいさせてくれという食い下がりを見せ付けてくるのだから、案外そういう生き方はバカに出来ないのかもしれない。

 

 いや、やられる方は傍迷惑だわこれ。

 

 サンダーライコにフラれ、それでもこの恋を諦めきれないと語る中尾さんは、その勢いのまま先日手酷く敗れた軍鶏との戦闘(リベンジ)開始。

 

 その時の場面を俺も目にしていたけど、あの軍鶏やべぇな。マジで歴戦の戦士みたいな貫禄なの、一葉さん達のお婆さんが育てたと言ってるけど、そのお婆さん何者?

 

 ……そういや昔、爺さんが言ってたっけ。『向こうの山を三つ程越えた先にワシの好敵手の一人がいる』

 

 『そやつは自らだけでなく、動物を鍛える事にも長けておった』とか、もしかして爺さんの好敵手がそのお婆さんだったり?

 

 いやいや、まさか……ねェ。

 

 そんな風に人の縁について考えていると、中尾さんVS軍鶏の決着は付いた。軍鶏の攻撃をいなし、僅かな隙を見付けた所に叩き込んだ中尾さんの渾身の一撃は確かに軍鶏を捉えた。

 

 現役であれば人一人殺せそうな迫力を持つ軍鶏。吹き飛び、地を這いながら、それでも立ち上がる軍鶏に中尾さんは深々と頭を下げ、今回の勝負を引き分けという事にした。

 

 声からして何か憑き物が落ちたような中尾さんに、軍鶏も何かを感じ取ったのか、一声上げようとした瞬間……猫が、軍鶏の首に噛み付いた。

 

 その時の俺達の心境は、ただただ呆然。言葉を失い、猫に連れ去られる軍鶏を俺達は見送る事しか出来なかった。

 

 あの猫、この家の猫じゃなかったんかい!

 

 大自然の厳しさ、世の諸行無常を前にそれでも俺達は揃って涙を流し、敬礼していた。

 

 いやなんの時間?

 

 そんなこんなで、割りと濃い時間を過ごした俺の方も、もうすぐ一つの区切りを迎えようとしていた。

 

 

 即ち、ベルトの完成。もうじき東島さんのベルトが一つの形となる。そうすればダグバ()という脅威に対する一つの抑止力も完成する。

 

 ………もし、もし俺がショッカーに改造されたダグバではなく、別の要因でダグバになってしまった存在だというのなら、俺はもしかしたら元の人間に戻る事は出来ないかもしれない。

 

 これまでうっすらと考えてきた可能性。そして最悪なのは俺が心身ともにグロンギに染まり、第二のダグバになってしまうことだ。

 

 そうなればもうダグバは止められない。止められるとしたら、それは……仮面ライダーだけだ。

 

 だから俺は東島さんに託した。万が一の時は遠慮なく俺を殺すことを。

 

 勿論、東島さんだけに押し付けることはしない。一葉さんや三葉さんも巻き込むし、申し訳ないが岡田先生にも頼むつもりだ。

 

 何処までも仮面ライダーに真摯で、何処までも仮面ライダーを愛する人達。彼等ならばきっと、ダグバになった俺を倒す事が出来るだろう。

 

 ………まぁ、それを怖くないと言えば嘘になるんだけどね。

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその翌日、俺はどういう訳かいつぞやのトーナメント戦の時の様に、一葉さん家の庭先に立っていた。

 

 困惑する俺の目の前に立っているのは、ショッカー元戦闘員である中尾さん。上裸でタバコを吹かすその姿は正に武闘派ヤクザと呼ぶに相応しい。

 

 年齢(とし)の割りに鍛えられているだけあって、どこぞの如くなゲームに出てきそうな雰囲気を纏っている。うん、普通に怖ェわ。

 

「えっと、中尾さん? なんで俺と決闘なんて?」

 

 事の発端は朝、朝食も終えて東島さんの変身ベルトも総仕上げだと励もうとした時、中尾さんからの唐突な決闘宣言に俺は勿論、東島さんと一葉さんも戸惑っていた。

 

 理由を聞いても「庭で待つ」の一点張りで、とりつく島もない。普段は話の通じる気さくな人だと思っていただけに彼の変貌ぶりにはちょっぴり悲しくなった。

 

 二人に相談した所でマトモな返事が返ってこないのは分かっているので、仕方なく俺は中尾さんの待つ庭先へと向かい………現在、こうして対峙している訳なのだが。

 

「理由………か、その前に俺から質問だ。白銀、お前は今自分の事をどう思ってる?」

 

「どうって……」

 

 何故だろう、中尾さんの質問の意図がよく分からない。何かを言葉を発しようとしても、喉から先が上手く出てこない。

 

「質問を変えてやろうか。お前、自分の事なのにイヤに他人事じゃねぇか?」

 

 他人事、そう言われると俺の中で何かが引っ掛かる。

 

「それはお前がダグバだからか? ダグバになって戦闘員を殺したからか?」

 

「…………」

 

 言葉がつまる。反論したいのに、喉に何かが塞き止められた様で、掠れた呼吸音しか出てこない。

 

「俺が気に入らねェのは、テメェが本気で生きていねェからだ。たかが戦闘員を、怪人を殺した程度で、この世の全部を背負った気になってんじゃねぇよ!」

 

「っ!」

 

 だが、その一言は俺の神経を明確に逆撫でる。戦闘員を、怪人を殺した“程度”と語る中尾さんがどうしようもなく不快に感じてしまう。

 

「この期に及んで黙りか。良いぜ、なら先ずはテメェのそのねじ曲がった性根を叩きイーッ!直してやる!!」

 

「!」

 

 右手を掲げ、中尾さんは戦闘員の姿へと変身する。鋭い眼だ。東島さん達と一緒に鍛え、時には倒れるまで自身を追い込んできた中尾さんには、これ迄俺が対峙してきた戦闘員とは異なる凄味があった。

 

「行くぞダグバァッ!!」

 

「ッ!?」

 

 地を蹴り、戦闘員としての膂力を充分に活かした飛び蹴りが飛んでくる。俺は咄嗟に両腕を交差させて防御の姿勢に入るが……。

 

(おっも!?)

 

 地に足を付けていた体が浮き、吹き飛ぶ。ショッカー戦闘員は基本(ベース)となる元の人間の身体能力に合わせて個体によって戦闘力が変動するというが……。

 

(今の中尾さん、普通に怪人にも通じるんじゃ!?)

 

 戦闘員に変身しているとは言え、膂力が並みの人間を超えている。東島さん達と混ざりながら鍛練してきた俺だから理解できる。

 

 今の中尾さんは、強い。これが、全力で前向きに生きることを誓った人の強さ!

 

 雑木林まで吹き飛んだ俺は、転がりながら衝撃を逃がし、立ち上がる。既に中尾さんは眼前まで来ていて、その後ろには東島さん達が駆け寄ってくる。

 

 余裕の表情を浮かべて中尾さんは俺に言う。

 

「お前は変身しないのか?」

 

「………しない、そもそも俺にはアンタと戦う理由なんて」

 

 中尾さんがダグバに変身を促してくるが、俺はそれを拒否する。如何に中尾さんが強くなろうと、ダグバに変身した俺を相手に無事で済む訳がないからだ。

 

「他の戦闘員相手には変身出来るのにか?」

 

「っ!」

 

「白銀、お前のその線引きの根拠は何処にある? 相手はショッカーの尖兵、普通にお前の……俺達の命を()りに来るんだぞ」

 

「でも、彼等だって元は人間だ。なりたくて戦闘員になった訳じゃない」

 

 ショッカーの戦闘員へと改造され、ショッカーの為に働くことを洗脳された彼等の存在を。どうして加害者の一人として切り捨てられる。

 

 被害者なんだ。彼等も、彼女達も、ショッカーに改造され、無理矢理人の枠組みから外された人達。そんな人達を俺は一方的に殺した。

 

 彼等が命を容易く奪ったように、俺もまた容易く彼等の命を奪った。一方的に、一切の慈悲与えず、容赦なく。

 

「白銀、お前の気持ちも分からんでもない。俺も元ヤクザだ。“そういう場”に出会(でくわ)したのは一度や二度じゃねぇ」

 

「だから、割り切れと?」

 

「それは俺が決める事じゃねぇ」

 

 酷い言い草だ。一方的に言い掛かりを付けて、その癖大事な所は自分で決めろと言う。

 

「だが、それ以上に俺は気に入らねぇ。他人に対してお節介を焼くテメェが、自分には無頓着な事にな」

 

「別にお節介なんて」

 

「アイツ等に変身ベルトを創ってやってる時点で、お節介以外の何者でもないだろうが!」

 

 そういって今度は拳が飛んでくる。実際、ベルトの事に関しては中尾さんの言うことも当たっている部分があるので否定できない。

 

 イヤだって、俺がダグバに変身する時の二人の目、ヒーローショーを目の当たりにした子供のソレだもん。

 

 30代と40代のおっさんが向けて良い眼差しじゃねぇよ。罪悪感で心が痛むわ!

 

44歳の拳(フォーティーフォーマグナム!!)!!」

 

 そんな事を考えていたら、中尾さんから繰り出される渾身の一撃が俺の顔面を捉えた。

 

 暗転する視界、痛みと衝撃に堪らず鑪を踏んで後退る。

 

 たらりと、鼻から暖かいモノが流れてくるのを感じる。まさかと思いソレを拭うと………赤い液体が付着していた。

 

 血だ。生きている証、俺が人である証、俺が───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────アハハ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 その顔を見た時、中尾八郎が最初に選んだのは、地に這いつくばるような全力の“伏せ”であった。

 

 ヤクザとしての鉄火場に対する経験と動物としての危機的本能、理屈も根拠もない第六感が中尾に全力の回避を命じた。

 

 全力の五体投地をしたその刹那、自身の頭があった場所に何かが通過する。轟音と共に耳にする物体が砕かれる音、何が起きたか確認する為に視線を後ろへ一瞥した中尾が目にしたのは、自分の後ろにあった大木がへし折れる様だった。

 

(マ、ジかぁっ!?)

 

 中尾は東島丹三郎と島村一葉に揉まれ、今日まで己を鍛えてきた。お陰で44歳の身でありながら胸を張れる程の膂力を手にし、軍鶏()との激闘を経て自信を付けていた。

 

 今の自分なら、無駄に年齢(とし)を重ねてきた自分でも、何かを示してやれるのではないかと一人悩む若人の為に何かができるのではないかと、そう思っていた。

 

 けれど、それは自分の思い上がりなのかもしれない。ダグバに変身せず、生身で大木をへし折る白銀に中尾の心もまた折れ掛けていた。

 

 目が合う。白と黒が反転した眼、狂気と恐怖を思わせる眼差しを前に、中尾は自分の自惚れに絶望する。

 

(やっぱり、俺じゃあダメなのか。俺なんかが、誰かの為にだなんて………)

 

 其処まで考えて……立ち上がる。彼の脳裏に浮かぶのは三人の舎弟達。

 

『『『アニキだけでも逃げて下さい!!』』』

 

 涙と鼻水を流し、女戦闘員の軍勢を前に殺される恐怖を噛み締めながら立ち向かった情けなくも愛しい舎弟達。

 

 あの三人に胸を張れる男に俺はなれているか?

 

 一瞬の自問自答、そして出てくる答えもまた即答だった。

 

「おっラァッ!!」

 

 蹴りを放つ。傾く体を受け身すら取らずに擲つように身をよじりながら放たれる蹴りの一撃は、白銀の顎を捉えた。

 

 “卍蹴り”

 

 視覚の外から放たれる一撃、警戒していなかった箇所への不意打ちは白銀の視界を再び塞ぐ。

 

 しかし、既に白銀は次の行動に移っていた。その場から跳躍し、上から狙いを定めてくる彼の獲物を見付けた怪物の笑みを前に、中尾は死ぬ気でその場から跳躍する。

 

 瞬間、中尾がほんの一秒前にいた場所に白銀の飛び蹴りが突き刺さり────地面が爆発する。

 

「ウワァァァッ!!」

 

 衝撃に悲鳴を上げ、転がりながら吹き飛ぶ中尾は何とか体勢を整えて立ち上がる。

 

「おい何かヤバい音がしたぞ!」

 

「ヤクザ、生きてるか!」

 

「中尾だ! 何とか生きてるよ」

 

 追い付いてきた東島と島村が明らかに様子のおかしい白銀を前に身構える。しかし中尾は手出しはするなと二人を遮るように手を伸ばす。

 

「手を出さないでくれ、コイツの相手は俺がやる」

 

「だ、だが……」

 

「頼む」

 

 覚悟を決めた男の顔、決意に満ちた表情で頼み込む中尾に二人は傍観するしかなかった。

 

 白銀が来る。自分の渾身の一撃を受けても微動だにしなかった男が、正気を失った眼で自分を見据えている。

 

 怖い。恐怖で手が震え、脚が竦む。けれど、それでも中尾の頭に後退の二文字は浮かばなかった。

 

「ここで逃げたら、格好が付かんだろうが!!」

 

 汲み上げてくる恐怖を気合いで呑み込み、竦む脚を殴り付ける。それは誤魔化しであり、中尾の精一杯の強がりだった。

 

 走る。自分を見据え、正気を失っている白銀の眼を覚ます為に中尾は命がけの特攻を仕掛けた。

 

 誰よりも助けを求めている青年に手を伸ばす為に、怪人と人間の狭間で苦しむ友人(ダチ)を助けるために、中尾八郎は走り出し───跳躍。

 

 白銀が軋む拳を振り上げる。飛び込んでくる中尾に最上の一撃を叩き込む為に。

 

 タイミングはドンピシャ、中尾の顔面が射程距離に入った瞬間───白銀は拳を振り抜く。

 

 唸りを上げて迫る白銀の拳を前に、中尾の脳裏に走馬灯が浮かぶ。このままでは自分は首から上を吹き飛ばされて死ぬ、逃れられぬ死を前に中尾の顔が恐怖で歪んだ瞬間………。

 

 一瞬だけ、白銀の拳が止まる。白銀自身が戸惑いの表情を浮かべる一方、中尾は確信した笑みを浮かべる。

 

 それは、紛れもなく白銀の人間(ヒト)としての心の残滓。まだ失われていない彼の善性を前にして。

 

44歳の拳(フォーティーフォーマグナム)!!」

 

 中尾は人生最大の一撃を見舞うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───結局、何がしたかったんだよ。アンタは」

 

 気付けば、俺は雑木林の中で仰向けになって倒れていた。

 

 ズキズキと痛む体の節々、隣を見れば自分と同様に倒れている中尾さんがいた。

 

「俺はただ、お前に潰れて欲しくなかった」

 

 俺と同じ様に空を見上げ、呟くように答える中尾さん。彼の言葉の意味を理解した俺は、自分の心境を吐き出す事にした。

 

「俺さ、ダグバだからさ、別にポーズを取らなくても変身できるんだよ、怪人みたいに、念じただけで変われちまう」

 

 原作のダグバの様に……その場で佇み、超越者のように悠然と立ち尽くしながら、変わることができる。

 

 そうはせずにクウガと同じ様にポーズを取るのは、自分がまだ人間である事を証明したいだけの……ただのパフォーマンス。

 

 そうしないと、本当に自分がグロンギに染まるようで、白銀白斗の人格が最初から無かった様に薄まっていく気がして……。

 

「最初にあった蜘蛛男も、その後に襲ってきた蝙蝠男も、俺の事は知らなかった。あくまで俺と言うイレギュラーを情報として共有しているだけだった」

 

 それは、暗にショッカーには自分に関する情報は持ち得ないと言うこと。それはつまり……。

 

「俺は、ショッカーとは無関係である可能性が高い」

 

「………」

 

 絞り出す俺の言葉に中尾さんは応えなかった。

 

「なら、俺は一体何なんだ? 俺はいつダグバになった? 俺の記憶の中にある父と母との記憶は、祖父との思い出は本当に現実にあった事なのか?」

 

 もう、俺には何が本当の事なのか分からない。自分は本当はグロンギで、ただ人間のフリをしていただけのダグバなのか。

 

 誰か、教えて欲しい。俺は………一体何者なんだ。

 

「あるぞ、一つだけ」

 

「………え?」

 

「お前がお前として成り立つもの、一つだけある」

 

 起き上がる中尾さんが、俺を見下ろして言う。

 

「簡単なことだ。なっちまえば良いんだよ、お前も。仮面ライダーに」

 

「─────」

 

 仮面ライダー。そう語る中尾さんは笑っていた。

 

「元々仮面ライダーは怪人から生まれたんだ。だったらお前がグロンギ………ダグバだとしてもなれる筈だろ」

 

「俺が………仮面ライダー?」

 

「そもそも、そこに自称仮面ライダーが二人もいるんだ。今更一人増えても、大して変わりはないだろ」

 

 自分が誰か分からないのなら、自分で決めれば良い………か。

 

「仮面ライダー《ダグバ》か。ハハ、ウケる」

 

「おっ、いいじゃねぇか。格好いいぜ」

 

 その日の俺は………久し振りに心から笑えた気がした。

 

 

 

 

 

 

「あ、でも今日の件で1日潰れたから、東島さんの変身ベルトのお披露目は後日に延期ね」

 

「よし、歯を食いしばれ、介錯してやる」

 

「お前はもう少し広い心を持て!!」

 

 その日、中尾さんは二度目の修羅場を味わう事になる。

 

 

 

 




Q.サンダーライコは今後どうなる?
A.そ、その内プロレスラーに復帰するから。


Q.白銀くん、八割くらいダグバ化してない?
A.そこに黒き光(一般戦闘員)を一つまみ。

Q.現時点で白銀君の素の肉体強度はどれくらい?
A.普通に怪人と殴り合えるレベル。
つまりは主人公達と一緒やね!=まだまだ人間(笑)






オマケ

 勝利の女神編 その1


 先日、愛車でドライブに出掛けていたら銀幕に覆われ別世界に来ました。
 
 今回やってきた世界は非常に危険で、“ラプチャー”なる機械生命体に日常的に襲われてきました。

 ビームやミサイルの雨霰、逃げてもしつこく追いかけ回して来るものだから、堪らずダグバに変身。ラプチャーどもを全部ただの鉄屑に変えてやったぜ、イェイ☆

 その後、暫くこの世界がどんな所なのか観光気分で彷徨っていると、不思議な生き物と遭遇した。

「ワニャン」

 人面犬? いや猫? 女性の顔をした四足歩行の奇妙な生き物………ど、Doro? というよく分からんのと。

「チョワヨー」

 明らかに二足歩行出来そうな小動物と遭遇。

 明らかにひ弱で、その内すぐ死んでしまいそうな二匹を俺は結局見捨てる事が出来ず、取り敢えず旅のお供として一緒に行く事にした。

「お前達の棲みか、見つかると良いな」

「ワニャン、ワニャン!」

「アーウ!」

「飯は何しよう。この世界、野菜とか採れるんかな? カボチャとか」

「スピキヲジメヌンデ」

「いやイジメねぇって。カボチャ嫌いなん?」

「チョワヨー!」

「違うっぽい。ドロはなに食いたい?」

「ワニャン、スシ! ホタテ、マグロ!」

「急に喋りだしたな」

 二匹の小動物を肩に乗せ、道なき道を往く。

 取り敢えず、この旅も退屈はしなさそうだ。





「……ねぇベヒーモス、なんか変な奴がいるんだけど」

「ホントだ。え、なにアイツ? 人間………なのか?」

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