「アリスとケイの同時ピックアップ。残る石は1万ちょっと……チケット込みで一天井分か」
「流石に、ちょっと厳しいか」
「負けちゃう?」
「勝つさ」
そんな訳で初投稿です。
ショッカーが戦闘員を募集し始めた。
三葉の見付けたネットサイトの情報をもとに都会へ戻ってきた東島達。
目標の会場はそれなりに広く、本物か否かを判別し辛い、絶妙な空間と場所を取っていた。
ここにショッカーが何かの計画を企んでいるのなら、仮面ライダーを名乗るものとして阻止しなければならない。空気の澄んだ田舎で心身共に鍛えてきた東島達、空腹も満たしいざ会場へ足を運ぶと……。
「UFOが地球に攻めてくればいいのにって、思った事はないですか?」
「僕は小学生から今の35歳の最近までずっとそう思ってきました」
「実際はUFOじゃなくてもなんでもいい。何かが、誰かが、世界を平等に不幸にして欲しかった」
「僕はなにもうまくいかないんだ。どうしてこんなにもうまくいかないんだ」
「下らない毎日で『一回世界壊れろ』と思いつつも、僕は基本凄く優しいんだ!! それなのに……」
「優しいだけでなぜかモテモテのアニメやギャルゲーの主人公みたく、僕を『好き』って言ってくれる女の子が何故一人も現れない!?」
「なんだコレ?」
「文句の弁論大会?」
壇上に立ち、何らかの持論を語り出す肥満体な眼鏡の男。何やら熱く自分の想いを語り出しているが、今の所ショッカーに1ミリも触れていない話に、東島達は困惑していた。
「あの……これ、どういう集まり? ショッカー関係あるの?」
参加者の一人がこの場にいる全員の気持ちを代弁する。
「じゃあ君! 君は君の現状に満足しているかい!?」
「え、現状って………まぁ、別に?」
それはそうだろう。いきなり自分の現状はと聞かれて、そんなすぐに纏まった返事なんて返せる訳がない。というより、そもそも質問の答えになっていない。
「イーッ!!」
そんな、参加者達の疑問を吹き飛ばすように壇上の眼鏡の男性が片手を掲げ叫ぶ。
刹那、ただのなんて事ない肥満体の男性がショッカーの戦闘員へと変身する。
これには東島達を含め、参加者達の全員が驚きを顕にする。自分を殴れ、変身した自分を認めさせる様に掛かってこいと吼える彼に、何名かの男性が言われた通りに殴る。
しかし、成人男性の倍の膂力を誇る戦闘員には敵わず、戦闘員は殴った全員を殴り返し、返り討ちにした。
「下らない日常に戻りたいのか!?」
「い、いや、別に俺は……SNSに上げるネタ探しに来ただけで……」
「だったら……これからショッカーになって世界征服しますって上げろ!!」
そこから始まるのは、眼鏡の戦闘員による強引でよく分からない啓発運動。SNSに上がる人の悪口やその割合、果てには自身の“徳”に関する話。
今一つ要領が定まらない太っちょ眼鏡戦闘員、つまり彼が言いたいのは……。
「みんなで一緒にショッカーになって、世界征服して彼女作ろうぜ!!」
コレだ。
結局太っちょ眼鏡戦闘員が言いたいことは、ネットのサイトに書き込まれた内容そのまま。これ迄の数分に渡る彼の言動は殆ど意味が無かった。
そして、当然ながら参加者の視線は冷やかなモノだった。世界征服という眉唾な目論見、そんなことは出来っこないという極々当たり前の感想を口にする彼等に……。
「目を覚ましてやる!!」
戦闘員はその力を震う。古い価値観に囚われている彼等を解放すると豪語して、一方的に暴力を使用する。
成人男性の倍の身体能力を持つショッカー戦闘員相手にこの場で敵うものはいない………そう、思われていたが。
「世界征服しようぜ!!」
「ライダーパンチ」
仮面ライダーのお面を装着し、変身した東島が片腕で太っちょ眼鏡戦闘員の攻撃を防ぎ、反撃のライダーパンチを見舞う。
当然、戦闘経験なんてありはしない戦闘員に防ぐ事は出来ず、東島の一撃をマトモに受け、吹き飛んでいく。
((((弱っ……))))
本気ではない東島の一撃で戦意を挫かれた戦闘員、とうとう手を出しちゃったとユカリスは動揺するが、元々彼等はこの集会は潰すつもりだった。
ショッカーが戦闘員を集め、戦力を増やすつもりなら、その動きを読みながらその企みを潰す。三葉がユカリスと中尾と一緒に周囲を警戒し、一葉が東島と並んで前に出ようとした時。
「大丈夫?」
なんか、水着姿の女の子が現れた。
己の肢体をこれでもかと強調した水着姿の女の子、唐突に現れたアイドル級に現れた女の子が倒れ、鼻血を吹き出している戦闘員を甲斐甲斐しく抱き上げる。
「き、君は?」
「私は君の彼女よ」
そういって有無を言わさず口付けをする女の子にその場にいる全員が困惑し、固まる。
え、これもショッカーに関係しているの? 流石の東島も追撃を躊躇っていた所に………“奴”が現れる。
「今ならショッカー戦闘員になる者には彼女が付いてくる。全員アイドルだ」
銀髪で、黒スーツの男。忘れもしない、あの時自分達の前に現れた蜘蛛男!!
一見ホスト染みた格好らしく、その背後にはズラリと並ぶ女の子達。両腕を広げ、完全なる受け入れ体勢になっている彼女達に対し、これ迄女っ気の無かった男達が抗える訳もなく……。
「「「なりまーすッ!!」」」
陥落。ショッカー戦闘員になれば洗脳され、今日の出来事だって記憶から消されるかもしれないのに、そんな事を知る由もない
唖然となる東島達、ショッカーの奇抜すぎる作戦に言葉を失っていると……。
「さて、余ったおまえ達。いい加減面倒だから殺してやろう。付いてこい」
逃げる道はない。先に屋上へ続く階段を上がっていく男に東島達は付いていく他無かった。
◇
屋上。うっすらと風が吹き抜けていくその場所で、奴は立っていた。
悠然と、超然と、眼前に立つ東島達をまるで虫ケラを見下ろすような……感情のない面持ちで。
「さて、人間ならここで何かしらの小粋な話でもする所なのだろうが……生憎今の俺にはそんな余裕はない」
殺意が滾る。目の前の男から感じられる濃厚な………息が詰まりそうになる程の殺意。
「殺してやる。どいつから死にたい?」
明らかな死刑宣告。しかしそんな蜘蛛男(人間態)の言葉に全く動揺を見せずに一人の男が手を上げる。
「一番手! イーッくぜ!!」
「ヨシいけ!」
「修行の成果を爆発させろ!」
元ヤクザにして戦闘員である中尾が前に出る。
「っ、お前は……」
そして蜘蛛男と中尾は面識があった。とある出来事が切っ掛けで一度は殺し、死の間際で『改造してくれ』と懇願してきた人間。
(変わった奴だとは思っていたが、まさか裏切るとはな)
見れば、人間達の中に他にもショッカーの洗脳から解放された奴も紛れている。一体どういう理屈で洗脳から逃れたというのか。
「
「っ!」
余計な思考。考え事で上の空だった蜘蛛男の顔面に飛び込むように拳を放つ中尾の拳が叩き込まれる。
鼻血が出て、思わず仰け反る蜘蛛男に逃しはしないと中尾は距離を詰める。
「悪いな! アンタへの恩、仇で返しちまって!!」
「っ、お前……!」
下っ端の戦闘員の癖にやたらと拳が重い。あのお面を持っている男やあの
だが、何処までいっても所詮は戦闘員。言いように殴られ、我慢の限界に達した蜘蛛男が遂にその本性を顕にする。
「あまり、図に乗るなよ?」
「っ!?」
振り抜いてくる中尾の拳を片手で受け止める。肥大化し、膨れ上がる肉体と顕になる営利な牙。
殺意に満ちた三つの複眼を前に、中尾の戦意が僅かに揺れ動いた………次の瞬間。
“ボギッ”
「ッ!!」
中尾の右腕が歪に折れ曲がる。辺りに響く骨の折れる嫌な音が東島の耳にも届き……。
「フンッ」
蹴り飛ばされる。怪人と化した蜘蛛男の蹴りに後ろに控えている東島達の所まで吹き飛ばされ、吐瀉物を吐き出す。
流石にこれ以上は戦えないと判断した一葉がユカリスに中尾を後ろに下げるよう指示を飛ばす。そして……。
「やるぞ」
「おう!」
「ライダー変身ッ!!」
「ブイスリャア!!」
「僕も行くよ、ライダーマンッ!!」
東島と一葉、そして三葉がそれぞれ変身ポーズをする。それは三人にとってのスイッチ、ただのオッサンから仮面ライダーへと変わる呪文であり儀式。
実際に仮面ライダーに変身するわけではない。しかし、それでも蜘蛛男の目にはあの時と同様に異様な姿をした東島が見えた。
「「「行くぞショッカー!!」」」
「来い、人間ども!!」
拳を振り上げる。正面から突っ込んでくる二人に、蜘蛛男がタイミング合わせの振り下ろしを見舞う。小細工なんて必要ない、この純粋なまでの膂力が蜘蛛男の武器の一つなのだから。
対して、怪人に戦いを挑む東島達が見せるのは、人の技術。振り上げ、そして振り下ろされる蜘蛛男の一撃を見切った上で……。
「ブイスリー、マッハキック!!」
助走と遠心力を加えた一葉の回し蹴りが炸裂。振り下ろされる蜘蛛男の一撃を、振り下ろしきる前に止めて見せた。
「ライダー……パンチッ!!」
止められ、動揺を見せる蜘蛛男が見せた隙丸出しの胴体へ、東島の渾身の一撃が見舞う。
「グブッ!?」
「こっちも喰らえッ!!」
直撃。以前よりも威力の増した東島のライダーパンチ。その一撃に思わず下がってしまう蜘蛛男の顔面に、三葉のドロップキックが炸裂する。
頭を蹴り飛ばされ、堪らず倒れる蜘蛛男。青天井にされ、痛みと衝撃で悶絶する怪人に東島達が追撃を加えようとして……。
「カァッ!!」
首だけ起き上がらせ、蜘蛛男の口から鋭い針が吐き出される。咄嗟に首を捻り、身を捩ったりなどして躱す東島達だが……。
「う、ウワァッ!?」
唯一、ライダーマンである三葉のカセットアームに直撃。ジュウジュウと音を立てて溶け出す自前のカセットアーム、思い出や完成に至るまでの苦労が三葉の脳裏に走馬灯の様に蘇るが、このままでは自分の左手まで溶けかねない。
一瞬の思考を巡らせ、三葉は自作のカセットアームの放棄を選択する。
「三葉! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫、間一髪」
ユカリスが悲鳴の声が上げ、東島と一葉も心配の視線を向ける中、三葉は苦笑いを浮かべて左手を見せる。グッパと握ったり広げたりを繰り返す事で無事である事を示し、それを見た一同は安堵に胸を撫で下ろす。
「やはり……面倒な人間だな。お前達は」
「クソッ、やはり硬い!」
「此方が死ぬ気で攻撃しても、相手は平然としてやがる!!」
「それでも、仮面ライダーは負けないッ!」
相手が強く、恐ろしい怪人であろうとも、自分達は負けない。東島の強がりの鼓舞に二人もその通りだと頷く一方で。
「あぁもう! こんな時にダグバ様は何処に行ったの!? あの人が入れば勝ち確なのに!」
ユカリスはこの場でただ一人来ていない白銀への悪態を口にする。八つ当たりなのは分かっていても、彼と言う特級の戦力がいれば
僅かな八つ当り紛いな恨みを吐露した時、壁に寄り掛かる中尾は気付く。
────ォ
「……なんだ?」
「あ、どうしたのオッサン?」
「今、何か聞こえなかったか?」
────ゥォ
微かに耳に残る音、それは戦っている東島達の雄叫びの中からでも中尾には確かに聞こえた。
────ウォンッ
「ほ、ホントだ!!」
そして、音はユカリスの耳にも届き。
「あ、アレ!!」
────ヴォンッ!!
指を差す。ユカリスが指を差す方へ視線を向けると、建物の屋上から屋上へバイクで飛び移る白銀の姿があった。
「ま、マジかアイツ!?」
「スゴー、スタントマンみたーい」
呑気に感想を口にする二人だが、聞こえるバイクのエンジン音は未だ収まらず、スピードも弛める様子はない。
まさかと二人が顔を青くした……次の瞬間。
「ど、退けぇぇぇッ!!!」
跳躍。向こうの建物から跳んでくる白銀と愛車に漸く気付いた東島達は……。
「「「ウォォォォッ!?」」」
がむしゃらにその場からの退避。ダイブするように蜘蛛男から退避し……。
「な、なんゲブラッ!?」
唯一、逃げ遅れた蜘蛛男が猛スピードで突っ込んでくるバイクに轢き飛ばされるのだった。
◇
「はぁ、はぁ、はぁ、あ……危ねェ、マジで死ぬかと思った」
蜘蛛男を蹴散らし、間一髪建物の縁でバイクは止まった。これ迄未経験だった体験をし、どうにか九死に一生を得た白銀は冷や汗をダラダラと垂れ流しながらヘルメットを取り外す。
「ノリと勢いでゴウラム造ってみたけど、ガワだけであの性能とか、リントの技術ヤバすぎだろ……!」
蜂女から逃げ延びる為、即興で創ったゴウラム擬き。ただバイクの性能を引き上げる為に創っただけなのに、予想以上の仕上がりに俺自身驚いていた。
山に生い茂る針葉樹林を軽々と薙ぎ倒したり、吹き飛ばす木々に楽々飛び移ったりと、即興で創った割に性能がエゲつない。
即興で創った故に既にゴウラム擬きはただの土塊となって崩れ落ちているが、その時は既に空中を飛んでいた。
いやまさか、あんな所に踏み板みたいなのがあるだなんて普通思わねぇよ。お陰でそのまま建物の屋上を伝って飛び移るアホみたいな曲芸を披露する羽目になったし……。
しかも心なしか、愛車の形が絶妙に変わってる気がする。
大丈夫だよね、俺この後警察に捕まったりしないよね? 車検とか、ちゃんと通るよね?
(いや、今はそんな事はどうでもいい!)
「東島さん!」
「っ!」
「完成しました! ベルト、受け取って下さい!!」
「オオッ!」
細かい説明やこの後の展開は捨て置き、今は自分のするべき事をする。バイクに取り付けておいたアタッシュケースを取り出し、東島さんへ投げ渡す。
キャッチし、ケースを開く。その中にあるのは何処か見覚えのある、丸い風車のようなものが鎮座していた。
一瞬の困惑。しかし直ぐに使用方法を理解した東島さんが、確めるように俺を見る。
俺は頷いた。これ迄幾度となく仮面ライダーを観て、様々なライダー作品を観てきた東島さんなら、きっと理解できる筈。
そしてお面を被り直し、赤く丸い風車───風車ダイナモを臍下辺りに押し当てる。説明はない、だが東島さんは本能で正解をブチ当てた。
瞬間。風車ダイナモがその姿を変え、形を変え、東島さんの腰回りに装着する。
タイフーン。仮面ライダーを象徴する変身ベルトが東島さんの腰に顕れる。
「うおぉッ!」
「マジか、白銀君マジでやったのか!?」
一葉さんと三葉さんの口から感嘆の声がここまで聞こえてくる。だが、まだ終わっていない。始まってすらいない。
「東島さん!」
「っ!」
「見せて下さい! あなたの、変身を!!」
「ッ!!!」
放心していた東島さんを、声で呼び戻す。我に返り、自分の腰にベルトがあることを確認した東島さんは、深い……とても深い溜め息を吐いて、改めて蜘蛛男へ向き直る。
「……なんだ? 何をするつもりだ?」
困惑する蜘蛛男、奴がまだ隙を晒している間に、東島さんはあの構えを見せる。
右手を掲げ、弧を描く。一説には回る風車をイメージしたらしい流れるようなその構えは、見ている者に当時の映像を想起させる。
「ライダー……」
それは幾千、幾万もの回数を経て培われてきた東島さんの変身ポーズ。その構えに何度気持ちを込めたのか、どれ程の信念を、憧れを込め続けてきたのか、俺には検討もつかない。
何度も、笑われてきたのだろう。自分の夢を、憧れを、幾度口にして、その都度彼は嘲笑を受けてきたのだろう。
「変ッ身ッ!!!」
声が響く。周囲の空気を変える程の圧のある声、その迫力に怪人である筈の蜘蛛男が一歩後退る程に。
けれど……。
「なにも……起こらないぞ?」
「まさか、失敗?」
なにも起こらない事態に、中尾さんとユカリスさんが戸惑いを見せる。一瞬、俺の脳裏に失敗の二文字が浮かぶが……。
「いや……違う!」
「来るぞ!!」
三葉さん、一葉さんの確信めいた台詞が出てきた次の瞬間───風が吹いた。
それは、指向性の持つ風だった。東島さんの叫びに呼応するかのように回転する風車ダイナモが光り、輝き、東島さんが風を纏った次の瞬間。
彼はいた。
緑を主体にした鮮やかな色合いの鎧の肢体、原点にして頂点。全てのライダーの祖たる存在。
赤いマフラーが靡き、大きな複眼が赤く光る。
『仮面ライダー』
遥か昭和の時代から蘇り、俺達の記憶のまま当時の子供達が憧れ、夢見たヒーローがそこにいた。
────祝え!
Q.なんか蜘蛛男さん、随分と軟派な作戦ッスね。
A.「俺じゃない、蝙蝠男の作戦だ」