メンドクサイ男の幻想入り小説です。どうぞひとつよろしくお願いします。
それではどうぞ。
第1話 外界の世界にて
〜外界〜
陽も完全に落ちた薄暗い街中、路地裏を歩く俺はふとした拍子に空を見上げる。
ビルとビルの境、そこには綺麗な満月が顔を覗かせていた。星だって出ている筈なのに…真っ暗な空には一際目立つように存在感を放つ白光が浮かんでいた。
…あ、いや、な?別に夜空に文句言うつもりは一切無いよ。確かに星だって綺麗さ、夏の大三角形にアンタレス、有名どころも沢山あるだろう。
もっとも月と星は違う。例えいくら星が煌めこうと月には勝てない。近くに月がきて仕舞えば星なんて隠されてしまう代物でしか無い。
けれど、隠された星だって輝きを失ってはいないんだ。眼を凝らせば僅かにでも月に負けじと輝いているかもしれない。
「…いつものとこでも行くか」
そう思って俺は薄暗い路地を進む。
どう考えても無駄な行動だと自分でも思うけど、俺はそこによく行っていたよ。さっきの月や星の話を抜きにしても見える風景を楽しみにしていたから。それに、時間や天気、様々な要素が重なる事でたちまち変わってしまう世界が好きだったし。
そんな数ある中でも、俺は太陽に当たるのが好きだ。…暖かな光に包まれていれば、何かに守られているような気がするから。
雨の中見上げる空だって俺は好きだ。…嫌なことが合ったら雨が全てを洗い流してくれると思ったから。
風が強い日に見上げる空だって好きだ。…新しい雲が次から次に流れてきて、世界は停滞する事無く進んでいるんだと実感出来るから。
……………。
「…………寒いなぁ」
…うん、もちろん夜の気温と臭いセリフの二重の意味である。出だしくらいカッコつけたくてなんやかんや自分語りしてたけどあまりの気持ち悪さに鳥肌立ったわ。正直天気なんてどうでもいいっての。
ま、まぁ、だからと言って何か思いつく訳でもないからこのまま強行させてもらうしかないのがちと寂しい。結局は色々と言ってはみたけれど、俺はやっぱり夜空を見上げるのが一番好きなんだと思う。
だってさ。
月も星も出ていなければそこには暗闇が映っている。そうすれば自分一人だけ…。他人との関わりなんて無くなって何時でも一人になる事が出来るじゃないか。
***
日中は人々が交通で行き交う街中で、俺はそこから少し外れた路地を歩く。不思議な事に、この道はメインストリートから幾つか離れただけだというのに、夜になると歩いている人がめっきり居なくなっている。風の音や、遠くで響く乗用車や人々の声が少し届く程度で普段の雑踏や喧騒の日常から離れられる。
そんな理由から俺はよくこの道を使っていた。
それに、面白い事にこの近くにはやけに高いビルが建っているんだ。その上無人で廃墟と化しているし、屋上まで行けるし安全柵も無いってのも都合がいい。どう考えても取り壊し案件なのだが…壊すにしても金が掛かるってことで放置されたんだろう。そんな事俺にはあまり関係のない話だ。
……何て事を思いつつも、今日も今日とて廃ビルに上がろうと向かっている所なのだがここで一つ俺の話をしたい。最近になって思い当たる節が増えてきたのだが、どうやら俺は記憶喪失らしい。
って言っても名前も分かれば現在地も把握している為、記憶喪失と言えるのかは些か怪しい所ではある。厳密に言ったら幼い時の記憶に不可解な事が多いのだ。
ぶっちゃけると家族の記憶が一切思い出せなくなっている。しかし家族が居なかった訳では無いはずなんだ。偶にしか起きないが、ふと家族の姿が頭の片隅にチラつくけどよく思い出せないって状況に陥ったりもしている。
そして、困った事にそんな事を自分で言っている反面その家族と会っている場が全く分からない。本来であれば自宅ってのが当たり前なんだが…残念ながら自分の家には誰一人としてあげた事はない為いつだって俺は一人だった。
だけど、俺は幼かった時でも一人で平然と生きていたよ。その所為で周りから気味悪がられていたってのもあるんだけど…。
『…またあいつ1人で本なんて読んで…おい弄ってこいよ』『…俺は無理だわ、お前行けよ』『え~嫌だわ~……』
どうしようも無いほどに同級生からは避けられていた人生だったし。
「あなたは人に嫌われた」
『お前が居たら俺の評価が下がんだよ!出しゃばってないで言う通りに従ってろ!』
特に理由も無く…無能の腹いせで怒鳴られたりもした…。
「あなたは社会に嫌われた」
それでも懸命に生きていたよ。何をやっても裏目に出て、やることなすことが向かい風の中、何か面白い事が起きるんじゃないかと僅かながら胸に期待を抱いてさ。
…………。
…………。
で、だ。
幸か不幸か、念願叶って目の前で面白い事が起きてるんだけど何事?そもそも俺が話しかけられる事自体が割と珍しいから疑問が湧き出る…ってか話しかけてきた珍妙なあなたは一体誰ですか?
ぶっちゃけ結構初めの頃から居たのは気付いていたのだが…よく分からない上に怪しい風貌だったので無視を続けていたのである。まぁあまりにも気になる事を言ってくるものだから反応ぐらいはしてみよう。吐きたくなるため息を我慢しつつ顔に目を向ける。
しっかりと相手を確認すると、そこには異様に目を引く金髪の女性が立っており、何故か初対面の俺に向かって執拗に話しかけてきていた。
「あなたは―「いい加減にしろよ!!」」
驚いたのも束の間…何だってんだ。人が気にしていた事をさっきからちょいちょい口出してきてよ。流石にそんな事をいきなり言われてたら誰だってキレるぞ。
……。
けれど、目の前にいるこの女性は全く動じない。俺が分かりやすく怒りを表しているにも関わらず…胡散臭い雰囲気を纏う女性は何処吹く風のように微笑みを崩さない――どころか笑みを深めている…。え、こわ。
「いきなり何なんだよあんたは!俺の何が分かるって言うんだ!」
相手のその表情が気に食わなかった為か、それが余計癪に障ってしまい声を荒げてしまう。
俺はこれまで、人と深く関わる事は一切して来なかった。否、出来なかった。平たく言えば独りの人生に慣れてしまっていたんだ。当然そんな事をすれば後ろ指をさされる事もあったし、面前と言われる悪態ぐらい日常茶飯事だった。
だから、突然美人な不審者に喧嘩を売られた(?)この状況でも、今まで通り軽く無視しようとした筈なのだが……何故か素直に怒りを口に出してしまっていた自分に少し驚く。
「…『いきなり』ねぇ。まぁいいわ、私は貴方の忌み嫌われた能力を知るものですわ」
「……はぁ!?」
トントン拍子で話されるがもうサッパリ意味が分からない。何だこいつヤベークスリでもやってんのか???
それにさっきまではどことなく目の前の女性は喜んでいた様に見えていたのだけど…今やみるみるうちに不機嫌になっている様に感じる。
いやいや、確かに声を荒げたのは良いとは言えないけど…嫌われたのなんだのなんてあんな事言われればそりゃこっちだって気分が悪くなるのは当然だろ。
……………。
目の前の女性がこちらに目を向けては来ているがそれ以上のアクションが無い…。というより反応を持たれている?そんな感じが読み取れるがいかんせんあまりの非日常に思考が纏まらない。
それに追加で気になる事がある。確かに今は既に日付けが変わっているし、この辺の道は元々人通りが少ないのだが…流石にこれはおかしく無いか?
「……」
……俺達二人以外近くに人は全く見当たらない。それどころか遠くからの物音一つもしない無音の夜の街に、俺達二人だけの声が吸い込まれるように響いていた。
おいおいおい…ああクッソ!なんか
俺はいつもと違う街の感じに少しだけ戸惑う……だけど…だけどこいつは俺の能力を知っていると言っているからな。それなら多少のリスクを鑑みても話を聞くのが通りだろう。
………えーーーっと…。
……いや…どう話に乗ればいいの?それっぽく話続けたけどさ、普通に考えたら実際問題何言ってんだこの人って感じになるぞ…。
能力を知ってるって……。いきなりそんな事言われても普通の人間から見たら痛い発言をしているようにしか―「ねぇ」映らないのだからこの人も相当なチャレンジャーである。なので、もしこの人がヤベーやつだって事が分かれば全力ダッシュで逃げ出す覚悟だってもう出来ている。
まぁ、
でも、今まで俺はコレを自分の運の無さだと思っていたが―「…ねぇ」まさかどこぞのアニメや漫画みたいな能力とは驚かされる。
…さて、こいつの話しを鵜呑みにする気は無いが取り敢えず面白そうだし分かっている事を聞いた方がいいな。
「なぁ」
「……何かしら?」
さっきから呼ばれているのを無視していた為か、扇子で口元を隠し更に機嫌が悪そうになっている金髪の女性に俺は問う。
「俺の能力とやらについて詳しく知りたい。あと、あんた本人についてもだ。何故その…俺の能力に影響されないんだ?」
相手方に合わせてこうは言ったが、俺は何となく自分の能力を察している。会話の始めで散々言われた通り俺は嫌われる系の能力を持っているのだろう。
……自分で言ってて悲しくなったが、現に俺は今までいいだけ周りから避けられていたよ。
だからこそ聞いてみたい…例え相手が胡散臭そうな人でも、俺に関わってきた上に俺に対しての理不尽な嫌悪が感じられないとなれば不思議と心惹かれる。それに、こんな人生を変えてくれるとなれば話を聞いてみたくなった。
俺は注意を払って言葉を紡いだ後しっかりと耳をそばだてる。それでも油断はしない。自分が聞きたい事は相手に話しやすくさせる事が重要って何かで見たからな。だから寧ろ重要なのは後半の質問の方だ。
「えぇ、もちろん。私はその為に態々外界まで来ましたから。まず貴方の能力、それは【拒絶される程度の能力】ですわ」
……。
…おう。
うん、まぁ扇子閉じながらかっこつけて言われてもな…殆どこっちの予想通りであった為に反応が薄まってしまう。
「いきなりこんな事を言われて戸惑うのも分かるわ、けれども安心してちょうだい。私は――いいえ、私の世界は貴方を受け入れます」
静かに、それでいてしっかりと耳に残る声色で告げてくる言葉に動揺を隠せない。
…いやいや!なんかシラけたのが向こうにとっちゃ都合良く戸惑っていると思われているのは別にいいんだけどさ…俺からすれば殆ど予想通りだったんだっての。なんだ拒絶されるって…そのまんまじゃねぇか。
正体不明の金髪美人…そして突然のカミングアウト…驚く事ばかりだ。だが、そんなのを引っくるめても俺は目の前のこいつが最後に言った言葉に興味を惹かれた…。
「(
そう。こいつは私の世界と言っていた。
仮にも今いるこの世界を一つの単位とするなら、単純な話もう一つ別な世界が……所謂平行世界とか異世界とかでも言うのか、ましてやそれが自分の世界であるのだと口にした。
「次は二つ目の質問…私について教えるわ」
こちらの考えが纏まらないのを他所に、女性は二つ目の質問を答えようとする。
……その時、図ったように突風が俺たちの間に駆け抜けた。
「うおっ!?」
いきなりの事で俺はバランスを崩し目を細めるが…目の前にいる女性は全く動じなかった。重心が変わる事も無く、浅く被る帽子(?)を軽く手で押さえるだけで、轟々と吹く暴風を特に気にした様子も無く立っていた。
…普通ではありえないだろう。いくら俺自身そこまで体幹に自信があるわけじゃないが向こうは女性…しかも思いっ切り風の影響を受けそうなドレスを着てるんだぞ?
こっちは風でよろけて踏ん張ってるってのに向こうはそんな事を全く意に返しておらず、それどころかさっきまでよりハッキリと…否、何か明確な意思を持って話しているようだった。
「私は八雲紫。妖怪の賢者であり幻想郷の管理者でもあるわ」
……そこで俺は月を見た。空を見上げた訳では無く、確かに眼前に月を見た。
さっき見ていた空に輝くものでは無く、地面に降り立つ地上の月。
風に靡びく金色の髪…。それは、月の明かりのように煌めいて、近くのものを周りの目から隠せる程の存在感。
「そして…」
……八雲紫…彼女が唯一無二の光だとすれば俺は星だろう。それも鈍く…ひっそりとして誰からも注目されなさそうな紛いものの光…。
「貴方を攫う者よ。ねぇ、『
ニィ…と、満月が照らす夜の街…八雲の口元にはそんな月とは違う明け方の三日月の様な笑みが浮かんでいた。
急展開すぎですね。加筆修正が終わっている分は早めに投げます。
それではまた次回。