それではどうぞ。
『ごめんね』
何時からだろう、事あるごとに母親が俺に謝ってくるようになったのは……。
『例え一人でも立ち止まらないで進みなさい』
何時からだろう、母親に仕えてたメイドであり、俺にとって姉のような存在からそう言われて俺が一人で生きるようになったのは……。
『……………』
何時からだろう、この世界には俺の居場所が無いって理解してしまったのは……。
目が覚めるとそこには、見慣れた天井が映る。
「……一人でも進め、だから一進ってか……」
地底にいる為朝日は昇らないが俺の朝は早い。それは朧げな記憶による懐かしい夢を見たからとかではなくって単純に朝から仕事があるからだ。
俺だってペットって言われてるが扱い的には従者だからな「…く〜」修行ばっかやってそもそもの仕事を疎かにしていた訳じゃないよ。
そもそもあの修行だってしっかりと規定の仕事を終わらせてからやっていたし、ちゃんと毎回さとりちゃんに報告して許可も貰っていた。
ちなみに説明しとくと俺の行っている仕事は…基本的にこいしちゃんの面倒を見ること。地霊殿内の掃除。当番制の料理。後は外に出なくて「…すぴ〜」済むから事務処理役としてさとりちゃんの補佐等をやっていたな。
その甲斐あってか、俺は仕事ぶりを認められて数日前から料理の専属当番となっている。まぁ、大変だと思うけどツラくは無いさ、逆にその大変さが嬉しくも感じてるよ。誰かの為に動いてるって「…zzz」実感出来るし……。
で、何の話だったっけか?
ああ、朝が早い理由か……。そのお陰で早めに「…く〜」起きて朝食を作らなければいけないって訳だ。昨晩から仕込んでるから楽は出来るけど手は抜きたくない。
それに最近だと地霊殿にある調理器具の使い方に慣れてきたからな。効率上げてもう少し美味いものを作る事が出来そうだ。
そう言えば料理で「…zzz」思い出したけどお燐とさとりちゃんは乳製品がダメらしい。
いや、お燐は猫だから分かるっちゃ分かるけど平然とネギ類食ってたからなぁあいつ…。
ただしさとりちゃんテメーはダメだ。
流石の俺でも好き嫌いで食事を残すのは認められないからな。『そんなんだから何時まで経っても小っさいままなんだよ』って言ってやった訳よ。
そしたら『ずっと昔からこうです!もう成長なんてしません!』なんて言って怒りながらもちびちびホットミルク飲んでたのがスゲー微笑ましかったな。
そんで最後に驚いたのがお空。
あいつ地獄鴉ってよく分からん鳥の妖怪のくせして「…むにゃ」温泉卵が大好きってのはいいのか?共喰いとかにならんの?……卵生とかだったらどうしよ…流石にデリカシーの防衛ライン的に聞かなかったが…。
まぁ、『美味しい!好き!』くらいしか考えてなさそうだし良いんだろうけど「…くぴ〜」…………。
………………ああうん、そろそろ皆が言いたいことは分かってる……その、ね。こいしちゃんがね、今俺のベッドで寝てるんだよ……。
しょーがねーだろ!!何時の間にか勝手に入って来てるし、この部屋鍵なんて無いんだから!起きた時隣にいて叫びそうだったわ!!
ま、まぁ、何度もやられりゃ慣れてくるもんだけど。
……。
……。
―――はい嘘です!まともに寝てられないだけです!!「ん〜」やっべ!?起きそう!?もう寝てらんないしさっさと着替えて行こ。
さ〜て、今日のメニューどうしよっかなぁ―――。
……………………。
…………。
「……………抱きしめるぐらいしてくれてもいいじゃん…」
○
「おはようございます、ゆうべはお楽しみでしたね」
「「ゲッホゲホ!?」」
食卓での唐突なさとりちゃんの言葉で俺とお燐は噴き出しそうになる。まさかそのフレーズ俺が言われるようになるとはな、そもそも何でさとりちゃんが知ってるの?攻略本でも幻想入りしたのか?
「……お兄さん、あんた―「誤解だ!てか、どう考えてもさとりちゃんの嘘だろ!!」…だよね」
「……チッ」
は!? 今舌打ちしたぞこのくりんくりんピンク頭!?
「……あ~、まさか子供扱いした事まだ怒ってる?」
「あぁ〜」
数瞬考えてみたけどさとりちゃんから精神攻撃を受ける心当たりがこれくらいしかない。白い目を向けてきていたお燐も納得したような反応してるからまぁ合ってるだろ。
「そろそろいい頃合いですし、一進にも旧都に顔を出してもらいましょうか」
無視かよ!ホンットに言いたい事だけ言う人だな!確かに気にしてる事言った俺が悪かったけど、なにもここまで引きずんなくたって―――。
「って、え?旧都?」
「そうですね」
「旧都って言ったら地底の街みたいなとこだっけ」
「そうですね」
「…っさとり様!?それはまだ危険では!?」
「そうですね」
「えーと、そんな危険な場所に行けと」
「そうですね」
そうですねbotかよこのちんちくりん!!俺とお燐の上げる疑問も虚しく絶対に話聞かないパターンに入ったさとりちゃんに封殺される…。
ちょいとあなた主人でしょ?従者からの声くらい耳持とーや。…ついでにさとりちゃんは根に持つタイプってのがよく分かったよ。
「旧都ねぇ…」
うーむ、意識的に能力は使えるようになったけど、この能力って応用性ある代わりに恐ろしく使いづらいからなぁ…。
「確かに旧都は鬼を筆頭に危険な妖怪が多いです、だからもしかすると何らかの騒ぎに巻き込まれるかもしれません。けれど……あなたが望んだ世界はこんな狭いものではないでしょう?」
……やっぱ見た目は子供でも頭脳と実年齢は大人ってか。……五百歳って大人でいいのか知らんがそこまで考えてくれての事なら俺もビビってられないし―――せっかくの幻想郷なんだ、地獄だろうが何だろうが観光してきますか。
「それに私は
はいはい大人大人。
そんなこんなで……。
「デート♪デート♪」
「(やべぇ、不安しか無い)」
結果、荒事が一番似合わなさそうなこいしちゃんがついてくる事になりました。
「お進〜結局どこ行けってお姉ちゃんに言われたの?」
笑顔で首を傾げているこいしちゃんを見るとどうしても強そうに見えない。けれど長年この地底にいる訳だから頼りにはなる筈だが圧倒的にそこら辺の荒くれの方が強そう。まぁ、いざとなったら従者なんだし俺が守るしかないから恐怖が付き纏う。
「ええと、さとりちゃんには『旧都に着いたらまずは星熊勇儀に会う事、そして以前壊した壁の修理を依頼して来なさい』って言われたな」
全く、壁壊したのはお空だってのに何で俺の給金から支払わないとあかんのだよ。つーか妖怪にも大工紛いの仕事があるんだな、なんか思ってたより平和そう…。
「ふ〜ん。ま、そりゃそっか」
「何が?」
「だって〜、勇儀は鬼だし〜地底で一番強いもん♪」
………………。
…………。
……。
地底で一番強い鬼に、家の修理を依頼しろ?
おい待て、これ俺死んだんじゃないか?鬼にそんな事頼むの?というか一番強いの??身の危険しか感じなくなったんだが???
……さとりちゃん、あんた覚であって鬼ではない、なんて上手い事言ってたつもりだろうけどさ、間違いなく鬼だよ。確信した。
「…………」
「どうしたの?お進?」
「……いや、何でもないよ」
口ではそう言うが何でもないわけがないじゃないか。だけど諦めて達成する以外に道はない…ハハッ!ハハハハ!……ハァ…。
こうなったらやってやろうじゃねぇか!見事、星熊勇儀とやらを地霊殿まで連れてってやらぁ!!
◯
数分後
ガヤガヤ……ワイワイ……。
たとえ都と名が付いていても妖怪の巣窟だからどーせ薄暗いだろう。と思っていたがそれは改めないといけない。
そう、旧都はまるで祭りの夜店のような賑わいがあった。
「は〜、スッゲェな…」
角が生えてるやつ、羽が生えてるやつ、身体が岩みたいなやつ、全員妖怪なんだろうけど圧巻なのはその数。見渡す限りに妖怪、妖怪、妖怪。
「ほら、お進!止まらない止まらない」
「ちょっこいしちゃん引っ張ったら危ないって」
そんな妖怪だらけの場所を俺たちは素通りしている。
それはこいしちゃんの【無意識を操る程度の能力】によって二人とも周りから気づかれない為だ。
まあ、代わりに手を繋いでおかないといけないらしいが…そんなものは俺にとってメリットでしかない。
いや、言い訳すると俺だって初めは自分の能力で行くつもりだったよ、『周りからの視線とかから拒絶される』って。
けどさ、こいしちゃんが
『手繋いで行こ♪』
一も二もなく手を取ったさ…反省なんて無い、むしろそこには幸福しかなかったよ。
そしてそんな幸せ状態で暫く歩いていると、
「あれ〜?見つからないや」
音を上げたようにこいしちゃんがそんな事を呟く。
まぁ、これだけ妖怪が多いんだ、疲れるし中々見つかるもんでは無いだろう。家に行けばと言ったが、家は分からないんだとさ。
「あ〜、そもそも星熊勇儀ってどんな感じの妖怪なの?」
「んとね〜長い金髪で額から赤い一本角生えてて〜」
「金髪で赤い角と」
「いっつも呑んでるぐらいお酒が大好きで〜」
「ほうほう」
「胸がおっきくて、すっごいスタイルいいの」
「よし!それじゃ頑張って探すか!」
よっしゃ俄然やる気出てきた。これなら何時間でも探せる気が―――「…………お進?」――ん?
「………………お進は大人の女の人が好きなの?」
ゴメンゴメンゴメンゴメン!!!
ちょ、待っ、泣きそうになんないで!!あ、でも泣き顔も可愛い―――じゃねーんだよ馬鹿野郎!!!んな事言ってる場合か!!!
え〜とえ〜と…。
「いや、どうだろうね。多分…心から一緒に居たいって思える相手が好きな人かな」
「…それじゃあわたしは?」
…………………。
「………あなたが望む限り一緒にいますよ。ご主人様」
「えへへ〜♪じゃあずっと一緒だね♪」
潤んだ目で見上げるのは反則だと思う。
ああ〜恥ずかった!メッチャ恥ずかったわ!!気づかれていなかろうとこんな往来で告白紛いな言うのは難易度が高いのよ。
それにこんな事言うのもあん時以来だっつーのーーバキャ
その時、不意に近くの酒屋が騒がしくなると同時に木造の壁を突き破り何かが一直線にこちらに飛んでくる。
咄嗟に俺はこいしちゃんから手を離し、彼女を軽く押す。直後に飛来してきた影に俺は巻き込まれて数メートル程吹き飛ばされた。
「イッテテテ、おう兄チャン悪かったな。呑みすぎてちっとばかし調子に乗―――って!?ああ!?こいつ人間だ!!!」
「何!?」「人間だと!」「お前ら!!出てこい「「食ってやれ!」「人間がいるぞ!!」「ニンゲン、クウ」「コロセ!コロセ!」
なんと飛んできたのは立派な角を携えた男の鬼だった。そして波を打つように瞬く間に騒ぎが大きくなり妖怪たちが続々と集まってくる始末。
…………後半に猩々居なかったか??
「……クソがっ!」
疑問を他所に悪態をつきつつも急いで態勢を立て直す。
幸いな事にこいしちゃんは巻き込まないで済んだけどこれはヤベェわ。さっきまでそこらへん歩いていた奴ら全員に囲まれたんじゃねぇかってぐらい圧力を感じる。
ここまで注目されてたら逃げる事もままならないからな…。
チッ!地霊殿の優しさで油断してたか?一旦ばれちまったらこうなる事ぐらい予想出来てたろ!?
「てめぇら人間にゃ恨みがあんだよ!オラァ!くたばれっ!!」
俺にぶつかった鬼がその拳を振り上げる。…回避か…防衛か…反撃か…。
「もうやるしかねーか!…この場にいる全員の視線から「待ちな!!!」ッ!」
響く声に驚き、先に目を向けた事で尚更驚く…まるでモーゼの奇跡じゃねえか。取り囲んでいた筈の夥しい数の妖怪はある一線だけ割れる様に立ち並び、割れた人海の中に一人だけ立つ鬼を注視していた。
「ほ〜?人間とは珍しいねぇ地底に何の用だい」
そんな言葉を出した大きな盃を持った者の登場により、あれだけ騒ぎ立っていた妖怪たちがいつの間にか静まり返っていた。
「誰だ?いや、助かった…のか?」
「…あ……姉御……」
姉御?あれだけ勇ましかった鬼は拳を振り上げたまま固まったように微動だにせず、声を震わせるだけで二の句を紡げないでいた。
品定めをする様にこちらを見ながら歩いて来るのは、金髪で赤い一本角を生やした出るとこは出てるスタイルの良い美女。
ん?あれ……金髪、角、胸の大きい……ってまさか!!
「まぁそんなの聞いても野暮ってもんか。私は星熊勇儀ってもんだ。この前の人間も面白かったしあんたもその口かい?…だったらちょいと手合わせしてもらおうか」
……マジか…。
探していた地底最強の鬼がそこには立っていた………。
ほぼ想像でしかない世界観なので不都合な事はフヨウラ!
それではまた次回