それではどうぞ。
○
side一進
「「イヤッハァー!!勇儀の姐さんが出てきたぞぉーー!!!」」「テメェら!もっと場所開けろ!!」「相手は人間かよ!瞬殺じゃねぇか!」「姉御〜!!!」「勇儀さんのタイマンだ〜!」「オイ人間!少しは粘ってみせろよ!」「バーカ、勇儀さん相手に持つ訳ねぇだろ」
様々な事を言って騒ぎ立てる妖怪に囲まれて作られた広めのフィールド。その中央で俺と星熊勇儀は距離を空けて向かい合っていた。
「ハッハッハ、悪いねぇ…うちの連中が騒がしくて」
「…いや、構わない。それだけ人間が珍しいんだろう」
「は〜堂々としてるねぇあんた。私が…いや、これだけの妖怪に囲まれてるってのに怖く無いのかい?」
ただただ純粋に疑問なのだろうか、目の前の勇儀は俺を見て酒を呑みながら悠然と質問をしてくる。
「……まぁ、確かに怖く無いって言えば嘘になる。けど、ビビってたってどうせ逃しちゃくれないんだろう?」
「それもそうだ。いや〜泣き喚かれるよりよっぽど好感を持てるよ。人間」
「そりゃどうも、因みに俺は藤代一進だ。妖怪」
「…ホント、堂々としてるよ」
そう言って勇儀は警戒心を強めて俺を見てくる。
それは、俺がこんな状況に陥ったのに全く慌てていないからだろうな。突如として地底に現れたってのも怪しさを加速させるし、話してるのを聞く限り俺は平常心でいるから警戒も当然だな。
――――ってそんな訳あるかぁ!!
地底最強と手合わせ?バカじゃねーの!勝負になる訳ねぇだろ!!
どうするどうするどうするどうする…思考を加速させるものの解決策は出てこない…。つい周りからの野次が煩わしくてムカついたから少し言い返しちまったけど…うわマジでヤバくないか!?
「これはすげぇ気迫だな…。地底最強ってのも頷ける」
「お、嬉しいね。私を知ってくれているのかい」
地底で一番強い鬼…。こいしちゃんが言っていた事も対面してすぐに分かった。それこそ、最初は感じていた筈の周りの荒くれ妖怪達の圧力が霞んでしまうぐらい勇儀からは果てしない存在感を感じられる。
「オイオイ舐めてんのかあいつ」「姉御は地底だけに限らず地上含めて最強に決まってんだろ!!!!」「うるせぇな二人の声聞こえねぇだろ!ったく周知の事実をデケェ声で吹聴してるバカは誰だよ」「石熊の小僧」「あ~」「誰がバカだこの野郎!!!姉御が史上最強なのは変わんねぇだろ!!!」
……勘弁してくれ。引くに引けなくなったから精一杯の虚勢で取り繕って出た言葉だったんだぞ。それの所為で新たな情報を聞かされるもんだからパニック通り越して既に吐きそうだわ…。
「私が最強かどうかはさておいてだ…人間なのにこんな所に居るんだ。さぞ特別で自分の実力に自信が有るんだろう。少し前にも強い人間と主流になったって遊びをやってみたけどあんまり性に合わなくてね。ここ最近は純粋なケンカが減っちまってヒマしてたんだ。だから楽しませてくれよ。一進」
「なんだよ自信満々に言いやがって」
そこまで余裕があるのかよ。いや、確かに勇儀は強いんだろう…立ち振る舞いやその身から溢れる自信を見れば嫌でも分かる。
けれど、いくら強いって言っても相手は一人だ。それなら俺も能力が使いやすいし…何とかなる可能性だってある。
「まあ、見ての通り私は鬼さ。だから回りくどい事が嫌いでねぇ…折角の非公式なんだから弾幕なんて無粋ものは避けて派手にやろうじゃないか!」
向こうが浮かべる笑みを他所に俺は必死に考えを巡らせる。さとりちゃんが言っていた様にやっぱり弾幕ごっこなんて無しの喧嘩をご所望らしい。
「………そこで、私は一発だけあんたを殴るから防ごうが避けようが好きにしな。もちろんそっちは能力にしろ道具にしろ何を使ってもいい……簡単な話、私に攻撃されて生きてりゃそっちの勝ちだよ」
……周りでのガヤガヤした騒音もものともせずに勇儀の声が耳に入ってくる、。ふーん、殴るから防げ、生きてりゃ勝ち…ね。対面して尚も心底楽しそうな笑みを崩さないでそんな事を言い放ってくるかぁ。
お燐から『鬼は極度に嘘を嫌う』ってだいぶ前に聞いた事があるからおそらく本当の事なんだろう。本当に一度でも防げれば俺の勝ちになる、圧倒的に俺が有利な勝負条件でやりあうつもりらしい。
俺が人間だからだろう……バカにしてるのがヒシヒシと伝わってくる。
周りからの聞こえるヤジだってそうだ、あいつらは俺が負ける事前提で話してやがる。ただ単に俺がどう足掻くのか、俺の死に様がどうなるのか楽しみなだけなんだろう。
腹立たしい……けど、お燐とお空から実感した確かに存在する人間と妖怪の絶対的な種族差。それを埋める為にはこの条件を甘んじるしか無い……。
「いいのか?そんな俺に好条件で、後でまかり通らないは無しだぞ」
「ああ、私だって鬼だ、誇りを持って約束は守るよ。まぁ、人間相手に本気になる事は無いさ…って言っても人間一人消し飛ばすぐらい手抜いててもわけないけどねぇ」
やっぱり約束は守るか……それならなんとかなる。
一撃も攻撃をもらえないのは想定内だったからな、能力は全力で回避か防御に回すとして―――
「だから追加で、あんたは私の酒を一滴でも零こぼさせる事が出来ても勝ちでいいよ」
そう言った勇儀は持っていたデカい盃になみなみと酒を入れ始める。
そんな行動に戸惑ったがすぐに理解する。右手に酒を入れた盃を持ったまま戦う気なんだろう、一撃を回避でも勝利条件達成だしどこまでも自分に制限をかけるつもりだよ。
……いや、と言う事は不意を突いて攻撃をされる前にその盃を落とした場合でも俺の勝ちって事になるって訳か……。それだけの条件を揃えて何とか俺にも勝ちの芽が出てくるって話なんだろう。
………………。
…………。
……おいおいおい。
「いい加減に舐めるのも大概にしとけよオイ!頭の中までアルコール漬けになってるならその頭覚まさせてやるわ!」
周囲のやつらから感じられる何処までも相手を見下すその目に慣れきってるけどよぉ!流石にあんまり巫山戯た事抜かしてんじゃねぇっての!!!
自らの頬を叩き完全にスイッチを入れて奮い立たせる。啖呵は切った。相手は最強の鬼。危険度は青天井。今ここでやらなきゃ俺がやられる!
「いいねぇ。それじゃあ長話もなんだから始めようか、簡単に死んでくれるなよ藤代一進!――――『三歩必殺』!!!」
―――ッ!?
そう言った勇儀は一歩目で俺のすぐ近くまで来て…二歩目で歩幅を合わせている。
いくら気に食わないとは言え流石は鬼、一瞬で距離を詰められた俺は既に腹を括るしか無くなった。
「いくぞっ!!」
踏み込みと同時に地面が揺れる程の衝撃に襲われる…。そして三歩目の数瞬後に繰り出される明確な死を連想させる左拳が俺に迫る。
けれど、右手が封じられている以上左手で殴ってくる事が分かっていれば―――。
「――グッ!」
「……ほう」
―――避ける事ぐらいなら出来るんだよ!
真横を通り過ぎた拳圧だけで半身が持ってかれたと錯覚する激痛が走るが…そんなの知るか!!!
確かにお前ら妖怪と比べりゃ人間は脆く弱い生き物だろうよ……。『だが!』なんて言葉俺は言わないさ、確かに弱いのは認める。
…だから、一瞬だけでいい。回避にリソースを割かなかった分ありったけを俺に寄越せ。
避けた事に驚いているのか…目を見開く勇儀向かって俺も同様にその拳を振り被る。
オイオイなんて顔してんだよ…本番はここからだろ!
「派手な喧嘩は華だってんだから驚くにはまだ早ぇだろ!!『人間の枠組みから俺は拒絶される!』喰らえやァ!!」ゴキャ
賭けには勝った。後は俺の持ちえる全力ストレートが吸い込まれるように勇儀の顔面にクリーンヒットする。
……………。
…………。
―――ッ!?
「イッテェーーーっ!?」
完全に入った上に全力で殴ったらこっちの手がイかれるってどんだけ頑丈なんだよ!!
クソッ…殴られてんのに微動だにしないし全然効いてる様には見えな――「くっくっく」……あ?
「あーはっはっは!!一進!あんた合格だよ!!」
…………。
「……はぁ?」
効いてないとはいえ…勇儀は俺に殴られている。
それなのにだ、突然笑い出したかと思えばよく分からない事を言い始めた所為で全くついて行けなくなったんだが。
「は?合格?」
何が??この際俺が殴ったのが効いてないのは自信無くすけど置いとこう……それでも合格ってなんのことだ?
「やるじゃねぇか〜!!」「カッコよかったぞ〜」「あそこから殴り返すか………俺には絶対に出来ねぇ」「スゲェやつだな」「姉御に一撃入れた…だと」
え、いや、何?ちょいちょい…マジでどういう事だ……。
「うわ〜ん!お進が無事でよかったよ〜!」
「っと、こいしちゃん」
なんてよく分からん状況に頭を悩ませていると、ひしめいていた妖怪たちの間からスルリとこいしちゃんが現れて抱きついてくる。
「心配させないでよ!ホントに勇儀に殺されちゃうかと思ったじゃん!」
「ングッングッ…プハ〜あぁ勿体ない勿体ない零すとこだったよ。いや、私だって拳を振り抜いていいか不安だったんだぞ……。防御する素振りなんて見せないし、ましてや軽く小突いただけでも吹っ飛びそうなぐらいな霊力しかないし」
え〜と…。
「むっ!それでもお進は避けたうえに更に勇儀に一撃入れたよ!」
「だから合格だって言ってんだろ。それも予想以上のな、私だって殴り返されるなんて思ってなかったさ」
言い合った末に笑い合うこいしちゃんと勇儀…。なるほど、なんとなくだが理解出来てきたぞ。
「お前ホントにスゴかったぞ〜!」「姐さんの拳を紙一重で避けるなんてな」「次はオレと遊ぼうぜ!!」「テメーがやったら返り討ちに遭うだろうよ」「アッハッハ!違えねぇ!」「何だとお前から先にやってやろうか!」
…先程までの外周の妖怪達の態度が丸っきり違ぇ………という事はここまでから察するにだ…。
「まさか……思いっきり嵌められた?」
「ゴメンね〜お進」
「ハッハッハ!演技派だっただろう?」
成る程。案の定ガッツリしてやられたってわけか。上機嫌な二人に挟まれてようやく俺は自分の置かれている現状を理解する。
「まぁ、鬼の私としては相手を騙すなんて手を使いたくなかったが……さとりの奴に頭下げられたらそりゃな」
「さとりちゃんが?」
「おう。一進、あんたが本当に幻想郷で生きて行けるかどうかテストをしてやってほしいってな」
…………。
「ま、合格基準は私を前にして生きる事を諦めなければって事だったから正直お前さんは逃げても良かったんだか…こっちは手痛い反撃を受けちまったよ」
さとりちゃんが…皆を使って…俺のテスト…。
「……お進はさ…初めの頃自分の命を蔑ないがしろにしてたから…それがお姉ちゃんは心配だったみたい」
「さとり様あああぁぁぁ!!!今まで小馬鹿にしてホントすいませんでしたあああぁぁぁ!!!」
まさかそこまで考えてもらえてるなんて思ってなかったんですもん!もう五体投地で心から謝ります!!
いや、だってさとりちゃんがまさかここまで大掛かりに仕組んでるなんて普通気付けるかよ!マジで戦う雰囲気出しちゃってたぞ俺!
「…ちょっと待ってこいしちゃん。この試験って何時から始まってたの?」
「ん〜?始まったのはね。私が能力を解除してから――「あっしがあんさんにぶつかった所ぐらいからでさぁ」」
「ん?あ!あんたは最初の鬼!」
「どーも。けれどあっしもドキドキだったんすよぉ、試験って事があんさんにばれちゃあ、その後の全部が総崩れになるんすからぁ」
んな事になったら姉御どころか全員から締められる…っていや!いやいやいや!俺の中の名演技賞くれてやるからあんたもう舞台出ろよ!!スッゲェ怖かったから絶対見に行かないけど!アレのお陰で一気にシリアスになったわ!!
……ってことはそれじゃあ全部初めから仕組まれてたって事かよ……妖怪たちのノリと演技力恐るべし……。
「バカが何時まで勇儀さんの前でしゃしゃってんだ!!」「お前はさっさとこっちで何時も通りアホ面引っさげてチャカポコチャカポコ踊りやがれ!」「よしテメェらまとめて踊り殺してやらぁ!!!」
活気が良いで済ませて良い範囲じゃねぇだろこれ…。
こいつらってばあまりにも歯に衣着せぬ物言いだから圧が強すぎる。それにそこかしこでくっそ騒がしい程の馬鹿騒ぎ始まってるし…向こうじゃ既に怒号と乱闘起きてるし……なんだこりゃ。
「魔境か??」
「違いないねぇ。でもあんたもそんな魔境に仲間入りだよ。――そんじゃあ!新しい仲間増えたんだ!お前ら呑めや騒げの宴会といこうじゃないかぁ!!!」
『ウオオオォォォォォ!!!!』
「行こっ、お進♪」
「えっ?」
「あんたも来るんだよ、一進」
「えっ!?」
さっきの時点でもえげつない騒音レベルだったやん。勇儀の言葉によってボルテージ跳ね上がったかの様にそこらから共鳴して空気まで震えてるし…所々からは既に酒の匂いが漂い始めてるんだけど…。
「さっ、一進。どうせだからあんたが乾杯の音頭とりなよ。ってまぁ、ほとんどがもう飲み始めちまってるけどねぇ」
いや、音頭をとれと言われましても…。
笑いながら酒に口をつける勇儀にそう言われた俺は、酒の入った升を持たされてあれよあれよのうちに地底の妖怪たちに向かって挨拶をする事になっていた。
「え~と…」
………。
………。
お前ら急にくっそ静かやんけ!!シレッとやるから変に注目しないでさっきまでみたく馬鹿騒ぎしててちょうだいよ!
静まり返る場で突き刺さる視線達。少なくても百は越えるであろう妖怪たちの数に少しばかり圧倒される。
「お進!ファイト♪」
……こいしちゃん…。あ〜ったくよぉ、そうまで背中押されりゃもう吹っ切るしかねぇだろ!
「…俺は藤代一進!外界から少し訳ありで幻想郷に来た人間だ!だから、初めはこっちの流儀や常識に分からない事があってホントに色々大変だった」
それでも俺が生きてこれたのは優しい妖怪に会えた事、その身に能力を有していた事等の偶然が折り重なって出来たただの産物だろう。
うん。こう思い返してみたら自分がいかに危険な橋を渡ったのが実感出来るな。
だけど―――。
「……だけど、これだけは確かに言える!俺は――幻想郷に来て良かった!!!それじゃあ乾杯!!!」
『カンパアァァァイイ!!!!』
「カンパイ♪」
辛口すぎる鬼の酒にはちょうどいい、今はこの幸せを升の酒と一緒に噛み締めよう。
痛ッた!!!!!! まっず!!!!!!
………おい一口で口内から食道が燃え盛るような状態になったんだけどコレ本当に呑んで良い液体なのか??勇儀は兎も角としてこいしちゃんまで嬉々として呷ってるのを見てるとやっぱり妖怪って怖いと思うわ。
酒呑童子率いる大江山に居たっぽいしいいんじゃね?って事で舞台装置こと石熊君ですね。尚再出演未定。
それではまた次回。