無論読んで下さっている方々にもこの場を借りて盛大な謝意を贈ります。
それではどうぞ。
〜地霊殿応接室〜
朝食中に起こしたこいしの爆弾発言の所為で一騒動あったものの、一進の供述を聴いたさとりと紫は
「取り敢えず、一進は故意に入った訳じゃ無いから許すとして…【拒絶を司る程度の能力】ですか……貴女は本気で勇儀さんに殴って貰えば良かったですね」
「恐ろしい事言わないでよ!!アレ本当に痛いのよ!!」
「ですが、そこまで強力な力をちゃんと伝えないのはどうかと……」
あの時しっかり勇儀に殴らせておくべきだった、とさとりは少しだけ後悔する。
それはそうだ、能力なんて元来その者が持つ性質や特徴を捉えたものが大きい。さとりや紫の持つ特異的な能力を指したものもあれば勇儀やお燐といったその者の特徴を表したものが良い例だろう。
更に区別するならその中でも先天的に持って生まれた能力なのか、後天的に身についた能力なのかでもややこしくなるが、ひとまずは紫が一進に嘘を吐いていたということが問題なのである。
特異な能力なんて思い込み次第でどうにでも変容してしまう。であれば能力の存在を理解している先達として、その危険性を注視していればもっと安全に自分の能力に触れることだって出来ていたのだから。
「軽い仕返しが後悔になっても知りませんよ」
「うっ……だ、だって〜悔しかったんだもん♪」
「気味悪い事言ってないで「気味悪いッ!?」対策は立ててあるんですか?」
「気味悪い………えぇ…そうねぇ、ええと……」
紫はさとりの言葉に傷つきながらも顎に手を当てて考えてみる。しかし、一進の能力上対策なんてものはどうやっても後手に回るしか無い為、大した事が思いつかない。
「……あ!」
「幻想郷の有力者達で保護……ですか」
「そうよ!問題が起きたら止められる者がついていれば万事解決じゃない!」
確かに案としては重畳だろう。何分さとり自身もそのような考えで彼を地霊殿に置いているのだから。
しかし、さも名案を思いついた様に紫は振る舞うが……心が読めるさとりにはそんな演技が通用する筈も無い。
「それが建前で……一進と一緒に暮らしたい、と」
「………………」
「確かに一進は家事万能ですし…時にはあれですが優しくそれでいて気がきく人間です。あなたの思っている通り一緒にいるのは楽しいですよ」
まぁ…それでも人を小馬鹿にする所など難点もありますけどね。
そうさとりは一進を褒めるだけでなく、しっかりとマイナス点を口にした。
「それなら!!」
それにより、さとりは一進にあまり好印象ばかりを抱いて無いと判断して、紫は一進と暮らす希望を見い出すが……。
「けれど、それら含めて一進は私たちの家族ですから」
「…………スゥーー」
…………一瞬にして希望が消える。
綺麗な微笑みを浮かべながらそんな事を言われてしまえば、普通誰だって何も言えなくなるだろう。
「………………します」
「……はい?どうしました?」
「お願いします
「誰がお義母さんですか!!」
しかし、それぐらいの事で一進の事を諦める紫ではない。
「だって〜料理が上手いし〜かっこいいし〜それに優しいなんて完璧よ!」
「その完璧な方があなたの従者にいるんですが……」
「藍の事?ん〜二人いてもいいじゃない。寧ろ二人の方が私―――んっん、二人で互いに助け合えて楽が出来るでしょうし」
先程の
さとりだって楽がしたい気持ちは分からない訳ではない、むしろ手がかかるのが二人程居るわけだからその気持ちは強いだろう。
けれど、自分は主人だから頑張らないといけない……そんな一心で過ごしているというのに、幻想郷基準で言えば自分より上の立場にいる妖怪がこんなんでは悪態も吐きたくなるのも無理はない。
「はあ……ダメ人間ですかあなたは……」
「ちょっと!流石にそれは違うんじゃないかしら!」
だがここまで言われたら紫だって怒る。
確かに紫は家事はあまり得意では無い(自己評価)とはいえ、自分は幻想郷の管理という重大な事をやっている。
それなのに全く仕事をしていない〜なんて思われるのが癪だった。
「ああ〜すみません。確かに間違えました」
さとりも自分で言った事が間違いだと気づいて、言い過ぎたと反省してくれた様なので紫も一安心する。
「(藍にも言った事があるけど、私だって日頃頑張っているのよ―――)」
「ダメ人間ではなく、ダメ妖怪でしたね」
「そういう事じゃないわ!!!」
当然さとりは紫が何を求めていたかなんて知っている。知った上で紫を弄っているのだった。
内心では必死になりながらもある事から目を背けさせる為に……。
「ねぇ、八雲紫?」
「「!?」」
突如として二人の視界の中に現れた者は無意識を操る少女…古明地こいし。いきなりの登場にさとりも紫も僅かながら驚きの反応を示す。
「お進を地底に連れて来てくれてありがとう。でもそれだけだよ、お進は渡さないから」
「……お風呂で鉢合わせになったぐらいで照れてるお子様が言うわね〜」
こいしが強気に出てきた為紫はこんな事を言い返してしまった。しかし、もし仮に自分の身で同様な事が起きたら彼女は暫くの間まともに一進の顔を見れなくなるのは必然だろう。
「……」
「……」
「(こいし!折角一進の話題を逸らしたのに何で戻すのよ)」
紫とこいしが一触即発の空気の中、さとりは自分の頑張りを一瞬で壊したこいしに小声で文句を言う。
「ん〜ん、そんな事気にしなくても大丈夫だよお姉ちゃん」
しかし、こいしは悠然とした態度を崩さない。
一進を取られる訳が無い…それは絶対的な自信の表れだった。それ故にこいしは言葉を繋げる。
「だってこんな年増に負ける訳無いもん」
完全な悪手を選ぶ事になったが……。
「フッ…フフッ……じゃあ話し合いなんてもう必要ないわね。強制的に一進を地上に連れ去ってあげるわ!!」
「ッ!?」
「こいし!一進の所に行きなさい!」
紫がやる気を出してしまったら防ぐことは出来ない。そう素早く判断したさとりは、こいしを一進の元へとすぐさま向かわせる。
さとりのこの判断は大いに正しい。仮にここでこいし共々残ったとしても紫に抗う事は出来なかっただろう。
「…………判断が早いわね。でも、例え先に行かせたとしても…あの子がスキマより速い事も、貴女が私を止める事もありえないわよ?」
「……ええ、確かにその通りです。私だって止められるなんて思い上がってませんよ」
では何故?実力差まで理解しているであろうにも立ち塞がるさとりに、紫は考えが読めずに不思議に思う。
「ただの足掻きです。何もせずに彼を取られた、となれば自分でも納得出来ませんからね」
「そう…そういう事なの。だったらすぐに終わらせて――」
「想起…勇儀さんの蹴り」
「イヤァァァァ!!!」
ここでさとりは昨日得たばかりだが持ち得る切り札を切る事で少しでも時間を稼ぐ。
「(足掻きというよりも、妹の恋路を応援したいのが姉の本音ですけどね)」
妹の為に、と自分より遥かに格上の存在に挑んだ己の危険を顧みない優しい姉の姿がそこにはあった。
しかし、
「……厄介な事…してくれるじゃない!」
「……もう復活しますか……」
絶望的な妖力差が現実として立ちはだかる。
さとりの必死な頑張りも数刻と持ちそうではなかった……。
○
時は少し遡り
side一進
「う〜わ〜、すっげ〜だり〜」
俺は気分の落ちる事を言ってフラフラと廊下を歩いていた。
つい先程まで紫さんとさとりちゃんの両名による問い詰めをされていたのだ(途中で紫さんの嘘や適当な場所にスキマで落とした事についての謝罪があったがな)。
ま、それも今では解放され、より一層酷くなった二日酔いの身体を引き摺って自室に戻っている所よ。
「詰問はテキトーに誤魔化したからいいとして……紫さん…微妙に間違って無いとはいえ、あんた腹いせに嘘言うのもどうかと思うぞ……」
まぁ、結局能力が使えるようになったのだから結果オーライなんだろうけど……嘘の能力名を信じて修行していた事に少しだけゾッとしたよ。
後ちなみにここだけの話…俺は風呂場で起こった出来事に全くと言っていいほどダメージが無い。
簡単な説明をすると、
→俺が湯に浸かっていた。
→こいしちゃんが俺に気付かずに軽快に浴室の扉を開けて入ってきた。
→濁り湯の中にいる俺と湯の外にいるこいしちゃん。
→うふふふふふふ。
=このロリコンどもめ!
俺疲れてんのかな?二日酔いが抜けてないみたいでまぁ〜途中変になってたけどこの通り被害者は一方的に向こうだけなのだ。
寧ろ俺に気付いたこいしちゃんが赤くなってふにゃふにゃになっていたが…変に誤解を受ける訳にはいかなかったからさっさと逃げるように出てきた。
「わーい!ラッキースケベやったー!………なんて、コアな趣味してないし、どっちかって言うと娘持った父親みたいな心情だったし」
こう言うのを父性って言うのかな?いや、まぁ、分かる訳無いんだけどさ。
「あ〜、ダメだ鬼の酒が強すぎる……」
「…おや、お兄さん。どうしたんだい?」
「お?お燐無事だったのか」
「……なんとかね」
なんて俺がふらふら廊下を歩いているとお燐が声をかけてくる。
お燐はお燐で先程食堂でこいしちゃんに吹き飛ばされていたから少々心配だったのだが……良かった良かった、これなら大丈夫そうだ。
「あたいもだけどお兄さんの方が大変だったじゃないか」
「まあ……ね」
お燐さんや二人に散々言われた小言を思い出しそうだから止めてくれ。
「それに大変って言っても、あたいの場合は昔からお空のカバーやこいし様の無茶振りを聞いていたから慣れてるさ。寧ろ、最近だとこいし様がお兄さんに夢中になっているからその分苦労は減ったよ」
笑いながら苦労は減ったって言っても、今日はこいしちゃんにやられてたけどね……。
それにしても地霊殿の関係上俺がこいしちゃん、お燐がお空のストッパーとなっている為、互いに苦労人だという事で微妙な親近感を覚える。
「まぁ、楽になったって言うけどね……実際、内心複雑なんだよ。なんか、今まで懐いていた猫が他の人に懐いている様な感じさ……。本当に猫のあたいが言うのも変な話なんだけどね」
にゃはは、と頬を掻きながらお燐は何やら難しい事を言ってくる。
ヘェ〜、それはそれは……。
「
「何でわざわざ言い換えているのに!そうストレートに言うかなぁ!」
「ハイハイ猫状態になったら撫でてあげるから後で部屋においで
「フシャー!!話を聞けー!」
なんて怒っているようだけど大して怖くはない、と言うより微笑ましい。
「――じゃあ今から撫でてもらうよ!!」
「……ハイハイ」
ホント、寂しがり屋な猫だこと。
で、だ。
「ここか?ここがいいのか?」
「ニャーン♪」
「ははっ、そうかそうか」
「ゴロゴロ♪」
俺は思う存分、部屋でお燐を撫でていた。
え、二日酔いはどうしたって?そんなの覚えてないよ、だってお燐が可愛いんだもの。
……納得しないって?じゃあ、撫でていていくつか分かった事があるからそれを教えよう。
初めに、お燐の撫でられて喜ぶ所は顎や眉間などの顔周り!そして逆に尻尾や足は嫌がる様だ。
だけど尻尾の付け根が一番喜ぶんだよな。尻尾と付け根の差ってなんだろ?よく分からん。
まぁ結論、これスゲー癒される!!もう一度言おう、これスゲー癒される!!
「ゴーロゴロ♪」
「よしよし」
そんな、アニマルセラピーとして猫と戯れている誰がどう見ても癒されるシチュエーション。
「あ〜、このまま寝そう…」
俺は前日の事と先ほどの詰問(?)の疲労に加えてこのほんわかとした陽気な空気の相乗効果に呑まれ夢の世界へと……。
「おしーーん!!!」
行く事は無かった。
「ねぇねぇねぇ!!お進はどこかへ行く気なんて無いよね!!」
「(夢の世界に行きたかったです)」
なんて冗談は心に留めてちゃんと答えよう。
激しく扉を開け放ったかと思えば突然こいしちゃんにそんな事を聞かれる。
つ〜かどこかへ行く?それに何を必死になっているのかイマイチピンとこないんだが……。
「ん〜、そりゃココから追い出されたら行くところなんて無いからね。当然行ムグッ「はい、ストーップ!!」」
「あ!?早ッもう来たっ!!」
俺がこいしちゃんの質問に答えてると、後ろに開いたスキマから現れた紫さんに口を塞がれる。
段々と嫌な予感がしてきてこれから何が起こるのか想像するだけで気が気でなく―――あ、ズリィお燐逃げんな!!俺だって面倒ごとに巻き込まれたくねぇよ!
「今度はちゃんと連れて行ってあげるわ、一進」
「は!?」
「ちょっと待って!!」
俺はこいしちゃんに抱きつかれると同時に、急激に身体が浮遊感に襲われて懐かしい感じを思い出す事になった。
「またスキマに落ちるのかよぉぉ!!」
「キャァァァ!!」
「もう一人ついて来ちゃったけど……別に良いわね。それじゃ二名様を地上までご案内♪」
前回もそうだったけどいきなりの事過ぎて殆ど荷物なんて持ってきてねぇぞ!それにさとり様になにも言ってないし……さとり様ぁーー!長い休暇を取らせていただきまーす!!
……なんて、悠長にバカな事考えてる場合でも無いな、また地面に叩きつけられては堪らない。
「って俺飛べるんだった」
「あ、そー言えばそーだね」
「嘘ぉ!?一進飛べるの!?」
驚愕の表情を浮かべている所悪いんだが…突然の拉致に対して苦言を申し立ててやろうか。いつもいつも振り回される為、俺は僅かにそんな気持ちの抱きながらスキマの中を漂う事になった。
ある程度基盤整えたのでさよならバイバイ地底編。
それではまた次回。