それではどうぞ。
第15話 賢者の式神
人と妖が共存して生きる世界――――幻想郷。
地底では見ることが無い光景だったが、地上ではそれが顕著になって表れる。
ちなみに妖と言ったが別に妖怪だけが全てではない。共に生きているのは妖精だって、神だっている。
そんな地上へ強制的にスキマで落とされた一進とこいしは、現在地上のどこかにあるだろう八雲紫の屋敷の前まで来ていた。
突然連れてこられた一進は、不可侵条約やさとりに地上に出る旨を伝えなかった事を気にして紫に問いかける。
そうすると条約を作ったのは私だし…さとりにもちゃんと伝えてきたから、と紫曰くどちらも大丈夫らしい。
そんなこんなで、吹き抜ける風、木々の騒めき、地上を明るく照らす太陽が彼らを出迎える中、一進は新たな舞台に足を踏み入れたのだった。
○
一進side
「は〜明るいもんだな」
「ふふっ、地底に比べれば殆どがそうでしょう。ら〜ん!帰ってきたわよ〜」
あ~、そーいや俺が居たところって地底だったな…長く居すぎた所為であっちが標準になってたかもな。
「お戻りになりましたか紫様、それで?探し人というのは―――ああ、そちらの」
「どうも、藤代一進と言います」
「そうか、私は八雲藍。よろしく頼むよ」
紫さんの呼びかけで出てきたのは変わった帽子と道士服?を身に着けた大人の雰囲気を纏う女性。
藍さん(でいいかな?)は今まで会った妖怪の中でも一段と美貌というか色気というのが滲み出ていた……。
………確かに滲み出てるんだけど…あのさ?
「この尻尾か?ああ、見て分かるように私は狐の妖怪さ……それも九尾のな」
やっぱりかい!!真っ先にそこが気になったし、もう出てきた途端になんとなく分かってたよ!!!
「って九尾の妖怪ってまさか中国の!」
「ほう?平安ではなく先にそちらが浮かぶのか……ふむ、文献で残っているのなんてせいぜい私が殷の王を誑かした事ぐらいしか―――そうかなるほど。お前もそういう事に興味があるのか」
つーことは本当にマジもんの九尾じゃねーか!?鬼は鬼で凄かったがこんなにもネームバリューを持つ歴史的にも有名な人物?に会ってるんだぜ!!
――――っていう叫びをしたいんだが一旦置いとこう。
だからこいしちゃん?俺の足を踏むのを―――痛い痛い痛い!!!
「その状態でグリグリは止めて!それ結構痛い!」
「ふーんだ!」
そして藍さん!?からかい目的が丸わかりなんだけど誘惑するように来ないでください!こっちが酷くなる一方なんです!!
「藍?それ以上一進を誘ったらただじゃおかないわよ」
「はいすみません、紫様」
よっしゃ助かった!完全に遊ばれてるだけなんだろうけど間接的にこいしちゃんからの攻撃が強まっていたから割と純粋に紫さんに感謝したくなったよ。
「止めてくれて助かりました紫さん」
「あら、じゃあ感謝されるついでに相談なんだけど……一進、貴方藍と同じように私の式にならないかしら?」
「だから!お進は渡さないって言ってるじゃん!!」
藍さんを制止したかと思ったけどあんたが擦り寄ってくるんかい…。そして嬉しい事言ってくれるねこいしちゃんは………足まだ痛いけどね。
だけど、式って何さ?藍さんを見る限りじゃ従者っぽいような…。
「ちなみに式っていうのは「簡潔に言えば
へぇ〜やっぱり従者なんだ、紫さんが話している途中で藍さんが口を挟んだのが少し気になったが納得出来た。
従者になれば力を与えられる……か、それはそれで強くなる為には魅力的な話なんだろう。なんせ紫さんは九尾を従える程の大妖怪、その恩恵も凄まじいものと予想出来る。
だったら式になるべきなんじゃないかって普通思う訳だろ?
だけど、
「……お進は私の従者なんだよね?」
不安そうに見上げてくるこいしちゃんの目が辛い……。
「頼む藤代一進!!私を助けると思って紫様の式になってくれ!私だけでは手が回らないんだ」
藍さん、なんて言われても決心がつきません!俺はこいしちゃんが大切なんです!
「え〜と……」
「……お前は確か…古明地こいしだな、少し来てくれ」
「?」
そんな煮え切らない俺の返事を見かねたのだろうか、藍さんはこいしちゃんを呼んで耳打ちをし始めていた。
………………。
………………。
………………。
「…うん、わかった。それならいいよ」
「話の分かる妖怪で助かったよ」
何かを話し合っていたようだけど、それは当然聞こえない。けれども、すぐに耳打ちを終えた二人は、握手して約束事を決めたようだった。
「紫様、一進を式にしてもよいそうです」
「キャー!さっすが藍!」
「…え、良かったのこいしちゃん?」
「うん♪一進が強くなる為だもんね、わたしもワガママばかり言ってられないもん」
笑顔を浮かべてそんな事を言ってくれるこいしちゃん、小さな見た目に反して随分と大人だった事に俺は少し驚きを隠せない。
「ですが!」
「「?」」
っと何だ?話している最中に藍さんは言葉を切ったぞ。
「八雲家で彼を拘束してはいけない事が条件となります」
「え?」
は〜成る程…ホントしっかりしてるよこいしちゃんは……。
「ら、藍〜?どういう事〜?」
「はぁ〜、文字通りの意味ですよ。一進をこの家に、もとい常に私達の手元に置いておく事が出来ないという事です」
紫さんも分かっていないのか、困った様に疑問符を浮かべて藍さんに説明を求めていた。
因みに、こいしちゃんがつけた条件によって俺は殆どデメリットが無くなっている。
つまり基本的に行動は自由で、紫さんたちが手伝わせたい事が出来た時に限り紫さんの式となる事だ(短期間)。
まぁ、与えられる力は分かりづらくなるが…貰えるものはもらっておこう。
それにしても一瞬でここまで考えるなんて、こいしちゃんおそろしい子!
「ま、まぁ、一進が式になる事は確かになのよね!」
「そういう事ですね」
……おいおい、マジか紫さん。そこまで説明されて分からないって大丈夫なのか?いや、だからこそ藍さんがしっかりしてるのか。
「それなら呼び名ね〜色がいいから……それでは
「それじゃ犬の――――ってどっかでやったぞこのやりとり!!!」
なんてついツッコんでしまった俺は悪くない。
だってこんな奇跡的な被り方あるなんて普通、夢にも思わないだろ!!
さとりちゃんもそうだし、紫さんもそうだし、なんだ?人にシロって付けるのが幻想郷で流行っているのか?
幻想郷の行く末が心配になってきたよ。
「どうしてそこを取るんですか紫様は……」
「え、だって色で揃えたいじゃない」
「藤があるじゃないですか!」
それな、俺も色にするなら普通そこになると思ってたよ藍さん。
「と、当然知ってるわよ全く揃って失礼なんだから……で、藍?藤って何色なの?」
「はぁ〜あ……」
「(ねぇお進、あれホントにスゴイ妖怪なの? )」
「(…………多分)」
こいしちゃんが見下げた感じで聞いてきたから答えたけど……いかんせん自信が無い。
いや、だってさすがにここまで来ると当初の紫さんの大物感が俺の間違いだったっていう方が納得出来そうだぞ。
しかも本気で式の筈の藍さんの方がしっかりしてるし。
けどまぁ、それは置いといて―――
「藤代一進の雑学!!」
「うひゃあ!?いきなりどうしたの!?」
「ほら、向こうで藍さんが紫さんに呆れながらも藤について説明してるからこっちでもしようかなって」
「わたしだって分かってるよ?」
そんな事言われようが俺は止まらんぞ、皆忘れてるかもしれないが宴会明けの所為で頭バカ痛いしテンションがおかしいんだ。
ふはははは!どうでもいい知識を身につけるがいいさ!
「え?藤色は何かって?「誰も聞いてないよ」それについては藤について語ろう。藤っていうのはマメ科の植物でな、五月頃に紫色の花を咲かすんだ」
「へぇー」(興味なし)
「うぐっ、よ…よって、藤色=紫色、薄紫色って感じになるんだよ」
あまりにも素っ気ないから段々と恥ずかしくなってきたからそろそろ辞めよう。調子に乗ってすいませんでした…ちょっとだけこいしちゃんのリアクションで傷ついたよ……。
だけど涙は出さない、男の子だもん。
…………。
くっそスベったけど知らん。俺はやりたい事をやれたら満足なんだよ。
それにしても藍さん話長いな(露骨な話題そらし)。俺なんて藤色の説明は一分も掛からずに終わったぞ?なんか別の話でもしてんのかな。
「いっしーん!貴方の名前が決まったわよ!」
って所で紫さんから声が掛かる。
「おっと、なんて考えてる間に決まったみたいだな」
「…………」
「…どしたの?」
「……ん〜ん、なんでもないよ」
そうか?ならいいや。
少しこいしちゃんの事が気になったが、自分の名前がシロじゃなくなった事を安堵して新たな名前を聞きますか…。
「それで紫さん?結局俺の名前は藤になったんですか?」
「ん〜、それがね〜。普通に藤だと味気ないから、
味気ないなんて言ってるけどあんた…その普通の藤すら気づけなかったのはどこの誰ですかね?
ま、いいや。それより…。
「
「ええ、昔の着物の色でね。
うん、最後は聞かなかった事にしよう。
ヘぇ〜、着物から由来ね…さすがにそこまでは知らなかったわ。…藍さんってそんな事まで知ってるのかよ。
「まぁ、字面は良くないけど
……そろそろ気になっているんだが、なんでこの人の好感度こんなに高いの?正直何もしてなくない?
こいしちゃんが俺に好意を持ってくれているのはなんだかんだ話し合って分かったけど、紫さんが俺を好きになってくれる要因なんて今まで無いよな。
…無いよな?
まぁ、分からない事に時間割いてても仕方ないし今はほっといていいか。
「それで?式になる為には何を?」
「……無視されたらそれはそれで傷つくわね…」
泣けばいいんじゃない?
俺もさっき似たような状態だったよ、泣かなかった結果がっつりスベったけど……。
「まぁ、いいわ。それじゃあ契約するから座ってちょうだい」
そう言って、紫さんの手は座った俺の頭に置かれる。
「始めるわよ」
「ああ」
妖力…というものなのだろうか。何かぼんやりとしたものが感じられる。
だけどお燐やお空…勇儀に向けられていた殺伐としたものじゃなくて、確かに暖かな力に包まれ徐々に俺は不思議な感覚に襲われた。
『集いなさい』
『纏いなさい』
『繋ぎなさい』
『結びなさい』
『誓いなさい』
『契れ 貴までときてうき交わすことを』
『契れ 我といましと息の
『契れ 御身が代行者であることを』
『名は
『其の命ある限り我に従え』
『さすれば汝、我が力分け与えん』
…………………………。
…………………………。
「どうかしら?」
力の奔流が収まり、辺りは静寂で満たされ契約が終了したようだ。
「……そんなに目立った変化は無いよ」
かくして俺は紫さんの式となった。
副題は賢者の式神(になる)でした。強化したかったしいいやん。契約元ネタはあるけど今の時代分かるわけがないのよね。
それではまた次回。