それではどうぞ。
◯
「――ねぇ、『
――ッ!?
八雲と名乗る者の言葉で背筋が凍る。しかし、それは極端に空気が冷えた訳では無い。
…初めからどこか怪しい雰囲気を纏っていたものの…数刻前まではまだ疑うだけで、素直に信じようとはしていなかった。しかし、しかしだ。しかと感じ取れてしまった今ではそんな考えも裏返る。
…一言で表すならこいつは異常。
何故俺の名前を?それに妖怪に賢者に…幻想郷?かなり不可解な事を言ってくるものだからそんな考えが俺の中で反芻する。
というか第一妖怪なんて非科学的もの存在する訳が無いだろう。ここまで来るといっそこいつが巫山戯ているとか撮影とかを疑い始めるんだが…。
「……」ゴクッ
…そう、笑い飛ばすことが出来なかった。
認めたくなかった。怖いのだ。
…妖怪が存在する事がか?
いや、違う。そんな事では無い。あり得ない事を言うそんな異常者ならば俺を受け入れてくれると、僅かにでも喜んでいる自分が何よりも恐ろしかった。
「……」
八雲に目を向ければすべてを読んでいるかのような瞳、万人の目を惹く美貌が映る。
いっそこのまま委ねてしまっても良いのではないか?
…一瞬そんな考えがよぎったがすぐに頭を振って追い出す。
「(いやダメだ。信じて裏切られたことがあるのを忘れたのか?だとしたら初めから信じない方が幾分か心は痛まない)」
過去にも俺は、今目の前にいる女性と同様に普通では無い奴と会った事がある。あたかも神を信じていたその子はまわりに比べ異端だった故なのか、俺と似た様な境遇で同じく独りだった。
だけど、いつの日かを越えるとそれ以来会ってない。そうなったのも俺の自業自得だってのに、俺も俺でクソガキだった事もあり意地になった所為で解決出来ずそこから早幾年。そこから他人を信じる事に恐怖を覚えるようになったのだろう。
いくら思考を重ねても現状を打破する選択肢が一切分からない…。くっそ!どうするやっぱり全力ダッシュで逃げるべきだったか!
そんな悠長な考え事なんていつまでも八雲は待ってなんか―「ねぇ」…ホラきたよ……。
呼ばれた事で八雲を注視する…。街灯も少ない薄暗い中なのだが、良く良く見れば背後に無数の線の様なものが引かれている、そしてその両端はリボンがあしらわれ僅かにだがファンシーさが醸し出されていた。
…リボン…?なんだろう、そんなもん付いてたって全く心が安らがない上なんの意味が――ゴパァ……。
……は?
「ハァ!!?」
「何時まで自分の世界にいるつもり?」
「……ッ!!」
いよいよ持って八雲の言葉に俺は顔を引きつらせる事しか出来なくなる。否、現在俺の目の前で起こっている不可思議過ぎる現象について正しく表現する事が出来なかった。
それでも、無理やり言葉で表現すればこんな所だろう――。
「……」
「目の前にこんな美少女がいるのだから、私にもっと意識を向けるべきだと思うわ」
あまりの現実離れした光景に驚き何も言えなくなるが…八雲は慣れ親しんだ事の様に空間を開け閉めをしている。
「興が乗らない様ですし折角話をしても心ここにあらず…。あまり私を無視するようでしたら………すぐに攫いますわよ」
ギョロギョロと、裂けた空間からは無数に瞳が浮かんでおりどう見てもこの世のモノと思えなかった。唇が渇く…。こうまではっきりと異常を目の当たりにされれば自然と焦りも生まれてくる。
……だからだろうか、そんな光景を見てしまった俺の脳内はキャパシティオーバーを起こしてしまう。そんでもって恐怖に加えてここまでのテンションが一周するあまりに……。
「いや、流石に美少女は無理がある」
開き直りそんな事を口走ってしまう。そして、見事に地雷を踏み抜いてしまっていた事に気付く事は無かった。
つーかなんだってんだチクショウ!あんなのもう特異体質の域超えてガチの能力もんだろうが!!
あまりにも予想外な出来事にキレたくなるも心の叫びは誰にも届かない。この場に居るのは俺と八雲の二人だけ…危険信号が飛び交い目を離す事すら躊躇われる為、今更逃げる事だって出来やしない。
そもそもあの裂け目は何だ?あれが八雲の能力ってやつなのか?どんなものかは知らないけどこっちはマイナスしかない能力だって言うのに向こうは随分と―「……ぃなさい」…は?
…え?何、ごめんなさい?俺の心情が伝わったのか?伝わったから良い能力持っててごめんなさいってか?だったら頼むから逃がして欲しい!!
「もう一度言ってみなさい!!!」
違ったぁ!大幅に違ってたわ!!そりゃ聞く前から違うのは分かりきっていたんだけども!
白く、美しい顔を赤く染めてとても怒っていらっしゃるようで殺気がとめどなく流れているではないですか…。あぁもう勘弁してくれ!
悪態の一つでも吐きたいが、八雲が近づいて来る前にどうにかしてその怒りを沈めなければ俺の命に関わる…。まともな手段が無い中で必死に頭を回転させる。
さて、どうしようか……。
「えぇ、そうよ!どうせ私はB○Aよ!若く見せようとしてもどうせBB○に見えるんでしょ!!」
「……」
お~~っとぉ~。
……え、なに?そういう事?そんな感じの人なの?
何だろうこの人、空間から変な目を覗かせたり自分を妖怪とか言って変な雰囲気を纏っていたり、絶対に普通じゃ無いんだろうけど…思っていたより普通な感じがする。
支離滅裂になってるけど本当にそう感じるんだ。確かに普通では無い事をやってはいるんだけど…俺の目には夢にまでみた普通の会話が出来ていると感じてしまう。
「もういっそ貴方を消し―「美人です」…え?」
「あなたは美人ですよ。それに少女と言うよりも淑女と言う方が正しいです。さらに言えば可愛い系ではなく、綺麗系だと思いますし」
何か不穏な言葉が聞こえたから速攻で口を挟む。…言われかけた内容についてはスルーしよう。長く生きる為には必要な事なのだ。
まぁそうやってしれっと自分の考えを告げると、さっきまで叫んでいたのが嘘のように八雲は俯き大人しくなってくれていた。
「…………」
大丈夫。この解答で誤解は解けるから大丈夫。多方面から嫌われまくっていたが故に否が応でも媚び諂うスキルは必須な人生だったから多分大丈夫。
俺は微笑み、内心ビビりながら八雲に抱かせていた勘違いが解ける事を切実に願っている。
そして、暫くして顔を上げた八雲と目が合い――。
「―――ッ///」シュン
開かれていた空間に身を滑り込ませて空間が閉じてしまった。
…そして物音ひとつせず辺りが元の街のように静まり返る。
「助かったのか?」
細く息を吐き、自分を落ち着かせるように胸に手を当てて深呼吸をする。やや冷たい空気が肺に入り込み、少し熱くなった身体全体へと染み渡る。
…殺気は無くなっていたけど顔は赤いままだったな。想定より幾分か良く思われ過ぎだと感じるけどまぁ突然あんなこと言っても驚きはするけど怒りは鎮まらないか…。
…はぁ…こりゃ次会ったときに謝まった方がいいな。
「――あれ?」
ふと、自分の考えがおかしい事に気付く。
……さっきは恐ろしかったってのに、また会うことなんて考えているのか俺は?
確かに八雲との会話を楽しんでしまってはいたけど…それとこれとは別問題だろう。普通と異常、俺も普通とは言い難いが…八雲と比べれば毛が生えた程度。ゴミにしか見えない。
…それなのに……。
「ハハッ!心のどっかでまだ期待しているのかねぇ」
拒絶されるのが普通の俺なのに…こんな俺を受け入れてくれる事をさ。
異常でも良かった。普通じゃ無くても良かった。ただ、今の生活を変えられるのであれば変えてみたかった。
「…こんな事思うなんて変な空気にでも当てられたか?」
八雲…。俺の人生では今まで感じられなかった新しい感覚。……これはどう進もうと面白くなりそうだな。けどまぁもう遅いし頭の中を整理したいし…今日は頭を悩ませる事が多かった。
「ま、ここで考えても仕方ねぇや。…さっさと帰りますか」
そう小さく呟いた俺は、夜明けで幽かに明るくなる街の中を、疲れた身体をひきずるように帰路に向かうのであった。
「………あ…ミスった…結局私の世界って何なのか聞いてねぇや…」
そういえば能力がどうとかが気になってしまったからついついそっちに意識を割いてしまったけど……いかんせんやらかした感じが漂う…。
「夢じゃない…よなぁ。……いてぇし」
軽く自らの頬を
わざわざ確認しておいてなんだけど、実際はこの事を夢でなんて終わらせたくはなかった。そして折角面白そうな事がこれから起きそうだというのだから少しは信じてみたい気持ちもあった。
「……俺でも受け入れられる世界…か」
元来一人で生きてきたようなものだからその言葉に心惹かれるのはしょうがない。
八雲の言う感じだと、俺はこのままここで生きていても拒絶され続けるには変わり無いだろう…。だったら導き出せる答えは一つ。
「あるなら行ってみてぇよ」
そこでなら俺も楽しめるかもしれない。普通より、異常に近い方が俺には合うみたいだし…。
それに、この世界には既に叶えられないと分かってる思い入れくらいしか無いからさ、だったらそんな世界とおさらばしても別に困らない。それに、例え八雲の世界に行った後、そこがどうなっていたとしても俺は満足出来るさ。
………もしもその世界があんな特異体質(?)の異常者集団まみれだったら世紀末待った無しだけど大丈夫なんかな?
白い吐息を吐き出しながら歩く。またそのうち特別な日常に出会えると心に思いながら、異常から特別な日常になった気持ちで家路へと向かう。
向かおうとしていた廃ビルは、既に心からも――現実からも無くなっていた事に気付かずに歩を進めていた。
いつの間にか原作がどんどん出てキャラ増えすぎてて笑ってます。
それではまた次回。