それではどうぞ。
○
side一進
「よっと…」
スキマから出てまず俺の目に飛び込んできたのは緑だった。
微かに吹いた風でサワサワとそよぐ心地の良い音色…。
天井から降り注ぐのは、心まで暖かくしてくれる神秘的な木漏れ日…。
人の多い街中では絶対に感じる事が出来ないだろう、
周りの草木には、子供の時ならまだしも大人になった今では少し遠慮したい小さな小さな生き物たち…。
……なんて詩的に表現したところで限界があるんだよな。
そろそろみんなも隠し切れない事実に気付いた頃だろうから言わせてもらう。
それでは、せ~ので―――。
「何で森の中なんだよ!!!」
そう。俺たちが今いるところは森である。紛うことなくたとえ三百六十度見回しても木、木、木で囲まれている森の中。木、木、木で=森だろって?やかましいわ!
ったく…
「実際はスキマって使い勝手悪いとかそういうオチか??…もしくはまた適当に仕事してるからの結果なのか…」
まぁ、それでも飛べば見えるだろうし最悪それで行けば大丈夫だろうと思ってたんだが…こいしちゃんはこんな森の中でも大体の方向は分かるとの事。
色んな所を放浪している優秀なナビゲーターに一安心して俺たちは森の中を進んでいたわけですよ。
「それでこいしちゃん?これから俺達が向かう紅魔館ってどんなとこ?」
飛ばないならどうせ紅魔館に着くまで少し時間が掛かるそうだし…そしたらついでって事で道すがら話でもして行きましょうか。
それに結局のところ、当主が運命を操る事ぐらいしか聞いてないからあまりにも情報不足なんだよね。そしたら情報は多めにあっても損はしないし、知れる事は出来るだけ知っておこう。
「ん〜、見た目が真っ赤で楽しい所?」
「……そっかぁ」
あまりの情報に思わず頭を抱えたくなる…。これは完全にミスったな…ちゃんと藍さんにでも聞いておくべきだったわ
「けどまぁ、こいしちゃんの友達っていうのなら話もスムーズに進むよね」
知りたい事が知れるかは雲行きが怪しいが…それに対して文句を言っても仕方がない。
そういえば、紫さんが紅魔館には危険な妖怪がいるって言っていたけど…それも昔の事らしいし、何よりも友人関係に当たるこいしちゃんがいるんだから危険だって無いだろう。
「…あ〜…う〜ん…ど〜なんだろう…」
「どったの?」
えーと……多分だけど前言撤回するわ。
向こうの用事なんてスムーズに進むと思ってたんだけど…こいしちゃんの反応が少しよろしく無いところから察するに確実に面倒事があるみたいだ。
「えっとね、先に言っちゃうとわたしと紅魔館の当主―――レミリア・スカーレットとは知り合いじゃ無いの。正しくは私が一方的に知ってて、向こうはわたしを知らないんだけど…」
「え?一方的?」
ん?知り合いじゃ無いの?って言うか友達の所って事で今俺が着ている執事服を持ってきてくれたんじゃなかったっけ…。
ちょっと待て少し考えてみよう。取り敢えずこいしちゃんが向こうの事を知ってるのはまぁいいとして……向こうがこいしちゃんの事を知らないのは―――あ〜。
「能力を使っていた…と」
「うん」
あぁ、なるほどね。これで合点がいったよ。
こいしちゃんが能力を使う事で誰にも気づかれずに済み、また一方的にこいしちゃんが…その〜レミリアさん?を知る事が出来るってわけか。
「じゃあ友達ってのは」
でもそれだったら…酷い言い方かもしれないけどさ。友達ってのもこいしちゃんが一方的に知って、もしかしたら言ってるだけの可能性が微レ存……。
「ううん。フランちゃんはわたしの事をちゃんと知ってるよ。えっと…フランちゃんっていうのが地上で出来たわたしの大切な友達なの♪お進が来る前までは紅魔館に行ってちょくちょく遊んでたんだ〜♪」
ああ良かった。どうやら友達の方はお互いに知り合いみたいだ……。そこすら勘違いが発生していたらもはや目も当てられない事になってたぞ。
「あ〜、ごめんねこいしちゃん。少しでも疑っちゃって」
「気にして無いよ〜。それに服を貸してもらいに行った時に、そのうちお進を連れて来るって約束したし〜♪」
「そっか、ならちょうど良かったじゃん」
「うん♪」
ここまで言われるなら大丈夫だろう。こいしちゃんがこんなに嬉しそうな笑顔を浮かべるって事は、本当にフランちゃんとやらが大好きで大切な友達なんだろうって理解出来るよ…。
まぁ、地上でのって言うけど…確かに地底では友達っていうより皆が仲間っていう意識の方が強かったからな。
それだったら友達ってのも珍しいのか―――いや待て。
「面白半分って事ならまだ分かるけど、だったら何でそこの当主に姿を隠しているのさ?」
当然こんな疑問が出てくる。
だっておかしくないか?一回ならまだしも…そんなに何度も紅魔館へと訪れているってのに、そこの当主であるレミリアさんには気づかれないように能力を使ってる。
わざわざそんな危険な事をせずに館の人達と顔見知りにでもなって大手を振ってフランちゃんに合えば済む話だ。
「………」
すると、こいしちゃんから笑顔が消えて表情が暗くなっていく。何かを言おうと口を開けては閉じてを繰り返しながら言葉を探しているようだった。
「……閉じ込められてるって言えばいいのかな?紅魔館でそんな状態なの」
そして、目一杯に時間を使い口にした真実に思わず目眩がしそうになる。
「…閉じ込められてる?フランちゃんが?」
「うん……お進の言った通り初めは面白そうだなって思って無意識の状態で誰にも見つからないように紅魔館に入ってたの」
思った通りこいしちゃんは潜入気分で紅魔館に入ったのだろう。イタズラ好きなこいしちゃんは地霊殿内でも度々さとりちゃんにちょっかいを掛けているのは知っていた。
「そして…そこの閉ざされた地下室でフランちゃんに会ったんだ……」
そこで姿を隠し通さざるを得ない状況に追い込まれたってわけか。
「へぇ地下室に…」
「…ずっと一人でいたんだって…。わたしがいきなり姿を現したのに、怖がらないどころか喜んで話しかけてきたんだよ」
言わば幽閉とか監禁とか…その状態でずっと一人…か。
「それで仲良くなったと」
「うん、初めて出来た友達!ってスゴイ喜んでくれたよ。昔は誰かがたまに遊びに来てくれてたって言ってたけど、今はもう食事を届けてくれる人ぐらいしか会わないんだって」
「………………そっか」
あまりにもなフランちゃんの境遇に感化されてだろうか、いつもよりこいしちゃんに熱が入っているように見える。
今一度思うけどやっぱりこいしちゃんは並外れて優しいんだろう。自身のこれまでに重ねてか、人の痛みに対してどうにかしたいという気持ちが溢れてしまっている。
「わたしもフランちゃんを外に連れ出そうとしたんだよ?そしたら…お姉様たちに気づかれたら危ないし、そうなったらもう会えなくなるから無理にしてくれなくていいよ。って言われたんだ……だけどさ、そんな事言われたら余計に連れ出したくなっちゃうじゃん」
…………。
俺も救われた口だからな。自分の事を助けてくれようとする存在がどれだけありがたいものなんだって実感している。
「お姉様…ってのがさっきの当主?」
「うん……」
「ふーん…」
キッツぅ…実の姉からの監禁ね…。しかもその姉が当主ってのならフランちゃんを閉じ込めてる元凶はもうそいつって事でいいのだろうか?
「身内にそれって…全く何考えてんだ紅魔館の奴ら…」
思わずそんな言葉が口から出てしまう。
その子は一人で寂しい思いをしているにも関わらず救いの手を自ら離す判断を下した…。折角降りてきた希望の糸なんだ、助けてもらいたいだろうし縋りたいだろう。
そんな心を押し殺しても自分よりも友達の事を想える優しい子なんだ。それを閉じ込めてるってのかよ。
「そっか……そうだよな、そりゃ連れ出したくなるよな。俺もそういうタイプだよ」
もしフランちゃんにどんな理由があっての対処だろうが、そんな正当性は認めたくない。
さて、俺に対する向こうの用事ってのがまだ分からないけど…決定事項として、フランちゃんを外に出させるぐらいの交渉はしなきゃなんねぇな。
「…絶対救うぞ」
「うん。今度はわたしも迷わない」
この時、俺はこいしちゃんの話を聞いて未だに紅魔館に着いていないというのに…既にそこに住む者たちに不快な気持ちを抱き始めていた…。
〜そして数分後〜
「あ!見えてきた!」
「どれどれ……いや、いくらなんでもあれは悪趣味すぎるだろ…」
ちょっとした決意をして歩く事数分…やっと目的地の紅魔館が見え始める。
思わず口に出してしまったが…これは悪趣味と言ってしまったのも仕方がないだろう……。
森を抜け、広い湖を越えた先に見えてきたのはどこからどう見ても紅一色!と主張が激しく果てしなく目に悪そうな配色の洋館。
……多少濃さの違いはあるけどどの道紅なので完全に周りの外観をぶち壊して建てられている。自然の中にそびえ立つ不自然な洋館からはなんとも近寄り難いオーラが放たれている。
「……これから
「うん♪」
はぁ〜あ…マジで見た目真っ赤だよ……。
紅って視覚の誘導によく使われる色の筈だろ……なのに不思議だね。俺の中では
「そもそも何で自分の家を紅くした?何だ、センスか?だとしたら尊敬の念すら抱くぞ」
ていうかよくこいしちゃんは初見でアレに入ろうと思ったな…勇気があるっていうか、怖いもの知らずっていうか……。
俺だったら絶対に入らん。つーか知り合いになりたくないから近づきさえしないわ。
「けれど呼ばれているのなら仕方がないか」
俺だってやる事が出来てしまったからには決心する。それに紫さんを通じての招待なんだ。下手に無視なんてしてわざわざ恩知らずになんてなりたくないからな…。
さて、この湖を越えたら着くし…そろそろ覚悟を決め―――ッ!?
「冷てぇ!?つーかさみぃ!!」
何て考え事をしていたら俺の身体にリアルな冷たさが走る。
「わーい!おどろいた!おどろいた!」
「あわわわ!チルノちゃん何やってるの!?」
すると、湖の上空には不思議な羽(翼?)を持った女の子が二人。青い方が笑っていて、緑の方が慌てているように見えるが…。
「そこの人間!ここを通りたかったらあたいとショーブしろ!」
「チルノちゃ〜ん……」
「げぇ…」
ちくしょう…。目的地を目の前にして厄介事が舞い込んできた事は確信出来る自分がいる…。
そんな気分を引っさげてるしいきなりの展開についていけなそうだが、まずは言わせてほしい…。
「いや誰だっての?」
見つかったらいきなりバトル…何だポケモンの世界観か?
視線合わせたならいざ知らず初対面の子に突然勝負挑まれたんだ。そりゃ困惑しても仕方ないだろ。
ここで出さなきゃ多分出せんので回り道してでもチルノちゃんと大ちゃんなのよ。
それではまた次回。