受け入れ先は幻想郷   作:無意識倶楽部

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戦闘描写は好きなのでまだまだ引き伸ばせたけどあまりにグダったのでこのようなカタチに。


それではどうぞ。


第27話 承服の終結

 

 

 

 

「レミィ!!」

「お?遅れてきたやつらも結局は全員集合じゃねぇか――アブねッ!」

「…クッ、外したか……。パチェ!フランが下にいるから看てくれ!!」

 

 不意打ち気味に放たれたレミリアの一撃を一進は間一髪のところで避ける…。

 

 そんな二人が争っている場所は、背の高い本棚に囲まれて出来たような大図書館。

 

「あ!いた!!」

「看てくれって言われても…ああもう!!少しは時間を稼ぎなさいよ!」

 

 パチュリー達は大図書館に来て直ぐに血塗れで床に伏しているフランドールを見つける。それにパチュリー自身レミリアに言われなくても容態を看て回復させるつもりだったが…。

 

「だから〜助けようとしても無駄だっての」

「……ッ!貴様ァ!!」

 

 激戦を繰り広げている二人の下…それは、何時流れ弾が飛んでくるかも分からない危険な場所だった。

 

 ……つまり、

 

「咲夜!フランを連れて来て!」

「はい―――パチュリー様!」

 

 その場に伏しているフランドールが、一番の危険に晒されていた事に繋がる。

 

「…ありがとう咲夜」

「いえ、それより妹様を!」

「分かってるわ」

 

 パチュリーはフランドールを連れて来るのに咄嗟の判断で咲夜を起用していた。折角本命の能力(時間操作)を隠していたのだがこうなっては背に腹はかえられない…。

 

 咲夜が少しでも被害が及ばないようにと、大図書館の隅まで移動させたのも良い判断だった。

 

「(何よ…これ……)」

 

 しかし、フランドールの状態にパチュリーは驚愕とするしか無かった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「まだか…まだなのか…パチェ。フランは――」

「気ぃ逸らしてる暇はねぇだろ!!」

「――ッ!?」

 

 迫ってくる一進に目を向けて構えるレミリア。…がその間に存在する嫌悪の塊に思わず硬直する。

 

 ……突然現れたただ一枚の銀貨。優しく放られたソレに僅かではあるがレミリアの意識は持っていかれた。

 

「喰らえや!」

 

 その奥から顔面を狙った一進の殴打がレミリアに迫る。強張る身体を無理やりに動かして不格好ながらもレミリアは回避に成功した。

 

「……っと」

 

 レミリアの回避…それによって一進の拳は空を切るだけで終わった。

 

 僅か数センチ届かない。惜しかった…あと少しだった。

 

 …だが当たらなかった。それがここでは致命的となる。

 

 手札を使ってまでの攻撃……当然一進は当たると確信して放った分拳に引っ張られて身体が泳いでしまう。意識を割かれた銀貨も既に落ちた。そんな隙をレミリアが見逃す筈も無く好機だと踏んで一進に攻撃を仕掛ける。

 

「…ぁらよっと!!」

「ウグッ!?」

 

 しかし、泳いだ身体を利用しての後ろ蹴りに阻まれる…。

 

 反撃が来ないと思っていた為、避ける事も防御する事も出来ず、流石のレミリアもカウンター気味に側頭部に蹴りを喰らってしまいよろめく。

 

「いや〜悪いな〜。なんせ体格差のお陰でわざわざ上段まで足上げる必要が無いしこの方が楽なもんでね」

「……本当に…嫌な運命を見たものだ…」

「…頭に蹴り入れられてその程度ってホント頑丈だな」

 

 二人が相対して数分…。レミリアはここにきて一進の実力を大幅に修正しなければいけなくなる。

 

「(……一撃は無いにしろ、言動や行動に張り巡らされているいくつものブラフ…。こいつ…戦いが上手い…)」

 

 運命で見えた通り。一進の左腕には黒色の執事服が変色するぐらいの出血の跡が見られ、まともに動かせていなかった。

 

 それに加え、大図書館で一進と倒れているフランを見つけた時レミリアは不思議に思っていた…。

 

 その身に霊力と妖力を内包している特異点があるものの、その絶対量が明らかにフランよりも少なかったからだ。

 

 だから、フランを倒したのは不意打ちや奇策によっての結果だと結論付け……警戒して戦えば何の問題も無いと思っていた。

 

 しかし、それが今やどうだ?

 

 自分よりも力の絶対量が少ない上、片腕さえ使えていない相手にこのザマ……。

 

「何だ?仕掛けてくるのは止めたか?」

「(…落ち着け、落ち着くんだ。ガムシャラにやるな。油断が出来る相手では無い)」

 

 殺意に塗れる激情を必死に押し殺す。相手を強者と認める事でレミリアは平常心を取り戻そうとする。

 

 最も信頼する親友と従者に任せたんだ。吉報と共に来る事を信じながら己は目の前の敵を処理すればいいと…。

 

 呼吸を整えて思考を働かせる。確かに一進の小手先の技術は上手いが言ってしまえばそれだけである。レミリアが落ち着いて対処すれば問題にもならない。

 

 

 ……だが、

 

「オイオイもう疲れちまったかぁ?さっきまでの押せ押せの空気は何処行ったよ?」

 

 一進はそんなレミリアの思考を安々と許すような男ではない。

 

「攻守交代でもすっか?運命でも操って未来視でもして俺を殺してみろよ」

「………」

「おーい聞いてんのかぁ??」

 

 一進が不愉快な笑みを浮かべて矢継ぎ早に言葉を並べる。それを見据えながらレミリアは思考の妨害を受けつつも、ここまでのやり取りである事に気が付きつつある。

 

 時折あまりに不可解とも言える防御を見せる時があるものの…逆にその決定打があまりにも欠けていた。それに、口数が多く時間を稼ごうとしている節が見える。

 

「………」

「んだよダンマリかよ悲しいなぁ」

 

 何かを狙っている?能力に条件がある?レミリアはある程度思考をまとめると自分がまんまと一進のペースに乗らされている事を自覚する。

 

 その為、今一度心にする。今だけは自分を抑えて対応するように自制して切り替えろと。

 

 

 

「これだったらお前の妹の方がよく鳴いてくれた分楽しかったよ」

 

 

 

 

 ………。

 

 

 

 

「ブチ殺すッ!!!」

 

 しかし抑えられるものではなかった。

 

「グングニル!!!」

 

 激情のままにその手にグングニルを創り出し、持ち得る膂力に任せた全てを穿つ一投。一進の言葉を耳にすると、心にした事も振り切れ途端に感情に支配される。

 

「攻撃権はくれてやるよ!無駄骨だがなぁ!」

「クッソがぁ!!!」

 

 当たる直前に砕けるように霧散するグングニル。その奥で嗤う一進にレミリアは全速力で飛び掛かるも…その()()に阻まれる。

 

「残念だったな!飛んでけやッ!」

「――ッ!!!」

 

 動かせないと思い込んでおり、完全に意識の外だった事も合わさって反応が遅れる。掴まれた後にバランスを崩され、飛び掛かった勢いのまま投げ飛ばされていくつもの巨大な本棚を薙ぎ倒す。

 

「…出血はブラフ…不意を突く為のただの演技……ッ!クソ!クソォ!!」

 

 まんまと嵌められて再び仕留め損なう…。レミリア自身のダメージはさほど無いものの着実にその精神を削っていた。

 

「レミィ!!!」

 

 そんな節に響くパチュリーの声。

 

 倒れ伏すレミリアの元に駆け寄ったパチュリーに一縷の望みをかけて縋りつく。

 

「パチェ!フランは!フランはどうなった!!」

「………」

「……パ…チェ?」

 

 しかし、パチュリーの顔はレミリアが望んでいたよりも程遠いものだった。

 

「ハッ、だから言ったろ。助けようとしても無駄だって」

「…まさか、嘘だろう…嘘だと言ってくれパチェ!」

「……嘘じゃ無いわ…。私の手じゃどうする事も出来ない……けれど——」

「———ッ!!」

 

 フランが助かる。

 

 レミリアにとってはそれ以外等聞きたくも無かった。その心は既に限界だった事もあり、パチュリーの話を切るように再度一進に向かって飛び掛かる。

 

「落ち着きなさいッ!その男は対象を拒絶する能力を持っているわ!」

「拒絶!?不可解な防御の正体か!」

「あ〜あ、こいしちゃんがバラしちゃったか」

「………うん」

「だから…フランを回復させるもさせないも…どうこう出来るのはその男だけなのよ!」

 

 パチュリーは苦々しく呟く…。

 

 レミリアが怒る気持ちも分かっているし、一進に復讐したい気持ちも十分に分かっている。

 

「………ッ!!」

「レミィお願い!堪えて!!!」

 

 事実レミリアは自身の唇を噛み千切らんばかりに食い縛り一筋の血液を零していた。

 

 しかし、フランを助ける為には一進の生存が不可欠…。だからレミリアには激情に堪えてもらうしか無かった。

 

「え〜っと…確かに俺が治癒の拒絶で自己治癒も出来なくして擬似的に不死者をも葬れるようにしてるけど……フランドール(彼女)自身がこの結末を望んでいたぞ。…自分は初めから、誰にも必要とされて無かったって」

「…そんな…何故、何故なんだ!私は!!」

 

 一進の口から放たれた言葉にレミリアは思わずたじろいでしまう。そして身を任せていた怒りも急激に冷めていくのを自分でも感じていた。

 

「お前の行動がそう解釈されていたんだろ。あいつと目ぇ合わせて話をした事あんのか?」

「……わた…しは…」

「ハッ、図星かよ。結局お前は助けるだなんだ言っておいて、フランドールの狂気に恐れていただけじゃねぇか」

「…………ッ」

「色々やって500年だっけか?吸血鬼ってのも案外暇なんだな。数分で済む事にわざわざご苦労なこった」

「     」

 

 既に声も上げられない。それ程までに一進の言葉はレミリアに深く突き刺さった。

 

 フランの為フランの為と言っておきながら結局自分は何をしてきたのだろう。哀しみに暮れる暇もなく進み、辿り着いた果てには最愛の妹を失いかけている現状。

 

 

「…私は……」

 

 産まれながらにして頂点に立つことを義務付けられたスカーレットの性、相応に重くのしかかる教育。

 

 

「私は」

 

 冷酷でも冷徹でも、紅魔館の当主として何よりも正しき判断を下さなくてはならず周りの者を率いる立場。

 

 

「私は!!!」

 

 『結局お前は助けるだなんだ言っておいて、フランドールの狂気に恐れていただけじゃねぇか』

 

 悔しいが一進の言う通りだった。自分の立場、重要性、そんな言い訳を並べていつもフランドールを一人にしていた。

 

 だから、

 

 

「フランに…もう一度あの子に会って…しっかりと謝らなければいけないんだッ!!!」

 

 

 レミリアは自分の事をかなぐり捨ててでも言わなければいけない事があった。

 

 当主としてでは無く…姉として。

 

「諦めてたまるか!!!フランを取り戻させてもらうぞ藤代一進!」

「…おいおい、ここからが本番だってか」

 

 確かな意志が宿り覚悟を決めた者の目…先程までの暴力的な妖力とは打って変わり、研ぎ澄まされた敵意で一進を見据える。

 

「レミィ、咲夜は何があるか分からない以上フランの所に居させているわ」

「分かった。それで、そっちの妖怪はどうする?」

「当然手伝うよ。私が止めなくちゃいけないしね」

「マジかぁ…流石にそれは多勢に無勢じゃね?」

 

 一対三……分かっていた事だが一進は絶対的不利に直面する…。

 

 基礎能力で他より劣る一進がレミリアとまともに戦えていた。それは偏にレミリアの激情により動きの精細さが欠けていた点と一進自身の予測と駆け引きが上手かったからである。

 

 その為、とてもじゃ無いが冷静になったレミリアを含めて更に三人同時になんて相手に取れなかった。

 

「……ん?」

 

 僅かにだが香る花の匂い…。

 

 先程の戦闘で切羽詰まった状態では分からなかった幽かな匂いに…一進は一縷の望みを賭けた。

 

「直接的な対処は私がする。2人は後ろで支援——」

「はっはっは!ホントにタイミング良い事をして来るなぁ!」

 

 三人の会話を断ち切るような大きな笑い声を上げる。演じ、嘲け、煽りながらもレミリア達から主導権を奪う。

 

「不安だったか?怖かったのか?落ち着く為にハーブティーなんて飲んでよぉ」

 

 周りから見れば急にどうしたんだこいつ…。となってもおかしくなかったがそれでも一進は続ける。芝居がかったかの様に仰々しく言葉を吐き連ねる。

 

「良い事教えてやるよレミリア!数多くあるハーブの中にはな、『別れの悲しみ』っていう最高の花言葉を持つものがあるんだよ!」

 

 嘘は吐いていないが…これはただの挑発。少しでもレミリアの平常心を崩して自身の優位性を確保したかった一進の策略…。

 

 だが、

 

「別れ?何を言っている。私は運命を操れるんだ。そんなものいくらでも変えて見せよう」

 

 家族への想いを心に誓った今のレミリアには通用しなかった。

 

「『グングニル』……行くぞ。殺しはしないが…加減が出来るほど私は大人では無いからな」

「——ッざっけんな!散々テメェが苦しめていたクセに他の奴に手ぇ出されたらキレんのかよ!!」

 

 妖力の収縮…そして具現…。策略虚しくレミリアの手に握られた槍を見て一進の頭に危険信号が飛び交う。

 

 ……だが、一進の心の中には何処か安心した気持ちもあった。

 

「私は大きすぎる過ちを犯したさ!自分の考えた一方的な解決法ばかりに目をやって一番大切なフランの苦しみを分かってあげる事が出来なかった……」

 

 後悔と懺悔を繰り返すレミリア。しかし、姿勢を下げてグングニルを構えると同時、身体中から昇る妖力を制御してその身に纏わせる。

 

「だから私はやり直す!私はフランが居ない世界なんて望まない!私にはフランが必要なんだ!!」

 

 そう言い放ったレミリアは瞬間的に一進までの距離を詰めて本日最速の薙ぎ払いを見せた。

 

「もっと早く言えよバカ当主」

 

 人と…最上位に君臨する妖との格の違い…。一進は能力を発動する所か動く事すら出来ず、悪態一つ吐く事しか出来なかった。

 

 

 

 

「………は?」

 

 

 ………が、振られたグングニルは何故か全く当たらない。寧ろレミリア自身が完全に一進に当たらない所へ振っていた。

 

 

 

「なッ!?」

 

 …………否、振らされていた。

 

 

 

 

 

「ありがとうこいしちゃん。俺も限界だったから助かった」

「ん〜ん、気にしないで」

 

 レミリアの無意識を操作…。熟練者になるほどその動きには慣れと経験により、最適化された無意識下での行動が混在してくる。

 

 いわゆる、考えずとも動けるようにと反復の末に身体に染み込ませた動き。

 

「だからわたしが止めなくちゃいけないって言ったじゃん」

 

 そのレミリアの動きにこそこいしは入り込んだ。完全にとは言わないが…不意さえつければ当人の動きをずらす事くらいこいしからすれば造作も無かった。

 

「何をしてるんだ!私はこいつを殺す気は無いと——」

 

 あまりに厄介な能力…。そして、こいしの裏切りかと思ったレミリアは思わず後ろを振り返る。

 

 そして、固まってしまった……。

 

「お姉様ぁぁ!!!」

「…フ…ラン?」

 

 倒れていた筈の最愛の妹が目一杯に抱きついてきたから。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい!!お姉さまはずっと私の事を思ってくれてたのに…私がそれを信じ切れ無くてぇ!」

「ウソッ…何で……フランが」

「ウワァーン!ごめんなざいぃ〜」

「…………いえ、私の方こそごめんね。一番苦しんでいるのはフランなのに、私は立場なんかを気にしてしっかりと貴女に向かい合おうとしなくて…」

 

 レミリアは、泣きじゃくるフランの背に手を回し、強く…強く抱きしめる。もう二度と失わないように…二度と過ちを犯さないように…と心に刻んで。

 

 

 そして、途中から一進の計画を()()()()()()()メンバーは皆遠巻きに見ていた。

 

「あ〜シンドかった…」

「お疲れお進。大丈夫なの?」

「い〜や、正直空気読んで耐えてるけど能力の併用しすぎでくっそ頭痛いからすぐにでも倒れたい」

 

 立っている事すら限界そうな一進は何とか気力のみで意識を保たせている。

 

 能力の併用。格上との戦闘行為。作戦に終わりが見えない事へのプレッシャー共々が一進のメンタルを削っていた。

 

「だったら客室にでも案内するわよ」

「あー…え〜と、パチュリー・ノーレッジさん?」

「……パチュリーでいいわ。貴方は客人どころか二人の恩人なんだし」

 

 こいしは当然として、パチュリー、咲夜も共に一進を敵視などしていなかった。

 

 もっとも、それは血塗れで倒れていた筈のフランから直接教えられたからだが…。

 

「急だってのに上手く合わせてくれて助かったよ」

()()()()()()()()フランから貴方の策を聞いたからね…驚いたわ、回復させようとしたらいきなり起き上がったんだもの」

 

 一進は最初からフランドールに危害を加えてなどいなかった。

 

 確かに出会った際にフランドールにはもう一つの人格があった。しかしその実態はこれ以上他者も自分も傷付けない為に威嚇行為を行っていた人格に一進は戸惑うしかなかった。

 

 全てに絶望して自分自身が壊れないようにする為に人格を生み出してしまったのだろう。それとて心の安寧を保つ為の防衛策なのだから悲惨な事が伺える。

 

「それにフランを殺したように見せかけて、更には自分を犠牲にしてレミィの本心をフランに聞かせるなんて手を取るなんてね」

「……まぁ、フラン(あの子)の部屋に紅茶に使う血液があったから少しリアルになっただけだよ」

 

 既に限界に近い一進はふらつきながらもこいしに支えられて何とか顔を上げる。

 

「それに…忘れないでやってほしい。フランの人格はスカーレット家の境遇によって作り出されたものだ」

「妹様の……人格」

「フラン自身の何が反映されているのかは分からなかったが…その人格だって『私がいる事でフランを守ってる反面、私がいる限りフランは不幸だから』って苦痛そうだった」

 

 一進の言葉にパチュリー達は心苦しくなる。

 

 それだけフランドールを追い詰めた者として言い訳をしたくないが、能力関係なく気まぐれ一つであっさり殺されるくらいには隔絶とした生物としての差がある。

 

 その恐怖をこの目の前の男は躊躇いもせずに踏み越えていた。

 

「最後には…私は消えるからフランをお願いって笑って託されたよ。それに他の皆にも迷惑かけてごめんさないって」

「迷惑だなんてそんな事!」

「何言ってるのよ…謝るのは私達の方じゃない…!」

 

 あまりの言葉にパチュリー達は涙を流す…。

 

 今更後悔してもしきれない。これだったら今までの仕打ちの罵詈雑言として吐かれている方が何倍も良かった。

 

「…胸糞悪い…親族一帯に落とし前でもつけさせてやりたいさ」

 

 直接話した一進だって言わばその人格を殺したようなもので、その身にやり場のない遣る瀬無さを覚えている。

 

「………どちらにせよ無理よ」

「そりゃあ幻想郷に来てないんなら手出し出来ないのは分かってるけどよ」

「じゃなくて。既に死んでるわよ」

「……そっか」

 

 パチュリーの話を聞いて一進は溜飲を下げる。自分以上に後悔があるだろう二人を前にしてこれ以上は出しゃばる気にもなれなかった。

 

「………咲夜」

「しかと…刻み込みました」

「そう。一進…ありがとう。確かに受け取ったわ」

 

 前を向く二人からは先程の表情が一変して決意が秘められる。踏み出せずにいてフランドールを苦しめ続けていたのは自分達だと重く受け止めて思いを新たにする。

 

「俺はたまたま上手くいっただけだからいいよ。それにその想いがあればあの子も報われるだろう」

 

 一進はレミリアとフランドールを見ながら目を細める。

 

 この結果を生み出した一人でありながらも、既にこの場には居ない者に想いを馳せて言葉を続ける。

 

「それに、当人達が手の打ちようが無いってなら第三者の手を借りるのも分かるけど……二人の擦れ違いが原因なら当人達で解決させるのが一番だろ」

 

 さも当然だろ。と言わんばかりに一進は言う。

 

「驚きね。何時からが作戦だったのかしら?」

 

 そんな事を言われたパチュリーは、二人の擦れ違いを自分の身を犠牲にしてや、悪役を演じてまで助けようとした事に驚いていた。

 

「それは…企業秘密って事で……」

「何それ。まぁそれならそうしておきましょうか。さて咲夜、私達も行くわよ」

「はい。…一進様、お嬢様と妹様達を救って下さり——」

「あ〜…いいっていいって格式張らなくても。俺だって好きでやってんだし」

 

 真面目な咲夜の対応に対して、思わず気恥ずかしくなった一進は咲夜を制する。

 

 そもそもの所、こいしからフランドールの話を聞いたタイミングで既にどうにか助け出そうとしていた為に完全に棚ぼたな結果だった。

 

「…では一言だけ…ありがとうございました。それでは…」

 

 そう言って深く頭を下げた咲夜は、パチュリーと共に未だ抱き合って泣いている二人の下へ向かって行った。

 

「…良かったね」

「ああ…。かなり精神すり減らしたし体力も霊力も妖力も尽きかけてるけどさ…」

 

 互いに抱きしめながら、悲しみでは無い涙を流す姉妹…。その隣で優しい笑みをこぼす親友と従者…。それらを眺めて一進は呟く。

 

「大切な家族なんだし…、擦れ違いなんかで終わらせたく無かった…。だから、どうしても救ってあげたくなったんだ」

「…そっか。ふふっ」

「……どうしたのさ?」

 

 途中でこいしが小さく笑った事に、一進は僅かに疑問を持った。

 

「別に~、やっぱりお進は優しいんだって再確認しただけ♪それにわたしも()()()()()の花言葉を知ってるよ♪」

 

 見上げるようにして一進へと笑いかけるこいしの言葉を聞いて、一進は顔を緩ませて安堵の息を漏らす。

 

「ああ良かった。匂いだけだったから間違ってたらどうしようと思ってたよ」

「ふふ~ん。だからお進はタイミング良いのを飲んで来たって言ったんでしょ」

「ああ」

 

 数多く存在するハーブ…その中でも落ち着く為にとレミリアが飲んでいたラベンダーの花言葉…。

 

 それは…。

 

 

「『あなたを待っています』『幸せが来る』…意味もたくさんあるけどさ、ここまで二人にピッタリなのも無いだろう」

「そうだね♪」

 

 

 不安は多かったけれど…、しっかりと彼女達を救えた事に微笑む。

 

 過程は色々あったけれど…、それでも最後までやりきれた事に安心する。

 

 

 再び四人に目を移した一進とこいしは、その幸せそうな光景に満足していた。

 

 

 

 

 

 

 紅魔館…。

 

 そこは光を嫌い、闇を好む吸血鬼が主である館。

 

 そこにはプライドが高く、自分の立場を考えた所為で妹の事を考えられなかった姉と、被虐意識が強く、自分を悪く思いすぎた所為で姉の気持ちに気付け無かった妹が居た。

 

 二人の擦れ違いは長年に続き…館内はより一層暗い雰囲気になっていた。

 

 

 

 しかし今は…。

 

 

 運命を変えようと動いた姉、世界に…現実に目を向けようとした妹。

 

 そして、一人の人間のお陰によって。

 

 

 

 

 

 暖かな光に満ちた光景が広がっていた。

 

 

 

 

 「けどさ、わたしにまで秘密にしないで予め作戦教えとくべきだったと思うな〜?」

「それはスマンて。窮地だったからホントに助かったありがとう」

 




色々とやりたかった表現をぶち込み過ぎた回なので反省はしているが後悔はない。もうお前が主人公だよレミリア嬢…。


それではまた次回。
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