それではどうぞ。
『ねぇねぇ何やってるの?』
小学校低学年程の少年が言った。
『…………………』
その言葉一つで散々盛り上がっていた空気は一気に冷めて会話が無くなり、皆一同に嫌悪の目を少年に向けてくる。
『…………………』
『…嫌だよ、お前入れてもつまんねーし。なぁそうだろ?』『…うん』『俺もあいつ嫌いだよ』『時々何やってるか分かんねーし』『あっち行ってて』『俺も…』『私も嫌い…』
………。
一人が口を開いたかと思えば答えは否定。それを皮切りに皆それぞれ否定の言葉を発する。
『………ッ』
皆の言葉を聞き終わる前に、少年は背を向けて走り出す。聞きたくなった。いつもと変わらないこんな日常が堪らなく不快だった。
『(何で!何で!!何でだよ!!何で僕だけこんな目に!)』
そんな事をいくら思おうが何も変わらない。子供からも…ましてや大人からでさえ少年とまともに取り合ってくれはしなかった。
苦痛でしかない時間を耐えて柵から抜け出す。
暫く歩き、ふらりと立ち寄ったのは人の気配が感じられない程の寂れた神社。そこで一人佇み、落ち行く日を見ながら黄昏る。
『なんだよコレ…。分かっていたけどさ…酷過ぎるだろ…』
少年は
…そこまで来たのなら後は早い。心は
『こんな…こんなツラいなら―『何をやっているんですか?』!?』バッ
声に驚き振り返ると、そこには
少年も彼女の事は少し知っている。年は違えど、同じ学校に通っている者なのだから知っていた。……もっとも、その女の子は何も居ない所に話しかける事や、神をやけに信じていて存在するとまで公言している等の変な噂でだが。
『――様から聞いて来ましたが…泣いているんですか?』
『……え?』
少年は思わず手を顔に触れさせる。確かに少年の頬には涙が流れていた――。
「シリアス過ぎんだろっ!!!」
あまりに堅苦しい夢でそれを苦手とする一進は飛び起きながら叫んでいた。
「あーー小っ恥ずかしいしだいだい何で今更あん時の夢を見るんだよ!未だに童心を忘れずにいるのか<ドンッ>っと」
そして朝っぱらから盛大に騒ぎたて、自分の夢に対してよくわからんツッコミを入れては隣人に壁ドンされる始末。
「くそっ、ぜって〜昨日の八雲とやらの会話の所為だ。アレの所為であんな昔の事を―「あら、呼んだ?」何っであんたがここにいるんで<ドンッドンッ>すみませんねぇ!だけどこれ俺悪くないっすよ絶対!」
リビングから顔を覗かせた紫に驚き叫び、再度隣から怒られて反論する一進。そしてそれを見て笑う紫。
因みに完全な余談であるが、一進の住んでいる家は築何十年の格安アパートである為壁の造りが薄いのだ。
***
「で、だ。八雲さん。何であんたが俺ん家にいるんですか?…ってかどうやって入ったんだよ」
一進は疲労の色は見せるが、警戒心を引き上げて文句は顔に出さずに率直な疑問を問う。それ程までに紫がここにいる事に疑問を覚えて仕方が無かったから。
「えぇえぇ勿論説明するわ。…けれどそれより先に朝食を召し上がりましょう。用意したのよ」
昨夜の貼り付けられた笑みと違い、年相応(?)の無邪気な笑みを紫は浮かべていた。
前回はあれだけ発していた大物の雰囲気が一切感じられず、ギャップの差に一進は少々戸惑う。
「(もう、いいや。勝手にしてくれ)」
しかし朝から情報の波に呑まれて既に疲れていることもあり、存外豪胆な彼は早々に考えてる事を放棄した。
〜食事中〜
「それでは、説明に入りましょう」バッ
朝食中にしていた紫との他愛ない会話も打ち切り、紫が扇子を広げ大仰に話しだす。
すると、空間が裂けて昨夜の様に中から複数の目がこちらを覗くように見ている。
「(うわっやっぱり気持ち悪りぃ)」
「……何かイラっときたけど…まぁいいわ。これが私の能力【境界を操る程度の能力】よ。そしてコレはスキマ、そう私が呼んでいるの。結構便利なのよ移動や、収納や、物事や――」
紫は一進の心の機微を察知して一瞬不機嫌そうになるが、自分のスキマがいかに優れているのかを自慢し始める。そしてそれを半分聞き流しながら一進は食事中の手を止める。
「(いや、いやいやいや境界を操るって何だよそんなの聞いてねーよ?昨日の時点で激キショなヤバめの能力だとは思っていたが完全にブッ壊れ性能じゃねーか!移動や収納っつってるけどぶっちゃけ空間操作だろ!?でもって物事ってなに?果てには事象にまで関与することだって出来るってわけ?)」
そんなこんなで盛大に焦りながらも心境をおくびにも出さず境界についてしっかりと考察していた。
未だにスキマについて語っている紫をほっときながらも
「(そりゃそんな大層な能力持ってたら世界の1つや2つ創ることだって、俺の能力を無効にすることぐらい容易く出来るってか。ハハッ、あまりの不公平に涙が出ますよと)」
「それでね、スキマを使ってチョチョイと貴方の家に入ったのよ。どう、凄いでしょ」ムフー
極一部の人以外は好きであろう豊かな胸を張りながら紫はどうやって一進の家に入り込んだか懇切丁寧(ほぼ聞いて無かったが)に説明してくれた。
確かに凄い能力だ。確かに凄い事は分かるんだがそれよりも重要な事がある。
「(誰だこいつ?昨日の今日で口調が変わるわ雰囲気違うわで二重人格疑うぞ?つーかギャップ萌えが発動しかけて困るんだが)」
世界よ、これがギャップ萌えというものだ。
「あの〜八雲さん。貴女h―「紫」…?」
「紫って呼んで♪私も一進って呼ぶから♪」
「('ー')……」
………………。
「(いやマジで誰だよこの人!!!あぁ人じゃなくて妖怪だったっけ?いやどっちでもいいわそんな事!!!昨日の夜にカリスマぁな風格漂わせていたのに不覚にも可愛らしい笑顔にビビり散らかしたわ!こちとらそんな耐性持ち合わせてねぇよチクショウ!!)」
スンッとなっている表面とは裏腹に彼の内心では濁流の如く思考が加速している。
能力故に今までの人生の中でまともな会話が成り立たなかった一進からすれば盛大に狼狽するのも無理はない。ただ、同時に警戒心も人並み以上にある為それを表に出さずに澄まし顔のままで居られるのは流石の一言だった。
「…あーえっと、じゃあ。紫さn―「ゆ・か・り」!?」
「私の事は紫って呼んでって言ったわよ♪」
笑顔を浮かべながらも、紫は自分の名前を敬称抜きで呼ぶ事を一進に強要する。紫も紫で昨夜の事から一進を気に入り、
「(バーーーカ!!それは難易度高いって!なに仲良く名前を呼び合うとか…恥ずかし過ぎて死ぬわ!寧ろ恥ずか死するわ!)」
…冷静さは完全に失ってしまっているものの、表面上には頑として出さず紫との受け答えを乗り切ろうと画策する。
しかし、流石にそれは許容することは出来なかった為、どうにかして紫を納得させようと頭をフル回転させ考えに考え抜いた結果。
「…まぁ色々恥ずかしくて無理です」
素直にぶっちゃけた。
「いや、ね?紫さんを敬称付けて呼びたいって訳じゃないですよ。ただお姉さん系で、しかも美人さんから親しくしてもらったことなんて無かったんでハードルが高いのなんの」
残念ながらこの男本当に対人経験が殆ど無いのである。……あっても相手から敵対心を持たれている事がザラなのでこういった経験は既に皆無と言ってもいい。
下手に誤魔化さない方が良い。そう考えた一進は、懇切丁寧に当たり障りの無い様見事に正しい答えを返すのであった。……ラブコメなら他所でやってほしいが我慢して頂きたい。
「……そっ///そうなの///なら無理にとは言わないわ」
一進の言葉に戸惑った紫は扇子で上手く顔を隠しているが…声の上擦りや耳が微かに赤くなってるのまでは隠せずにいる可愛らしい妖怪の賢者が其処には居た。
「それでは紫さんと呼ばせて下さいね。で、次に紫さんの言っていた『私の世界』についても教えて貰っても良いですか?」
そしてそれには触れず、逃げるように話しを次に持っていくところを見ると、一進は対人経験は少なくとも機微を察する危機察知能力は立派なものである。
「え?えぇ。それでは私の世界の事――『幻想郷』について話します。少し長くなりますが我慢して聴いて下さい」
「はい、お願いします」
そうして一進は八雲の話しに耳を傾けるのであった。
◯
side一進
「――そうやって幻想郷は成り立っているのよ」
え?幻想郷の説明を聞くと思った?残念、話が長かったんで軽く聞き流しました〜!
…いやまぁ、巫山戯ていないでまとめると。
⚫︎結界が張ってあり普通には行けない。そして行った者は大概この世界から忘れ去られる。
⚫︎人間や妖怪や妖精、それどころか神もいる。
⚫︎霊力や妖力等の不思議パワーがある。
⚫︎俺みたいに能力を持っているやつが多くいる。
⚫︎特別な決闘方法がある。(コレは向こうで教えると言われた)
⚫︎幻想郷は現在、八雲紫と博麗 霊夢という人間で成り立っている為この2名は重要人物。
「うんOK。何となくだが理解しました。それで俺はその幻想郷にこれから行くことになるんですか?と言うかこんな能力を持ってても大丈夫なのかと?」
こんな話をされたんだ、おそらく幻想郷に行く事になると推測したが、いかんせん俺は自分の能力がそっちの世界で迷惑になるのではないかと心配になる。と言うか正直能力やら決闘やら言われると身の危険すら感じられる…。
「………意外ね」
「? 何が?」
「此方の世界に未練が無い事よ」
…ん、あぁ、成る程。仮にも自分が育った世界なのだから少しは惜しむとでも思ったのかね?
「そりゃ無いですよ。いいだけ嫌われてましたし…寧ろこっちの世界から見れば俺は不要な人物ってわけですから」
だけど俺は笑いながら答える。
当然だ。この世界に初っ端から未練もなにもある訳が無い。あるとすればあったのだけど…神がいることが分かった今、唯一の心残りだった……え〜っと誰だっけ?夢に出てきたけど名前まで思い出せん…。
……まぁいいや、あの子の事もそれほど気にならなくなっていたし。
「(つか、神がいるってマジかよ。あの子って本当に神が見えていたんだな…こりゃ悪い事言ったな。ま、けど別にいっか…向こうは向こうで多分楽しく暮らしてるだろーし)」
それに…紫さんは言ってくれた。
「それに、貴女の作った幻想郷はこんな俺を受け入れてくれるんでしょう?」
そうだとすればコレはコレで楽しそうではないか。俺は今きっと酷く卑しい笑みを浮かべていると思う。無駄に先走って広がっていく想像が本当に妄想で終わらない事を願うだけさ。
「えぇ、勿論。幻想郷は全てを受け入れますわ」シュン
紫さんが横に手を振りスキマを出し、俺はそのまま垂直方向に落とされる。いきなり真っ直ぐ落ちているが不思議なことに不安なんてものは無かった。
「待ってろよ幻想郷!俺が今すぐ行ってやるからなぁ」
自分と同じく能力持ち達が住む世界、大なり小なりそんな異質な奴らとなら
そしてあわよくば……友人が欲しいかな…?
重力に身を任せながら、何処なのかも分からないスキマの景色を眺めつつも俺はこれからへの想いを馳せていた。
「………良かったわ。これでようやく私も――「紫様ぁ!!いつまで掛かっているんですか!!」藍?どうしたのよ……っていきなり出てくるからスキマの繋ぎ先狂ったじゃない!!」
新たな不安が浮かんだが、ようやく外界から幻想郷へと一進の物語が始まり出す。
じゃんじゃん投稿した方が良いのかしら?アンケートとか面白い機能増えているからちょっと触ってみたいのよね。
それではまた次回。