それではどうぞ。
~スキマ内~
早朝
「あらっ?私って結局一進に幻想郷の説明してないわ!」
焦って逃げて来ちゃったし、と初めて一進との意思疎通を果たした上に嬉しい誤算があった為、暫くの間トリップ中だった紫はやっと正気に戻り自分の失態を思い出す。
「(で、でも、どうせなら彼の家で説明しようかしらっ?)」
少しでも早く一進に会いたかった紫は早る気持ちを抑えつつ、早々に身支度を整えてここ数日の頑張りで見つける事が出来た一進の自宅にスキマを繋ぎ彼を確認する。
「Zzz…グゥ、スピー…」
「――ハウッ!!!(尊死)」
スキマから覗くは一進の寝顔。背も高く、大人びた顔つきをしていて相対時にはそれ相応の雰囲気を纏っていたのにも関わらず、視線の先では身体を丸めそんな愛らしい寝顔に紫は心打たれる。
「(こっ、これは仕方ないわっ。そう!説明するためですもの!えぇ決してもっと近くに居たいなんてことは思っていないわっ!)」
誰に対しての言い訳なのだろうか…一人スキマの中ではしゃぎつつも一進の家に侵入すること決心した。
「(それでは、おっ邪魔しま〜す♪)」
スキマを通り静かに一進の眠る寝室へと紫は降り立つ。
「(ふーん、数日前から見ていたけどやっぱり私物が少ないわね。私と違ってしっかり掃除も出来てるし、ごみとかも散らかってないし……あっ!そうだわ)」
忘れ無いうちに一進の頭に手を当てスキマを開く…。
境界の操作。それを行う事で一進が少しでも自分の能力を自覚出来るよう仕向け、そして無意識での過剰な能力の発動を抑えるようにする。
……それにしても一進が良く寝ている…。まじまじと良く見たら顔も整っていて、色白で綺麗な肌、睫毛も長いし唇だって――。
「(いけないいけない、何考えてるの私は!!)」
引き込まれそうになった所、慌てながらも赤くなった顔を隠し静かに隣の部屋に逃げる紫。だって相手が寝ているのだし流石にそれは…ねぇ?
「(そうだっ!朝ごはん作ってあげましょう!幸い食材もある事だし)」
先の妄想を振り払うべく何かに集中したかった紫はクッソ失礼にも当然のように冷蔵庫を開ける。そして綺麗に整理されたキッチンを見て丁度いいと判断を下す。
確かに朝起きたら料理があるって事は素敵な事だろう…。紫は普段の生活で当たり前のように享受していた事に気が付き、自身の従者に申し訳ないなと思う一方でそんな素敵な当たり前を一進にも感じて欲しかった。
少なからず紫もそんな事を思ってしまったが為に――。
~幻想郷~
「グスッ、紫様はいつになったら帰って来てくれるのでしょう。妖力使い過ぎでそろそろ休みを取らないと私—「藍ー。らーん」ッ!? 紫様!」
「ゆか―「落ち着きなさい。藍」……どう…なさったのですか?」
疲弊しきった眼前にいきなり開くのは既に見慣れたスキマ。
藍はやっと自身の主人が外界での仕事を終えて幻想郷へと帰って来たのだと思ったが…いつになく真剣な顔をする紫に思わず口を噤む。そして、一度完全に自分の意識を切り替えた上緊張した面持ちで聞く。
こんなにも主人が真剣だった事が今まであるのだろうか…。
「……えぇ藍、よく聞いて。私は今目的の男の家にいるのだけど、一瞬の間にそこが…地獄と化したの……。悔しいけど私にはどうすることも出来ないわ。それでね藍、あなたの助けがほしいの!」
主人からの助けの声を聞かされる。当然藍だって助けたいのは山々なのだが、おいそれと頷く事は出来なかった。
「そっ、そんな!紫様でも手に負えないものが外界にあるなんて!それに、助けと仰られましても私が行った所で紫様の助けになれるとは…」
当然の判断だった。
藍だって紫に自らの全てを捧げても良い心構えでいる。しかし、自分よりも遥かに優れる主人が困る事象を自分が解説出来るだなんてとてもじゃないが思えなかったのである。
「いいえ。私には無理だったけど…。藍、あなたになら…寧ろあなたにしか出来ないわ!」
「……紫様……。分かりました紫様。不肖、八雲藍この身に代えてもその命を遂行いたします!!」
それでも、そんな紫の言葉により、藍は自分の考えを振り払い地獄に向かうことを決意する。例えどんな状況であろうと、例えどれだけ過酷であろうと、藍は紫の為になれるなら本望であった。
「えぇ、期待してるわ」
そう言って紫は微笑み、藍を連れ再び一進の家へとスキマを繋げるのであった――。
「………………………」
フライパンの上には既に炭と化した何か。
「ほらっ、藍早くしてっ!けど静かにね、一進が起きちゃうから!」
「………………………」
おそらく切ろうと努力したのだろうか、潰れてしまいまな板を濡らすトマトとその他無残な野菜たち。
「食材もまだ冷蔵庫にあるから…私と一進の二人分作っとい「……紫様」…ん?」
ボウルの中には生の肉と魚の切り身と調味料と見られる何か…床で割れて現代アートの一部と化した複数の卵……。
何故釜に入った米を洗剤で洗った形跡があるのですか?そんな言葉を紡ぐ代わりに出たのは溜息だった。
「……ハァ」
「どうしたの?」
嘘偽りはなかった。確かに紫言う通り藍の前に広がる景色は地獄と化していた。
「……いいえ、なんでもありません……(ハハッ、私の覚悟なんて所詮こんなもんさ)」
「んん?そ、そう。それじゃ後はよろしくね」
取り敢えず戻ったら寝よう。仕事なんて忘れて後で全部この人に押しつけて一先ず寝よう。と藍は疲れきった身体を動かしながらその後のことを考えるのであった。
***
数十分に及ぶ藍の頑張りにより行われたゴミ処理…兼朝食作りも既に終わっており、カーテンには明るい光がぶつかっていた。
「――シリアス過ぎんだろっ!!!」
「あ、やっと起きたわね。それじゃいきましょうか」
叫び声を上げる一進のいる部屋に向かう紫。
「くそっ、ぜって〜昨日の八雲との会話のせいだ。アレのせいであんな昔のことを「あら、呼んだ?」何っであんたがここにいるんで<ドンッドンッ>すみませんねぇ!けど、これ俺悪くないっすよ絶対!」
「ふふふっ(ホント、一緒居ると飽きない人ですこと)」
私がリビングから顔を出して声をかけたら一進は驚き、そして叫ぶ。そうして隣人から怒られて反論する姿に思わず笑ってしまう。
「――で、八雲さん。何であんたが俺ん家にいるんですか?」
「えぇ、けれどそれより朝食を召し上がりましょう。(藍が)用意したのよ」
キッチンの状態を見るに、おそらく昨夜(ほぼ夜明けだったが)家に帰ってから何も食べずに寝てしまっているから空腹の筈だろうと考えた。
それを見越して朝ごはんを作っておくことで私はなんて良く出来た妖怪なのだろうと自分に酔っていたかどうかは定かでは無い。
~朝食中~
「ねぇ一進?食べながらで構わないからあなたの見た夢…いいえ、昔の話をしてくれないかしら?」
料理は総じて高評価であった為、紫は内心複雑な気持ちになりつつも気になっていた事を聞くのであった。
「俺の昔の話ですか?話してもいいですけど…、憶えていること少ないんでそれこそさっき見た夢の話になりますよ」
「えぇ、それで構わないわ」
「そっすか?それでは……」
そうして一進は語りだす。子供の時恐らく最も自分と関わりが深かった少女のことを……。
「その、拒絶される能力でしたっけ?それのおかげで俺は周りのヤツら嫌われていたんですよ。あっち行ってろとか、お前は入って来るなとか言われてました。ははっ、ひっどいヤツらだと思いません?」
ここで一旦紫の背に冷や汗が流れ落ちる。やってしまった。そう、完全にやってしまったのだ。
「………………(やっば…嫌がらせで嘘の能力名教えてたの忘れてたわ)」
だけど今更嘘だったなんて言える雰囲気じゃ無い上、一進も一進でその能力に対して納得している様だったから尚更何も言えない。
「…まぁ、俺もガキだったんですね。そんなことで世界に自分の居場所は無いんだってバカみたいなこと考えていたました。そんなとき、俺に声をかけてきた子供が一人いたんです。………名前は忘れましたけど…」
どこかに寂しさを垣間見せつつも独白を続ける一進に、図らずも紫は段々と追い詰められている。
「どうやらそいつは変わり者のようでやけに俺に関わろうとしてきて少しの間俺はそれが心の支えになっていたんですよ。それでも結局しばらくしたらそいつも居なくなって俺はまた一人になりました。ホント笑えますよねぇ」
言おう。言わなければいけない。取り敢えず今すぐに能力は嘘でしたごめんなさいとするべきだろう。
紫は手を握って決心する。あまり遠くないとはいえ、『拒絶される』と『拒絶を司る』では受け取り手にかなりの印象違いを与えてしまうことになる。
もっと踏み込むと、ここで言えなければ後々に引き更に言いづらい雰囲気になるのは明白だったからこそ詰まりに詰まったが紫は口を開く。
「……ツラい事、聞いたかしら?(流石に言えないわよぉ!!)」
頭では分かっていた。しかしそれを伝える事で一進からの評価が下がってしまうのでは?と気にして言葉として出せなかった。…裏返せばそれ程までに紫は一進から嫌われたく無かったのである。
「いえ全然」
カラカラと笑う一進。しかし紫にはそれが彼の強がりなんだろうと分かっていた。
「それこそ昔の話なんで気にしてないですよ。それよりも紫さん、私の世界とやらについて教えてくれません?朝飯も食べ終わりましたし」
「(……あなたは強いわね。大丈夫よこれからは私が支えになるわ)それでは、説明に入りましょう」バッ
そんな一進に惹かれつつも紫は頭を切り替えて扇子を横に薙ぎつつスキマを開く。
「…………………………」
「……何かイラっときたけどまぁいいわ。これが私の能力【境界を操る程度の能力】よ。そしてコレはスキマ、そう私が呼んでいるの。結構便利なのよ移動や、収納にも使えて、離れたところから相手のことも観察出来るわ。それに相手を挟むようにスキマを閉じれば直接的な攻撃も出来るし。また物事の境界を弄って変化を与える事も出来るわ」
紫は一進の顔を見てどう思われたかを察し一瞬不機嫌になるが、自分のスキマがいかに優れているのかを自慢し興奮し始める。
「それでね、スキマを使って貴方の家に入ったのよ。どう、凄いでしょ」ムフー
「あの〜八雲さん、貴方h「 紫」?」
「紫って呼んで♪私も一進って呼ぶから♪(ふふっ、まずはお互いを名前で呼ぶところからから始めましょうか)」
いきなり深く入り込んでも引かれるだけ…。紫はそれを理解している為に徐々に一進との距離を縮めようと考える。
「……えっと、じゃあ。紫さん―「ゆ・か・り」!?」
「私の事は紫って呼んでって言ったわよ♪(焦ってる一進も可愛いわね♪)」
尚この妖怪もポンコツなので一足飛びで距離を縮めにいってる事に自分でも気がついていない。そして、表面上はあまり変化の無い一進の顔、だけど内心で焦っている事は紫には筒抜けだった。
「恥ずかしくて無理です。いや、紫さんを敬称付けて呼びたいって訳じゃないですよ。ただお姉さん系で、しかも美人さんから親しくしてもらったことなんて滅多に無かったんで」
「……そっ///そうなの///なら無理にとは言わないわ。(ま、また美人って言われた。お姉さん系美人、美人、美人ビジンビジンビジン…………うふふふふ)」
紫は紫で一進を焦らせて楽しんでいたのだが…あっさりと攻守を交代させられてしまいまたトリップしかける…。
「それでは紫さん、と呼びますね。次に紫さんの言っていた『私の世界』についても教えて貰っても良いですか?」
「え?えぇ。それでは私の世界こと――『幻想郷』について話します。少し長くなりますが我慢して聴いてもらうわ」
「はい、お願いします」
そういえば伝えていなかったと考えを改めて、そうして紫は幻想郷について語り出す。(面倒なら読み飛ばし可です)
「まず初めに幻想郷の成り立ちから説明するわ。私たち妖怪は人間の恐怖を糧として生きている存在です。受け入れられないと思うけど人間を直接喰らう妖怪もいるわ……あ、私は違うから安心してね♪だけど人間は著しい技術の進歩によって、今までは恐れていたことを科学で証明して次第に妖怪たちを恐れなくなり忘れ、そして妖怪は少なくなっていったのよ。そこで私は妖怪たちが生きていける世界を、幻想郷を作りました。(当初考えていたのは違うけどね)」
紫は止め処なく語る。自分が今までやってきた事の集大成。それを親に自慢する子供のように…。
「それで幻想郷には二つの結界がはってあるの。今いるここ外界からバレないように隔離する為の結界、あと外界ですべての者から忘れさられたものを通す為の幻と実体の境界を操った結界。…裏を返せば通った者は忘れ去られてしまうわ。ここまではいいかしら?」
「ええ、大丈夫です」
「そう。では続きを……今では人間や妖怪、妖精に神もいるわ。外界に比べものにならないくらい能力持ちも数多く居て、それとは別に霊力、妖力、神力、魔力なんてものもあるわ。それに人間も対等に戦えるように今代の巫女が決闘方法を考えたのよ、決闘に関しては幻想郷で直接見た方がいいからそのときに……」
「…あぁ、あと巫女って言うのは代々幻想郷の制定者が居るんだけど…今代は博麗 霊夢って名前ね。さっき説明した結界を私と一緒に張ってる幻想郷の中心人物なの。まぁこんなとこかしらね、そうやって幻想郷は成り立っているのよ」
紫は何か他にあったかしらと、考えるが――。
「うん、何となくだが理解したよ。それで俺はその幻想郷にこれから行くことになるんすか?と言うかこんな能力を持ってても大丈夫なのか?」
「………意外ね」
こんな事を言われ少し驚く、理解力もさることながら一進の判断力が異常だった。
「? 何が?」
「此方の世界に未練がないことよ」
既に、彼の中では幻想郷に行く決心をしていたからだ。
「そりゃないですよ。いいだけ嫌われてましたし、それに貴女の作った幻想郷は俺を受け入れてくれるんでしょう?」
楽しみからか…一進は卑しい笑みを浮かべていたがそんな事紫は気にしなかった。
「えぇ、もちろん。幻想郷は全てを受け入れますわ」シュン
そう言って一進を幻想郷につなげたスキマに落とす。嬉しかったのだ。彼が自分の世界に興味を持ってくれた事が素直に嬉しかったのだ。
楽しんでくれるといいな。気に入ってくれるといいな。紫は色々な想いと共にやっとの事で目的を完遂出来た為に自分もスキマに入ろうとする。
「………良かったわ。これでようやく私も――「紫様ぁ!!いつまで掛かっているんですか!!」藍?どうしたのよ……っていきなり干渉してくるからスキマの繋ぎ先狂ったじゃない!!」
一進~!ちょっと待って~!!と大急ぎでスキマを操作して自分も入ろうとする。
「……紫様」
「え?どうしたのよ藍。悪いけど今はそれ所じゃ…ない……の…よ…」
そう。急いで一進を追おうとした所、突然開かれたスキマには紫の従者である藍が立っていたのだ。
「たった今、目的の男。藤代一進を幻想郷に連れていきましたね?」
鬼のような形相で……。
「え、えぇそうだけど。それよりどうしたのかしら?かわいい顔が―「そんなことどうでもいいですっ!!!」ひぃ!?」
有無言わさず藍がバチギレ態勢である為紫は既に萎縮状態…。驚く事に主従逆転現象が起こりつつある。
「仕事が終わったのなら屋敷に戻りますよ!言いたいことが山ほどありますから!全く、こっちは有力者からの催促を宥めたり結界の綻び直して走り回り、やれ巫女は一切働く気がないから注意に行っても暖簾に腕押しなのに紫様は男といい関係になろうとして………」
藍の怒り。いくら一進の能力上やりとりに時間が掛かった事もあるのだが、確かに下心が全くないと言われればアレなので明らかに自分の所為である以上こうなっては流石の紫も折れなければならない。
「(あぁ、ごめんね一進。コレしばらくの間会えないわ)「紫様っ!!!早く!!!」ハイィィ!」
頑張れ賢者、負けるな賢者一進はどこかで待っているから。
一先ず幻想入り前日譚終幕です。
後は本エピソードの座談会をやった後に新章の幻想郷編に入れます。
それではまた次回。