それではどうぞ。
○
side紫
「……強くなる…ね」
「少しでも戦力はあるに越したことありませんから。……何かあるのですか?」
「い〜や別に。…それにしてもあの子ってば私に向かって
こいしが一進の事を聞きに私の下に訪れてから数刻後、自分を鍛えるとか何とかで既に私達の前から姿を消していたけどその心意気がいつまでも私の頭から離れなかった。
「ホントですよ。紫様相手にやるものですから私はずっとヒヤヒヤしていました」
「悪かったわね〜藍。もう大丈夫よ、大丈夫。これからは彼女を見ても取り乱したりはしないから」
「…本当に大丈夫なんですね?」
「信じなさい♪」
一進への結論を出す前だったなら兎も角、今なら大丈夫よ。まぁ…そんな事言っても藍からしたらホントに私がこいしの首を絞めている様に映っていたから不安でしょうけどね…。
ま、それでももう私はこいしに手をあげる事は無いから安心しなさい。…確かに一進に言われた通り、彼がやられた事で彼女を責めるのはお門違いだしね。
「それなら良いんですけど…。それではこれからどうするんですか?」
「…私は一先ず永遠亭よ」
藍から言われて、私は悩んだ末に自分で出した答えを一進に告げる事を覚悟する。
永遠亭も永遠亭で長い間迷惑を掛けられないし、何より一進自身がこれから幻想郷で暮らし続けられるのかって不安に駆られていそうだから早めに言わなくちゃいけないからね。
「…遂に決めたんですね」
「ええ、一進は私が連れて来たんだもの。途中で投げ出す事は絶対にしないわ」
「……そうですか」
そうよ。一抹どころじゃないぐらい不安な顔をしてるけど…もう私自身が決めちゃったから何が起きようと諦めて貰うわよ。
「大丈夫なのでしょうか…」
「さぁ?それこそ神のみぞ知るなんとやらってね♪」
「そんな悠長な…」
悠長…か、確かにね。
藍だってバカじゃ無いわ。少しでも頭が回る者であればこれから先に起こりうる出来事の予測ぐらい出来て当然でしょう。
「…藍」
「はい?」
「先に言っておくけど…私は幻想郷を束ねる者として、決して正しく無い道を選んでいるかもしれないわ」
「……」
人間や妖怪…私は長年の夢であった
だけど…そんな毎日というのは例え望んだとしてもいつまでも続くとは限らないものなのよね。
まさか連れて来た人間が危険度最高峰の魔界との繋がりを持っていたのだもの。
そしてその人間は魔界から訪れた刺客より襲撃に遭った。いや、遭ってしまった。
彼が幻想郷に居たにも関わらず攻撃してきたその姿勢は明らかな敵対行動…。それにより一進は幻想郷に居る限り魔界との抗争を引き起こす引き金となりうるかもしれないと考えられる。
不穏分子として、厄介事として、魔界が何故彼を狙ったかは分からないけど…ただ一つ言える事は、彼が幻想郷に居ると幻想郷自体に危険が及ぶと言っても過言では無いという事。
……だから、私は自分の式にしっかりと伝えておこう。
「魔界との抗争…危険な事になるのは分かりきっているわ。私に着いて来るか否か、貴女の進む道は貴女自身が決めなさい」
「…魔界…ですからね、それは確かに危険が多そうな道です」
藍の言う通り魔界を敵に回したらおそらくは茨と言うのも生易しく感じてしまう程の道が用意されているでしょう。
だからこそ、普通ならばそんな道は絶対に回避すべき…回避すべき事だから……。
「…貴女が私の下から去ろうとしても引き止めもしないし咎めもしないわ。これは、回避出来たかもしれない事象を私の我儘で大きくしているんですもの」
一進をどうとも思っていない者達からすれば、彼が幻想郷に居る事によって魔界の脅威に晒されるとなり百害有って一利無し。
周りの者達もそんな状況になると知れば、幻想郷内の者で彼を処分しようと動く輩が出てもおかしくは無い。
だから主従の関係だからと言って藍、強いては橙にまで危険が及ばないようにする為には今ここで藍達を巻き込むかをハッキリさせておかなければならない。
「……そうですね」
情けないけど…私は本心を言ってしまうと藍に着いて来て貰いたい。
私は幻想郷の賢者だとか、管理者だとか言われているが、その実裏では藍の支えがあったからこそ今の幻想郷が創れたのだし、安定の為の結界制御だって続けてこれたのだ。
だけど、
「橙には貴女から伝えなさい。当然早く決断すればするほど貴女達はより私の行動とは無関係になるから安全性は増すわよ」
藍達が危険な目に遭って欲しく無いのもまた事実。だから私は遠回しに藍に向かってその旨を伝える。
「で、どうするの?」
「え?勿論着いて行きますよ?」
「……え?」
藍は『何を言ってるんですか』と言わんばかりに不思議そうな顔を浮かべて平然と私に着いて来ると言う。
…え、ちょ!ちょっと!?
「貴女なら理解してると思うけどそんな単純な話じゃ無いのよ!本当に私と同じ道を辿るって言うなら魔界は勿論、幻想郷内にだって抗争の引き金になりかねない一進を快く思わない者もいるわ!」
「…って言われましてもねぇ…」
分かっているのか、それとも分かっていないのか、藍は必死な私の説明さえも話半分に聞いて悠然と口を開く。
「まぁ、紫様の通る道ならば私の通る道でもありますからね。例えその道がどんな悪路でも私は一緒に進みますよ」
「…ッ!」
さもそれが当然であるがの如く、藍は柔和な笑みを崩さないままに言葉を続ける。
「それに皆に危険が及ぶなら尚更露払いが必要でしょう」
……藍…。
それが…その言葉がどれだけ私の心を軽くしてくれているのか貴女は分かっているのかしら。
「迷惑…掛けるわね…」
「何を今更。今まで紫様が私に迷惑を掛けなかった事があると言うのですか?」
「ええ」
「…えぇ……真顔で返されたらもう何も言えませんよ…」
ふふふ、冗談よ。冗〜談♪ちゃ〜んと分かってるわよ。もしも藍が居なかったら…それどころか藍じゃなかったら私はとっくにダメになっていたわ。
「ま、いいですけどね。どちらにせよ私は式神になったあの時から、この生尽きるまでは紫様のお側に仕える事を決めていましたから」
「さて、行きましょうか」
「完全に無視ですか…」
うふふ♪悪いわね、藍。……流石にこんな情けない顔を貴女には見せられないから許してちょうだい。
「さ〜て、それじゃ藍も行くでしょ?そろそろ永遠亭に行かないと」
「はい。ああ、ですがその前に橙に会って来てもいいですか?先程の話をしておきたいので」
「あら、それもそうね。だったらすぐにそっちに繋げ―「私も着いて行きますッ!!」」
私が永遠亭に繋げようとしたスキマを取りやめて、藍を橙の下に行かせる為にマヨイガへと繋げようとした瞬間に
「…橙、来てたのか」
「はい!」
影の正体は藍の式神である橙。その幼き身から伸びる二本の尾が忙しなく左右に揺れている所を見ると興奮か不安な気持ちで溢れているようね。
「そうか、盗み聞きは喜ばしい事では無いが…話はどこから聞いていた?」
「一進様が魔界と言う所に狙われている所からです!」
「…と言う事は殆ど初めからね」
橙が言うには私がこいしに対して説明している時には既にそこに居たらしく、近くで耳をそばだて大体の概要も聞いた後の様だった。
全く、こいしに意識を割いていたとはいえ初めから居た橙に気付かなかったのね。……という事はいよいよ持って私も藍も歳かしr――っていやいやいやそんな筈無いわ!!私は絶対に認めないわよッ!!
ま、まぁ?多分だけど私も心ここにあらずだったし?藍も橙も普段から一緒に居るから別に居ても何も違和感に思えなかっただけだし?
ウンウンそうに決まってるわ!そうでも無かったら私が橙の気配に気付け無い筈無いものッ!!
「そうよね!?」
「…何ですか急に」
「ど、どうしたのですか紫様?」
そして二人から突き刺さる眼差しで私は冷静になって我に返る。
橙は本当に心配したように私の事を見上げてくるから嬉しいんだけど…ぶっちゃけその優しさは私にとってかなり心が痛いわ。
…いやそれよりも藍!何で貴女はそんな冷ややかな眼つきで私を見るのよ!
「すみませんが紫様?真面目な話をしているので黙っていて貰ってもいいですか」
「うッ!?え、ええごめんなさいね」
うん、これは完全に私が悪かったわ。数瞬前までは藍に不満が募っていたけど…どう考えても私が勝手にトチ狂っただけだから素直に謝りましょう…。
更に言えば橙の事も藍に一任すると言ってしまったのだし私が口を挟む事じゃないわね。
…二人の事は二人で決めさせるべきだし、ちょっとの間私は本格的に黙っておこうかしら。
「…さて、橙。邪魔が入ってしまったから仕切り直してもう一度聞こう……」
悪かったわね!でもだからって邪魔って言う事無いじゃない!ああもうそんな冷ややかな目で見なくてもいいでしょ!私が自爆したのは悪かったから早く決めなさいよ。
「…本当に私達に着いてくる気でいるのか?」
「はい!」
「……そうか分かった」
まぁそうは言っても藍だって橙の事が大切なのだからそう簡単に決まるとは思えないけど――。
……って、ん?あれ?…えーっと。
「『……そうか分かった』って…そんな簡単に決めちゃっていいの?」
相当長引くかと思ったのに藍の話合いは一瞬で終わってしまった…。まさか橙を溺愛してる藍がそんなあっさり了承するなんて考えもしなかったわ。
「ええ決まりましたよ。まぁこれから橙に諦めて貰う為にもう暫し時間を貰いますが」
「…え?ら、藍様!?どういう事ですか!?」
…………。
……ふ~ん。あぁ成る程ねぇそういう事…。
「だからやけにあっさり言ったのね」
「はい。最初からこんな道を選ばないと言うなら良かったのですが…着いて来ると言うなればどうにかして諦めさせませんと」
全く、期待させておいて酷い式ね。
分かったって言ってもそれは何も了承の言葉なんかじゃ無くって、藍からしてみれば初めから橙を着いて来させる気なんてさらさら無かったわけじゃない。
「何故ですか藍様!?」
「相手は未知の次元…とてもじゃないが橙の命の保証なんて出来ないんだ」
「未知の…本当なんですか紫様!」
「そうねぇ。だから私としては藍にも違えた道に進んで貰いたかったけど…藍は頑固だからね」
私が藍を想う気持ちを藍は橙に想っている。
どのみち危ない目に遭って欲しくないその気持ちは当然と言えば当然だけど…大きく違うのは藍と橙の実力。
上位の力を持っているからこそ私は藍に道を選ばせてあげれたのだけど、橙ではそれもままならない。…とてもじゃないけど橙を気遣いながら相手取るのは少々危険過ぎる。
「分かったか橙。お前はわざわざ危険なこちら側に来る必要なんて無いんだ」
「……」
…幻想郷でも下に来る橙の実力では魔界に対抗出来やしない。確かにそれを見越しての藍の決断は間違ってないわ。
それに命の危険に晒されるのは藍はもとより私もなのだけどね。
「魔界を知らないと思うから教えるが…相対する相手は私…いや、それどころか紫様や幽々子様以上の力の持ち主で、その上ルールが無い命の取り合いになるんだぞ」
「……弱いから……」
……。
小さく発せられる橙の声は既に弱々しかったけど…それでもまだ橙の眼は死んでいなかった。
「……私は弱いから…藍様と紫様と一緒に行けないのでしょうか…」
……核心を突く橙の言葉。藍の教育によりその辺りの考えを巡らせるくらいは出来てしまっていた。
「ああそうだ。その程度の実力では連れて行く事は出来ない」
「…ッ」
私から橙に言い渡せばそれで済んだ話なのに…藍の成長とは言えツライ役目を押し付けてしまったわ。…でも、ツラく当たって突き放す事もまたそれは優しさなのね。
「それなら認められるようもっと強くなりますッ!」
「駄目だ」
「い、嫌です!私はもっともっと藍様や、紫様と一緒に居たいです!!」
「駄目だ!」
「後衛での雑務だってやります!バックアップだって何だって熟します!だから―「分かってくれ!!分かってくれよ橙!これが…これがお前にとっても最善の選択なんだ…!」
……藍…。
遂には藍まで泣きそうな顔になりながらも必死に説得を始め出す。…その身に己の式の幸せを願って。
「……嫌…ですよぉ…」
それでも橙は諦めないでたどたどしくも言葉を紡ぐ。
…だけど、苦々しいけど藍が言ってる事が正しいと橙自身も分かっているようだから大きく言うことが出来ずに段々と肩を落としていく。
「ハァ…。私の言葉では駄目か…。紫様、申し訳有りませんが紫様から橙に言ってやって下さい」
「え。…え〜と、そうねぇ…」
さて、私に振られるなんて思って無かったから説得の言葉なんて全く考えていなかったのだけどどうしましょう…。
そもそも橙の選びたい道が危険だからってそれを強制的に道を変えたとしてもねぇ。この子にとってはその最善が納得出来ないものなのだから別の道を用意するしか――。
「…最善でもッ!!」
…ああ、分かったわ。
橙が涙混じりで叫ぶものだから少し驚いたけど…少し前に同じ様に決意をした子を見たんだもの。そのお陰で私の中で結論が出たわ。
「橙?どうした―って紫様?」
私は叫び出した橙に近付こうとする藍を制止させて首を振る。
「今は…今だけはあの子の想いを聞いてあげなさい」
おそらく思う通りに終結すると思うから。
すると、藍も分かったように頷いて静かに橙の言葉に耳を傾け出す。
「最善でも…例え藍様が選んでくれたその道が最善だとしても!私は藍様の言う事は聞けません!!」
「私の選ぶ道は決して最善ではなくとも、それでも!私にとって幸せな道ですから私は進みます!」
「…確かに私は弱いです…。役に立つどころか、足手まといにさえなってしまいますから切り捨てられるのも分かります…。それが紫様と藍様のご厚意だとしても…」
「…だけど!そうなったら私は一人になっても紫様や藍様と同じ道で戦い続けます!例え隣に立てなくても構いません!ずっとずっと後ろでも構いません!…お二人と同じ道を進む事が私にとっての誇りであり幸せですからッ!!!」
「だから…だから!実力の無い私ではお二人の邪魔になってしまうと思いますがお願いします!!私もお二人に着いて行かせて下さ…ッ!?……藍…様?」
「橙!もういいんだ!もうやめてくれ!」
遂には涙を流し始めた橙を最後まで見ていられなかったのか…藍は身を屈めて橙を抱きしめる。
「橙は…私の言う事が聞けないと言うのだな」
「…はい。私は何を言われようとお二人と同じ道を辿ります」
「そうか。…初めてだな…橙が私の言う事を聞かなかった事は」
「……私は悪い子です」
「本当に悪い子だ…橙…。だから…今は強く抱きしめさせてくれ……」
ふふふ♪全く情け無い…ま、私の顔を見せなかったんだもの、今の貴女の顔はこれ以上見ないでおいてあげるわ。
「紫様、お願いします。…橙を…私が全ての責任を背負いますので橙を―「私は初めから橙の事を貴女に一任した筈よ」…ありがとうございます」
ほらね。私の予想通り思ったようになったじゃない。
はぁ〜あ認めたくないわね〜。最近は涙脆くなってしょうがないわ。
「でも、それは私のものよ。……藍にも手伝って貰うけどね」
「ありがとう…ございますッ」
何言ってんのよ、私達は家族じゃない。
…不安もあるし紆余曲折あったけど…私は本当に家族に恵まれたわ。
橙が一進に様付けなのは紫の式=藍と同等と考えているわけで…というか今振り返ったら一進と橙って直接会った描写無いやんけ…。これはその内シレっと会わせておくかもしれません。不覚にもちぇんちぇんの独白がかなり刺さりもうした。
……尚最初のプロットだと一人称『橙』で紫しゃま藍しゃま呼びだったので思考力と精神年齢のバグが発生してました。
それではまた次回。