それではどうぞ。
第60話 黒翼のジャーナリスト
○
side一進
「あぁ〜眠ぃ……」
おっすオラ一進。ただいま俺は先生からとある
だってよぉ…。
いや、何であんな時間から話し合わなきゃいけないんだっつーの。大切な話があるなら酒なんて呑むなよな。…なんて文句を押し殺して紫達の話を聞くと…。
なんでも、紫の判断で俺は正体を隠したまま今後も幻想郷で暮らせるらしい…つまりは幻想郷に匿われる感じだな。で、ついでに永遠亭も協力態勢を敷いてくれる事になったってさ。
ふぃ〜良きかな良きかな。一時はどうなるかと不安だったけど、これで取り敢えず俺は幻想郷から捨てられる事は無いんで一件落着だな。
「あ〜眩し〜。外に出たはいいけどここ数日は雨知らずか…いつまでこんな天気続くんだろうな」
だって見上げ――られないわ。くっそ眩しいし眠気が合わさって晴天が際限無く目にダメージを与えていく…。ったく曇りになれ曇りに!雲一つならぬ空一つ見えない満天の曇り空でいいよ!!
ほらもっと増殖して灰色で空を埋めちまえって!諦めんなよ、諦めんなよお前!どうしてそこでやめるんだそこで!もう少し頑張ってみろよ!ダメダメダメダメ諦めたら。周りの事思えよ、応援してくれる人達の事思って――。
――うんヤバいわ。俺相当疲れてんだな…。思いも知れず炎の妖精になってたわ。
「ハァ〜」
…自然相手に文句言ってもしゃーないか。だけど、道なりに進んで行くが…歩けど歩けど視界いっぱいまで道が続いていて全く終わりが見えない所為で心が折れそうなんだよ…。
長らくの間閉鎖的だった永遠亭の生活、そしてうっそうとしていた竹林を抜ければ視界いっぱいに広がる自然の風景。狭い所に居た俺にとっては、久々に見る世界でとても大きく広いものに見えている。
「あ〜、幻想郷ってこんなに広かったのか…」
「そうだよ~♪」
そう言われて俺は視線を下げると…そこには金の髪をリボンで結び(?)、俺の隣をトコトコ歩いている人物が映る。
「私も動けるようになって数年経ったけど~まだまだ幻想郷で行った事無い場所はたっくさんあるもん♪」
彼女の名前はメディスン・メランコリー。
俺が永遠亭から出る理由の発端になった存在であり、小さい身体を使っては大きなリアクションを取ってくれるのは微笑ましく感じる。
それこそてゐよりも小さい身体なんだが…一体いくつなんだろう。……身長も気になるけど、ここでは年齢だからな。
なんでも、この子は自分としての意識が生まれたのが数年前だとかで…まだまだ幻想郷についても常識についても知らない事が沢山あるらしい。
「そうか。んじゃあメディスンはどんな所に行った事あるんだ?因みに俺は地霊殿と紫の家と紅魔館と人里と永遠亭」
メディスンが行った事が無い場所があると言うから俺も行った場所を挙げてみたものの…あれ?片手で足りるぞ?俺の行動範囲狭すぎねぇか?
だがまぁ…ふふん♪それでもなかなかに名所揃いだと自分では自負しているぞ。
……正直紫の家は数に入れていいか迷ったが…別にいいだろう。他に名称が分かる場所なんて無いんだから増量の為に言っとこう。
「ん〜?え〜とね〜」
すると、メディスンは指を頰に当ててカクンと首を傾げたまま少し考えている…。
…身長差故に歩くスピードに大きな差があったから俺が頑張って合わせていたんだけどよ、考えさせた所為でメディスンの歩行速度が更に落ちちまったよ…。行き先までの距離を聞かされてないからこうまで遅いと不安だな。
飛べば良かったんだろうけどどうもメディスンは飛行が得意では無いらしく、結局歩いて行く事に…。
「ん〜…」
それに、いつまでも考えてるこの様子じゃホントに幻想郷を回った事が無いのかね?ま、だとしてもそれはそれで仕方無――。
「永遠亭と紅魔館と人里は私も行った事があるよ。それに今から行く太陽の畑や私の住んでる無名の丘はもちろん、妖怪の山も回ったな〜。玄武の沢に九天の滝に守矢――」
「――俺が悪かった」
何この子…がっつり幻想郷巡ってるやん。つーか殆ど聞いた事も無い所ばかりじゃねぇか。
いや、もうなんかすみません。メディスンの事を軽視したわけじゃないんです。自分ちょっと調子に乗ってただけなんで許して下さい。
「どうしたの?」
「ん、いや…な?知らない所だらけだったもんでつい…」
俺の心境が表情に表れてしまったのか…普通にメディスンに心配されてしまい言葉に困る。
意気揚々と俺のつらつら並べた挙句このザマである…。ホント、そんな顔で見ないで下さい…。
「それはそうだよ〜。私だってちれいでんとかゆかりの家とかは知らないよ」
励まされてるね…。うん。俺って今完全に小さい子に励まされてる感じになってるよな。
しかも
「ハァ〜…」
実質俺の行った中で地上の奴でも自力で行ける所となると、別に大して珍しい所でも無いんだな。
…それなのに何を俺はいい気になってんだろうか。
「恥っず…」
「ホントに恥ずかしいですね〜」
なんて俺が自分に恥ずかしくなり溜息を吐いていると…俺とメディスンの後ろを歩いていた最後の同行者が嬉しそうに合いの手を入れてくる。
「一進さんは兎も角メディスンさんは色々な所を行ってるようですね〜…まぁ私には敵いませんけど」
「あ〜はいはい自慢乙」
のっけから腹立つ事言われたけど取り敢えず紹介しよう…こいつは射命丸文。幻想郷で新聞記者をやってて、なんでも先月に永遠亭で面白いものが撮れたらしく今月も同様に訪れて来たんだ。
まぁ…その場に居た紫に『頼んでおいた仕事はどうなったの』とか詰め寄られてが…俺には関係の無い事だな。
「自慢とはひっどいですねぇ〜私達以上に幻想郷を知る者は居ないと言いますのに」
「あやは幻想郷をたくさん知ってるの?」
「それはもちろん!私は、新聞を作る際にはしっかりと自分の足で現地に赴いていますので当然の事です!」
で、因みにこいつは俺とメディスンの護衛役として先生がつけて来れた人物なのだが…これがまた非常にうるさい!
ネタネタネタネタと新聞作りに熱心で熱い新聞記者魂故なのだろうけど、永遠亭で会った瞬間にえらい質問責めに合ったからな。
「どうです一進さん?一進さんは全然幻想郷を知らない様ですのでここは是非文々。新聞を購読してみませんか?」
「絶対しねぇ。一度考えたけど止められたからな」
…しかも、どっかで聞いた名だと思ったら…
俺が幻想郷に疎い事を理解してここぞとばかりに自分の新聞を宣伝してくるのはいいんだけど、捏造だの脚色だの…スキャンダルに塗れた新聞を是として書いてる奴の新聞を取るのもな…。
「止められた?いや…まぁそれは置いておきますが考えたという事は一進さんは以前より文々。新聞をご存知でしたので?」
「ああ、椛ってのに教えられてな」
射命丸に聞かれて俺は正直に答える。俺も当時は幻想郷の情勢が知りたくて読んでみようかと思ったんだけど、そん時椛とこいしにやめるよう言われ――。
「おお!流石は椛です!しっかりと私の新聞を宣伝してくれるとは何と良く出来た部下なのでしょう!!」
――やっちまったなぁ…。
「ウンウン。わたしはいい部下を持ちました…」
「ああ…うん…そうだな」
勘違いするなよ。これは逃げなんかじゃなく優しさだからな。なんせ褒めた相手に裏切られてんだもん…言わないのも一種の優しさだよ。俺にはこんなにも喜んでる射命丸に真実なんて言えないさ…。
「……射命丸…取材の時は何でも聞いてくれよ?」
「え?まぁそうするつもりですけど…?どうしたんです急に」
「ん、いや…何でも無い」
知らぬが仏だ。上司と部下の関係だって知ってんのに名前を出した俺に非があるようにしか感じないがな…。
「あやはえらいね〜。取材がしたくってわざわざ着いて来てくれるんだもん」
「……そうですか」
? 射命丸の態度が急変したのが気になるけど…何だ?護衛だって荷物を持ち帰ってくる道中だけだし、先生のお陰で俺だって弱いつもりは無いから悲観する事無いだろう。
因みに俺達の外出理由は…先生が薬の材料である薬草の栽培をその者に依頼していたのだが、どうやらそれをすっかりと忘れてしまっていたらしい。
自分のした頼み事ぐらい覚えてろよって言いたくなるが…忘れたのも俺が永遠亭に運び込まれたからって言われてだな…。そう言われたら文句言えないだろ。
だから結局俺は白羽の矢を立てられても渋々行くしか無かったのさ。
「つーかさ、結局知らせる為に使いを出すんならその時一緒に薬草を持たせて来れば終わるってのにな」
「ダメだよ〜ゆうかは自分からは動かないから♪」
ほほう成る程。どうやらその相手は頼まれた事はしっかりとするけど決して相手を甘やかさない良く出来た人物らしい。
「…厳しいですね……」
「…あ?」
だから何が?射命丸はちょくちょく悩んだ顔を見せるものだから微妙に気になる。
「だったら別に帰ってもいいけど…取材の話は消すぞ」
射命丸が何を思ってるのか分からないが…条件を満たさないなら俺も風見幽香さん(?)同様甘やかすつもりは無い。
「…ハァ」
そうやって溜め息を吐きながらも足を止めない射命丸の姿を横目に、俺達は目的の為に太陽の畑を目指して歩を進ませていた。
○
side文
ハァ〜。これはこれは厄介そうなネタですねぇ…。
私はメディスンさんと歩いている
全く…な〜んで折角仕事終わらせた私が付き人の紛いの事なんかしなくちゃいけないんですかねぇ。いや、私もですね、紫さんから頼まれていた地上と地底を繋いだ情報を広める為の新聞は作り終えたんですよ。
……遅いなんて言わないで下さい…地底と言ったら鬼の皆様の目にも止まる可能性があったので推敲に推敲を重ねる必要があったのです。
そしてですね、ふと空を見上げると満月が昇っていたんですよ。そこで私は先月に息抜きを兼ねて行った永遠亭の
その為、再び面白いネタが無いかな〜と永遠亭に訪れたらなんと大当たり!居たんですよ!外来人である藤代一進さんが!
だから私はこれはもう早速取材してネタにするしか無いと思ったんですが…話しかけようとした矢先に酔っ払った紫さんに捕まってしまいお預けに…。
でもまぁ翌日に聞けばいいかと意気込んでいましたらその翌日にメディスンさんが永遠亭に来たんですね。そしてそっからです。段々と雲行きが怪しくなったのが…。
どうやら永琳さんは幽香さんに栽培を頼んでおいた薬草を貰いに行くのを忘れてしまっていたそうで、それをメディスンさんが代わりに伝えに来たそうなんですよ。
まぁいいんです。幽香さんなら自分では届けずに相手が取りに来いと言う精神でも納得出来ますからさして気になる事ではございません。
しかし、その薬草を取りに行く者ってのが厄介の種でした。永琳さんが留守にする訳には行かないし輝夜さんが行く訳ありません。てゐさんも既に姿を消していましたのでこれは鈴仙さんに決まりかと思ったんですが…輝夜さんが鈴仙さんに行かせるのは不安だと言ってその線も消えたんですよ。
その為、今まで世話になったとかの理由を含めて一進さんに白羽の矢が立ちましてねぇ…取材がしたかった私はそのまま永琳さんに護衛を言い渡されてしまい今に至ります…。
「ハァ、取材がしたければ護衛をしてから…ですか」
「別に悲観する事じゃ無いだろ。荷物運びってもそこまで手間取らないしさ」
「護衛の意味無いぐらい平和だしね〜♪」
「……」
ま…そうですよね。貴方達の場合は何も気にしないでのうのうと居られますよねぇ…。ですが、私の言い渡された護衛は寧ろ取引相手がメインと言うかなんと言うか…。
だって!これから会いにいくのはあの残虐非道を尽くす風見幽香さんなんですよ!そりゃ何かと仲が良いメディスンさんは良いかもしれませんが私と一進さんからしたら死活問題なんですって!
「因みになんだけど…。これから会う幽香って人はどんな人なんだ?」
はいナイス質問です一進さん!この私が迅速かつ丁寧に幽香さんの恐ろしさを――。
「ん〜ゆうかはね〜。とっても強いしかっこいいんだよ♪」
――伝えたいんで邪魔しないで下さいメディスンさん!そうまでして
「とっても強いって…幻想郷は何処もかしこも強い奴だらけだな」
ええそりゃ強いでしょう!ですけどあれ程までに強力な妖怪がそうそう居て堪りますか!!鬼と殴り合ってますしあまつさえ幻想郷の賢者ですら彼女を最凶と認めているんですよ!?
「えぇ!ですが!!強いと言うよりも…その…果てしなく凄いと言うか――」
「それに何よりもお花が大好きな可愛い一面もあったりするの♪」
ちょっとメディスンさん!!途中から人の言葉奪わないで下さいよ!間違ってはいないんですがそんなの必要な情報じゃございませんでしょう!?
「花が好きなんだ…。へぇ…なんか安全そうな人なんだな」
あんぎゃぁあ!!?何コロっとメディスンさんの思惑通りに進んでるんですか一進さん!対極ですよ!?まさに幽香さんは安全とは対極に位置してる妖怪と言ってもいいんですよ!
「あ…あの〜」
…ああ〜何やかんやしている内にまた周囲に植物が咲いている所に………。
こうなったら手記で伝えましょう!こんな時の為に使うとは思いもしませんでしたけど、私はいつでもペンも
…そうでもしなければ一進さんに正しい情報を教える事が出来ません。
「一進さん!ちょっとこれ見て貰いたい――」
「あれ〜?あやのそれって新聞のネタ帳だよね〜何でいっしんに見せようとしてるの〜?」
うぐっ…。
「ダメだよ〜。清く正しい新聞記者さんがある個人にだけネタを教えちゃうってのは平等じゃ無いと思うな~」
「…………」
白々しい…。何が平等じゃ無いですか…貴女がやりたいのは何も知らない一進さんが初めて幽香さんと相対した時の反応を見て楽しみたいだけでしょう。
「だからさ…
「……それもそうですね」
にこやかな笑みの裏に隠された副音声が聞かされたようで冷や汗が流れます…。
流石…毒を操るだけあって隠し方を知ってますね…ことごとく何も知らない一進さんを危険区域へと連れて行きます…。
「…なぁ射命丸?お前さっきから変だけど…何か言いたい事でもあんのか?」
「……」
すると、一進さんは私の心境に気付いたようで向こうから耳を傾けてくれてます…。
ええそうですね、今がチャンスですよ。今ならメディスンさんに邪魔される事なく私の言葉を届ける事が出来るでしょう。
……。
……。
ですが…。
「……いえ」
「そっか」
私は何でも無いと言うしか出来ません。
だって…。
だって言えるわけ無いじゃないですか!!
私の言葉は一進さんだけでなく幽香さんにまで届いてしまいます。ですので植物が豊富な所を歩いてる時点で私の口頭による説明は既に封じられているんです!
…だから始めに時間短縮と称して飛んで行きましょうって言いましたのに…。
一進さんに初めからある程度幽香さんの危険性を伝えておくことが出来れば幽香さんを刺激しない身の振り方も伝えれたでしょうに。
あ~あネタに目が眩んで永琳さんから完全に安請け合いしてしまいましたね…これ……。流石に幽香さん相手に護衛は無茶でしょう…。
ん〜。ま、苦労する分は根掘り葉掘りびっちりと取材させて頂きますけどね。
***
「あら……へぇ…ふふふ、やっぱり暇潰しはすべきね」
「なに…が………」
「貴方じゃ無いわよ」ゴギャ
「ウギャャァァアア!!?」
「片腕壊したぐらいで煩いわね…。それじゃこれに懲りたら今後この周辺で…たとえ妖怪同士でも争わない事ね」
…ァッ……アッ…ァ
「…聞いてないわね…ほら、貴方達もいつまでも転がってたら邪魔でしょう。さっさと起きてどっか行きなさい。放り投げるわよ」
……アグゥ…。
…ギギ…。
「……誰も動く気が無いようね…。全く…誰が片付けると思ってるのよ」
「………ま…こっちは片付けておくから早く来なさいね、楽しみにしてるわよ――」
「――魔界最高の失敗作」
メディスンとこいしの口調が被ってますね…漢字やひらがなで見分けがつきやすくしたんですがこいし感が拭えません。
ゆうかりんは夢幻館(夢幻世界?)関係で魔界との繋がりがあるという事にして下さい。それに怪綺談で自機やってるから不都合は無い…筈…。
それではまた次回。