それではどうぞ。
○
side一進
「魔界には一人の神様が存在した」
伝承…それは、どこにでもありそうな古くから伝わる昔話…。魔界に伝わるそれを風見さんは何処となく口にする。
まぁ魔界でも何かと有名な話さ、俺だって聞いた事ぐらいはある。
「神様はいつも一人だった」
「あら、これは覚えてるのね。…何も無い世界にいるのは苦痛だった」
俺は風見さんの言葉を奪うように続きを言い始める。ただただ懐かしい事を言われたからな…不意に続きたくなっただけさ。
「だから、孤独な神様は考えた」
「寂しいなら増やせばいいと…心細いなら賑やかにしようと…」
…つーか冷静に顧みたらやっぱ凄まじいよな…。自分の寂しさ紛らわせる為に世界一つ創るんだもの。
まさか馬鹿げた力の使い道が楽しい毎日を送る為だとはな。
「そうして、神様は自分の求める世界を創り始めた。環境を整え、町を用意し、民を迎え、法をも定めた」
風見さんが続け様に語る。ま、民を迎え入れるってのも若干の語弊があるんだけどな。外の世界からやって来た者達ならいざ知らず、俺と夢子、初めの方で創られた奴は設立当初の役割分担みたいなものらしいし。
「苦難はあった。挫けそうな時もあった。それでも神様は求め続けた」
「やがて、神様の頑張りは報われた。民達も神様に任せ切りにせず、互いに手を取り合って全てが順調に進み始めた。そうして、皆が暮らす楽しい世界がそこには生まれたのであった」
はいチャンチャン。これにて昔話は終いだよ。
すっきり言い終わった俺は、少し冷めてしまった紅茶を喉に流して少しばかり思い出に浸る。
いや〜それにしても懐かしい、遥か昔の事で久々に聞いたけど覚えてるもんだな。俺の記憶力もなかなか侮れな――。
「しかし災厄は訪れた」
……。
…しか…は?何?災厄?
俺は不意に風見さんへと目を向けると、そこでは風見さんが口に手を当てて優雅に笑う姿が映し出される。
「ふふふ…貴方はそんな世界を壊したのよ」
…………。
……。
「…え?」
風見さんが魔界でも有名な言い伝えを語る途中、俺に目を合わせて静かにそう言い放った。
「俺が!?」
「ええ」
俺は目を見開き思わず確認を取るが、紅茶で喉を潤す風見さんにあっさり首肯され、俺は驚きを隠せず言葉を失う…。
…俺が魔界を壊した?あの人が創った世界を壊したってのか?…いやいやあり得ない。そんなのは普通あり得ないだろう。
「…言い伝えは最後まで聞かされていないのかしら?確かにこの事を知る者は少ないけど…貴方が魔界を壊したのは事実よ」
「マジ…か?」
本当の話なのか…?夢子なら兎も角…神綺にもひた隠しにされていたってのか?
…いや、流石に断定は出来ない。可能性の一つでしかないじゃないか。
「嘘だ。俺もその言い伝えは聞いた事あるが…所詮は言い伝えだろ?何が壊れたのかも知らないし、何よりも魔界には名実ともに最強の二人が居るってのにそんな事出来る筈が無い」
例えこれが風見さんの戯言だとしても説明がつくからってあっさり信じない方がいい。最初は何事も疑ってかかるもんだ。
…だとしてもいきなり何を言うかと思えば何故そんな嘘を?でも、第一俺にはそんな事する理由も力も無いんだ。それでどうやって魔界を壊すって言うんだよ。
「ふ〜ん。信じられないの」
「……」
風見さんは俺が魔界を壊した論を推して来るが、俺はその言葉を信じられないと首を振る。しかし、俺自身の記憶が曖昧になってる事もあるからこの話が丸っ切りの嘘で片付ける事が出来ないのもまた事実…。
まぁいかんせん謎な点が多過ぎる。となればもっと風見さんから情報を得るのが先決だろう。
「私が嘘をついている…ねぇ」
「ああ」
だが、俺はそんな考えとは裏腹に目を細めてこちらを見据えてくる風見さんに間髪入れず言葉を返す。
確かに上で供述したように風見さんの嘘で片付ける事は出来ないだろう…。だけど、俺はある種の確信を持っていた。
魔界神と魔界の最高傑作……いくら何でもとあの二人を相手に出来る奴は存在しないだろ。…二人の名は伊達じゃない。
教育と称して夢子とはいくらか手を合わせた事があるが、神綺の全力なんてものは全く知らない…。ま、それでもどちらも常軌を逸してるのは確実だと言う事は分かるさ。
「だって不可能だろ。現にあの二人を相手に――」
「ホント都合の良い能力ね。忘れたい記憶だけ好き勝手に拒絶出来るなんて」
「………何が言いたい」
「い〜や、別に」
一瞬にして空気が張り詰める……。なんだってんだよ、俺だって好きでこんな力を手にした訳じゃねぇっての。
……ニヤニヤした風見さんが煽るだけ煽ってくる来るがここは抑えよう。それよりもこの人が俺の能力を知っているのが確認出来た事が大きい。
…これで、仮に戦闘になった際にはそれを前提に組み立てろ。一見万能だが俺の納涼区はデメリットだらけな分、予め対策を立てられていよう物ならかなり厳しい状況になる。使用するにしても十分に気をつけないといけないだろう。
「……」
「……」ピシッ
二人とも無言の中、触れてもいないティーカップにヒビが入る。
……そりゃ殺伐な雰囲気にもなるだろうよ。だって、そもそもの大前提でこの人が俺の味方かも分からないんだ。
…確かに俺の事を沢山知っているようだけど…それが俺の味方である確証なんてものには一切なり得ないからな。
「いや!いやいやいや少し待って下さい!!」
すると、そんな状況を見かねたのか、ずっと隣でそわそわしていた射命丸が慌てたように口を挟んでくる。
「お二人の過去にどんな諍いがあったかは知りませんが一度落ち着きましょうよ!話が全く進みません!ってか私には既に意味不明です!!」
「…あら?私は落ち着いてるわよ」
「そんなに妖力垂れ流していては説得力のかけらも無いんですが!?」
「そう?」
いや、『そう?』じゃねぇーよ。ホントいい加減あまりにも濃密な
生憎俺は色々慣らされているからギリギリこの場に居れるけど……並大抵の実力じゃ裸足で逃げ出すレベルだぞ…。
「いいですか?このまま不鮮明な会話を続けていても利は無いかと、ですから先ず最初にお互いの情報をしっかり整理すべきだと私は思いますよ」
「ふ〜ん。流石パパラッチ、こういう頭は回るわね」
「パパラッチって…せめてジャーナリストって呼んで下さいよジャーナリストって。まぁ、今は貴女のお陰で報道出来ないんですけどね」
しかし、射命丸は逃げ出すどころか逆に開き直って風見さんに喰ってかかる。……う〜ん…これは少し格上げかな?
下に見てたのは仕方が無い。だってこいつは風見さんと出会った当初思いっきりへりくだって自分の保身に走っていたからな。ハッキリ言うと弱そうってか三下な印象を抱いてたよ。
だがそれが今やどうだろう。確かに現在でも畏まってはいるものの、会話の中身を冷静に分析して
「…まぁそんな訳で魔界全般については決して記事にしません。ですが――」
そうやって悠々と話している射命丸に俺は目を向ける。
…こりゃあてゐの筍掘りの際に出くわした野良妖怪を相手していたお陰だな。
どうやら俺は永遠亭過ごしてた間に相手の力量を上手く測れるようになったらしい。何せさっきの風見さんの妖力だってちゃんと気付けたからな。
まぁしかし、射命丸が上位の位置付けだとしても先生や紫…目の前の風見さんに敵うとは到底思わない。
……それでも――。
「巻き込まれたと言っても一大スクープですからね幽香さん。…洗いざらい聞かせてもらいますよ」
こいつにはそれに準ずるものが確かに秘められている。
「大きく出たわね」
「はははは、最後まで真実を追うのが一記者としての使命ですので」
ま、今はレミリアか…藍さんあたりがいいとこってぐらいだと思うけどな。
そして、職業柄ゆえか射命丸はただの怯えから俺達を止めた訳では無く、しっかりと今後の必要順序を的確に見極めていた。
「え〜と、先程までの話から一進さんは魔界の生まれという事は分かりました。それでは幽香さん…次は魔界が壊れたという詳細について教えて下さい」
「……」
「?何ですか?」
「…いや」
…これは素直に驚く。こいつにここまでの状況判断力があるなんてな…これだったら例えパパラッチだとしてももしかしたらこいつの新聞は見る価値が十分にあるのでは無いのだろうか。
「だからジャーナリストと呼んで下さいって」
「…おおこわいこわい」
まさか内心でもバレてようとはな。もっと上手く隠せるようになっておかないと。
「しょうがないじゃないですか!そうでもしないと私の置いてきぼり感がスゴイんですよ」
「ああ成る程」
「…ねぇ、あんた達何遊んでんのよ。魔界の事を聞きたいんじゃなかったのかしら?」
「ああすみません少し邪魔が入って…それではお願いします」
「オイ」
ったく誰が邪魔だ誰が!好感度上がったから折角だし新聞見てやろうと思ったのにコレかよ!
「じゃあ黙って聞いてなさいよ。手始めに…
まだ少し射命丸に言いたい事があったのだが仕方がない。俺は風見さんにそう言われて意識を切り替え、自分の記憶を探る。
…確か俺の記憶では城から城下町とでも言えば良いのだろうか…が見えていた覚えがある。太陽なんて物は無く、決して明るい世界では無かったとはいえ、そこに住む者達は幻想郷の地底のように活気が溢れていた。
「都市っていうのは魔界人や悪魔…それこそ数多くの魔族が暮らしている所よ。名前に似合わず思ったより平和なんだから」
「はぁ…?」
「…知ってる。その風景は覚えてるからな」
物の売買や流通、魔界の子供達だって元気に遊んでいた記憶が残っている。だって、それが俺の知ってる都市だし…何よりも俺が育った世界でもあるから。
「簡単に言えばただの町よ。それじゃあ次、そこから外周の世界はどうなってるのか知ってるのかしら?」
「…外周?」
風見さんに言われて頭を捻るが…こちらについてそれほど思い出せない。と言うより覚えているが何も無かった筈だ。
だって、外周は荒れ地や更地が広大に広がっていて特に何も無かった筈だぞ?強いて言うならばそんな過酷過ぎる環境に身を置く化け物クラスが生きる世界でもあるけど…。
「なぁ風見さん。それって魔界の―「は?」…は?」
え?何々?…ただ話しかけただけなのに風見さんにもの凄い嫌な顔をされてんだけどなした?
「どうしたよ風見さん?」
「やめなさいよ気持っち悪い!!今更貴方にそんな呼び方されたら寒気がするわ!」
「キモいって……え〜、呼び方?あ~だったら…幽香か?」
かz――幽香に聞きたい事があったのだが…こんな事を言われてしまえば言い直すしかあるまいて。
……傷付いてないぞ。向こうは俺を知ってるからそう言ってるからであって全く覚えてない俺にとっては初対面の女性に罵られた感じになってるがそれでも傷付いてないからな。
寧ろ俺からすれば『いきなりこんな馴れ馴れしくしても良いのかな?』って違和感があって落ち着かないってだけで別に――。
「記憶の齟齬がツライですねぇ…。くくっ」
「分かってるなら口に出すな。笑うぐらいなら同情するな」
多分前回の俺もこいつに同じ様な態度を取った仕返しなんだろう。
馴れ馴れしく俺の肩に手を乗せ、同情した素振りで笑っている射命丸に一瞬手が出そうだったものの頑張って自制する。
…そうでもしないとこいつの言うようにマジで話しが進まないからな。
「…しっくりくるってのも何か腹立つわね…」
「ならどうしろと…」
もうヤダ何この自由人…。
俺はそっちの命令通りに畏まらず名前を呼んだってのに何をため息吐いてんだよ。あれか?二人称使わず話せってか?それとも調子に乗って『さん』まで外したおれが悪いのか?
「あの〜…幽香さん。一進さんの物覚えが悪かろうとそんな事どうでもいいので結局の所魔界の外周とは何でしょうか?」
オーケーよく抑えた俺の右手。ここで暴れても得なんて無いからこの調子で引き続き頑張っていこうじゃないか。
「何?貴女も魔界に興味があるの?」
「興味あるも何も幽香さんが(不条理に)聞かせているんじゃないですか!」
「そうよ。良く分かってるじゃない」
「…何ですかこの自由っぷりは…」
寧ろ俺が聞きたい。つーかブーメランになってんぞそのセリフ、俺はお前にも聞きたいよ。
「じゃ、外周についてね。と言っても何もないわよ。…厳密に言えば何も無くなったのだけど」
「はあ…そうなんですか?」
って事はどうやら幽香の答えも俺とほぼ同じみたいだな。…それでも最後の一文のお陰で明確に違ってくるけれども…。
「無くなったってか…。したら元々は何かあったけど、言葉の通りじゃそれらが無くなったって事か?」
「そう言ったでしょ。で、壊したのが貴方。貴方は自分の持つ拒絶の力で軒並み破壊し尽くしたのよ。
「
聞きなれない単語に俺と射命丸は揃って疑問符を打つ。…大破壊ねぇ…そんなの聞いた事ねぇや。
「自分の周囲への無差別攻撃――いや、攻撃と言うより殲滅ね」
「ふむふむ。一進さんの持つ拒絶の能力で起こり得た破壊現象なのでしょうか…え〜と、それで一体何が壊されたのでしょう?」
「…ハァ…察しが悪いわね…。そもそも何で私が魔界の外周の話なんてしたと思ってるのよ」
「何でか?それは俺が魔界の事をちゃんと覚えているかの確認の為じゃないのか?」
すまんな。いくらため息を吐かれようが俺は全く幽香の意図が掴めない。その為取り敢えず思った事を返しておく。
「てんで違うわよ。いい?魔界の都市は円形で出来ているわ。そしてその中心には魔界神の城があるのよ?」
……。
……ああ。
そういう事か…。
「それは別に普通の事では?中心に最重要な施設があってその周りが発展していくなら不思議はないかと…?」
そんな射命丸の言葉を他所に俺は一人で納得してしまっていた。
何が壊されただとか何処が壊されただとかは別に些細な事なんだ。だからつまりは…。
「俺が偶々城にいた時に発生したから結果的にそうなっただけ。神綺の力を持ってしても二十km圏内を護るのが精一杯だったって話か」
護ったのかあるいは再建なのかは定かでは無いがこれで都市の説明がつく。壊したのは外周の何かや何処か…ではなく、外周の全て。…いや、外周なんて言葉が作られたのも俺の所為なのか。
「…そっ…か。初めもっと広かったんだな」
「ええ。
「…凄まじいですね」
神綺はもっと大きな都市を創っていたようだな…。だけど、暴走か何かは知らないが俺の力の所為で都市は削られて、護られた範囲が俺の知ってる都市として残っている。
「なぁ、更地に変えたって事は都市はもっと広かったんだろ…。だったら元々そこにいた者達は…」
真実を知ると同時に嫌な事実ともぶち当たる。…聞かなくても薄々勘付いてはいる、だがそれでも俺は可能性に賭けてみたかった。
「さあね、何処まで届いたか分からないけど大方抹消されたんじゃない?抗える奴なら生き残ってそうだけどほぼ無理な話ね」
「……そっか」
「まぁ、貴方自身が覚えてるか分からないけどそこまで詳しく知りたいなら私じゃなくてアリスに聞いた方が――「アリス!?」」
アリスが…居るのか!?幻想郷に!?
不意に幽香から紡がれた名前に俺は椅子を倒すほど勢いよく立ち上がる。俺にとってはそれほどまでに驚きだったし、何よりもアリスが居るとなれば全てに納得がいく。
「…貴方も幻想郷に居るんだしと思ったけど…もしかして会ってない?」
「何処にいるんだッ!?」
「…会ってないみたいね」
詰め寄った俺に対して幽香は鬱陶しそうに手を振るけど今更そんな事気にならない。アリスが…幻想郷に居る。
ふふ、ははは!繋がった。ようやくこれで繋がった。
最後まで謎だった夢子の行動…。俺を殺すなり何なりすれば良かったのに結局生き残らせた夢子の行動!
簡単な話だ!
「さてと!それじゃあ次行くとこが決まった!」
「…いいわねぇ。最近暇だったから面白くなりそうだわ」
「ははは…多少は頑張りましたが私はキャパオーバーですよ。いくら何でも情報が多過ぎます」
対面にいる幽香、隣で呟く射命丸の声すらも今の俺の耳には遠くのように聞こえていた。
…アリス…か。…待ってろよ真実、今すぐ究明してやるよ。
弄り役も弄られ役もパッとしてないからはっちゃけ成分が足りないのよね。
そろそろギャグりたいわよ。
それではまた次回。