それではどうぞ。
○
sideアリス
カチャカチャ…。
カチャカチャカチャカチャ…。
…………。
「…中々難しいわね…ピッキングって言うのも」カチャカチャ
私は現在広い家(城)の中にある夢子の部屋の前で屈み込み、鍵穴に向かって硬質化させた魔力糸を丁寧に動かしていた。
本当にこんなので開くのかしら?そろそろそんな疑問が私の頭に浮かんでくる。
だって、奥の方から僅かずつに高さを変えては何度もトライしてみるものの一向に扉は開く気配を見せないんだもの…。
「ハァ…魔理沙がこれでよく私の家に入り込んで来てたからチャレンジしたものの、流石に失敗だったかしらね…」
…このままじゃ時間の無駄になりかねないわ…やっぱり諦めて書斎に行くべきかしら。だけど、書斎にある本は昔大体読んだから新たな情報を得るなら
幻想郷…もとい一進の事は魔理沙に任せておきましょう。幽香に伝わらせたのが吉と出るか凶と出るか不安だけど…それでも信じるしか無いわ。…暫くの間私は幻想郷に戻れそうに無いからね。
だから取り敢えず、私は私で出来る事をしましょう。今後の為にも、一先ずは魔界で集められるだけ情報を集めないと。
「さて、夢子だってそのうち帰って来るだろうから早めに――『カチャ…ガチャン!』…え!?」
僅かな手応えを感じた後…ドアノブを軽く捻ると、何の抵抗も無く扉が開いてくれる。
い、いや〜、やってた自分で言うのも何なんだけど…まさか本当に開くなんてね。
…ま、結果オーライって事にしましょう。それに少なからず魔理沙にも感謝だわ。
数分後……。
「え〜と……『従者の嗜みⅢ』ーって…誰が読むのよこんな本」
あまり入った事の無い夢子の部屋。あの性格よろしく物は少ないし綺麗に整頓されているから探し物をしやすかった。それで、私は夢子の部屋にある棚から本を取っては確認していたけど実にその大半は全く関係の無いものであった。
「あ〜あ、この様子じゃⅠもⅡもあるのだろうけど…私が必要なのは―『夢子…それが私の名前らしい…』…こういうのよ!」
不意に開いたページに書かれていた文字を見て、思わず私は立ち上がる。…立ち上がった勢いで膝に乗せていた本を数冊程落としてしまったが今はそれどころじゃ無いぐらいの衝動に駆られていた。
あった!ようやく見つけた!棚の奥に隠すように置かれていたこの本!周りの本と比べても明らかに時代を感じさせるこの本!
折角入り込んだのに何の収穫も無いと思っていた矢先にこの本の発見は嬉しい。…あわよくばこれに一進の手掛かりがあればいいのだけど…。
「表紙も褪せていて確認しづらいけど…おそらくは記録みたいな物ね。…まぁとやかく言ってられないから今は良心なんてものは捨てるわよ」
…それじゃあ夢子が来ないうちに目を通しておかないと…。
掛かった時間的にいい加減夢子が帰って来るかもしれない…。そう思って私は急いで次の文に目を進ませる。
『貴女は私の
『初めは思った事を書き留める習慣を付けるようにと神綺様にこの本を頂いたのだが…何分分厚い本だ。埋まるかは置いておいて一先ず書き連ねる事にしよう』
『神綺様に仕えて暫く経ったある日、私は神綺様の夢を聞かされた。どうやら神綺様はこの魔界を楽園に変える為に奮闘しているらしい』
『この城も、此処から見える景色も神綺様がお創りになったそうだ。これからも住民は増える事だろう…私も早く一人前にならなくては』
「一人前って…夢子の半人前姿が全く思い浮かばないんだけど…。まぁでも、この調子だと重要そうな所が来るまで流し見で良さそうね」
夢子が書いていたようにこの本は非常に厚く、それこそ魔道書の隣にあっても気にならない程の代物…。
夢子の性格だと、本当に一冊丸々文字で埋められてても不思議じゃないから読むのも時間が掛かりそうだもの。
『地上に人間と言う生物が現れるようになる』
『今後魔界は人間とも繋がりを持つかもしれないと神綺様は考えているようだった。しかし、人間にとって魔界の空気は害だそうで、いかにして人間を知ればいいのか神綺様も頭を悩ませていた』
『右腕が痛む…』
『不覚だった…。まさか人間にあれだけ強いのがいるとは想像もしていなかった。地上にいた人間を魔界に連れて行こうとしたが失敗に終わる』
『……そしてそのまま人間達は月に渡ってしまった…。良かれと思った行動が逆に神綺様の迷惑になってしまう。これは恥ずべき事だろう』
「…地上の人間?月?かなりページ飛ばしたってのに何の話よ…。いや、でも、漸く人間の話が出てきたならきっとこの辺りに―」
『私の勝手な行動の所為で、神綺様は自ら人間をお創りになった。それが魔界と人間を繋ぐ少年…一進』
「!?あった!!」
私は思わず大きな声を出してしまい慌てて自分の口を塞ぐ。そして扉の方を注意するも…帰って来てないのか聞かれなかったのか、安心する事に夢子が来る気配は無かった。
「…危なかったわ…。ここまできて見つかってたら失態もいいとこじゃない。創る…って事は一進の生まれた時、それじゃここから先が一進にまつわる話になるのかしら」
…私の知らない時代の一進…か。
…ページを捲る指にやけに力が籠ってしまう。……ふぅ、ダメね落ち着きましょう……。
……。
……。
…よし。
深く、長く深呼吸をした私は、すっかり落ち着きを取り戻して次のページへと指を進ませていた。
『一進…か。…創られてからまだ間も無いからだろう…目に映る物全てに戸惑っている姿が昔の私を見ている気分で懐かしくなる。私は神綺様よりそんな一進の面倒を見る様にと仰せつかった』
『一進は言われた事を一度で覚えてくれる非常に手間の掛からない子だった。…一進がなのか、それとも人間と言うのは皆物覚えが良いのだろうか?どちらにせよ教える側としては楽しい限りなのだが』
『一進はよく体調を崩している。そんな所を見るにやはり人間にとって魔界とは害があるのかもしれない。魔界の為とはいえ…いや、私が口を出す事じゃないだろう。…苦しいと思うが一進には頑張って貰いたい』
「…………」
『…今日一進が倒れた…掃除の最中にいきなりばったりと倒れて目を覚まさなくなってしまった。今までも何度かはあったがここまで酷い事は今日が初めて…。…私が無茶をさせてしまったのだろうか…?』
『容態が回復するまでは神綺様が代わりに面倒を見ると仰っていた。手間を掛けさせてしまい申し訳無いが、一進には一刻も早く良くなって貰いたい』
……。
「これ…本当に夢子が書いているのよね…?」
暫く夢子の本を読んでいた私は思わずそんな事を呟く。いかんせん内容が想定外も想定外だった為若干不安な気持ちにさえなっていたから。
…いや、まぁその想定外って言うのも決して悪い方じゃ無いからどちらかと言えば嬉しい事だけど…。
「…まさか夢子が一進の心配をしてる時代があったなんてね。優しいとこもあるじゃない」
と言うかあの夢子にも人間らしい一面があった事に気付かされて普通に驚く。…魔界人だから人間じゃないけどさ、夢子も人らしい感情をちゃんと持っているんだなって。
だけど…それが今やどうだ。夢子は母さんの為とはいえ、一進を殺しにまで掛かっているのだからとてもじゃないが笑えない。
「…ま、何かが引き金になってそれを狂わせたのでしょうけど…ここから先に一体何があるのかしらね」
そして私は再び本に目を落とす。
『あれから暫く、私も神綺様も魔界の制定の為に飛び回って多忙を極めた中、一進の容態が漸く安定したようだ。十分に気をつけた上でなら一進と会っていいと神綺様からの許しが出された』
『しかし、良くなったのは喜ばしい事なのだが…神綺様曰く、生かす為に要所要所を無理やり魔界に適応出来る様に魔界人として進化させたらしく――』
えッ!?
「一進を魔界人に…?」
何で…!?一進は元はと言えば人間が魔界に及ぼされる影響を調べる為に人間として作ったんじゃ…それが…それが何で…。私は知らなかった事を新たに発見して食いるように本を見つめる。
…人間として生まれた筈の一進は既に人間でも無いわけなの?
『――らしく非常に危険な状態だと言う。身体能力は人間を超越し、昔から優れていた学習能力は既に逸脱していた。あまつさえ瘴気に耐えられるようにだろうか見た目は私より大きく成長している。あまりに変わってしまった自分に戸惑いながらも、それでもアリスと一緒に一進は私の師事の下力の向上と制御に努めていた』
…成長した…。で、私が出てる。…成る程、ここで漸く私が知っている今の一進になるのね。
でもそれじゃあ結局一進の事がちゃんと分からず終いじゃない!私の知らない情報を夢子が残していないか――「戻ったわよ」ッ!!?マズ…夢子が帰ってきた…急いで部屋を戻して怪しまれないように……いや、どうせバレるだろう……それなら…。
それなら今やるしかない!
全神経を注いで頭に叩き込めッ!!
『肉体と精神の繋がり』
ごめんなさい
『発現した絶大な力』
ごめんなさいごめんなさい
『存在が変わった事による影響』
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
『禁忌への対応』
私の所為で…
『適者生存の法則』
私が至らない所為で…
『権力者の統治』
私が弱かった所為で…
『絶界の試験的進出』
…神綺様
『原理原則と等価交換』
どんな恨みを買ってでも
どんな犠牲を払ってでも
『輪廻転生』
私が!!!!!
早く…もっと早くッ…。私は早る気持ちを抑えつつもしっかりと読み進める…。
かなり気になる事も出てきているけど止まっている時間は無い。ここまできたのなら大切なキーワードは飛ばさないようにしないと―??
必ず取り戻す
何これ?霞んでる?……消して―いや隠蔽「アリス?」…ッ!?
「ゆ、夢子…」
「鍵、掛けていた筈なのだけど」
扉の方から声を掛けられた為そちらを向くと…それはそうだが当然の様にそこには夢子が立っていた。
くっ…!ああもう!!なんて速さで来るのよ!…読みきれないにしてももう少し情報を得られたかもしれないのに!
「こ、これは…その…」
「全く…貴女は人の部屋で何をしているの――ああ…それね」
部屋に入ってきた夢子は私が何をしていたか気になったのだろう。私の手元を確認にした後、どこか納得した様に数度頷いていた。
「人の部屋に勝手に入る所か散らかすなんてね…。少し行儀が悪いわよ」
「……ねぇ…」
「…?何かしら?」
私が夢子の個人的な物を盗み見ていると言うのに、夢子は表情、声色一つ変えずに床に散らばった本をそれぞれ棚に戻している。
…酷く勝手な思いなんだけど…それが私にとっては物凄く不愉快だった。
「…夢子は…一体何を考えているの」
私は、夢子の事なんて少しも分かっていなかった…。夢子が過去母さんと話していた会話から、勝手に一進を排除しようとしているんだと思っていたけど…本当にそうなのだろうか?
…だって、夢子は少なからずこの本の中では一進の事をとても大切にしていた…。と言う事はもしかすると、夢子と一進は仲が良かったのかもしれない。
私はそもそも、二人は出会った時から険悪な関係だったと思っていた。だからこそ現在命を狙う、狙われる関係になっているのだと納得していた。
「ねぇ、何を考えているのよ」
「?…何をって何よ」
「何でも。私は夢子の考えが知りたいだけだから」
「…それなら強いて言えば神綺様の事かしらね」
「そう言うと思ってたけど違うわよ!!」
ダメだ、こっちは真剣に聞いていると言うのに夢子は軽く笑いながら飄々と受け流してくる。
…これじゃラチが明かない。そう思った私は手にしていた本を持ったまま部屋から出ようと――。
「…じゃあ…一進の事って言えば満足かしら?」
「…ッ!」
笑顔が消えて私の手から本が奪われる…。…夢子は私の言いたい事を理解している上で誤魔化しを効かせてくるから尚更タチが悪い。
…分かっている。心理的なものでも夢子に勝てないのは初めから分かっているわ。でも折角一進の秘密を探れそうなのだから引き下がるわけにはいかない。
「それじゃ下に行きましょうか」
……はい?
「え?」
「『え?』じゃないわよ。神綺様と話せるから下に降りて来なさい」
……え?
……え!?てっきり軟禁みたいな状態だと思ってたのにそんな自由に話していいの!?…じゃあ母さんに聞けばやっと全貌が分かるわ。
「ふふふ、良かったじゃない」
「…?」
先に部屋から出ていた夢子が、顔だけを回して期待に膨らんでいた私を
これで貴女の知りたい事が分かるかもしれないわね。
…口は開いていなかった筈なんだけど…私には確かにそう夢子から言われたような気がして気が気じゃなかった。
『――そう。アリスちゃんにも伝えておくべきだったわね』
下に行って小一時間ばかり…中空に映されたように浮かぶ映像(画面?)越しに私は久々に母さんに会い、一進を人間界に行かせた理由を聞いていた。
「…一進がそんな能力を持っていたなんて…」
『そうよ〜。言っておくけど本当に危ない力なんだからね』
拒絶の力…。私は一進がそんな力を持っていたなんて知りもしなかった。その力は万物を防ぎ理に干渉する事が可能な絶対の力。
…母さんは一進を無理に魔界人として変えた所為で発現してしまった能力だと言う。定期的に一進を特別扱いしていたのはこういう事だったのか。
『ある日…暴走…しちゃってね。抑えようとしたんだけど止めきれずにそのまま魔界の外側消し飛ばされちゃった…』
消し飛ばされた……?…外側?……一進が?
…ッ!?
「魔界を攻めてきた襲撃者って話は!?」
「秘匿にされていたわ。公にするわけにはいかないから襲撃者が来たって事で真実は伏せられていたのよ」
「じゃあ、その力の所為で一進には母さんの力が通じなかったって事なの?」
『…うんそうだよ。…初めてかな、私よりも高位の力を持ってる子なんて』
「……だからって殺そうとする必要無いじゃない」
自分の力が及ばない相手。魔界神として君臨する母さんでも手の余る力を持つ相手。だから一進は命を狙われた。
…魔界の為にとか言って自分で創ったくせに…今度は危険だからと言って処分しようとしてる。一体どれだけこの人は身勝手なんだ。
「一進は私が責任をもって幻想郷で暮らさせるわ。…だから、だからこれ以上一進に干渉―『いっくんを殺す?』…ッ!?」
その瞬間…私は明確に死を体験する。オーラ、雰囲気、圧、どれだとしても間違いは無い。それだけで私は全身を針で突き刺されたような痛みを与えられる。
「そ…そうでしょう!現に夢子は一進に一太刀入れたって言ってるわ!」
無理に声を張り上げる事で私は恐怖を誤魔化そうと必死になる。声も、身体も震えている所為で幾分か情けないものになってしまったが…これが私の出来る精一杯の行為だった。
だけど、
『……ねぇ夢子ちゃん…。本当?』
「…………はい」
『…そっか。私はそんな事お願いしたつもりは無いんだけどなぁ』
「……申し訳ございません」
私のその行動が見事二人に
…それは図らずも本音を聞き出せた事にもなる…。母さんは『私はそんな事お願いしたつもりは無い』って言ったし…。じゃあ一進を殺そうとしてるのも夢子の独断?
…ん?あれ?いや、確か夢子は『魔界でしか一進を殺す許しを頂いて無い』と言っていた筈…。…だけど、さっきの母さんの態度は明らかに一進を殺したがって無さそうだった。…でも夢子が母さんの事で嘘を吐くとは思えないしさっきの本では一進を大切にしていた…。これだと理屈が合わない。
「ねぇ母さん―『アリスちゃんは自分の部屋に行っててくれるかしら?』…え?」
『夢子ちゃんと少し話す事が出来ちゃったから』
「え、いやでも―『お願い』…分かったわ」
聞きたい事はまだまだあったのだけど…ここは引くべきね…。下手に食い下がって私自身の立場を悪くするのは得策じゃないでしょう。
…時間を稼ぐ事は叶いそうだし、それにこれでどちらにせよ一進を邪魔に見てるのはどっちなのかはっきりするわけだし。
そう思って私は二人を置いてその部屋を後にした。
***
『…で?夢子ちゃんは何でそんな事したの?』
「……一進は私の事を覚えてました。それと何かと力が蓄えられる幻想郷では再び暴走する可能性がありました故…」
『…やっぱり…私の力でも防がれちゃうのかぁ』
「はい。神綺様が消した筈の記憶が残留思念として残っていたようで、私を見るなり目の色変えてました」
『そっか…。ハァ…私が変な事しなければいっくんがあんな力を持つことは無かったのかしらね…』
「そ、そんな事…神綺様は何一つ間違っていません!……私が…私が神綺様に無理を言った所為です…それに私が強ければ神綺様は――」
『それ以上は言ったらダメよ。弟を心配しないお姉ちゃんはいないんだもの…夢子ちゃんは正しいわ。だからこれは親である私の責任』
「……ですが!」
『いいのよ。私はもう慣れちゃったから』
「……ッ!……申し訳ございません」
『…いいのよ。親だもの。だから、夢子ちゃんは自由になってね』
「申し訳ございません。聞き入れられません」
『………頑固なんだから』
***
「くしゅ!」
「あら咲夜。大丈夫?」
「はい問題ありませんパチュリー様。ですが、こうして本を貸して頂いていていいのですか?」
「ええいいのよ。レミィとフランはケンカ疲れして寝てるし…時間のある時に休んでおかなきゃね」
「?は、はぁ?……それではこれの続きを貸して頂けませんか?少し気になったもので」
「…ん。『従者の嗜みⅠ』…えらい局所的ね…需要あるのかしら。いや、まぁ貴女ぐらいしかそんな本読まなさそうだから…悪いわね…。以降はまだ翻訳してない筈だから続きは読めないわよ」
「翻訳?」
「ええ」
「それって原本は魔界の物だからこあが管理しているのよ。しかも本人はまた魔界に行ってるからね、暫くは待ってて貰うわ」
読めても読めなくてもまぁ大丈夫大丈夫。プロットなんかねぇよ…果たして収集はつくのか…。
それではまた次回。