それではどうぞ。
○side一進
「だぁもう!!!」
…薄暗い色の着流しをはためかせ、若干キレながらも階段を駆け登る事早五分。そして、一向に目的地が見えない事にいい加減
周りに見えるのは桜と、やや白く透明な魂(霊魂?)みたいのがフワフワと浮いているだけ。
そんでもってこの霊魂達は俺が物珍しいらしい。こいつらは俺がここに降り立った途端にぞろぞろと現れて揉みくちゃにしに来たんだよ。…しかもこの霊魂が冷たいの何のでダッシュで逃げる羽目になるっていうね。
「ゆ~か~り~!俺だけ自力で来いってどういう事だよ!!」
霊魂に追われ、走りながらの再三にわたる俺の怒号…。しかし、寒空の下で叫んだ俺の声は
「……ハァ…もう駄目だよ…疲れたよパトラッシュ」
言うなれば母ならぬ…
いや〜しかし、世界名作劇場もこんな使われ方されると思って無かったろうな。だけど今の俺の気持ちはネロとマルコにきっと同調していると思うよ。(ラスカル?知らない子ですね)
…………。
……。
……さて、紫?俺はかれこれ五分以上走ってるけど…本当に大丈夫なんだよな?前も両サイドも一切合切景色変わんねぇぞ?この調子で
「タッタ-=≡ヘ(* - -)ノ」←徐々に諦めたくなる。
「ピューッ!≡≡≡ヘ(*゚∇゚)ノ」←空元気。
「……ミ(ノ;_ _)ノ =3」←しかし無理なもんは無理。
……あぁ、もうダメだわ。途中で良く無いハッスルした所為で無駄に疲れた…。ははは…人間って極端に疲れるとこんなんなるんだな…。
…あぁ……。目を閉じてたら可愛いお迎えが来そう――ピト。
ゾッ!!
「冷てぇ!お前じゃねぇんだよッ!!」
お迎え?来たよ。可愛くも何とも無い冷凍白玉が数個程だけど。
諦めの境地で足を止めた俺に追いつく霊魂…。で、触れられた背中に氷のような冷たい感覚が走る…。そしてそれに伴って俺も無理やり足を動かす事になる為、終わらないイタチごっこが開始される。
『冷え性で冷た〜い♪』…とかの舐め腐った次元じゃ無く冗談抜きで
「クソが!何で俺がこんな体育会系も真っ青なトレーニング紛いな事をせにゃならんのだ!!いつも通りスキマでシュンすれば簡単に着く筈だろォ!」
なんていくら叫んでも魂は止まらない。そして俺の声は空へと吸い込まれるだけで意味を成さない。
…チッ!そんな俺の悪態を分かって貰うには俺がここ…
「…倒壊…か。そんじゃあアリスは結局行方知れずって事になんのか?」
「さぁ?誘拐なのか避難なのか、それにつきましては分かりませんよ。私が知る事実はただアリスさん宅が倒壊していた事だけですから」
「…それもそうか」
永遠亭で調子に乗った紫に制裁を加えた後、射命丸の情報によって俺達は本格的に行く先を見失ってしまっていた。
元々の予定では魔法の森と言う所に行って、アリスに会い事情説明…。その後こちらの仲間を増やす手筈だったのだが…。幽香や先生の推測を聞くとどうもアリスが魔界に連れて行かれた説が濃厚らしい。
「ちょっと!ストレス発散で私に当たらないでよ!!」
「ハイハイごめんちゃい―「軽ッ!?」…んで?ホントにどうすんのさ」
俺は先生と幽香に話を振る。
赤くなったほっぺたを押さえて憤慨している紫は一度無視して…。悪いけど今重要なのはアリスが居ないと仮定するならば次はどこに行くべきなのかって事なんだよ。
普通は問題の中心である俺が率先して動くべきなんだろうけど…いかんせん幻想郷の地理に疎い俺には良スポットなんて分からないから動きづらい。
ま、だからこそだ。だからこそ折角こうやって仲間が増えたのだから是非とも皆に案を出して貰いたい。
「…最近ね…一進が私に厳しいのよ…」
「は、はぁ…?私に言われましても…」
ただまぁ手伝えないぐらいイジけてしまった彼女は問題外と考えておこう。大丈夫大丈夫、紫が出来る子に覚醒する時まで俺は気長に待ってるから。
「初めの頃は料理だって作ってくれたし…そうで無くても私と話す事でも喜んでくれていたのに…」
「それはまぁ可哀想ですね」
…悪い射命丸、もう紫はお前に任すからそっちで愚痴の相手でもしててくれ。こっちはこっちでサッサと話を進ませておくからさ。
「…ふーん。薬師、貴女はどう見る?」
「そうね、難しい所だけど…居なくなった確証が無いのだからやっぱり優先は人形使いじゃないかしら?」
「ま、妥当ね。もしも本当にアリスが攫われていたとしても、彼女なら何らかの手掛かりぐらいは残してるでしょうし」
「オッケ、だったら取り敢えずアリスの捜索をするべきなんだな」
はい決定。ビックリするぐらいスムーズに決まったけど流石は先生と幽香、ちゃんと抜け目無く考察されていて俺が会話に入る隙すら無ぇわ。
……無い筈なんだが――。
「じーーーー」
「紫さん紫さん!只今向こうは忙しいのですから私と話しをしていましょうよ!」
…会話に入る隙が無いっつってんのに
後ありがとう射命丸。完全に俺達に気を遣ってくれてる感じがひしひしと伝わってくるよ。
「じーーーー!!!」
にも関わらず必死な紫の抗議。うるせぇな蝉かお前は。
「……ハァ…それならアリスの方は私が気にかけるからあんた達は先にそっちをどうにかしなさい」
「は?あんた……達?」
紫の訴えを受けて痺れを切らしたらしい幽香が、溜息を吐きながら俺達に向かって追い払う様なジェスチャーをしてくる。
え〜と、幽香?あんた達でそっちをどうにかしろって事は…アリスはいいのか?
「貴女が動くなら最善手はそれかしらね。私はどのみち
おっと〜?あ〜うん、アリスの失踪は幽香が調べておいてくれるらしくて…先生は永遠亭待機だから…そこから余る奴を換算して総合的に俺達の出来る事は…これはもしかするともしかして…。
「気が効くじゃない幽香!!そして任せなさい永琳!!」
うん。察した。一瞬にしてここまで元気になった紫を見て一撃で察してしまった。
「幽々子は私の親友なのよ!バッチリ私達の味方にしてくるわ!」
いやはや、まさか紫の思惑通りに進む事になるとはな。
……で、そんな事があったから俺と紫と取材目的の射命丸が同行して、紫の親友である西行寺幽々子に会う為に白玉楼と言う所に来ている訳さ。…いや、な?そこまでなら俺も納得してるよ?別に絶対にアリスじゃなきゃダメなんて我儘も言うつもりはねぇよ?
だけどさぁ…。
「自分と射命丸は目的地までスキマ使ってんのに何ッで俺だけが途中で下ろされなきゃなんねぇんだよ!!」
って言うかアレは投げ捨てられたと言っても過言では無いぞ!『頑張ってね♪』の後にポイッてされたからな!
なんて悪態をついつい吐きたくなってしまう。だがしかし、現実を見ろと言わんばかりにお
「…紫は五分もすれば着くって言ってたけどよ…クソが…どれだけあんだよ…」
あいつ騙しやがったな。五分なんて五分前に過ぎたよ。
しかも上れど上れど終わりが見えない階段ってのはマジでツラい…心身的な疲労にも直結してくる。なんせ階段の先の方は霧がかってる所為で視認する事すら難しいからな。
一体いつまで続くんだ?足を休ませずに上っていると言うのに…一向に終わりが見えてきやしな――。
「誰ですか貴方は!」
段々と腹が立ってきたそんな中、俺以外の誰かの声が響く。
俺は声のした方に顔を向けると…まだまだ上の方だが、確かに階段途中の踊り場みたいなっている所に白髪頭の緑服の子が立っていた。
「…朝から半霊が何処かに行ってしまい探しているというのに侵入者とは…」
いえ違います。なんか苦労してそうな所申し訳ないけど違います。私、侵入者、チガウ。
…いや、最終目的は白玉楼(幽々子?)に用があるんだけど…俺の当面の目的は紫への制裁「仕方ありません。この魂魄妖夢がいる限りここから先へは――」
「長ぇしウルセェ!!」
「みょん!?」
八つ当たりめいた事になってしまったが俺は悪くないだろう。紫だ。紫の所為だ。あいつが俺を目的地まで一緒に運んでくれりゃこんな事にはならなかったし、俺の虫の居所が悪くなる事は無かったろう。
…ま、それを抜きしても、なんかその子が虐め易そうだからつい反射的に言ってしまった訳では無いぞ。断じて違うぞ。
「ヒィ!と、止まりなさい!見知らぬ者をここより先に進ませる訳にはいきません!」
若干怯えた様に言ってくるのは仕様です。主に俺が走ってこの子に迫っているんだけどこれは関係無いな。うん、関係無い関係無い。後ろから魂が迫って来てるからこれは不可抗力ってやつだ。
――チャキ。
「紫がこの先にいる。通してくれ」
「…え?紫様…のお知り合いですか?……因みに貴方は…?」
「藤代一進。そっちは?」
チャキって何よチャキって…。なんか一瞬身の危険を感じたし、無理やり突破するのも何だか可哀想だったからその場にジョギングの要領で足を止めずに止まってみる。
そしたらなんとビックリ。声掛けてから気付いたけどこの子刀差してるし既に柄に手置いてますやん!あっぶねぇ…もう少し遅れてたら引き抜かれてたかもしれんわ。
「私は魂魄妖夢と言います。……幽々子様からその様な事聞いておりませんが…どうしましょう…」
つーかつい名前なんて聞いたけどこの子さっき自分の名前言ってたけよね。魂魄妖夢がいる限りって。だから別に名前なんて聞かなくても良いんだけど…まぁいいか。
にしても幽々子
「え〜と…すみませんが一度幽々子様に確認を取ってきますので少しここでお待ちして頂いてもいいですか?」
「ああ、構わない」
「はい分かりました。直ぐに戻って来ますので少々お待ち下さい」
ふむ…良く出来た従者だこと。本当に俺が不審者では無いのかをしっかりと主人に確認まで取るとはなかなかに思慮深い…。
……だが甘い。ハニトー(ハニートースト)に砂糖をまぶしてジャリジャリにするぐらいこいつは甘い。仮にも俺が悪党で可能性を考慮するならば目を離すのはご法度だろう。お前が主人に確認を取りに行ってる間に俺が何かしたらどうする気でいるんだ?
まぁいいんだけどねこんなタラレバの話…。色々ととやかく言った所で実際問題俺はそんな事しないからさ。それに奥には紫が居るんだろ?
だったらホント…別に構わないんだよ――。
――アポイントなんて取らなくても。
「え?」
呆ける妖夢の隣を一陣の風の如く駆け抜ける俺。さっきまで階段を登っていた時よりも数倍足元に霊力を込めて階段を蹴る。
「えッ!?ちょっと待って下さい!!」
「いざッ!押し通る!!!」
「もう通ってます!!」
「最高速でぶち抜いたる!!!」
「だから通ってます!!!」
ごもっともで的確なツッコミをありがとう。
そして残念だったな。俺が待てを出来るような人間だと思うか?シンキングタイムスタート。
「ちょっと待っ――速ッ!?」
A.出来る訳がない。つーかしない。
いや〜先生に打ち込まれた薬のお陰で身体が軽い軽い。霊力や妖力の扱いだって
慌てた様に後方から聞こえる声すらも置き去りにする。走る風の音で聞こえづらくなる程に速度が出る。
ヤッハー!ぶっちぎりだぜ!
***
「……」
「……」
「……」
一進が必死に登っている階段の終着点に存在する白玉楼。そこは冥界の管理者と庭師が住んでいて、美しく
屋敷と言っただけに、畳や障子といった和が好きな者には大変好まれよう。少し離れた所まで行けば数多くの桜が咲いていて、花見には格別な場所と言っても差し支えないのだから。
…ただ、数多く存在するのはもう一つあり『幽霊が沸いている』という点において目を瞑れる者に限る。最悪精神が弱い者だと身体に入り込まれて、身体の乗っ取りまで起きる事があり少々危険でもある。
しかし、幽霊に関してはそこまで大きな問題は無い。実際冥界の管理者である西行寺幽々子には、生前より幽霊を統率出来る能力があり、その能力を活かせるようにとここの管理を任されていた。
…生前…というのが気になる方がいると思うが、取り敢えずそんな白玉楼には現在一人の亡霊と二人の妖怪が集まっていた。
「ついさっきぶりね新聞さん…。で?紫は何をしに来たのかしら?」
「いい加減許して頂戴よ幽々子〜」
白玉楼の一室。ヨヨヨと紫に泣きつかれているのがここ、冥界全土の権限を持つ西行寺幽々子であった。
「フーンだ。どうせ忘れていたのでしょう」
「さっすが私の親友♪」
「…もう口聞いてあげないわ」
「え、嘘ッ!?」
泣いたり、喜んだり、慌てたり。数瞬のうちに多くの感情を表にだしてはオロオロする紫はとてもじゃないが幻想郷を仕切る者には到底見えない。
尊大で、壮大な妖怪が親友の前で見せる素顔。偶には真面目に仕事をする真剣な紫ではなく、純粋に…楽しそうに友人と話し合う紫。
「ハァ…」
だからそれを見ている文は落胆と感嘆の溜息を漏らす。
「(嘘ッ!?じゃないでしょう…。怒っている相手に油を注いでどうするんですか…)」
そんな落胆と――。
「(珍しいですね。紫さんが下手に伺うなんて)」
機嫌を直さない幽々子にそれをどうにかしようとする紫。二人の掛け合いがいつまで続くのかと若干飽きが入った状態で文は机に肘をつけて傍観していた。
「(ちょっと文!溜息なんて吐いてないで助けなさいよ!)」
「かな〜り前に私のとこに来て『外来人は来てるかしら!?』なんて、切羽詰まった事聞きに来たのに忘れるなんておかしいわよね〜」
二人の目が
困るのは言われた側だ。どちらかに加担した所でどちらかからは非難される。ここまで理不尽な事もそうそう無いだろう。
「(私に飛び火ですか…。だから素直に一進さんを連れて来ていればこんな事には――おや?)」
そして気づく。姿勢を正して何を言うべきか言い淀んでいた所、文には幽々子が言った言葉の中に非常に気になる事があった。
「聞きに来た…とは?」
「あ!?それは…」
「…紫さん?紫さんは幽々子さんに一進さんを連れてくるようお願いされていていたんですよね?」
「…厳密に言うと殿方何だけど…まぁ些細な差でしょう。…そうよ」
微かな反論を見つけたが言い訳にしか過ぎない。紫は潔く自ら反論を引っ込める。
「冥界に一進さんを探しに来たって状況も気になりますが置いておきます。ですが、そのような事を言えば連れて来たのが幽々子さんに露呈しているじゃないですか」
「……」
「…これは言い逃れ出来ませんよ…」
紫に向けられる非難の色が強くなる。まさか一度忘れただけならず、二度も来ているのに忘れていようとは弁明もしづらい…。
しかしこの窮地、当の紫は何一つ焦ってはいなかった。親友との約束を忘れる。…マズい…確かにマズいのだが紫にはこの空気を脱する秘策があった。
「あのねぇ…何の為に一進は階段で来させてると思ってるのよ?少しは考えてみなさい」
「理由があったんですか」
寧ろそれに驚きましたよ…。と続けるのは流石に文も出来ず、ただ一言だけ発して口を閉ざす。
「ええ当然♪そうしたら必然的に妖夢にぶつかるでしょう。……そしたら」
「そしたら?」
……。
……。
「何か面白い事が起きるんじゃないかな?って」
「ダメだこの賢者早くなんとかしませんと」
微笑みと共に决め顔でそんな事を言い出す紫…。遂には隠す事無く疲弊顔で返す文。一触即発…なんて事にはならないが紫の行動に幽々子の機嫌が低迷しているのもまた事実。
この空気を打開するなら一進の助力が必須…。自分一人ではどうする事も出来ない文は静かに一進の到着を待った。
その瞬間――。
「出て来いやぁ紫ぃぃ!!!」バキャン!!!
「「「……え?」」」
ガラガラガラ……。
払拭されるような大声と共に、遠くで何かが破壊された轟音が三人の耳に届く。
「「「……」」」
三人が互いを見合わせる状態…。遠くで叫ぶ一進の喧騒が徐々に近づいてくる事に対し、静まり返る部屋で我慢出来なくなった文が最初の口火を切った。
「…な、な!?え!?何ですか!?今何か壊しましたよねあの人!?」
「怒ってない!?なんか一進怒ってない!?」
「それはそうでしょう!!」
「あらあら〜♪やっと来たのね~いらっしゃい~♪」
「「何で幽々子(さん)はそんなに落ち着いているのよ(んですか)!?」
「――そこかぁぁああ!!!」
「ヒィィ!!」
前回作ったフラグで無理やり冥界にやってこれました。行けた事に内心ホッとしています。
それではまた次回。