受け入れ先は幻想郷   作:無意識倶楽部

8 / 48
…登場人物増やしたら文字数増えすぎやんね。真面目な話書いてたら肩が凝る病気なので程々にギャグを増やしまする。


それではどうぞ。



第7話 家と主人と俺の職業

 

 

 幻想郷の嫌われ者達が住まう場所――地底。この場所は幻想郷の地下に存在する。

 

 旧地獄として使われていたことで過酷な環境下に存在して、かの有名な鬼や、過去に高尚な人々の手によって封印されてきた比較的危険度の高い妖怪たちが集っている。

 

 その為、治安が非常に悪く常に喧騒に包まれている世界がそこには広がっていた。

 

 そんな地底に居を構えている地霊殿の中、一進はお燐の先導によりさとりの下まで案内されながらもこれから会うであろうさとりについて二人から話しを聞いている所から話は始まる。

 

 

「――それで、さとりさんとやらは能力の所為で周りから畏れられているのか」

「そうなの…心を読む能力を持ってるってことだけで…。わたしは上手く言葉に出来ない事も理解して貰えるから嬉しいんだけどみんなは違うみたい…」

「確かにさとり様の前では隠し事なんてできないよ。けど、それが何だい!さとり様はむやみに力を使わないし、悪用もしないっ!!それに…心を読んで一番傷ついてるのはさとり様自身だよ!!!」

 

 周りはさとり様のことを知らないだけなんだ!と、お燐は感情を表に出して叫ぶ。

 

「(…心を読む能力を持っている妖怪、さとり…ね。名前の通り覚がいるなんて凄まじいな幻想郷。にしても心を読むってねぇ…)」

 

 

 心を読む能力。

 

 それは誰もが羨むような力だろう。相手の言ったことの真偽を確かめることが出来て、思考を読み先手を打つことも、対策を立てることも出来る。

 

 さらには、相手が動物などの話すことが出来ない者の場合でもその声を聞くことさえ可能である。

 

 ――しかし、能力はそんな都合よく出来てはいない。

 

 心を読み相手の言っていたことが嘘だと分かる…。それは相手の本心がわかることと同義なのだ。

 

 そして読めてしまう、皆言葉に出すことは少ないはずの恨み・苦しみ・悲愴・憎悪・嫉妬・欲望…そんな負の感情が一挙に自分の頭に押し寄せる。それがどれだけつらいことなのかは想像に難くない。

 

「まあ、だからお兄さんにはさとり様を好いてほしい…とまでは言わないけど、理解しようとせずに拒絶するのだけは止めておくれよ。もし、そうなったらきっと――あたいもお空もお兄さんを許さないから」

 

 そう言った二人からは一瞬で親しみやすさは消え去り、代わりに妖怪特有の恐ろしさをその身に纏っていた。

 

「(いや怖いって!!確かに心読まれんのは嫌だけど…、それより能力の所為で向こうが俺を拒絶する可能性が大なんだけど!!その場合ももしかして…………ええい、何とかなるだろう!)」

 

 絶対にさとりを拒絶してはいけない…。

 

 それはそうだ、いくら相手が心を読むなんて力を持っていたとしても助けてもらった相手の主人に当たる人物を拒絶して良い訳が無い。

 

 …だがしかし自分自身の能力上そんな可能性が大いにあり得てしまう事に早々と気付き、果てしなく嫌な予感を感じ取った一進は必死になって笑顔を繕う。

 

「…お燐たちはさとりさんが大好きなんだな」

「うん♪そうだよ♪」

「そりゃそうさ。さとり様はあたいとお空がちっさい妖獣の頃からお世話してくれた心優しい大切なヒトだからね」

 

 一進の言葉が功を奏したのか、二人はさっきまでの刺々しさも消して再び笑うように話してきてくれて当人も少し安心していた。

 

 

 

 

 

***

 

 

side一進

 

 

 

 

「さっ、着いたよ」

 

 お燐に案内された部屋の扉は他のものより一回り大きく、細かい装飾が施してある為、荘厳な雰囲気で嫌でも自分の緊張感が高まっているのを感じる。

 

「さとり様ー拾った人間が目を覚ましましたので連れてきましたー」

 

『ええ、入ってきなさい』

 

「…へぇ、名前からまさかと思ったけど女性が主なんだな」

 

 予想はしていたが驚くものは驚く、なにせ扉の向こうから返ってきた声は落ち着いた女性のものだったから。

 

「ホラ、お兄さん早く入って」

 

 へいへいっと。俺はここまで歩いてくる道のりで色々思考を済ませていたお陰で、お燐に促されるがままに扉を開けて挨拶を始める。

 

「失礼します、私はお燐さんに助けられて地霊殿に運ばれてきた人間で、藤代一進と…………」

 

 下げていた頭を上げて件のさとりさんとやらを確認…すると、驚くことに部屋の中にはピンク色の髪をした子供、その隣に黒い帽子をかぶって立っている子の見た目十歳(以下?)ぐらいである幼い二人の少女がいた。

 

「(はっ?子供!?んじゃさっきの声はこの子達のどっちかが…………いやいや、どう考えてもからかってるだけだろ)」

 

「………………えーと、さとりさんの…子供さんですか?すいませんけど、さとりさんはどちらにいらっしゃいますか?」

「「「……はぁ!?!?」」」

「うにゅ?」

 

 ……あれ?違った?

 

「ちょっと!!!お兄さん何変なこと言ってんのさ!!あそこにいるのが「さとり様は子供だったんだねー」お空は静かにしててっ!!!」

 

 はっはっは。チョット待ってくれよお燐さん、そんなに慌てたらあの子供がさとりさんということに――。

 

「誠に申し訳ございませんっ!!!」

 

 ヤッベやっちまった!ここの主人に早速やらかした!!いや、だってあの見た目で主人は冗談だろ!つーか、お燐とお空はまず見た目とか人となりを教えろよ!

 

 もう既に背中辺りに冷や汗が流れ落ちているけどもう誠心誠意謝るしかねぇ!

 

「え、えぇ…気にしてませんよ。私も……一応自覚していますから、頭をあげてください」

 

 そうピンク色の髪した方であるさとりさん(ちゃん?)が言ってくれたので一安心する。

 

 あっぶねぇ!!首の皮一枚繋がった………ってかマジで優しいな…俺もう詰んだと思って土下座して乞う覚悟だったぞ…。

 

 

 ………。

 

 

 …という内心があるにはあるんだけど……っていうかあのさ?

 

「ムフフwwおね…お姉ちゃんが子供ってww」

 

 明らかに俺が悪かったんだけど……隣にいる黒帽子の君、さとりさん慰めてあげようよ…何もそんなに腹抱えてまで笑ってなくても。

 

「く、くふふふww」

 

 ……まぁ、今はさとりさんを優先にしないとな。

 

「いきなりの失礼な発言本当にすみません。――それで、お燐さんに助けて頂いたお礼をしたいんですが」

 

「ッ!?!?」

 

 なんて言葉をかけた所でさとりさんはいきなり異様な反応をする。

 

 どうしたのかと不安になった俺は、隣にいるお燐に目を移すと気を利かせたお燐が心配そうにさとりさんに問いかけてくれる。

 

「どうしたんですかさとり様?」

「…その人の心が……どうして…心が…読めないなんて」

「「ええっ!?」」

「はい?」

「うにゅ?」

 

 え、何で?お燐が言うにはさとりさんは心を読む能力を携えてるんじゃなかったのか?

 

「うっそお姉ちゃんが心を読めないなんて」

「そんなっ!?読めないんですか!」

 

 この場に居る人達も相当な驚きだったようで、其々が反応しながらもさとりさんに近寄っていく。

 

 えーと?良く分からないけどどうやらさとりさんは何故か俺の心を読む事が出来ないらしい。………もしかしてもしかすると俺の能力が作用されてます??

 

「……お燐。ちょっときなさい。――あなたは昨日何をしていたかしら?」

 

 そう言ってさとりさんはお燐を呼ぶ。恐らく能力が正常に働くか確かめるように、胸の辺りにあるよく分からない管に繋がる瞳でお燐を見つめる。

 

………………………。

 

………。

 

 すると突然。

 

「!? お燐!貴女またこいしと「すみませんさとり様っ!!紅茶の用意を忘れてましたのですぐお持ちします!ほらお空いくよ」「うん~」ちょっとお燐!!」

 

 まあ、しっかりと心が読めたのだろう。

 

 お燐は突かれたくないことだったらしく話を遮って慌てたようにお空を連れて退出してしまった。

 

「あっちゃ~…。もう少し頑張ってよお燐~。運んできた死体をいくつか頂戴してコレクションにしてるのお姉ちゃんにバレちゃったじゃん」

 

 ふむふむなるほど。お燐が逃げる様に出て行ったのは黒帽子の彼女と一緒に死体のコレクションをしてたのか。へぇ~それで逃げたってわけねぇ。

 

「……………えッ!?こわッ!?」

 

 …なになになに?そんな虫も殺せんような可愛い顔してだいぶ物騒なことやってんのこの子達!!!待ってそんな猟奇的な趣味をそう簡単に飲み込める程俺はサイコパスじゃないんだけど!

 

「あっ、すみません。一進さん…で合ってますよね?どうぞお掛け下さい。お燐たちから聞いてるかもしれないですが、今のは私がお燐に対して能力を使って心を覗いただけです。結果としてお恥ずかしいところをお見せしましたけど…」

「え!? あ、いえそれは構いませんけど。それより私の心が読めないとは?」

 

 なんかさっき不意に出た恐怖の感想がさとりさんに言ったみたいになったけど…別に構わないか、能力云々についてはどの道気になってたし。

 

 ここは応接室も兼ねているのだろうか、俺はさとりさんに誘導されて向かい合うように長椅子に腰を掛け問いかける。――そしてそこの黒帽子ちゃん、何故俺の隣に座る?向かいに座れよ。

 

「……?」

 

 視線で訴えたが残念ながら伝わらないらしい…。

 

 いや、何で首傾げてんですかねぇこの子。俺は至極真っ当な判断だと思うんだけど…もういいやほっとこう…。これ以上変に情報貰ってもさとりさんの方に差し支える。

 

「………えぇ言葉の通りですよ。私はこの第三の目で見た生き物の心を読む力を持っています。…けれどあなたを見ても私は何も読むことができませんでした。――あなたはいったい何者ですか?」

 

 私は気絶している人間を拾ったとしかお燐から聞いてませんので…なんて警戒されてもさぁ!

 

 どーすんのこれ?いやホントに…。能力云々を話すつもりではいるがいきなり怪しまれた所で俺にもわからないんだけど。

 

 しかし慌てたところで事態は好転しない…どうにかして自分が害の無い人間である事を伝えねばならないだろう。

 

「私はただ外の世界…でいいんですかね?で無気力に暮らしていたら居場所を失い、暇していたところを八雲紫さんによってこの幻想郷へ連れてこられた普通の人間です」

「……紫さんがですか?……まったくあのヒトは…。いえ、それをあなたに言ったところで仕方ありません。…それより居場所を失ったとは?」

 

 まったく!? え!紫さんって幻想郷の重要人物とかお偉いさんとかのはずなのに実際の幻想郷にいるヒトたちに慕われてないの!?

 

 いやそんな事より!余計に怪しまれたんだけどどう説明すりゃいいんだこれ!!

 

「…えーと、まあ一概にかは分かりませんが…それは私の【拒絶される程度の能力】によってだと思います」

「……は?」

 

 だ、大丈夫だよね?出会って少ししか会話してないけど、さとりさんはお空と違ってちゃんと話を聞いてくれるような感じがする。

 

 会話が成立するのであれば重々気を付けてやりとりすれば突発的には危険になることはないだろう。

 

「それのおかげで私は子供のときから周りの奴らに避けられるわ疎まれるわで大変でしたよ。精神が落ち着いて大人になってからも面倒ごとは尽きませんでしたし」

 

 …自分で言ってて正直泣けてくる…。だって生まれ持った力が明らかにマイナスに振り切ってないか?これだったら能力なんて持ってない方がまだマシだろう。

 

「――まあ、これで能力関係無しに嫌われているんだとしたら笑いものですよね。だとしたら私は唯の勘違いヤローっていうレッテルを貼りざるを得ませんから――」

「何でっ!?何でそんな目にあって!!あなたは今笑っていられるんですかっ!!」

 

 びっくりした…突如として部屋の中にさとりさんの大きな声が響く…。

 

 ……え、あれ?少々話が暗くなっていたから俺は自虐風にして皆の笑いを誘ったんだけど…もしかして普通にミスった?正面のさとりさんは何だか感情的になってるし…横の黒帽子ちゃんからの視線も痛い。

 

「あ〜、え〜何ででしょうね…確かにはツラかったはずなんですけど――」

 

 打開しなきゃ打開しなきゃ…シンと静まり返った部屋で何とか考えようとするも……え〜と……ダメだこんな事は想定してなかったから何も思いつかん。

 

 まぁ事あるごとに蔑まれもしたし、ましてや友人なんて呼べる者はまともに居なかったからツラかったっちゃツラかったけど…でも何でさとりさんはこんな事を必死に思ってくれるのだろうか?

 

「えーっと…。ああ…これが私の人生なんだからしょうがないと、いつしか諦めていたからですかね…」

「「――ッ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな一進の話を聞いたさとりたちは顔を俯かせて黙ってしまった。何故か?それは何よりも二人が覚妖怪だったからに違いない。

 

 心が読めてしまう。そんな力を持ってしまったが故に他者からは嫌われ、受け入れてもらえずに迫害にもよる苦しい日々を過ごした過去を思い出す。

 

 だからこそ姉妹は他者から疎まれる事をわかっているつもりであった。否、分かってあげたかった。そして彼を救いたかった。

 

 自分たちには同じ思いを持つ姉妹がいたからこそ支え合うことだって、助け合うことだって出来た。

 

 そして、つらい時期を乗り越えて今の暮らしに辿り着いたのに対し、彼はそんな頼れる者さえいない状況の中でどれだけ苦しみながら生きてきたのだろう。

 

 過酷な世界を生きてきた解決策として、それを諦めて受け入れることが自身の安寧を保つことに繋がるが…それだと未だに救われていない。

 

 それはあまりに残酷ではないか。

 

 この世界に生まれ落ちたときに覚という種族として能力を持つ姉妹と違い彼は人間。普通に生まれ、普通に生きて、普通に死んで行く人間。

 

 それなのに、何故彼はそんなにも簡単に自分の境遇に納得することが出来るのかと。

 

 

 

 

 

 

「……ええっとすみません。それで、紫さんの居場所を教えて頂けませんか?生憎私は殆ど着の身着のままで手持ちが少なく、幻想郷での生活が落ち着いたら再びお礼をしにこちらに伺いますので」

「ッ!? あなたは外界に帰らず幻想郷で暮らしていくつもりですか!?」

「? ええ、はい。せっかく紫さんに連れてきてもらったのでこの世界で生きてみようかと」

 

 さとりさんの驚きようを見るとやっぱり人外が蔓延っているだけあって、人間は生きていくには難しいのだと察する。

 

 けれど外界に帰るつもりなんてさらさら無いしな…。つーかこっちに来た時点で俺は外界から忘れ去られてるんだろ?じゃあ無理だろう。それに帰れたとしても外界でつまんなく生きるぐらいならこっちで楽しんで生きてみるよ。

 

 まぁその結果で死ぬんだったらそれはそれで諦めるし喜んで受け入れるさ。

 

「……………残念ですね…」

 

 ……はい?え、残念?

 

 長考の末に返されたさとりさんの言葉に思わず意を正してしまう。

 

「神出鬼没ですからね。私はあの人がどこにいるかどころかどこに住んでいるのかも知りません。それに知っていてもあなたから会いに行くことは出来ませんよ」

「何故ですか? もしかして道中の妖怪とかでしょうか?」

 

 お空に襲われたのがいい例だろう。それなら身の危険が伴う世界だってのは重々分かる。う~む……だとしたら厄介だな、確かに妖怪相手にばれずに行動するなんて容易な事じゃないだろうし…。

 

 そもそも妖怪と言う者がどれだけ危険なものなのかすら判断出来てないからな。お空のあれだって俺を侵入者と思った故の事だったし悪意があったわけではない。何だかんだで現状出会っているここの人達は優しい方なのだろうか。

 

 …でもどうしよう、仮にも外の妖怪達が全員お空クラスの攻撃を持ってたら生きていける気がしないんだが。

 

「『地上と地底の不干渉条約』それのお陰で私たち地底の者が地上に出る事、地上の者が地底に来る事は基本的に禁じられていますから。まあ、あなたの場合事情がありそうなので紫さんが来ればおそらく地上に出れると思いますが」

 

 …不干渉条約?……そんでもって地底ってなに??そして地上に行くには紫さん待ち?…ってことは………嘘ぉ!?だったら何であの人は俺をここに落としたし!

 

「ということは、俺は紫さんが来るまで―「出れないですね」」

 

 ですよねー。地底ってのがマジで地の底なら俺は今地面の中にいるようなもんなのか?よく分からんけどそれまでどう生きろと!!

 

 ってかここまで来たらいっそ泣けてくるレベルだぞ…。紫さん…いきなりこの仕打ちはあんまりだと思うんですが…。

 

「……なので先ずは強い権力を持つ者の保護下に入ることをお勧めしますよ?地底世界は荒くれが多いですがその分実力主義の社会ですから早々に悪くなる事はないかと。それに幸い地底の代表者は少なからず他者に友好的な平和主義者ですから」

「お姉ちゃん……」

「すみませんけど代表者はどこにいますか!?」

 

 よっしゃマジでキタコレ!!神はまだ俺を見捨てていなかった!!さとりさんの話で危うすぎた状態から希望が出てくる。あと君さとりさんの妹だったんだね。

 

 まぁ取り敢えず地底の代表に泣いて頼み込めば一先ず助かったかもしんない!そこで何とか時間を稼いで紫さんを待つのも幻想郷に対しての知識を入れるのもいいだろう。

 

「そうですね。それではまず貴方はどんな事が出来るのでしょうか?」

「ね。面白そうな事出来たらいいなぁ〜」

 

 はて? どんな事?…ああ、代表者に会う前に先ずは自分のアピールポイント考えとけって事ね。それもそうだな…その方が心象も良くなりそうだし。

 

 だとしたら……って待てよ?これって人間基準で考えていいのか?確かに変な能力はあるけど面白いとは程遠い所か持ってるだけ損だし。人外基準のノルマとか持たされるなら人間だから無理だぞ。

 

 ……ええい迷っててもしゃーないか。

 

「基本的な家事は出来ます。というか雑用でも何でもやります!」

「うんオッケー。それならお姉ちゃんもちょっと楽になりそうだから良かったね♪」

「そうですか。それは良かったです。最近仕事が忙しいので人手が足りなくて困っていましたから。貴方も思ったより早く恩を返す事が出来て良かったですね」

 

 は?え、んん??どういう事だ?急に話がわかんなくなったぞ。恩返し?

 

「お燐から聞き及んでるとは思いますが改めてちゃんとした自己紹介を――わたしは古明地さとり。この地霊殿の主、そして地底の代表をやっている者です」

「いぇーいパチパチ〜♪」

「は!?地底の代表!?」

 

 この子が!?お燐とお空の主人のみならずここ一帯の地域仕切ってんのがさとりさんなのかよ!?

 

「……おや?一進。これから主人になる相手に対してそんな口の利き方でいいんですか?」

「え、えーと…申し訳ありませんさとり様!――これから迷惑をおかけすることがあると思いますが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!!」

 

 詐欺だよ詐欺!!気付ける訳ねぇよこんなもん!!完全に見た目詐欺じゃねーか!

 

 あときっとこの人Sだ。優しいけどきっとSだよ。じゃなかったらこんなニヤニヤした笑み浮かべるわけねーよ。

 

「ふふっ、それでよろしい。さて、二人も戻ってきたようだからしっかり後輩として挨拶しなさいね」

「さとり様ー紅茶をお持ちしましたー。お空が水沸騰させるのに焦れったくなって火力の調整を跳ね上げたので風味も何も無いかもしれませんので悪しからず」

「あ~言わないでって言ったじゃん!!……すみませんさとり様ぁ……」

 

 なんてさとりさんが言った束の間…お茶汲みに向かっていたお燐とお空が扉を開けて入ってくる。

 

「お燐もお空も戻ってくるの遅いよ~わたし喉渇いてたのに~」

「二人とも、別にそれぐらいで怒ったりしないから安心しなさい。それよりも一進から大切な知らせがあるわ」

「「知らせ???」」

 

 取り敢えず持っていたティーポットとカップをテーブルに置き、部屋に戻ってきた二人は早々にさとりさんの言葉を聞いて俺に注目し始めた。

 

 …渡りに船か…雑用でも何でもやると言った手前だから既に後には引けないわな。

 

「はい。このたび地霊殿で働かせてもらうことになりました藤代一進です。お燐さん、お空さんこれからよろしくお願いします」

 

 でも、良く良く考えれば皆ちゃんと話が通じるし俺自身下っ端でいることに忌避感なんて無いからかなり恵まれた職場環境かもしれんな。

 

「へぇ!嬉しいねぇ。お兄さんここで働くことにしたのかい!あたいは火焔猫 燐。お燐でいいよ」

 

「わたしはお空だから…れい…えーと…「…霊烏路 空」そうそう。だからお空って呼んで♪これからよろしく~♪」

 

 はぁぁ~鳥頭なんだから、と呆れているお燐と笑っているお空を見てほほえましい気持ちになる。

 

「(……良かったぁ。上手い具合に俺の能力が発揮されてないっぽいし、二人とも俺を受け入れてくれる優しい妖怪で…これなら幻想郷で暮らすことを視野に入れても大丈夫だな)」

 

 喜んでくれている二人を見て一先ず自分の身の安全が確保された事に一息つく。俺の能力で嫌悪感マックスになってたら目も当てられなかったわ。

 

「さあ、お燐たちも今日は仕事を終えていいわ。これから新入りの一進と交流を深めましょう」

 

 そう言ってさとりさんは机の上に4人分のティーカップを用意していた。

 

 いや、なんで一つ少ないん? お燐とお空が人数分持ってきてないのもアレだけどいじめかい?それに何の反応もせずに普通に進めているのは主公認のいじめではないのかいさとりさん?

 

 え?既に心折れそうなんだけどこの職場環境大丈夫??さっきの言葉撤回してやろうかな。弄りなのか虐めなのかの対応に俺は思わず苦笑せざるを得ない。

 

「(あの~さとり様?私の分は頂けないのでしょうか?)」

 

 流石に公然に虐めなんて発覚させたくない為、取り敢えずさとりさんにそれとなく小声で伝える。

 

「(? 何を言ってるの一進?用意してるじゃない)」

 

 …って言われてもね……。

 

さとりさん1黒帽子ちゃん2お燐3お空4…で、5。…足りねぇって。

 

「いや、これでしたら一つ少ないんですけど……」

「…………まさか…」

 

 いや、まさかじゃないってさとりさん。何でそんな深刻そうな顔してんですかい?もう一個出してくれりゃいい話でしょう。

 

 さとりさんは思案した後にお燐を呼び何かを話している。その横では危なっかしい手つきで紅茶を注ぐお空…いやバッチャバチャに跳ねとるやないかい。

 

 話し合う2人を他所に取り敢えず先にお空の手伝いをして体格的に取りづらそうだった黒帽子ちゃんにカップを渡す。

 

「…ウソッ!?!?!?」

「何が?????」

 

 何て事やってたら…わお。黒帽子ちゃんが目を見開いてめっちゃ詰め寄ってきたんだけど……どしたの?

 

「あなた――わたしが見えているの!?」

「いや、見えているっていうか…俺がここに入ったときからずっとそこに居たでしょうよ」

「――お姉ちゃん!!!」

 

「!? やっぱり居たのねこいし!」

「「こいし様っっ!?」」

 

 ちょっと~度々人の事を置き去りにするのは良くないと思うぞ?取り敢えず黒帽子ちゃん……こいしちゃん…こいし様?の姿は俺以外に見えていなかったって事だろうか。……何で???

 

 まぁ思い返せば確かにちょいちょい彼女が発言していたけど、皆から特に触れられる事なく無視されていたような気がする。

 

「お姉ちゃん!一進をわたしのペットにしていい!?」

 

 …………。

 

 …………。

 

 ――ペット?この子今ペットって言ったか?ペットってもしかしてあのペット?(錯乱)

 

 いやいや流石に冗談も程々にしてもらいたい。なんぼなんでも人として譲れない部分ってものはあってしかるべきだろう。

 

「…ハァ、まあこいしを見つける事が出来るならそれもいいかしらね」

「肯定ですか!?」

 

 マジ!?まさかの妹の成人男性ペット発言を肯定ですか!?さとりさんお願いだから取り消して!!ていうか取り消させないと俺がペットとして飼われる事になる!!

 

「あの〜さとり様流石にペット扱いは「やったぁぁ~!じゃあ一進はこれからわたしのペットに決まり!」…やべぇって」

 

 ―――終わっったああああぁぁぁ!!!俺の尊厳がものの数秒で消え失せたあああぁぁぁ!!!

 

 え、何これマジな話??ドッキリとかじゃなくマジでペット扱いになるの???

 

「……一進、こいしは自由奔放だから大変だと思うけどよろしくお願いするわ」

 

 マジな話やないかい!!!いや、そんなこと言うならペット肯定発言自体を取り消してくださいよさとり様!!

 

「それはできないわ」

 

 悲しくも切実な思いもさとりさんに一刀両断された事で希望も潰える…。……あれ?

 

「……改めて聞きますが私の心は読めないのでは?」

「読めないわよ。目は口ほどに物を言うってこういうことなのね…」

 

 ああなるほど。あまりのことで顔に出てたって―「どーーん♪」今度は何さ。

 

 俺とさとりさんの話しを遮るように抱き着いてきたこいしちゃん(もう、ちゃんでいいや)は、満面の笑みを浮かべて言い放ってきた。

 

「わたしはお姉ちゃんの妹で古明地こいしって言うの!わたしの呼び方はなんでもいいや。それで!これから一進のご主人様になるからよろしくね♪」

 

「(…命か、人としての尊厳か―――)そうだね。よろしくこいしちゃん」

「えへへ~♪」

 

 尊厳?何それおいしいの?

 

「「軽っ!!!」」

 

 なんだよそこの二人(さとりとお燐)。文句でもあるのか?

 

 確かに俺はなんでもやるって言ったよ。言ったけどさぁ~それがペットになるなんて誰も予想出来ないだろ……。

 

 まあ、これも恩返しってことで我慢しますか。

 

 

 

 

 

 

 

―――斯くして俺は幻想郷で暮らすことになった。

 

 

所在地・・・地霊殿

 

 

種族・・・人間

 

 

能力・・・拒絶される能力

 

 

 

そして、

 

 

 

職業・・・・・・ペット

 

 

 淹れて貰った紅茶は確かに風味も何もなかったのに、俺の飲んだ分だけは何故かしょっぱかった事はここに記しておこう。

 

 

 




一進君地霊殿に住み込み決定!!!
やったね!ペット扱い嬉しいね!


それではまた次回。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。