それではどうぞ。
◯
地霊殿の一室にあるダイニングルーム、当然この部屋は他の部屋より広く造られている。
そして、現在部屋の中心にある大きなテーブルの上には数多くの料理が並べられていた。
「いや〜どれもこれも美味しいよ。スゴイねぇお兄さんは」
「お燐〜 おしょうゆ取って〜」
「あ、はいどーぞこいし様――ってお空!それあたいの分!」
「モグモグ…私これ好き~おいしいね〜」
「ああ〜もう。……こいし様もさりげなく取っていこうとしないでください」
「ありゃ、ばれちゃった。けど犯人は無意識だから仕方ない♪」パクッ
「こいし様ぁ〜!!」
そんな三人の少女の声が響く食卓で、俺は彼女たちの食事風景を眺めていた。
まぁ、自分の作った料理を取り合うほどまで気に入って貰えたのならこっちもこっちで作った甲斐があり嬉しかったのだが……。
「………………」モグモグ
「えっと…口に合わないかな?さとりちゃん?」
俺の隣には無言で箸を進めるやや機嫌の悪い主様が一人。
「……別に心配しなくても美味しいですよ、えぇたいへん素晴らしい出来です。お燐たちもいつもより美味しいと思っていますよ。いつもより美味しいとね!!」
不機嫌な理由が理不尽の塊でウケる。大切な事だからって二回言われてもなぁ。
「…………なんかすいません」
「何故謝るのですか、私は別に謝って欲しいなんて思っていませんよ。寧ろ普段私が作る料理より数段美味しいものを作って頂いた事にお礼を言いたいぐらいです!まったく何でこんなに料理が得意何ですか!」
なんてせっかく気を遣ったってのに、遣ったら遣ったでイヤミを言われるこの始末。
何故こんな事になっているのか、それを話す為には少しだけ時間を遡ろう――――。
○
「新しいペット♪新しいペット♪」
「「よかったですね!こいし様♪」」
「…ハァ……」
おっす俺一進。今は溜息が止まらないんだ。
…え?それは何故かって?
それはな、ここ地霊殿で暮らす為に俺はこいしちゃんのペットになることが約束されたからさ。
ハァ…あのさーこいしちゃん…満面の笑み浮かべてルンルン気分でそんな事を言われてもね、俺は反比例する形で過去最高レベルに沈んでいるよ…。
なんせペットだぞ。ペット。世間から見て女の子に飼われる男って大丈夫?まともな生活が送れるか不安でしょうがないんだけど。
いや、確かにこんな可愛い女の子が喜んでくれるなら俺も嬉しい限りだ。けど!だけれども!それにも限度があるだろう!!俺は女の子に飼われて喜ぶような趣味してないからな!
「…一進、っくww私はあなたの心は読めませんが…ふふっあえて言いましょう。……心情お察しします」
「……」
おいそこ笑ってんじゃねーよ!
何て口に出せない自分の立場が恨めしい。
「…いえいえ、流石に嬉しいとは言いませんが私は文句など言える立場ではございません。それに妹さんも喜ばれているようで何よりです」
何とか取り繕って答えはするものの不安感は拭えない。
はぁ〜あ。飼い主は自由だし、館の主人は
「そう、それはよかったです。こいしのペットになることが嬉しいと答えていたら……即刻地霊殿から叩き出していましたよ」
「(!? あっぶな!ふざけて答えたら終わってたぞ!!)」
さとりさんの一言でその考えは封じられ、俺は間一髪のところで地底での野宿生活を回避していた。
「…まあ、ここまで弄っておいて何ですが…ペットと言っても貴方が考えてるようなものではありませんよ。実際には従者みたいなものです、お燐とお空もそうですから」
「え!? そうなんですか!」
何…だと。それを早く言ってくれよ!だったら全然構わない、むしろ喜んで奉仕してあげてもいいとまで思うようになってるんだが!?
だってさっきまで想像してた自分の未来と比べたら分かるけど月とスッポンならぬ、従者とペットだぞ!!だったら誰でも喜んで従者を選ぶだろう。
そうと決まれば善は急げ。早速こいしちゃんに俺の技術を総動員してご奉仕タイムと勤しみ―「けれど、当然ですが」ん?どうしたさとりさん?悪いけど今の俺を止められるものなんてありはしないぞッ!!
それこそ最高に『ハイ!』ってやつだああああぁぁぁぁぁ!!
「こいしに悪影響なら壊しますので」ピッ
「イエス!!!マム!!!」
おかえり現実。さらば楽しかった時間。…俺だってくだらない事で命を散らしたくないんです。
ていうかこわっ!!小さい子が親指で首を切る動作初めて見たけどこわっ!!
…さとりさん?お願いしますからそんな汚物を見るような目で見ないでください。もう十分冷めましたから……
――ん?少女の冷たい視線に興奮しないのか、だって?……何に期待してるのか知らんが時と場合を考えような。流石に今は巫山戯るのダメ。ゼッタイ。
「……その返事信じていますよ。こいしのコレクションにならないことを期待していますから」
「うすもちろんです」
って言ったけど…。そういやこいしちゃん死体をコレクションしてるって言ってたっけ……この先、俺大丈夫かな?
「……むー、お姉ちゃんばっかり一進と話してズルいよ!一進はわたしのペットなんだからね!」
「あらこいし、そうね…。――だったらこいしが一進の愛称を考えないといけないわね」
は、愛称!?
…いや、お燐とお空同様で考えるなら俺も仕える身になったからな。まぁそう言う事もあるだろう。
だが極力無難な感じに―――。
「うーーーーんと。藤代一進だから…………
「それN〇Kと映画で聞いたことあるぞ!!」
「「? NH〇?」」
あ、伝わんないのか。くそ〜幻想郷って技術がどこまで浸透してるのかイマイチ分かんねーや。
「? よく分かりませんがこいし、
「え〜〜、せっかく考えたのにー。ん〜、じゃあ…………
「それh「それだと字が違うけど天下人の妹になるわ」…」
テレビ無いのにそっちは知ってんのかい!!
「あれ?そうだっけ?」
「あれだけ名が広がっていた人間の親族を覚えてないのね…。まぁ、
え!?
……おいおいおいこの二人が俺より遥かに年上だと判明したんだが…。逆算したら少なくても五百オーバーってマジかよ!何か変なとこで妖怪らしさを実感したわ。
「それでは一進。あなたは
あんた確信犯か!!!ペットでシロって言ったら完全に犬の名前じゃないですかやだー。
「あ!(σ゚∀゚)σ」
はいちょっとこいしちゃん。『それだ!!』みたいな顔してるけど俺は断固として断るからな!!
う~~ん、その二択だったら―――。
「そうですね…。それでしたら――「シロー」お願いだからお空ちゃんはちょっと静かにしてようか。「うにゅ~」…はぁ、すみません話から脱線して。ええと、……それでは私のことはお進と呼んでください」
いや、だって
「じゃ~これからお進だね!けって~い!!」
「はい。よろしくお願いします」
「も~お進?そんなかたくなくていいんだよ~」
「…そうね、そんなに気を遣わなくていいわ。たとえあなたの過去にどんな事があったとしても、これから従者になる以上あなたは私たちの家族ですから」
…………。
家…族?
……なんだよなんだよ、この子たちはこんな得体の知れない俺をそこまで受け入れてくれるのかよ。防犯意識低いんじゃないのか?
…………でも、本当に来て良かったな―――幻想郷。
それにしても家族…ね。確かにそんな人たちが俺にも居たけど――。
「? どうしたんですか?」
おっと、こんな事考えてる場合じゃないや。
「いえ、なんでもありま―なんでもないよ。――それじゃあ改めてよろしくね、さとりちゃんにこいしちゃん」
「うん♪」
「………
何か微妙にさとりちゃんが納得してなさそうだけど別にいいか、気を遣わなくていいって言ったのはそっちだしね。そもそも小さい子を敬い続ける事に無理があるって、絶対俺の場合はその内に素が出るからな。
……言葉なら兎も角内心では平然と砕けまくりの対応してるし。
「そんでこいしちゃん。俺は何をすればいいのさ?」
「……いきなりフランクになりましたね…」
ほっとけってさとりちゃん。これが俺の素なんだから。
「え?えっとね〜〜〜〜。…あ!そうだ!もう少しでお昼だからお進はおいしいゴハン作って♪」
「ん、了解。昼飯ね…だったらキッチンは――」
「わたしが案内するー!!」
「…悪いけどお燐ちゃん。案内頼める?」
「…そうだね、それぐらい構わないよ」
「ええええー!?何でー!?」
…お空ちゃん、例え紅茶淹れる時に行ってきたばかりとはいえおそらくだが確実に迷うだろう。出会って僅かだがそれぐらいは既に信用している。それに理由は君は自分についてる大きなメロンにでも手を当てて考えなさい。
まったく、頭じゃなくてそっちばっか栄養行かせて…。よしDHA大量に摂らせようそうしよう。魚ってあんのかな?
「……楽しみですね。家事が得意と言ったあなたの実力がどこまでのものなのか」
「えっ、ここでハードルを上げにきます?」
勘弁してよさとりちゃん……ってあれっ?けどそう考えたら俺って自分の料理を人に食わせた事なんて無いぞ!そもそもお燐とお空は妖獣とか言ってたから要は獣って事でNG食材あっても不思議じゃねぇし…。更にさとりちゃんとこいしちゃんは年齢は立派だろうけど見た目的に子供舌の可能性が…いや、もう慌てたってしょうがないな。腹括って何とかするか。
そしてかなり長くなったけど、ここから数十分後に最初の場面になったってわけだ。
***
回想の時間で食事を終えた俺は、現在自分の部屋として
いや~一時はどうなるかと思ったけど何とかやって行けそうだな。主人は絶大な権力を持つ子と無邪気で可愛い子だし、同僚は頼りになる
……それにしてもだ。やはり俺以外に男が居ない事が非常に気にn『ガチャ』っん?
「ああ~~。やっぱりわたしに気付けるんだ~」
そう納得したように言いながらこいしちゃんが俺の部屋に入ってきた。――執事服を引き摺って。
「いや、それ……」
「えへへ~♪お進が服のことで困ってると思って、友達の所からいくつか借りてきたよ~」
「あ、うん。ありがとうね、こいしちゃん。」
確かに服の数が無かったから本当に有難い、この際だから執事服でも構わない。
だけど違うそうじゃないんだこいしちゃん!俺が言いたいのは、ただ引き摺って来なくてもよかったんじゃ――というかそれ友達から借りた物なんでしょ?友達いない歴十数年の俺にはちょっと分かんないけどこんな扱いしていいものなのか?
「とりあえず!お進はこれからこの服を着て仕事すること!!仕える人はやっぱりこうじゃないと♪」
「いや良いけどさ…」
執事服って…現実で見た事すら無いもんをまさか俺が着る事になるとはな…やはり侮れんな幻想郷。
………っとこいしちゃん?何で君はずっとこっち見てるん?さっさと着替えたいのだが……。
「……?」
いや目を離せって。
いや、上はね?百歩譲って上はいいよ別に。だけどさ?下はちょっと困るやん?そこまで着替えを注視されてたら流石に上を脱いだ状態で止まらざる得ないよ。
「わ〜!肌白くてキレ〜イ!骸骨みたーい」
「いや意味分からん」
特にそこが結びつく感性ってやつがね。バカにしてる…ようでもないけど…怒っていいのか?
いやまぁ確かに好き好んで人と接しなくて済むようにインドア派だったから肌は白いけどね!白いけれども俺にはその感性がちょっと分かんないぞ。……ったく、…せいっ。
「わぷっ」
「はっはー、悪いけど見せてやんねーよ」
持っていた服を投げたスキに速攻で着替える。…全く、男の着替えシーンなんて誰も喜ばんだろ。つーか執事服なんて着方ってこれであってんのか???
「もー。ん、あれっ?何か入ってる?」
「ああ、携帯ね」
「携帯?」
よく分からない衣服のパーツに四苦八苦していると、投げた服に入っていたであろう携帯を見てこいしちゃんは不思議そうな顔をしている。
そういや何で俺はこっち来る時に携帯だけを持って来てたのだろうか……いくら外出するときの癖で携帯は持っていたとはいえ、普通なら幻想郷がどんな所か分からないからもうちょい準備するよな。まぁ紫さんにいきなり落とされたから仕方ないと言えば仕方ないけど……。
俺は携帯を持って首をかしげてるこいしちゃんから一度渡してもらい落下の件とお空の件で壊れてないか確認する。
「(何でか知らんけど全然使える。思ったより丈夫なんだな)」
だけどなー起動はしたがこいしちゃんの反応を見る限りテレビも怪しかったから幻想郷は携帯なんて普及してなさそうだからなー。
「ねぇお進?それって結局何に使うの〜?」
「ん?そうだな〜」
連絡手段って言っても分からんだろうしどうすっかな。現状で使える機能は……。
「今見ている人や景色を写真――え〜と、絵みたいに「写真ならわかるよ!」そう?それなら写真をこの中に保存することが出来たりするよ」
カメラ以外にも機能はたくさんあるがそんなの言ってもしょうがないしな。というか大体が基地局も無いここだと電波無いし使い物にならないだろう。
「写真撮れるの!?わ〜い♪じゃあ一緒に撮ろうよ!」
よほど写真が好きなのか珍しがってるのかは知らんが、こいしちゃんははしゃぎながらベッドに腰掛けている俺の隣に座ってくる。
「分かった分かった、それじゃ撮るよ。――はいチーズ」ピロリンッ
そして俺は、たった今撮った写真を待ち受けに変えてこいしちゃんに見せる。
「あー!わたしとお進だー!あっははは。お進、ちゃんと笑えてな〜い!」
――と、こいしちゃんは写真と変わらずに可愛い顔で笑っている。
いや、写真撮る時に自然に笑うって普通に難しくねぇか?それでもいつもより幾分かマシな面してると思うんだがな。まあいっか。だったらどうせ俺は使わんだろうしこんなんで喜んでくれるなら……。
「こいしちゃん?これ、いる?」
「え!?くれるの!?だったらもらっ―――」
……………………。
「? どうしたのさ?」
「ん〜ん、お進の部屋に来る口実が減っちゃうからなぁって思ったからやっぱりいいや♪お進のなんだからお進が持ってて♪」
「あ、そう?それじゃ、俺が持っとくけど」
「うん♪そうして♪」
別に口実作らんでも来ていいと思うのだが…。まあ、そりゃ充電も出来ないし、いつか電源も切れて使えなくなるだろうけどさ……何も笑顔でいらないって言わんでも。
『お兄さ〜ん、さとり様が呼んでるよー!』
「っと、そうらしいからちょっと行って来るよ」
「わたしも行く〜」
ああ好きにしてくれ。とりあえず執事服は着たし(着方が正しいか知らんが)携帯はいらねーから机の中に仕舞ってと……。よしっ!
「お待たせ〜♪お燐♪」
「あ、こいし様もいらしていたんです――ってええ!?お兄さん、その服!?」
「ああこれね。こいしちゃんが用意してくれたんだよ」
「えっへん♪」
――と胸を張っているこいしちゃんの頭を撫でていると、何やらお燐が神妙な顔をして小声で話しかけてきた。
「(……お兄さん、多分だけどその服地底の物じゃないよ。そんなの扱ってるお店あたいは見た事ないからね)」
「(え、本当に?こいしちゃんは友達の家から借りてきたって言ってたけど?)」
「(………まあ、いいさ。こいし様のやる事だったらあたいは何も言えないしね、そこら辺はさとり様が何とかするだろうし)」
「二人で何話してるの〜?わたしも混ざりたーい」
「っとすみませんこいし様。ちょうど被っちゃったんですが旧都で買って来た男物の服とか生活用品一式お兄さんに渡してただけですよ。それでは行きましょうか」
そう言ってお燐は手に持っていた紙袋を俺に渡してきてこいしちゃんと歩き始めてしまう。まだ館内を把握してない俺は置いてかれると困るので紙袋を部屋に置き急いでついて―――。
「ね〜お燐知ってた?お進の肌って死体みたいに真っ白なんだよ〜」
「ええ知ってますよ、なんせお兄さんの身体に包帯巻いたのあたいなんですから。それにしてもいい感じに血の気失せてそうな綺麗な肌でしたよね。……やっぱコレクションにしたかったなぁ」
「ダメ!もうお進はわたしのペットなんだからいくら惜しんでもダメだよ!」
「でもお兄さんは
「あーすごーい!お燐上手ーー!!…じゃあご褒美にこの前お燐が欲しがっていたパーツあげるね♪」
「いいんですか!?あれご自身で防腐処理までされていてかなりお気に入りだったじゃないですか!?」
「いーよー♪お燐にはお進を連れてきてくれたご褒美も兼ねてだし」
「やったぁ!ありがとうございます!!」
―――行きたくねぇよぉ…なんつー会話してんだよ…。言葉を理解せずに見ているだけなら女の子二人が楽しそうに話しているのに、残念ながら理解出来る俺の脚はそりゃもう進みたがらない。
いや、それでも行くしかないから行くんだけども。
「お燐さんや…頼むから生命は狙わんでね」
「うにゃ…まぁ我慢はするけどねぇ」
……ハァ。
キャライメージがブレてる所為でさとりの会話に違和感があるけどご勘弁を!
それではまた次回。