お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。   作:歌うたい

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第11話『教え導く者』

「⋯⋯エスカリエ」

「なんですか?」

「お前は本当に、俺に甘いよな」

「なんですかそれ。貴方が甘えてくるから、しょうがなく対応してるだけですよ。厳しくしてほしいなら、ビシバシモードでいきますけど?」

「初見すぎるなそれ。逆に見てみたくもある」

 

 ぼんやりとまるで突拍子もないシレンに、エスカリエは呆れながらも混乱した。なんだか様子がおかしいと、幼馴染の異変を察したのである。

 エスカリエよりも早くこの家に帰宅したこの男は、その時からすでにどこか気の入ってない様子だった。

 

「なにかあったんですか?」

「んー⋯⋯そうだな」

 

 だから気持ちそのままに聞いてみれば、シレンは思案の後、あっけらかんと言い放った。 

 

「またクビになるかも」

「へ? クビって、今度は家庭教師をですか?!」

「ああ。悪いな」

「悪いなって、いったいなにがどうして⋯⋯」

 

 当然の問いに、シレンは答えない。のんびりとコーヒーを啜っている始末である。

 また誤魔化そうとしてる。その手には乗りませんよと、詳しく問い質そうとエスカリエは正面に回り込んだ。

 そして息を呑んだ。おざなりな態度のシレンの目が、いつになく鋭かったのだ。決して引き抜かれることのない、深く深く突き刺さった剣のように。

 こういう時のシレンは、もう完結しているのだ。私が何を言ったって、何をしたって。きっと彼は止まらない。エスカリエは一瞬切なげに目を伏せた後、振り切ろうと溜め息を吐いた。

 

「⋯⋯はぁ。もう心は決まってるって顔に書いてありますよ。事情は分かりませんが、どうせ私が何言ったって、やることは決まっているんでしょう?」

「悪い。家探しも長引きそうだ」

「まったくもう。ほんとにもう。しょうがないから、期間延長してあげます。そのかわり宿泊代はいただきますからね」

「⋯⋯悪いな、お母さん」

「悪いって思ってないじゃないですか! お母さんはほんとに止めてくださいってば!」

「じゃ、お母さん呼び止めるのが代金ってことで」

「せこい!」

「冗談だ」

 

 せめて相談くらいして欲しかったという本音をしまって、日常の延長に舵を戻す。きっと間もなくシレンは剣を引き抜くだろう。戦いに行くのだろう。だったら勝とうが負けようが、エスカリエは待つだけだった。

 仕方ない人なんだからと、微笑みを添えて待つだけだった。

 

 

 ストライプのネクタイ。グレーのスーツベスト。上から羽織った黒ローブ。ともすれば魔法学校の教師といった格好だったが、これがシレンの正装である。

 馬子にも衣装。どうもパッとしない風貌のシレンでも、ちゃんとした格好ならば空気が締まるものである。

 つまり、準備は万端ということだ。

 精々死装束にならないようにと願いはすれど、もはや覚悟は決まっている。冴えない風貌の目が強く光った。

 

「【ブックマーク】⋯⋯【ブルーメイ邸】へ」

 

 可愛い教え子の待つ場所へ。

 そして戦場になる場所へ。

 アヴィのせんせいは、飛び立った。 

 

 

 

「⋯⋯おはよ。せんせい」

「おはよう。アヴィ」

 

 初日と比べてずいぶんとおとなしい。少しだけ腫れた目元に、仄かにアンニュイな雰囲気。これではメスガキなんてレッテルは貼れない。

 不調の証なのか、それともこれこそがアヴィ・ブルーメイの素なのか。浅い月日ではまだ分からない。女心は秋の空とまでは言わずとも、迷宮みたく入り組んでいるのは間違いないのだから。

 

「その顔を見るに、まだ疲れが取れてないみたいだな」

「ちょーっと寝付きが悪かっただけ。せんせいみたいなおじさんと違って、アヴィちゃん若いから。授業したいんでしょ? しょうがないから付き合ってあ・げ・る♡」

《でも、今日も失敗させちゃうんだけど⋯⋯ごめんね、せんせい。あのおじさんに馬鹿にされないよう、仕事しなきゃなのに⋯⋯ごめんね。こうしなきゃアヴィは⋯⋯》

「ま、昨日の今日だ。ほどほどにしとくさ。子供ってのは無理しがちだからな。その為の先生だ」

「っ。ふーん。悠長なんだねえ。あ、もしかしてアヴィちゃんの好感度稼ぎ? せんせいったら姑息ー」

「おっとバレたか。生徒が鋭いと困りものだな」

 

 けれど辿り着いた心があった。落ちこぼれの烙印を押されてでも、少女が守ろうとしているものを見付けてしまったから。

 教え導く雛鳥は、翼を広げると決めたのだ。

 より小さき雛鳥へと、飛び方を教えるために。

 

「ところでアヴィ、知ってるか? 都の有名な天文術士の占いによると、今夜は星の雨が降るって話だぞ」

「そうなの!? っとと、おほん。モテ度ざこざこなせんせいらしくないこと言うじゃん。まさかアヴィちゃんと一緒に見たいなぁってこと? うわぁせんせいってばベッタベタなナンパの仕方ぁ。まあどうしてもって言うなら⋯⋯」

「残念ながら、俺は夜にやることがあるからな。出来れば一人で見ててくれ」

「はあ?」

 

 しかしより小さき雛鳥は、堅い堅い籠の中。

 だから彼は今宵、籠の鍵を壊すと決めたのだ。

 

「え⋯⋯まさか、先約があるってこと?」

「当たらずとも遠からずだな。ちょっと俺の雇い主と⋯⋯込み入った話をしたくてな」

 

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