お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。 作:歌うたい
雲一つない青空を、渡り鳥が大きく駆けていく。
太陽はまだ真上を通り過ぎていない。早朝ではないにしろ、澄んだ空気に穏やかな微風。気持ちの良い晴れた日だ。巣立ちには相応しい一日と言えた。
「試験開始まであとちょっと。これでいよいよ、アヴィちゃんも冒険者デビューって訳だね」
「気が早いな、もう合格したつもりか。何事も油断大敵って言うだろ?」
「はぁ、お小言なんておじさん臭いなぁ。こういう時は素直に乗っかる方がモテるのになぁ。やっぱりモテぢからはざこざこなせんせいだね」
「そいつは悪かったな。あとおじさんはやめろなマジで」
冒険者認定試験の受付登録を済ませ、後は指定時間に当人が入場するのみである。
「ま、アヴィの言うことももっともだな。教えることは最低限は詰め込んだし、気を抜かなければ問題ないさ。あの伯爵だって学院の退学を認めた上で、全力で後押ししてくれたんだ。吉報を届けなくっちゃな」
星降る夜を越えたアヴィが決めたのは、一流の魔法使いにして一流の冒険者になる事だった。
これからはアヴィの思う通りに生きるようアンセムは告げた。一流の魔法使いになるという目標は、今までアヴィを苦しめてきた呪いでもある。しかし今は亡き母との繋がりでもあり、夢でもあり、アンセムの願いでもあった事に変わりない。
だからアヴィは、この目標を捨てなかった。そして自分の幼き夢も再び拾い上げたのだ。
いつしか捨てた、冒険者になるという夢。冒険好きな少女が抱くに相応しい夢を再び掲げ、アヴィはアンセムに誓った。
『アヴィね、一流の魔法使いで、冒険者になるよ。お母様とお父様、そしてアヴィの夢。全部叶えてみせるから。出来るに決まってるよね? だってアヴィは、特別な女の子だもん!』
籠から飛び立った雛鳥は、早くも翼を大きく広げた。
娘からの宣言に、大きくなったなと頭を優しく撫でた父親は、以降アヴィの夢を後押しするべく励んでいる。
冒険者としての知識を教えてやって欲しいとシレンに頭を下げ、シレンもそれに応えた。報酬もかなりの色がついたが、アンセムは迷惑料兼愚かな父親への授業料分だと笑って押し付けた。
そして、シレンが家庭教師を務めて三週間が経とうかと言う頃に、冒険者登録試験の当日となったのである。
「はあ。アヴィちゃんを分かってないなぁ、せんせいは。合格なんて当たり前。むしろ認定試験で一気にせんせい以上のランクになってあげるから!」
「はは、良いなそれ。歴史に名を残す弟子が出来て、俺も鼻が高い」
「──ふぅーん。じゃあニョキニョキ伸ばしてあげるから、ちゃーんと期待してて待っててね。あ! もしアヴィが雑魚ザコざぁこ♡なせんせいのランク飛び越えちゃっても、泣いちゃダメだよぉ」
「はいはい。早くしないと遅れるぞ。"あのバカ"が邪魔立てしたせいで、もうギリギリだぞ。遅刻で不合格なんて笑えないからな、さっさと行ってこい」
「はいはーい。それじゃ、行ってきまぁす!」
シレンに手を振りながら、試験場へと駆けていくアヴィの足取りは軽い。さながら翼が生えているようだった。
花が咲くような笑みを浮かべる少女を、道行く者が見惚れている。天使にでも見えたのだろう。そんな可愛いもんじゃないがなと、シレンは小さく苦笑した。
「ま。アヴィなら間違いなく合格だろ。
アヴィの手前ではああ言ったが、シレンもアヴィの合格を疑ってはいなかった。それどころか
天がひっくり返ったとしても不合格はあり得ない。誰よりも油断をかました男は極めて楽観的な足取りで、後に合流予定のエスカリエ邸へと向かうのだった。
しかしシレン・グレイジュライは忘れていた。
地雷というのは、忘れた頃に降ってくるもの。
油断大敵。不注意は巡り巡って、本人にかえってくるのであった。
◆
「『四つの頂き。原初の赤。光輪射すは火の天神』」
「なんという⋯⋯なんということだ⋯⋯」
試験会場はざわめきを通り越して、もはや静けさが広がっていた。漏れ聞こえるのは精々うめき声ぐらいで、その静寂の中をソプラノが軽く通り抜ける。
「『闇を恐れる者に光を。凍えるものに温もりを。夜に星を、朝に日を。たとえあらゆる時代の火種になろうと、この灼熱を授けよう』」
試験官達に走ったのは驚愕と、久しくなかった高揚だった。
そして、アヴィもまた高揚にあった。久しぶりの炎神魔法の発動ということもあるが、師であるシレンに必死に隠した奥の手の一つだった。
その狙いは、これを用いて一発で高ランク認定を貰い、彼の驚く顔を見たいからである。リードマインが発動すればその企みは発露したかもしれない。しかし、発動しなかった。さながらそれが天の意思かのように、発動しなかったのである。故にシレンには、アヴィの奥の手はいずれもバレていなかったのだ。
いよいよ企み成就の瞬間が近付いている。朗々と詠唱するアヴィの表情には、小悪魔めいた微笑みが浮かんでいた。
「『落ちよ。全てあまねく灯す火よ』──『
しかし微笑みが小悪魔なら、完成する魔法の威力は悪魔級である。会場に落ちた光の雫は焔となって、即座にドーム状に膨らんだ。
魔法の三元素、全てを水準以上で満たされた炎神魔法は会場内に居る者達の心を見事焼いたのだった。
「す、素晴らしい。素晴らしいですぞ! よもやここまでの新星が現れてくれるとは!」
「いやはや、驚きです。十六歳の若さで上位魔法を扱うとは⋯⋯これは飛び級確定でしょうな」
「ええ、そうね。少なくともBは確定。Aは⋯⋯要検討って所かしら。後の検討会が白熱しそうね。一発で高ランクなんて、何年ぶりのことかしら⋯⋯」
「華もありますからね。彼女、まだ無所属でしょうし⋯⋯冒険者ユニオンで引っ張りだこになるでしょうね」
アヴィの魔法を目にした試験官達は、こぞって弁舌を交わし合った。当然だろう。これほどまでの才気を見せる新人など、早々現れるものではない。
現時点でランクBは確定。既に数年ぶりの快挙は確約されていると、場は興奮収まらずといった空気であった。
「あ、あの⋯⋯試験官の皆様。よろしいでしょうか?」
「おや、どう致しましたか。確かアヴィさんで登録受験者は最後でしょう。もはや漏れがありましたか?」
「い、いえ。申告漏れや順序混同などはございません。そうではなく、アヴィ・ブルーメイは"特記時間枠登録者"であります」
「なっ! まさか、あれだけの魔法が使える上にあの娘⋯⋯【
しかし、アヴィの時間はまだ終わらない。
通常の試験時間とは別に設けられた特記時間枠。これは即ち魔法や剣技などの通常戦力をアピールする時間とは、別に設けられた時間枠。
即ち、アヴィのもう一つの奥の手を披露する機会であった。
◆
ねえ、せんせい。あなたは知ってる?
エーデルワイスの妖精に出てくる、騎士とお姫様の物語。あの時言いそびれちゃった、アヴィが一番好きなシーン。長い長い旅路の中で想いを通わせ合った二人が、誓い合った夜のこと。
流星が降りそそぐ夜の下、交わされたひとつの約束を。
『この身は、貴女を護る為に。私はその為に騎士となりました。この先どれだけ時が流れようとも、私は貴女を護るでしょう。それだけは不変だと誓わせていただきたい。
たとえ貴女と添い遂げようと。子を為し、父となろうとも。老いてまともに剣が振れなくなろうとも。どうか──
『せんせいは、せんせいで居続けてやる。それで許してくれないか?』
おかしいよね。シチュエーションもニュアンスも、物語とは違うのに。
でも、重なった。重なってしまった。
だから想った。想ってしまった。せんせいが、ずっとアヴィのせんせいで居て欲しいって。ずっと傍に居てくれないかなって、沢山の流れ星に願ったの。
だからあの時アヴィはね、お姫様とおんなじ答えを言ったんだよ。
『許します。この流星に誓って』
だからね、せんせい。
アヴィ頑張る。願うだけじゃなくって、叶うように頑張るからね。
頑張り過ぎて驚いちゃうかもしれないけど⋯⋯その時は、可愛い弟子を許してね?
「【
澄み渡る昼の青き空。
試験会場を半壊させるほどの、星の雨が降りそそいだ。
◆
「せんせい、エスお姉ちゃん。ただいま! 見てみて、アヴィちゃん合格したよぉ。はいこれライセンスね」
「お。やっぱり合格か。流石だな。で、ランク、は──」
「おかえりなさいアヴィちゃん。合格おめでとうございま⋯⋯どうしたんですかシレン。シレン? シーレーン?」
「は?⋯⋯え、え、Sランク、だと⋯⋯?」
「あは。うんうん、その顔がどーしても見たかったんだぁ。えへへ、これでアヴィちゃんの方がランク上! やぁいやぁい、せんせいのざぁこ♡ざぁこ♡」
その日。
史上三人目となる一発Sランク認定者が現れ、国中が沸くこととなったとか。
《第一章『ファースト弟子・メスガキ』完結》
以上にて第一章完結となります!
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