お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。   作:歌うたい

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第Ⅱ章『セカンド弟子天然剣士』
第16話『彗星の師匠』


「あ、アヴィ・ブルーメイ! 『彗星(コメット)』のアヴィ・ブルーメイだ! なあなあ、君はまだ在野なんだよな? 俺のユニオンに入ってくれないか!?」

「ハッ、たかがCランクユニオンが誰を誘ってるんだか。その点うちはAへの昇格も視野に入ってるBランクだよ! どう、入りたくならない?」

「汗臭いランク主義者はこれだから困る。アヴィ氏、君の魔法の才覚は我が魔法使い専門ユニオンにて発揮されるべきだ。そして是非、うち自慢の魔女っ娘コスチュームに身を包んでいただきたい」

「うーん。魔女っ娘コスチュームは気になるけど。でもごめんねえ、アヴィは当分せんせいと一緒に冒険するって決めてるんだぁ」

「「「せんせい?」」」

「そうそう。アヴィちゃんが出来る娘って見抜いて、才能を磨きあげてくれたすっっっごい人が、アヴィのせんせいなんだぁ!」

「「「な、なんだってー!」」」

 

 

 

 

「反応ベタ過ぎんだろ──へっきし!」

「何がベタっすか? というか風邪? わーばっちい、うつさないでくださいっす!」

「バイ菌扱いすんな、傷付く⋯⋯そんで風邪じゃない。多分噂されてんだよ」

「へー。自意識過剰っすね。ウチもそんくらいポジティブでいたいっす」

 

 弁明すれば糠に釘。挙げ句ナルシスト扱いもセットとくれば、シレンの疲れ目が一層暗さを増した。風邪であった方が一層マシだと思うくらい、彼は憂いている。

 しかし窯の火に視線を固定した女職人は、やはりシレンの憂鬱に取り合うつもりはないらしい。

 

「他人事だと思ってこのポンポコが⋯⋯」

「ポンコっす! 狸扱いすんなっす! なんすかその目、最近また腹回りに肉がついてきたなって言いたいんすか? ぶん殴るっすよ、鎚で!」

「別に体型をとやかく言ったわけじゃないんだが。それこそ自意識過剰じゃないか?」

「乙女の死活問題に過剰もクソもないっす!」

「じゃあ飯の量抑えたらいいじゃないか。しばらく差し入れはなしな」

「やめてくださいしんでしまいますっす。シレンさんのくれる二番街の甘肉饅頭が最近の癒しなんすっよ。生きる糧なんすよ」

「薄っぺらい死活問題だなおい⋯⋯」

 

 飯の話となっては背に腹は代えられない。そうとばかりにシレンに懇願する女職人、名はポンコ・イェヌヴァリタン。

 ばらついた黒髪。焼けた肌。太く短い眉。愛らしいタヌキ顔。むちむちでまるっとした全体の雰囲気は、まさにたぬきというあだ名に相応しい。本人は断固拒否の姿勢だが。

 ポンコは鍛冶師であり、装備屋『マスケット』の若き店主であり、シレンは常連であった。

 シレンの差し入れをあてにするほど困窮してるのかといえば、そうではない。むしろポンコは腕の良い鍛冶師として評判であり、繁盛している方だった。なのに人見知りが災いして従業員を雇えず、ひとりで仕事を回さなくてはいけないので非常に多忙なのである。甘味を買いに行けないほどに。

 食べることが大好きな二十歳になりたての乙女は、故にシレンの差し入れがなによりの糧であったのだ。

 

「で、今日はどうしたっすか。お悩み相談なら別を当たって欲しいっすけど」

「まあちょっと最近弟子について相談というか愚痴というか」

「だから他を当たれと⋯⋯もぉ。で、お弟子さんがどしたっすか?」

「いや、実はな⋯⋯最近ウチの弟子が、あっちこっちで俺を持ち上げてるみたいでな⋯⋯」

「なんすかそれ。自虐風自慢かなにかっすか?」

「自慢なもんかよ。例えばなぁ⋯⋯」

「おい見ろ、あそこで店主と話してるあの男。あれが例の『彗星(コメット)』を育てたって噂の指導師らしいぜ」

「ほんとかよおい。なんでも指導師資格ないのに、とんでもねえ慧眼と教導力を持ってるって話だぞ。その上、武器にも魔法にも精通してるらしい!」

「マジか。さ、サインとか貰えんのかな⋯⋯」

「いやそこは弟子入りじゃねーのかよ」

「⋯⋯、⋯⋯はぁ。説明が省けたな。大体あんな感じで、絶賛悪目立ちしてるんだが⋯⋯あ? なんだこの色紙は」

「サイン貰っとくっす。そのうち価値がついたらたかーく売りさばけるかなーって」

「腹肉毟り取るぞポンポコ狸」

 

 シレンの憂いの種とは、史上三人目となる快挙を成し遂げてしまい、早くも『彗星(コメット)』との通り名がついた彼の生徒が、全力で自分を持ち上げている件についてである。

 今や完全に時の人と化したアヴィだが、そのアヴィが方々で「せんせい」の存在を喧伝しているそうなのだ。一発Sランクは「せんせい」の指導のおかげとまで吹いているそうで、何故かシレンも時の人に片足を突っ込んでいる状況だった。

 

「ふーん。注目されて良かったじゃないっすか」

「人見知りの癖によくも言えたなそんなこと。全く知らん奴から弟子にしてくれって喚かれるし、ああやって遠巻きに注目されるし、正規資格もない俺に指導依頼が山のように来やがった。もう心労で胃に穴が空きそうなくらいだ」

「うっわ、地獄っすね。でもお仕事貰えるんなら良いことでは?」

「アヴィの指導を理由に全部断ったよ。Sランクとはいえ、まだダンジョンだって潜ってないからな。そんな段階で放って次に行けるかよ」

「おお。意外とちゃんとお師匠さんしてるっすね」

「意外とは余計だ。全く、アヴィはどういうつもりなんだか⋯⋯」

 

 勿論アヴィに直接意図を尋ねたものの、「そんなこと言ったっけなー」とか「アヴィちゃんのおこぼれで有名になれて良かったねー♡」とかまともに答える気はないらしい。

 勿論リードマインは空気を読んだように発動しなかった。つくづく使えない能力だと、シレンの吐いた悪態数知れず。結局アヴィの意図は分からぬままで、心労だけが積み上がっていた。

 

「ま、そっちの問題はそっちで片付けてくださいっす。うちは装備屋っすよ、お悩み相談所じゃないっすから」

「冷たい奴だな。まあいい、実際アヴィ用の装備について相談があったからな」

「魔法がとんでもない子でしたっけ。じゃあ杖とかその辺がご入用っすか」

「そうだな。杖も良いが、ちょっとアイデアがあってな。その辺について話したい。あと、預けてた俺の武器なんだが⋯⋯」

「ああ、はいはいあれっすね。もう結構仕上がってきてるっすよ。あとほんのちょっとしたら完成──」

 

 サバサバとした応対に、ようやく話は装備屋らしい題目へと差し掛かる。だがそこにやって来た新たな客に、シレンは思わず声を漏らした。

 

「失礼店主。こちらに砥石を売っては⋯⋯ん?」

「⋯⋯あっ」

「ああっ! そ、そなたはシレン殿! シレン殿ではありませぬか! よもやこのような所で会おうとは、奇遇でありますね!」

「あ、ああ。ほんとうにな⋯⋯」

「うっわぁ⋯⋯流石シレンさん。お狐様のお友達まで居るとは。ある意味凄い交友関係。やっぱりサイン貰っとくっすね」

「やめろ、引くな。そんな目で俺を見るな。友達とかじゃなく顔見知りだから。これ二度目ましてだから」

 

 来客は、女性であった。ただしその格好は、色んな意味で凄かった。彼女は、どこの貴族の社交場帰りだと言いたくなるようなドレスを着ていた。線も浮き出るタイトな仕様だし、胸元も際どく見せる作りなのだろう。おまけにその女性のとてつもない胸の大きさが悪さをして、非常に目に毒である。

 だというのに、その片手には長大な刀が握られているのだ。ドレスに大太刀。もうミスマッチとしか言いようがない。

 極めつけは、顔をすっぽり覆った狐の面だ。トンチキにもほどがある。もうなにもかもがちぐはぐであり、不審人物待ったなし。

 そんな女にフレンドリーに話しかけられれば、知り合いだろうと流石に一歩や二歩は引く。現に彼女を初めて見たポンコは、それはもう引きに引いていた。

 

「⋯⋯どうしたでありますか? このお面がなにか?」

「いや普通お面つけて出歩かな⋯⋯ああ、いやいや。お面以外も色々おかし⋯⋯いやいやいや。な、なんでもないっすよぉなんでも。うは、うはははは⋯⋯」

 

 しかし天然なのか鈍感なのか、狐のお面をしたちぐはぐ剣士は、不思議そうに首を傾げるだけである。

 狸と狐といえば因縁だ。されど化かし合うなんてこともなく、狸は笑顔で白旗を振った。

 取りあえずこれとは関わりたくない。常人であれば誰だってそうする判断を、狸は下したのであった。

 

 

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