お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。   作:歌うたい

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第17話『サザナ・クロミナヅキ』

 

 その奇特と呼ぶにあまりある人物との初対面は、アヴィが冒険者となった日に遡る。

 国立運営ユニオン・ギルド。『全ての受付』とも称されるこの場所ではクエストの委託や受託、掲示、他にも様々な事を行え、冒険者登録もその内の一つである。故にシレン達も受付を終わらせるべくここに向かっていたのだが。

 その途中の広場にて、あの男が立ち塞がったのだ。

 マントをバサァっとはためかせ、ポージング付きで現れたのは顔を合わせたくないランキング二位をキープするクローム・モーブフォウデイである。

 

「出たな、シレン! シレン・グレイジュライ! ここであったが百年目だ! 今日という今日こそは貴様のその忌々しい面構えを、苦痛と屈辱で歪ませてやるぞ!」

「出たはこっちの台詞だよ⋯⋯お前、こないだもほぼ同じ事言ってたぞ」

「ねえねえ、せんせい。このボキャブラリーが残念な激ウザおじさん知り合い? アヴィちゃん分かんなーい」

「んなっ!? わ、忘れたというのか、この俺を!」

「ウザさのあまりに記憶が残りたくないよーって泣いちゃったんだね。ああ、可哀想アヴィちゃんの脳細胞。責任とって呼吸やめてよおじさん」

「⋯⋯、⋯⋯」

「火力たっか⋯⋯あとそいつにおじさんは止めろ。俺にも貫通するから」

 

 これからという時を邪魔されたからか、アヴィの言葉には容赦がない。可憐な少女からの遠回しな「死んで」は、流石に心に来たのだろう。胸を抑えて項垂れるクロームは、少しだけ気の毒であった。

 

「くっ、あの日を忘れたいのは此方の方だと言うのに⋯⋯だが俺は挫けんぞ。あの老執事に植え付けられたトラウマを払拭すべく、今日この日この時に、シレンをギャフンと言わせてやろうというのだ!」

「悪いがな、こっちはお前の相手してる暇なんてないぞ」

「ククッ、ブルーメイのご令嬢の冒険者登録だろう? 知っているともさ。二日前ほどにエスカリエさんがなんたらとかいう受付嬢と話していたのをこっそり聞いたのだ! だから俺はここに居る!」

「⋯⋯ようは邪魔しに来たと。最悪かよこいつ」

「というか、盗み聞きしてるっぽいー? うわぁ普通に最低だね。ウザキモの権化だよこのおじさん」

「ええいうるさいうるさい! 俺は、貴様がいかに情けない男かを証明し、エスカリエさんの目を必ずや醒ましてみせると誓ったのだ!」

 

 さらりとストーキング盗み聞きをかました事を白状するクローム。熱意を別に向ければ大成する未来もあるだろうに、努力の方向音痴が過ぎる。

 

「シレン! 貴様が今度は指導師として身を立て、世を欺こうと企むことは読めている。故に俺もまた指導師として立ち、貴様の企みを挫いてやるぞ」

「いや、俺は指導師じゃなくて家庭教師だぞ」

「細かい事をぐちぐちと。今にその減らず口を黙らせてやる。俺の、指導師としての力でなぁ!⋯⋯さあ出でよ、我が弟子サザナ・クロミナヅキよ!!」

 

 聞く耳を一切持たないまま、クロームは再びマントをバサリとはためかせ、何者かを呼んだ。

 すると広場の物陰から現れたのは、一人の女であった。

 

身共(みども)は弟子となった憶えは⋯⋯いやしかし、雇い主がお呼びとあれば致し方なし。サザナ・クロミナヅキ。只今、参上(つかまつ)りました」

 

 武家を思わせる堅い口調。花の蕾も咲くような凛とした美声である。だがしかし。その外見はあまりにも凄まじかった。

 際どいドレス、ハイヒール。漆黒の長髪、爆乳、長太刀。そしてとどめの狐のお面。炭水化物に別の炭水化物をかけ、おかずに炭水化物を食べるような、圧倒的属性過多がそこに居た。 

 

「「うわぁ⋯⋯⋯⋯」」

 

 師弟は揃って一歩後退った。胃もたれを起こしたみたく青い顔である。残念ながら当然の反応だった。

 

「ふっ、この者はユニオンギルドにて仕事を探していた所を、俺が直々にスカウトしたのだ。どうだシレンよ。強そうな太刀だろう。ひ弱な田舎のご令嬢には逆立ちしたって振れぬもの。しかしサザナはご覧の通り片手で軽々持っている。間違いなく強いぞ! どうだ!」

「⋯⋯微妙に子供っぽい根拠だなおい。というかそこじゃない。この、なんだこの、色々とアレな格好は」

「面は知らん。なんでも素顔を見せたくないらしいが、言っても外さんので諦めた。それよりどうだこの絢爛なる銀ドレスは! この俺がエスカリエさんの為に用意した、貧乏な貴様では決して手が伸びぬ高級品よ!」

「お前の趣味かよ。しかもエスカリエ用って⋯⋯じゃあなんでそのサザナ某が着てるんだ」

「⋯⋯、⋯⋯うむ。どうも金をかけ過ぎたせいか、エスカリエさんには断られてしまったのだ。まったく奥ゆかしい方だよ。それにサザナに声をかけた際、みすぼらしい着物だったのでな。この俺の弟子ならば相応の格好をして貰わねばなるまい。故にハイヒールとセットでくれてやったのだ。どうだ慈悲深いだろう!」

「弟子ではないと⋯⋯まあ、施しは有り難く受けますが」

「えぇ。おねえさんはそれでいいのぉ? その、すっごくげひん⋯⋯げふんげふん。だいぶヤバい格好だよ?」

「そうでありますか? 確かに足回りは不自由でありますが、キラキラしていて綺麗ではありませぬか。それに身共は出稼ぎ目的で都にまで来ているもので、貰えるものは貰っておこうかと」

 

 あの罵倒させれば右に出るものは多分いないアヴィが、言葉を濁すレベルである。だがサザナはさほど気にしていないらしい。天然なのか鈍感なのか、無垢なのか。いずれにせよ、アヴィのクロームへの好感度は地の底を突き破った。

 

「で、結局なにがしたいんだお前は。そんな人を連れて来てどうするっていうんだよ」

「しれたこと、貴様に指導師としての腕などないことを白日の元に晒すのだ! 今ここで勝負をするのだ、シレンよ。この俺の弟子のサザナが、お前という巨悪を成敗してくれる!」

「なんで俺がその人と戦わなくちゃならないんだよ。マジで意味が分からんぞ」

「ハッ、逃げるかシレン・グレイジュライ! やはり貴様という男は正面きって戦えぬ臆病者か。虚飾、戯言を用いては上手く取り入り、人を欺く痴れ者め。そうやってエスカリエさんやご令嬢を誑かして来たのだろう!」

「勝手な妄想やめてもらっていいですかー? 全っ然そんなことないんですけどーぉ?」

「え、誠でありますか? クローム殿、どうも話が違うようですが」

「サザナ、騙されるな。さきも言った通り、ブルーメイのご令嬢は既にシレンの術中にあるのだ。まったく忌々しくも恐ろしい奴め」

「お前の思い込みの強さが一番恐ろしいぞ⋯⋯」

 

 クロームの目的とは、雇ったサザナをシレンと戦わせる事であった。片手で長太刀を持てるという、実に微妙な根拠ながらも自信はあるのだろう。が、一方的かつ乱暴かつ無意味な宣戦布告に、当然異議は唱えられた。

 

「ていうかぁ、せんせいの指導の腕が見たいなら、普通そこは弟子同士で戦わせる流れじゃない? そもそもせんせいの鼻を明かしたいならおねえさんじゃなくって自分が戦えば良い話だし」

「なにを馬鹿なことを。貴族たる俺が平民のこいつと同じ土俵に上がるなど御免被る。君も貴族の自覚があるのなら、己ではなく人を使って戦うことを覚えたまえよ」

「⋯⋯ほんとウザいなぁ。別にアヴィは弟子バトルで良いけど? この激キモミジンコウザおじさんの思い通りにさせるのなんて嫌だし?」

「い、言いすぎだろうが!⋯⋯くっ、だが良いのかシレン。ブルーメイのご令嬢はこの後に登録試験が控えているはず。こんなところで力を消費させては、肝心の試験に響きかねないぞ? 良いのかぁ?」

 

 アヴィの罵倒に折れかけるも、クロームは曲げなかった。よほどアヴィではなく直接シレンを叩きたいらしい。それらしい理由を、実に嫌らしい笑みを添えて吐くクロームに、シレンは小さく舌打ちした。 

 

「⋯⋯張本人が言うことかよ。チッ、癪だけどお前の言う通りだ。アヴィを戦わせる訳にはいかない」

「えー、どうしてせんせい。アヴィが良いっていってるじゃん」

「ダメだ。これで万が一があればお前にも、伯爵にも申し訳が立たん」

「むー。じゃあどうするの?」

「⋯⋯ムカつくが、アイツの望みに乗ってやるしかないな。下手に断ればアイツのことだ、試験会場まで粘着して来かねない。それで万が一不合格にでもなれば⋯⋯はぁ」

 

 本音を言えば、無視してさっさと受付を済ませておきたい。だが何をしでかすか分からないクロームを放置するのは、万が一に繋がる可能性もある。腹立たしい事この上ないが、シレンはクロームの要求を呑んだのだった。

 

 

「クククッ、ついに追い詰めたぞシレン。ここが年貢の収め時だ。サザナよ、そいつを徹底的に痛めつけてやれ」

 

 場は変わらず、しかし空気は先程までとは異なった。

 広場にて対峙するのは互いに己が得物を手にしたシレンとサザナ。奇妙な成り行きであり、武器を構え合えば自然と緊張感は生まれるものである。

 

「うーん。どうも、事前に聞いていた御仁とは違うご様子。話通りの不埒者ならば問題なかったのですが⋯⋯うーん、困りましたなー」

「⋯⋯あんたも大変だな」

「お気遣い有り難く。しかし果たし合いから背を向けるなど『四雅流』の後継者として名折れでありますので──お許しを」

「っ⋯⋯こ、この雰囲気は⋯⋯!」

 

 聞き慣れない流派に一瞬気を取られたのも束の間。

 深い、深い居合の構えを作るサザナに、シレンは息を呑む。そのただならぬ雰囲気はまさに、全身そのものが一振りの刀である様な迫力をもたらしていた。 

 

「シレン殿。いざ尋常に──」

 

 蛇に睨まれた蛙。引き絞られた弓矢の的。自身をそうと錯覚する程の強者の気配に、シレンは呑まれまいと気を引き締める。

 

「(来るかっ)」

「勝負ッッ!」

 

 

 そして。

 

 

「あぎゃぷっ!」

「えっ」

 

 次にシレンが見た光景は、顔面から綺麗にすっ転んだサザナの姿であった。

 

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