お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。   作:歌うたい

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第19話『天然剣士の頼み』

 

 事実は小説より奇なものだ。

 目の前の奇特過ぎる天然剣士との出会いは、まさに奇天烈で、紆余曲折としか言いようがない。

 恐るべきは張子の虎を本物に見せるアヴィの言葉巧みさである。思えば師を大きく見せんとする活動の第一歩は、あの時から既に始まっていたのかもしれない。一体何が目的なのか。悩みの進行地点が今現在に追いついて、長い回想からシレンは帰還した。

 

「強者は勝利よりも敗北に学ぶもの。出稼ぎに都へ参った矢先で、身の程を知れる機会に巡り会えた事は、身共にとって幸福でありました」

「い、いや、あの戦いはお前の勝ちで決着ついたんだ。敗北じゃあないような⋯⋯」

「正直に言えば、確かに決闘という場で持ち出すべきかどうかとは少し物申したい気持ちもあるであります。しかし、それはシレン殿の心遣いや真なる実力を見抜けなかった身共の落ち度。ましてや此方は一方的にしかけた側なのです。そう思えば、やはり敗れたのは身共でしょう」

「いやいやいや。俺はそんな大それたやつじゃなくってだな」

「はえ? 何を仰いますか。シレン殿は『彗星』のアヴィ殿を見出した御仁でしょう。そのような方に敗れたのは、身共としても多くを学べる得難き経験と自負しておりますが」

「⋯⋯」

 

 頭を抱える方が勝者で、真顔でうんうん頷いてる方が敗者。まるで真逆な反応に何かがすれ違ってるんだろうなと傍観していたポンコは気付くも、あえて口は挟まなかった。

 

「ところでシレン殿はどうしてこちらへ? あ、もしやこの前で身共が剣を斬ったから代わりを⋯⋯も、申し訳ありません。べ、弁償したくとも、今は少々持ち合わせがですね」

「いや、剣の新調とかじゃないし、弁償なんていうつもりは⋯⋯ん? 金がないって、クロームに雇われたんじゃなかったか?」

「それが、クビになりまして。雇い主たるクローム殿に恥をかかせてしまったので致し方ないであります」

「クビ⋯⋯だと⋯⋯」

 

 さらっと告げられた事実に、シレンは愕然と立ち尽くした。

 

「ほ、本当なのかそれ」

「誠であります。これも身共の修行不足が招いた事。流派の家元となって浮かれていたのやもしれません」

「ま、マジか⋯⋯マジかぁ⋯⋯」

「⋯⋯お金が無いなら、その高そうなドレスを売れば良いのでは?」

「確かにこれは高価なのでしょうが、いかんせん身共はこの服しか手元になく⋯⋯以前着ていた装束はクローム殿が処分されていたようなので。流石に裸でうろつく訳にはいきませんので⋯⋯」

「ぐはぁっ」

「シレン殿!?」

 

 シレンはたまらず膝をついた。

 ならば服屋にドレスと交換で服一式を貰えばいいのでは? なんて真面目に言える立場でない。この純真なサザナを困窮に追いやったのは自分でもあるのだ。

 クロームに関しては詫びる気はないが、彼女に関してはこの件の一番の被害者だ。

 アヴィには後で文句を言われるかもしれないが、やはりこれは真実を告げるべきだろう。このままでは罪悪感でどうにかなってしまう。

 意を決して、シレンはサザナに向き合った。

 

「⋯⋯サザナ」

「どうされました?」

「良く聞いてくれ。いいか。この間の決闘は、正真正銘お前のかち──」

 

 シレンが真実を口にしかけたその時。

 ぐきゅるるる〜と、ギャグみたいな腹の音が鳴った。

 発信源は言うまでもなく、目の前の天然剣士からである。

 

「こ、これは粗相をしてしまい⋯⋯申し訳ありません。実は節約の為に、昨日から何も口にしておらず⋯⋯」

「ぐっはぁっ!」

「シレン殿?!」

 

 恥ずかしそうに俯くサザナの姿に、シレンは再び地に膝をついた。そして直ぐに立ち上がり、そっと中身の詰まった袋をサザナに差し出した。

 

「サザナ。良かったらこれ、食べてくれ。最近人気の甘肉饅頭だ」

「えっ。よ、良いのですか?」

「ちょっ! まだ隠し持ってたっすか!? ウチを騙したっすね!」

「どういう言い草だこの大食いめ⋯⋯ポンコにはさっきやったばっかだろうが、これは後で食べようと思ってた自分の分だ、問題ないだろ」

「これを身共などに恵んで下さるとは⋯⋯施し、有り難くお受け致します。やはりアヴィ殿の言う通り、シレン殿はお優しい方なのですね!」

「そういうの良いから。罪悪感がデカくなるだけだから。黙って受け取ってくれ頼む」

 

 この際、真実を打ち明けるのは後だ。まずは彼女の空腹を即刻満たしてやれねばと、シレンは後の楽しみを捧げた。

 面をずらしてはぐはぐと饅頭を頬張るサザナを見て、腹は膨れぬが心は少し楽になった。

 しかしまだだ。まだ彼女にしてやらねばならない事はあると、シレンは償いに躍起になっていた。 

 

「とりあえず、ここの支払いも俺が出すから。砥石だったか? ポンコ、とりあえず砥石百個」

「はえ? あ、あのシレン殿、なにもそこまで⋯⋯なにやら目がぐるぐると渦巻いておりますが、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない。大丈夫じゃないから、俺を助けると思って奢られてくれ」

「し、シレン殿。身共は施しは受けまするが、そこまでしていただく訳には⋯⋯」

「あのぉ、悪いっすけど、よそでやって貰っていいっすか? その格好の女の人に貢いでる絵面、もういかがわしさマックスなんで」

「ぐっはぁっ!?」

「し、シレン殿!?」

 

 決して清らかな動機ではなかっただけに、ポンコの指摘が心の隙間を深く刺したのだろう。三度目は地に両膝をついてしまったシレンに、サザナは訳も分からず混乱する。

 だが、そこでサザナはふと閃いた。

 施しは受ける主義な彼女だが、流石に砥石を百個も貰うのは度が過ぎている。ならば代案を出すのはどうかと思い至ったのだ。

 実は困り事を抱えていたサザナにとって、目の前の男は解決するに適した人物だったのだ。

 

「あ。では、代わりと言ってはなんなのですが⋯⋯冒険者であるシレン殿に一つ、お願いしたき事がありまして」

「任せろ。なんでも言ってくれ」

 

 無駄に覚悟完了した顔をするシレンに、サザナは仮面越しに微笑んで、願い出た。

 

「では⋯⋯身共に、ダンジョンの潜り方というものを教えてはいただけないでしょうか?」

 

 

 

 

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