お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。 作:歌うたい
「ふうん。ダンジョンに潜りたい、かぁ。そういえば出稼ぎで遠くからこっちに来てるって言ってたもんね」
「はい。しかし冒険者登録にも費用がかかるものでして。稼ぎに来たつもりが元手がなく、どうにも困っているのです。そこで、シレン殿に引率を頼めないかと」
湯気立つミルクをクピっと飲み干して、アヴィはサザナになるほどと頷いた。
外は夕暮れ、場所は変わってエスカリエ邸である。
毎度ミッシェルの屋敷から此処へ
シレンが連れてきたサザナに、家主であるエスカリエが自分の物を着せたのだった。
狐の面は健在な為に奇妙な格好に変わりないが、やはりサザナは気にした様子もなく、シレンへの頼み事をアヴィに話していた。
「インターン制度ですね。Cランク以上の冒険者の引率があれば、登録前でも一回のみダンジョンに潜れる特例措置。それを使いたいと」
「その通りであります。それなら身共でもダンジョンに赴いて、登録料を稼げます。加えて、今後の為にも手ほどきをいただけたらと」
エスカリエの言葉に、然りとサザナは頷いた。
インターン制度とは、エスカリエの言葉通りの特例措置である。元は利益を多くもたらす冒険者を少しでも増やしたいが故にギルドが定めた政策であったが、今では不要な犠牲を防ぐ為の制度となっている。
冒険者登録してからダンジョンに潜るとはつまり、いきなり実戦を行うに等しい。まだ駆け出しであれば思わぬ事故にも冷静に対処出来ない。そのまま命を落とす、という事例は過去に何度もあったことだ。
ようはこの制度は社会科見学であり、潜れるダンジョンも最高で中級地域の上層までとなっている。
冒険には危険がつきものとはいえ、不要な犠牲である。また冒険者以外にもその人物にあった道はあるのだ。自分が冒険者を志すべきかどうか、それを肌で感じる為にこの制度を使う者も多かった。
「ならシレンはうってつけですね。サポーターをしてただけあって、ダンジョンの知識は人一倍ですし」
「ああ。今度アヴィにもダンジョンの攻略方法を実践する約束していたし、せっかくならサザナも一緒にどうかって思ってな」
「んー」
一発Sランク認定者とはいえ、アヴィはまだダンジョンに潜ったこともない。なので今度レクチャーする予定だった所に、サザナも混ぜようかという話である。
アヴィは爪先を弄りながら、気のない声を漏らした。アメジストの瞳がちらりとシレンを見やる。どこか物言いたげな視線は、彼につい先程の記憶を思い出させた。
『本当のこと、言っちゃったの?』
『ああ。といっても全然信じて貰えなかったがな。なんど言っても「気遣われなくても結構です」とか「その施しは受けられません」としか返って来なかった』
『⋯⋯むう。アヴィがついた嘘なのに。まーたせんせいってば勝手なことしちゃうんだから。あ、アヴィが先に勝手したって意見は受け付けませーん』
『こいつめ。ま、そもそも負けた俺が悪いし、お前を責める気はないがな。ところでお前、どうしてあっちこっちで俺の評判を⋯⋯』
『おっとっとー。風が強くて良く聞こえなかったなー』
『だから、俺がさも凄い人物だって方々で言い回ってる理由⋯⋯』
『うーん、今日は空が青くて清々しいナー』
『⋯⋯惚け方は執事譲りか』
結局確信には触れさせず、シレンを持ち上げている狙いは分からなかった。リードマインに期待するも不発と、こうなればお手上げであった。
「ま、アヴィちゃんはオッケーだよ。サザナちゃん本当に困ってそうだし。よわよわせんせいとだけじゃサザナちゃんが危ない目に遭っちゃうかもだし? アヴィがいれば心配ご無用。だよね、エスおねえちゃん」
「ふふ、そうですね。アヴィちゃんは頼りになりますからね」
「えへー」
エスカリエに撫でられて、天使の様な笑みを浮かべるアヴィである。その笑みにエスカリエは嬉しそうに微笑むが、シレンは少し納得がいかないものがある。
アヴィはメスガキである。しかしエスカリエに対してはとても素直に甘えているのだ。冒険者登録の為の準備期間で、顔を合わせた二人。しかしアヴィはいつものメスガキ節を見せることなく、むしろエスカリエを褒めそやしたのだ。シレンやクロームの時とは大違いである。
結果エスカリエはアヴィを気に入り、今では姉妹のように仲が良い。険悪になられるよりマシだが、やはり腑に落ちないシレンであった。
◆
「東の隠れ里『朧』ですか⋯⋯聞いたことがありますね。元々は傭兵を生業にしていた、独自の文化体系をもって発展した集落があると。サザナさんはそちらの出身なんですね」
「左様であります」
「たまに市に朧の行商人が来ることがあって、珍しい品ばかりだから良く売れてたみたいですよ。ほらこれ、前にシレンが面白がって買ってきてくれたんですけど⋯⋯」
「おお。
赤い羽根を指先で押しながら、サザナは懐かしそうに微笑んだ。
「ふうん。ちょっと面白そう」
「良き所ですよ。隠れ里と称されておりますが、外来を拒んでる訳ではありませんし。たまに外からやって来る方々もいらっしゃいますから。ただ朧には変わった風習が多く、はじめて来る方々は皆面食らっておりますが」
「へえ。あ、じゃあその狐のお面も風習なのぉ? 皆お面付けて生活してるって、なかなか凄い絵面だけど」
「あ、いえ。これは身共の為に母上がこしらえてくれたものでして、他の者は頭巾で顔を隠しております」
(頭巾って、忍者が口元隠すあの布か。隠れ里っていうし、昔の日本みたいな所っぽいな)
サザナの話を聞いて、シレンは古き日本の集落を想像した。基本自給自足というし、サザナ自身も黒髪や長太刀からして和の雰囲気を醸し出しているから、おおよそイメージとは遠からずであろう。
「ん? でも行商人に会ったとき、頭巾で隠してはいなかったような」
「それは、顔を隠すのは女人だけだからでありますね。朧の里の女は、家族以外に顔を全部見せてはいけないという風習があるのです」
「どうして見せちゃダメなのぉ?」
「全てを晒すという事は、委ねる事と同義だと考えられているからとか。故に伴侶となる御仁にしか、顔は見せてはいけないものだそうで」
「え。じゃあうっかり見られたらどうするの?」
「その場合は事故ということで無効であります」
「あ、結構アバウトなんですね⋯⋯もっとお堅いものかと。でもちゃんと気を付けてくださいね、シレン」
「何故そこで俺」
急に向けられた矛先に戸惑えば、エスカリエがじとっとした視線を送ってきた。同居生活を送るにあって、そういうラッキースケベ的なイベントが発生しなかったといえば嘘になる。が、そういうのは基本エスカリエが寝惚けていたりぼーっとしてたりが原因なので、責められるのは不服であったのだが。
「はっはっは。心配は不要です、エスカリエ殿。身共もこれに関しては相応に注意を巡らせておりますので、シレン殿に顔を見られるなんて事は。それこそ空から槍なり星なり降ってくるような変事でありますから」
「「「あっ」」」
「はえ?」
自信満々に胸を張るサザナの言葉に、なにやらフラグ成立の匂いを感じずには居られない面々であった。