お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。   作:歌うたい

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今までサザナを四雅流『師範』と表記してしまいましたが、『家元』に修整させていただきました。よろしくお願いします。


第21話『微糖幸福と激苦不運』

 

 極寒と言えば、辺り一面銀世界を想像するものだ。実際に外の景色は凄まじい吹雪なのだろう。四方をオーロラの壁に囲まれていながらも、吐息は濃い白に色付いている。

 場所はC級ランクダンジョン『凍てついた霊廟』。かねてよりアヴィ、そしてサザナと共にダンジョンへと訪れる約束を今日果たしている訳であった。

 

「それにしても驚いたであります。ダンジョンとは如何なるものか、如何なるように訪れるのか。右も左も分からぬ若輩故に、想像だにしませんでしたか」

「ああ、ワープゲートか。確かにアレは面食らうよな。大陸各地のダンジョンの入り口と繋がるゲートの作成⋯⋯そんな便利な真似ができるから、ギルドユニオンが成立してる理由付けにもなるんだが」

「ふむ。確かに大陸中のダンジョンの管理など、いちユニオン、どころか一つの国家でさえ無理そうですからなぁ⋯⋯」

 

 てっきり馬車なり竜車なり使って現地へと移動すると思っていたのだろう。まるで近代SFの様にズラッと並んだワープゲートに面食らってるサザナ、そしてアヴィの表情は記憶に新しい。

 シレンの目から見てもワープゲート技術は、スマホだって開発されていないこの世界の文明には、明らかなオーバースペック。その技術については公表されていないが、恐らく【唯一法】によるものだろう。

 原理や詳細が気になる所だが、一方で害が無くて便利ならそれで良い、と割り切った考えを持つ冒険者が大半である。シレンもまたその例に漏れなかった。やはり根は単純な男であった。

 

「しかし『四雅流』の看板を継ぎ、家元となった身共のなんたる未熟なことでしょう。ようやく出稼ぎの機会にありつけたというのに、気が逸っているのか。これほどまでに武者震いを抑えられないとは⋯⋯」

「いや、単に寒いから震えてるだけだろう」

「はえ?」

 

 キョトンと首を傾げるサザナに、シレンは参ったとばかりに頭を掻いた。凍てついた霊廟というダンジョン名が冠する通り、この場は極寒。氷点下。サザナの肢体が小刻みに震えてる理由は言わずもがなであった。

 

「あ、これはお恥ずかしい所を⋯⋯、──心頭滅却⋯⋯むん!」

「おお、なんか薄っすらオーラみたいなのが」

「『四雅流』とは元々、修練によって如何なる欲の(さざなみ)にも揺らぎなき、明鏡止水の心を得ることが目的の流派ですので。このくらいの寒さなど、ご覧の通りへっちゃらであります」

「⋯⋯そうなのか。大したもんだな」

 

 ようは気合でなんとかしてるのだろう。えへんと無垢に胸を張られては、シレンとしても頷かざるを得ない。

 四雅流家元。一つの流派の看板を背負うにはあまりに若く色々と天然なサザナだが、技の冴えは本物である。

 

「ふふ。しかし気構え、心作りだけが四雅流ではないことを、シレン殿にも是非お見せ致しましょう⋯⋯!」

「⋯⋯あー。そうしてもらいたいとこなんだが、な」

 

 充分に身を持って知ってる立場であるシレンであるが、サザナはやる気に漲っているらしい。さあ敵はいずこに、とばかりに長太刀に手を添える天然剣士。

 そこに、無邪気な笑い声が回廊に響き渡った。

 遅れて、爆撃めいた音と⋯⋯沢山の断末魔もセットで。

 

「アハハハッ! かんたん、かんたんっ! はぁい、あげるっ⋯⋯『ファイアブレス(火蜥蜴の吐息)』!」

【ギュピィィィィ!?!?】

「よわよわだなぁモンスターって♡ じゃあこれだともっと簡単に溶けちゃうのかなぁ?──イフリートフォース(巨人の灼腕)』ー!」

【アァ、アァァ⋯⋯】

 

 そこには箒に(またが)り宙を駆けながら、炎属性魔法で無双するメスガキの姿があった。言うまでもなくアヴィである。

 ビジュアルだけなら往年の魔法少女を思わせる。サディスティックな笑みを浮かべながら、かつ無邪気にモンスターを殲滅していく。氷の巨人だろうが、氷の鳥だろうが水晶髑髏の兵士だろうが、一切合切が彼女の放つ炎魔法に呑まれていく様は、もはやアヴィ自身が小さな魔女に映った事だろう。

 

 そのリトルウィッチの跨る箒は、シレンのアイデアを元にポンコが作製した試作型魔道具であった。炎の魔力を媒介に浮力を得て、長時の使用は媒体自体の燃焼発火に繋がり兼ねないために短時間でのみ、空中移動が可能な性能となっている。当然だが、その制御が非常に難しい魔道具だ。

 しかしそれを装備して初日、どころか一時間も経たずしてああも縦横無尽に駆けるとは、やはりアヴィの魔力制御は天才という他ない。

 弟子へのプレゼント兼、自分のアイデアを形にしてみたいというささやかな欲求から産まれた魔道具『箒星(ティンクル)』だったのだが⋯⋯結果は鬼に金棒、虎に翼。はっちゃけたアヴィによってダンジョンフロアはすっきりと掃除され、四雅流の冴えを披露出来る相手など、既にどこにも居なかった。

 

「アハハ、ねえせんせー! この『箒星(ティンクル)』ちゃん、すっごく楽しいー! アヴィちゃん気に入っちゃった!」

「あ、ああ、そうか。アヴィ用に発注したやつだからな、気に入ってくれたならなによりだ。だが説明した通り長時間の滞空は箒星自体の負荷になる。試作型なんだ、くれぐれも用法用量を守って使用してくれ」

「もぉ、分かってるってば。せっかくせんせいがアヴィちゃんの為だけに考えてくれたマジックアイテムだもん。箒に乗るってどんな発想って思ったけど、意外と悪くなかったし⋯⋯これからもずっと末ながぁく使ってあげないと。ねっ♡」

「⋯⋯お、おう」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 気になる言い回しもあったが、気に入って貰えたのならば用意した甲斐があるというものだ。しかし爽快な想いを堪能した者が居る一方、消化不良に沈む者も残っているのだ。

 しょんぼりとする狐面へ気まずげに視線を送りつつ、シレンはそっと助け舟を出した。

 

「初ダンジョンって事でなるべくアヴィの相性の良さそうな所を選ばせて貰った訳だが、予想以上だったな。けどアヴィも流石に張り切り過ぎただろ。どうだ、今度はサザナの方に出番を譲ってやるってのは」

「は!⋯⋯ええと、アヴィ殿、身共としても己が腕がどれほどダンジョンのモンスターに通ずるか試してみたいのであります」

「え?⋯⋯せんせい、アヴィの活躍もっとみたくないの? せんせいはアヴィのせんせいなのに、サザナちゃんの活躍の方が見たいの⋯⋯?」

「は?!」

 

 まさかの上目遣いにしょぼくれ顔のメスガキであった。基本弱みを見せない生き物であるメスガキの見せる、傷付いたかの様な陰り。反則である。

 

《いひひ。困ってるせんせい可愛いなぁ♡》

(こいつっ、やはり確信犯かッ!)

 

 が、これは孔明の罠ならぬメスガキのからかいであった。

 久々のリードマイン発動によってアヴィの本心を知ったシレンは、ぺしりと魔女っ娘の額を小突いて仕切り直す。

 

「あたっ」

「大人をからかうな。よし、次のフロアはサザナを先頭に進んで行くとしよう。モンスターとの遭遇戦に注意しつつ、頭には常に踏破したエリアの構造を思い浮かべながら進む様に。いいな?」

「かしこまり、であります!」

「⋯⋯」

「アヴィも。ちゃんと着いて来なさい」

「っ! はいはーい、分かってますよーだぁ」

 

 我が意を得たりと歩み出すサザナに付き添う広い背を、少女はじっと見つめては、やがてゆっくりと追いかける。

 片方の手は彼から貰った箒を掴み、もう片方の手は小突かれた部分を撫でながら。

 ほんの指先で突っつかれただけで、痛みも既になければ痕にもならない。

 

「えへへ」

 

 まるで雪のひとひらみたいだと。

 少女は少し切なそうに、けれど愛おしそうに、目尻を細めた。

 

 

 

 既に一度、正面から打ち負けてるシレンからすればサザナの腕など疑いようもない。実際出てくるCランク相当のモンスターの数々も、一刀により容易く斬り伏せられ、まるで相手になってなかった。

 これならば此処の攻略は問題なく進むだろう。もう少し歯応えのあるダンジョンを選ぶべきだったかなと、シレンは少し反省した。反省したかった。

 凍てついた霊廟の攻略は、全然問題なくなかった。

 主にゲストであるサザナのおかげで。

 

「シレン殿。ここの氷で出来た床、そしてこの立て札は⋯⋯」

「ああ。ダンジョンギミック、そしてヒントだな」

「『同じ轍を踏むことなきよう』⋯⋯つまり一回踏んだ床はもう二度と踏んじゃダメってことだねぇ。あは、単純じゃーん」

「おお、確かに。進めばピシリと(ひび)が入りましたね⋯⋯面妖な」

「要は俯瞰的にこの床エリアを見て、一筆書きにゴールまで辿り着けってことだな。気を付けろよ。確か落ちた床の先にはモンスター達がひしめき合ってるって話だったはずだ」

「なるほど、かしこまり、であります。では次は皆で同時に渡⋯⋯あっ」

「「あ」」

「ひょわああああああぁ⋯⋯、⋯⋯⋯⋯!!!」

「「⋯⋯⋯⋯」」

 

 彼女は不運であり、そして輪にかけて天然であった。

 ダンジョントラップに、不運と天然の相乗効果が乗ればどうなるか。シレンとアヴィは、その恐ろしさを身を持って知ることとなった。

 

「おや、見てくださいシレン殿、アヴィ殿。この様な所になにやら怪しげな宝箱が──にょわぁぁぁぁあ!!!!」

「怪しげって自分で言ってただろ! それはミミックだ、迂闊に触るな!」

 

「むむ、この壁の一部。妙な所に出っ張りが⋯⋯ポチっとな、であります⋯⋯はえっ!? 天井から氷の槍衾(やりぶすま)が!」

「どう考えても何かの罠だろうが! 迂闊に触んなって言っただろうがぁぁぁぁ!!!」

 

「あれ、サザナちゃんどっか行っちゃった?」

「は? 目を離した途端にこれか⋯⋯って、おい! 氷樹の蔦に絡め取られてんじゃないか!!」

「わ。氷が溶けててなんだかえっちだぁ。これは見せられないねえ」

「心頭滅却、心頭滅却⋯⋯ふう。残念でありましたな。蔦の冷たさも、四雅流を修めし身共の明鏡止水の前ではもはや涼風に等しく──」

「落ち着いてる場合か先に脱出しろよ天然剣士ぃ!!」

「はえ?」

 

 ご覧の通りの有様だった。

 犬も歩けば棒に当たる勢いで、サザナはダンジョントラップに引っ掛かりまくったのだ。

 興味心を光らせた彼女自身の自業自得もあれば、不運が噛み合ってしまったケースもある。

 特に氷樹に捕らわれた際は酷かった。蔦の纏う氷が溶けたせいで服が濡れ、しかも心なしか、溶け水が妙にトロみがついて見えたのだ。

 お前本来そんな成分ないやろが何サービス精神出してんねん氷樹コラと、シレンに流れた覚えのない浪速の血が騒いだのも無理もない。

 

「サザナ。お前が強いのは良く分かった。でもこれだけは言っておく。お前は今後、絶対、二度と! 一人でダンジョンに潜るのだけはやめておけ⋯⋯いいな?!」

「で、ですが身共は出稼ぎに⋯⋯」

「い・い・な!?」

「⋯⋯ぁぃ」

 

 ダンジョン難易度を漏れなくワンランクは上げているサザナの不運と天然の相乗効果に、シレンはガチの忠告を送ったのだった。

 

 

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