お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。   作:歌うたい

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第28話『魔王城謁見』

「決闘罪、なんてものがギルドの法にあったなら、この頑固者の無茶を止めてあげられたんですかねぇ⋯⋯」

「どうした藪から棒に。図書館の魔女から法務の魔女にジョブチェンジでもしたいのか? お前にはそういう堅苦しいのは似合わないと思うけどな」

「余計なお世話ですよ。ちょっと荒事好きなこの街の性分を嘆いてみただけです」

「喧嘩や決闘は冒険者の街じゃ華の一つだからな。建物を派手にぶっ壊したりでもしないと、ギルドは介入なんてしないぞ」

「ですよね⋯⋯はぁ」

 

 夜にはもう帳が落ちていて、蝋の些細な火が頼もしい。スープをゆっくり掬いながらも、どこか惚けた調子は保つ。そんな男の無茶を止めるには、冒険心を忘れない街にはないらしい。困ったものだと、エスカリエは嘆息をこぼした。

 

「アヴィちゃん、呆れてましたよ。いくらなんでもサザナさん相手に決闘だなんて無茶苦茶にも程があるーって」

「ああ。本人から既に耳にタコが出来るくらいに言われたって。だが、無茶でも苦茶でもやるしかないんだよ。呪いの対象である俺が、正面からムラマサをぶっ倒す。俺が思いつけたのは精々それくらいだ」

「⋯⋯荒療治にも程がありますよ。まったくもう、ほんとにもう。シンプルに解呪のアイテムとか探した方がいいんじゃないですか?」

「無理だろうな。カースウェポンの中でも相当な年季入りの代物だし、多分本人の心理的トラウマと深く結び付いてる。生半可な解呪アイテムじゃ効果なし。一級品でもよっぽど上手くいかなきゃ、廃人コースだろうからな」

「⋯⋯」

 

 『顔を見られた異性の相手を斬る』という呪性は、間違いなく父を斬ったサザナのトラウマが端を発している。ならばその呪いが発動した上で、『斬れない』という結果を与えてやる。呪いとは一種の契約だ。そもそもそこを破綻させる事で、ムラマサとサザナの結び付きを希薄にする。それこそがシレンの狙いである。

 だがこの方法は言うまでもなく、シレンのリスクが高過ぎる話だ。故にシレンは詳しい説明を挟まず、サザナに一方的に時刻と場所を申し付け、すたこらさっさとポンコ宅を後にしたのだ。

 決闘に応じない限り、俺はお前の謝罪なんて少したりとも受け入れてやらんぞと言い捨てて。贖罪を人質にして、シレンはサザナを囚えたのだ。

 

「⋯⋯死んじゃうかもしれませんよ?」

「⋯⋯相手が相手だ。有り得ないなんて口が裂けても言えないな。腹は裂けたが」

「笑えませんってば。センスないんですから」

「辛口なだけだろ⋯⋯ま、一週間どころか後二日あれば全快だ。優れた科学は魔法や奇跡と変わらない。なら優れた魔法はもっと奇跡を起こせるもんだ」

「カガク?」

「こっちの話だ、気にしなくていい」

「はいはい、そうですか。良く分かりませんが、平気って事ですね。じゃあ今私が転んでうっかり傷口ごとシレンに飛び込んじゃっても、奇跡がなんとかしてくれそうですねー」

「笑えません。本当にすみませんでした」

「まったくもう、ほんとにもう」

 

 本当に困った幼馴染だと、もう何度も思った定型句。それでも最後に確かめるように、エスカリエはシレンに問う。

 

「シレン」

「なんですか」

「勝てるんですか?」

「勝つさ。打てる手は全部打ってでも、俺が勝つ」

「⋯⋯⋯⋯分かりました。なら、その日はグリルチキンでも焼いて待ってますよーだ」

「⋯⋯悪いな」

「⋯⋯ありがとうです、そこは」

 

 言いたい事は言った。ならば後は待つだけだと、幼馴染はシレンの寝室を後にした。咎められた上で、去り行く背中にもう一度詫びを重ねながら、シレンは大きく息を吐いて、目を閉じた。

 

「⋯⋯魔剣(カースウェポン)⋯⋯!」

 

 ギリリッと鈍い音が鳴る。

 閉じた両目からは、色が見えない。しかしそこから漏れ出る感情は極彩色だった。

 サザナをなんとかしてやりたいと思う心は確かだが、それが全てではなかった。他人の為に無謀に命を差し出せるほど、シレンは狂人でも聖人でもない。

 だからこの決闘は、極個人的な私闘でもあるのだ。

 故に全ての手を尽くしてでも勝つと、瞼の裏で揺らがぬ決意を燃やしていた。

 

 

 

「⋯⋯で、あんな啖呵切って置いて、こんなとこで何してるっすかね?」

「んあ? なんだポンポコか。おっす」

「おっす⋯⋯いやだから狸じゃないっすってば!」

 

 相変わらず見事なツッコミスキルだなと、口にすればますますヒートアップするであろう喝采を心内であげた。

 本当は拍手もセットでしてやりたかったが、生憎片手は樽ジョッキで塞がっていた。

 

「こんな所とはご挨拶だな。俺が酒場に居たっていいだろ。むしろお前こそ、こういうとこには近寄らない方だろうに」

「たまたま見かけたちゃったんすよ。数日前にお腹に穴開けたばっかりの人が昼間っからエール飲んでれば、なにしてんだってなるっすよ」

「ま、確かにな⋯⋯けどお前がこっちの方面に寄る事なんて本当に珍しいな。なんだ、空から槍か星でも降らせたいのか?」

「⋯⋯しょうがないじゃないっすか。近くの衣服屋じゃ、あの人のお⋯⋯あ、アレが収まるほどのやつ、無かったんすもん。だからわざわざこっちくんだりまで⋯⋯ああもうなんなんすかあれ、何食べたらあそこまでおっきく⋯⋯うごご」

「(お前もデカい方だろっつったらセクハラ案件。不平等だよなぁ、世の中って)」

 

 つまるところサザナの為という事だろう。シレンが一方的に決闘を取り決めたあの後、ポンコは引き続き自宅にサザナを滞在させる事にしたらしい。呪いの条件に合致しない同性とはいえ、リスクがないとは限らないからと出て行こうとするサザナに、ポンコは譲らなかった。

 

『乗りかかった船じゃないっすけどね。そりゃちょっとは怖いっすけど、女のウチなら呪いも平気みたいっすし⋯⋯このままあの人を放ったら、なんだか夢見が悪そうっすから』

 

 ポンコ・イェヌヴァリタンは一歩懐に迎えた者には、意外と面倒見が良い奴なのだ。その一歩がなかなかに難しいからこそ、困りものでもあるが。

 

「はぁ。仮にも決闘なんて控えてる身っすよね。よくそんな悠長でいられるもんっすね⋯⋯ほんとに大丈夫なんすか?」

「言われるまでもない。そっちこそ、預けてた俺の武器は間に合うんだろうな?」

「ウチを舐めんなっす。それこそ、明日にでもお届けしてやれるっすよ」

「そりゃなによりだ」

 

 ポンコからすれば一肌も二肌も脱いだ大盤振る舞いなのだ。しくじって貰っちゃたまらないと念押す両者。その目には気炎が静かに燃えていた。そんな折、酒場に男の大声が響き渡った。

 

「グハハハァ! 昼間っから飲むエールの味は格別だなぁオイ!」

「いやいや全くですぜオーク隊長!」

「昼間っから酒とかたまんねえ!」

「そんでこのつまみの肉だ。人間(ヒューマン)共の作る飯はうめぇぜオイ。こいつばっかりは荒れ果てた魔界じゃ味わえねえ。感謝しな人間(ヒューマン)、てめえらのその腕がてめえらの身を助ける事によォ!!」

「ホロホロで溶ける肉最高!」

「しっかりジューシーな方も至高!」

 

 いかにも乱暴者ですといった身振り手振りで、暴飲暴食を繰り返す一団が居た。妙な言い回しで騒ぐ男共だが、どれも筋骨隆々の巨体であり、おまけに格好も特異だった。

 腰蓑で腰回りを隠し、棍棒などの鈍器をそれぞれ装備しただけの軽装⋯⋯というか半裸である。

 そんな絵に描いたような蛮族達が、酒場の一席で集まってはやいのやいのと騒いでいた。

 

「うわ、なんすかあれ昼間っから⋯⋯ていうか、え。なんすかあの人達の格好? 腰蓑に棍棒って、なんだってあんな、魔物のオークみたいな格好を⋯⋯」

「ああ。まあ、そりゃあ、あいつらが『オーク隊』だからな」

「⋯⋯はい? オーク隊?」

 

 オークとは、ダンジョンに出現する魔物の一種である。まさにあの一団の様な格好と容貌をしているモンスター。それで例えに出したら、まさにそのものだと返って来たのだからポンコは困惑するしかない。

 おまけに、酒場の空気もおかしかった。あれだけ騒ぎ立ててる一団が居るのに、妙に落ち着いている。シレンのみならず他の客達も、彼らに対しての反応が薄かった。

 ポンコの困惑が加速する。逆にいえば、その反応は周囲から浮いてしまって、目立ってもいた。必然、そういう時は目をつけられてしまうのが御約束である。

 

「ああん?⋯⋯おっ、グヘヘへ、こいつぁ良い。ここらじゃ見かけねえ女がいるじゃあねえか」

「へ? へ? う、ウチ?」

「ククク、初心なリアクションだなぁおい。こりゃオーク隊隊長たる俺様自ら、声をかけなくちゃあいけねえ! おい、どうだいお姉さん、俺と楽しい愉しい時間を共にしねえかい?」

「へいう!?⋯⋯えっ、あ、いや、ちょ⋯⋯お、おお、お断りさせていただきたいっす」

「ああん?! 俺様との酒が飲めないってのかぁん?!」

「ぴいっ!?」

 

 集団の中でも一際に巨体のリーダーから絡まれて、ポンコは半泣きになってシレンの背に隠れる。人見知りからすれば最悪の事態だった。

 

「ちょ、ちょ、なんすかこの人。ま、まずいっす、ウチ、さらわれちゃうかも⋯⋯!」

「あー⋯⋯いや、んなにビビらなくて大丈夫だぞ。だからそんなしがみつくなって」

「いやいやだってあんな強者の男、こ、ここ、怖いっすもん! ビビんないなんて無理っす!」

 

 すわ貞操の危機である。なのに頼りのシレンはまるで焦っていない。それどころか席すら立たない。淡白過ぎるシレンに、薄情者と恨むポンコだった。

 しかし。

 

「ほほう、ナイト様のご登場か! てめぇがメスだったらもれなくオークと姫騎士の黄金コンボが決まってたっつうのによぉ!!」

「頭ん中同人誌かお前⋯⋯女騎士への風評被害エグすぎだろ」

「チィ、オス相手じゃ気乗りがしねえ。それにオス相手じゃあっさりやられちまうなんてのもオークの持つ宿命。オーク隊隊長の俺様がここで倒れちゃ、他のオークどもが路頭に迷っちまう⋯⋯仕方ねえ退いてやる」

「えっ」

 

 謎の理論を一方的に展開し、オーク隊の隊長はあっさり退いて、元の席へと戻っていった。

 

「⋯⋯え、えらくあっさり退かれたっすねえ」

「ああ。大丈夫だって言ったろ。なんせこいつら⋯⋯ただロールプレイしてるだけだし」

「⋯⋯は?ろーるぷれい?」

 

 ロールプレイ。いやなにそれ。さも当然のように言い切るシレンに、めくるめく疑問符が尽きないポンコである。

 

「⋯⋯我がオーク隊にお付き合いいただきありがとうございます。こちら、迷惑料でございます⋯⋯」

「ああ、いいっていいって。隊長さんも大変だって分かってるから」 

「⋯⋯住民の方々のご理解感謝を。それでは失礼します」

「ああ、おつかれさん」

「えぇぇ⋯⋯」

「いやー肴にゃ丁度良い寸劇だったぜ」

「相変わらずだねえ魔王軍は」

「俺もいっかいあれに付き合った事あるけど、結構楽しかったぞ?」

「あの兄ちゃんが姉ちゃんだった展開も見てみたかった気も⋯⋯」

「えええぇ⋯⋯」

 

 つまりはオーク隊とかいう連中の、オークロールプレイに巻き込まれたのである。なにその辻斬りならぬ辻劇と、ポンコはげんなりする他ない。

 

「⋯⋯なんなんすかアレ」

「ここらに寄り付かないんじゃ知らないよな。あれ、魔王軍の名物だよ」

「は? 魔王軍⋯⋯魔王軍?! それってユニオンランク序列二位の【魔王軍(ダークレギオン)】のことっすか!?」

「そうだ。傍から見れば結構愉快な連中だぞ。ああやってモンスターRP(ロールプレイ)をノリノリでやってる奴もいれば、嫌々やってる奴もいるからな」

「嫌々って⋯⋯強制なんすか?」

「ユニオンリーダーがそういうの好きな奴なんだよ。アレが出来なきゃそもそも入団出来ないって話だ」

「い、色々あるんすね、ユニオンって⋯⋯はは、ははは」

 

 ユニオンランク序列二位。つまりユニオンの上から二番目。あれが、この冒険者の街の上から二番目の一員達。

 ポンコはコメントに困った。愉快は愉快だがそれでいいのかと問いたい。でもあんまり関わりたくない。結果、渇いた笑いでサッと流す事にした。人見知りなりの処世術である。

 

「あ。そだ。聞きそびれたっすけど、結局こんな昼間っからエール飲んでるのはなんでっすか? 普通にお食事とかだったら、お邪魔してすいませんって話っすけど」

「ああ⋯⋯まあ、食事っちゃ食事だが⋯⋯ちょっと景気付けにな」

「景気付け?」

 

 とりあえず話を変えようとするポンコ。しかし、なんという事だろう。話は全くもって変わってなかった。

 

「今から、件の【魔王様(ユニオンリーダー)】に謁見して来るんだよ」

「⋯⋯はっ?」

 

 

 

 

 

 

「クハ⋯⋯クハハ。クハハのハハハァ!」

 

 響き渡った狂笑に、呼応して雷鳴が轟いた。

 荘厳なステンドグラスを背に、爛々と燃える燭台。さらにはその両端に【首無し騎士(デュラハン)】と【黒衣纏いの魔道士(ダークメイジ)】を侍らせる。

 血よりも暗い深紅色のカーペットが伸びた先。絢爛さと悍ましさを掛け合わせたかの様な装飾の玉座に、女は居た。

 

 ところどころに暗い紫の色が混じるマゼンタカラーの長髪に、月の如き黄金色の瞳。両側頭部からは闘牛の如き鋭角を伸ばし、全てを嗤う歯は一つ一つが尖っている。

 人の身にあらずと視覚的に訴える青き肌が露出した豊満な肢体は女として色香を放つが、そこに心を囚われている暇に全てを蹂躙尽くされる。それほどの威圧感を放つその存在。

 此処は、魔王城の謁見場。ならば首無し騎士と闇の魔道士を傍らに、玉座に座るその女が誰かなど、問うまでもない。

 

「久しぶりではないか、人間(ヒューマン)のシレンよ。よもや貴様から魔王に謁見を求めるとは、どういう心の風向きであろうかなぁ?」

 

 序列二位ユニオン【魔王軍(ダークレギオン)】。

 彼女こそが、その長たる魔王──メルジュ・ダークディセンバーであった。

 

 

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