お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。   作:歌うたい

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第29話『対価は勇者遊戯』

「久しぶりではないか、人間(ヒューマン)のシレンよ。よもや貴様から魔王に謁見を求めるとは、どういう心の風向きだろうかなぁ?」

 

 天上天下。唯我独尊。魔の王たる者こそ我なりと、魔王メルジュは片膝をついて頭を垂れる謁見者を見下ろす。

 この街で二番目のユニオンの頭領たる女である。堂に入った尊大な振る舞いはむしろ型にハマっており、自然であった。

 形式的に片膝をついていたシレンは、ゆっくりと立ち上がり魔王と対峙した。

 

「⋯⋯勿論、ただの挨拶って訳じゃない。魔王メルジュ。あんたに頼みがあって来た」

「ほう。頼み、と来たか。クハ、クハハ。人間が魔王に頼み事とは面白い。良いだろう、言ってみろ。魔王が許可する」

 

 矮小な人間が途端に気安い口調で述べることを、魔王は咎めなかった。むしろ愉快だと喉鈴を震わせながら許し、先を促す。そんな機嫌の推移を現すように雷鳴が再び轟いて、燭台の火が大きく燃え盛った。

 

「最低Sランクのダンジョンでのみ採取出来る、レアアイテム『アンブロシア(一齧りの奇跡)』────これを、俺に譲って欲しい」

「「!」」

 

 シレンが魔王城まで到来した目的を知り、これまで身動ぎ一つしなかった両脇の側近達が明らかな反応を示す。

 しかし、もっとも大きく反応したのも魔王メルジュであった。

 口角を更に広げ、実に愉快とばかりにシレンを金色の目で射抜く。だが同時にその身から放たれる威圧感が色濃く増していた。

 

「分かっているのだろうな、貴様。人間(ヒューマン)風情が、魔王に契約を求めるなど⋯⋯相応の対価は用意する、その覚悟があってのコトだろうなぁ?」

「⋯⋯ああ。当然だ。」

「良いだろう。ならば聞かせてもらおうか。この魔王メルジュを納得させられると豪語出来るだけの対価とやらを。アンブロシアを望む代わりに、貴様は何を差し出すつもりだ? 人間(ヒューマン)のシレン!」

 

 魔王相手に交渉をもちかけるなど、それ自体が傲慢であり不遜なのだ。これで下らない対価を示すのであれば、天秤に乗せるよりも前にその愚行を後悔させてやる。

 戯言など許さないと言外に目一杯含ませた魔王に、シレンは静かに頷いた。

 サザナとの決闘には欠かせないモノを得る為に、此処に来たのだ。予め充分な勝算をもって、魔王との交渉に臨んでいるのだ。

 覚悟などとうに出来ていると、シレンは深く呼吸をしてから、その対価を提示した。

 

 めっちゃ震え声で。

 

「一週間⋯⋯い、いや半月間。ま、毎日三時間、魔王メルジュとの⋯⋯ゆ、ゆ⋯⋯ゆう⋯⋯勇者遊戯に、つ、付き合う。それが俺の提示する、た、対価だぁ!」

「「──!!?」」

 

 若干やけくそ気味にシレンの示した謎過ぎる対価に、側近二人は先のアンブロシア云々よりも大きく反応を示した。それはもう露骨に。字幕をつけるならうっそだろお前と言わんばかりに。

 だが、またしても。側近二人よりも一際に大きく反応したのも魔王メルジュであった。

 

「⋯⋯ほう。ほおう。ほほほほぉぉぉーう! 言ったな! 言ったなお前ってば、言ったな! 毎日三時間、半月間の勇者遊戯! フフ、フハハ、フハハのハハハ!! いやったぁー!」

「ま、待たれよ。グレイジュライ。貴殿の要求するアンブロシアは、高額で手配される物品。本当に釣り合うか、甚だ疑問也」

「全くだ。仮にもSランク以上のダンジョンからしか入手出来ない貴重なアイテム。これは我ら魔王軍が吹っ掛けられているのではと、ダークメイジたる私は判断する。魔王様、どうかご再考を」

 

 いやっほーいと全身全霊で喜ぶ女魔王に口を挟んだのは、側近二人であった。いかにもシレンの対価を棄却する様な妨害。しかし実情は全然違った。

 

《無茶すんなってお前⋯⋯俺なんて毎日首無しポーズする為に変な姿勢してるもんだから、身体バッキバキなんだぞ。甘く見ないほうがいいって》

《メルジュ様が特にお気に入りの『まおゆう(魔王×勇者)』ロールプレイを毎日三時間、それも半月なんて⋯⋯羞恥心で普通に死ねるわよ。やめときなさい、シレンくん》

 

 待て止せ血迷うな、今ならまだ引き返せるからやめといた方がいいぞと。リードマインで流れて来る心は、割とガチでシレンを心配していた。

 

「えー。でもおぬしらの勇者遊戯下手だもん。それに、別にアンブロシアもストックがない訳でもないであろう。魔王は全然安い買い物と思うぞ。それにおぬしら下手だし⋯⋯」

「「しかし⋯⋯」」

「か、か、構わない。も、目的の品を得るなら、多少煮られようが焼かれようが⋯⋯」

「フフ、貴様との勇者遊戯は格別だからなぁ! やりたかった展開がソレはもうたーっぷりと溜まっておったのだ! ざっと三百ほどの『まおゆう設定』があるぞ、喜べシレン!」

「くっ⋯⋯ころせ」

「誰が姫騎士をやれと言った!」

 

 魔王の対義語とはなにか。即ち、勇者である。光と闇。コインの表裏。魔王と勇者は切っても切り離せない関係性。

 勇者遊戯とは即ち、魔王メルジュ相手に勇者をロールプレイする事である。

 なおその内容は多岐に渡る。オーソドックスな魔王と勇者の敵対関係から、少し変化球な『実は真なる黒幕が居て、共闘する』なんて展開から、完全にカーブ球な『実は血の繋がった兄妹』『実は前世親子』『実は前世恋人』『実は前世異世界でバッテリー組んでた野球プレイヤー』なんてのもある。ちなみに最後のは、過去にシレンがとち狂って考案した設定であった。

 そう、シレンが何故ユニオンランク第二位の首魁であるメルジュと繋がりを持っているのか。そこには特に山より高くも海より深くもない理由があったのだ。

 

『次、そこの男。貴様、勇者をやってみろ』

『は?』

 

 過去、誰か良い勇者役は居ないかなと都を散策し、目に付いた者を片っ端から軽い勇者遊戯に付き合わせていた時のことである。

 そこにシレンが通りかかった。捕まった。そして面倒な流れから一刻も早く解放されようとガチでシレンが演じた。

 シレン・グレイジュライは転生者である。そして転生元は娯楽が山程あり、勇者をメインにした創作物など腐るほどに溢れた現代日本である。ついでに言えば、彼はそういうものが好きだった。だからこそそこいらの異世界人よりも余程勇者が出来てしまった。結果、メルジュがシレンを滅茶苦茶気に入ったのだ。

 それからは時折、魔王軍に拉致され勇者遊戯に付き合わされる哀れな冒険者が居た。しかもアホな事に、設定がマンネリしつつある事に悩む魔王に、異世界仕込みのトンチキ設定を言っちゃったものだからもう大変。

 力尽くの拉致はなくなったが、その代わりに魔王の軍門に降れという魔王式ユニオン勧誘が毎日行われたりした。ガーゴイル隊がひたすら無言で勧誘チラシを押し付けてくるのは普通に怖かったし、サキュバス隊が羞恥心を抑えながらも色気振り撒いて勧誘してくる日には、普通に申し訳なかった。

 ほんとすいませんお姉さん方。良いのよ坊や。両者とも目の死んだアイコンタクトが交わされた、そんな悲劇もあったのだ。

 

 更に言えば魔王メルジュは魔王と勇者のRP(ロールプレイ)には特に拘っている。手抜きな演技など許さないし、妥協もしない。ガチのRPをしなければ満足しないし、普通にダメ出しもするのだ。

 別に演じる事が特別好きでもないシレンからすれば、これはなかなかにしんどい事である。

 いや、最初の内は楽しいかもしれない。単なるRPの一環がライフワークに挟まるのだ。実際シレンも最初に勇者遊戯をやった時はちょっぴり楽しかった。

 しかしである。エブリデイエブリタイムは流石に辛いのだ。ふとした時の賢者タイムは結構クるよ、とはメデューサ隊隊長がぼそりと零した至言である。

 そして、シレンが軍門に降った際には、もれなく魔王軍の中に勇者隊が爆誕する。もう意味が分からない。光と闇合わさってるやんけ。でも魔王は絶対やる。毎日毎日勇者やらせる。そういう女だった。シレンもそれは流石にしんど過ぎる未来だと確信した。

 結果進退窮まったシレンが、エレンと共にユニオン『グローリー』を設立したりしたのは全くの余談である。

 

 つまり、逃げに逃げていた勇者遊戯を、シレンはこれから毎日三時間、半月先まで為さねばならぬのだ。まさに断腸の想いであった。

 

「ンッフフフ、フハハ、フハハのハハハ! ああ嗚呼、楽しみだなぁ、一日三時間として半月間だから四十二時間。あれもこれもそれも演れるし、むしろシレンと新たな設定を吟味するのも悪くない。ああ滾ってきたぁ、滾ってきたぞぉぉぉ!!!フハハのハハハァ!!!」

「大丈夫だ問題ない、一日三時間童心に戻るだけ。乗れば乗るほど意外と楽しめるから、恥ずかしくない恥ずかしくない恥ずかしくない⋯⋯」

「「(無茶しやがって⋯⋯)」」

 

 シレンの覚悟のほどは、魔王の側近の心を動かしたのやもしれない。デュラハン役の関節柔らか人間ことラハン三十三歳と、ダークメイジ役のダークエルフことラヴェンナ年齢不詳は、勇気あるものへ、そっと敬礼を送ったのだった。

 

 尚、契約成立後。

 監視(という名の見送り)についてきたデュラハンは、去り行くシレンにぼそりと言った。

 

「グレイジュライ。今から、とても残酷な事を貴殿に告げる。心せよ──最近の魔王様がハマっているのは、女勇者との友情物語らしい⋯⋯」

「終わったぁ⋯⋯」

 

 半月の内、確実に一度は女装することが確定した。神は死んだ。シレンは魔王と交わした契約の恐ろしさに、改めて打ちのめされたのだろう。両膝をつき、しばらくその場を動けなかったとかなんとか。

 

 

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