お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。   作:歌うたい

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第30話『魔剣VS剛剣』

 

 草木を千切り羽根とするほどに強い、一陣の風が吹いていた。

 昼下がりの太陽が退屈そうに青空を降りはじめる。場所は冒険者の街の郊外。野草と野花の入り交じる、拓けた丘の上。

 黒絹で顔を覆った剣士と、重装備に身を包んだ冒険者が対峙する。

 

「アヴィに死人みたいな顔してたって聞いたが、ちょっとはマシな感じになってるじゃないか」

「ポンコ殿が色々と身共に世話を焼いてくれたお陰であります。そういうシレン殿も自然な顔色になられて、本当に良かった⋯⋯身共などに案じられても、業腹でしょうが」

「気遣いは受ける主義でね。こちとら冒険者だ。もっと酷い怪我だって負った事もある。気にするなとまでは言わんが、そう卑屈になられてもむしろやり辛いんだが」

「⋯⋯それは、申し訳ありません」

 

 やり辛いのはお互い様なんだろう。深い後悔に沈んでるサザナからすれば、むしろ糾弾される方が楽だった。なのに目の前の決闘相手はまるで意に介した様子もなく、見届人としてやって来ているアヴィとエスカリエも、離れた場所から静観しているだけだった。

 

「シレン殿。本当に、身共と決闘をなさるおつもりですか? 今ならまだ身共を拘束してギルドに引き渡せば⋯⋯」

「利口なやり方だな。だがお断りだ。そんなんじゃ俺の気は晴れない。言ったろう、こいつはリベンジマッチだ。今度は真っ正面から勝ってやるっていう俺の我が儘なのさ」

「我が儘⋯⋯」

「それに相手はお前じゃない。俺の腹に穴空けてくれやがった魔剣(カースウェポン)の方なんでな。悪いが、決闘が始まったら引っ込んでてくれ」

「!」

 

 つまり決闘開始と同時に、顔を晒せとシレンは言っているのだ。ムラマサに完全に意志を渡せと言っているに等しい。そこに脅えを抱かずにはいられないサザナだが、シレンは有無を言わせない気配を纏っている。

 

「この闘いの為に万全を期して来たからな⋯⋯ああ、本当に。万全を期す為に色々準備したんだよほんと」

「え。あの、どうして急にそんな暗い顔を⋯⋯」

「⋯⋯ああすまん、言い出しといてなんだかそっとしといてくれないか。思い出すだけで憂鬱なんだ」

 

 どうやら本当に触れて欲しくない部分らしく、そう言われてはサザナは閉口する他ない。

 余程の苦難を背負ってでも、彼はこの戦いをやり遂げるつもりだ。今日という日に全霊を賭けている証左だった。

 どうして、貴方がそうまでしてくれるのか。浮かぶ疑問を瞳に乗せれば、対峙する男は飄々と肩を竦めるだけだった。

 

「ま、そんなこんなで、こっちは一週間かけてしっかりばっちり準備した訳だ。そうだな、あの日の延長といこう。分析と対策を積んだ冒険者がどれだけ強靭か、特等席で見せてやるさ」

「⋯⋯分かりました」

 

 もはやこれ以上言葉は不要。涼しげな態度の中、グツグツと煮え滾る双眸でそう物語るシレン。それを目にしたサザナは、ゆっくりと己の顔を覆う黒布に指をかけた。

 どうかご武運を。せめてもの祈りを、胸の中で転がした。

 

「さあ、始めようか」

 

 そして冒険者は背の大剣をするりと抜いて、獰猛に笑った。これから始まる激戦へ、尋常ならざる闘志を燃やして。

 

 

「始まるみたいですね」

「うん。でもせんせい、本当に大丈夫なのかな。前の決闘の時も勝てなかったのに、たった一週間でどうにかなるなんて思えなくって⋯⋯」

「ここまで来たら、あの人を信じるだけです。大丈夫、今度こそアヴィちゃんの見てる前で勝ってみせるって励んでましたから」

「ざこざこせんせいの癖に、かっこつけちゃってさ」

 

 対峙する冒険者と剣士。これより繰り広げられる戦いを見守るべく、アヴィとエスカリエは少し離れた場所にいた。

 アヴィは不安に駆られていた。最初の決闘の際、シレンはサザナ相手に押し負けていた。近接戦闘の差は歴然だ。たかだか一週間で埋まるとは普通思えない。ましてやシレンは魔剣状態での対決を望んでいる。ますます勝利は厳しいものに思える。

 しかしシレンに脅えや竦みなど微塵もない。大剣を肩に担ぎ、堂々とサザナを見据えていた。

 

「せんせいって、あんな大きな剣も使うんだ」

「意外ですよね。シレンってダンジョンやモンスターの特性に合わせて色んな武器を使うんですけど、中でも一番得意としてる武器は大剣らしいですよ」

「む、それは初耳。けどあの大剣⋯⋯ほんとに剣って言っていいのかなぁ?」

 

 決闘に挑むシレンは万全を期している。それは彼の装いから現れていた。

 黒い鎧で頭部以外の全身を包み、その手に握るのは、鎧よりもより深き漆黒の大剣だった。

 しかし通常の大剣とは様相が違った。アヴィが言葉に迷うほど、ソレは剣と称するにはあまりに異質だった。

 『刃』が見当たらないのだ。形状こそ大剣のフォルムをなぞっているが、肝心の刃が見えない。厚みのある二枚の黒鉄板をそれぞれ重ねて、柄と握りをつけただけの鈍器に等しい。

 

「⋯⋯歯車?」

 

 そして特にアヴィの気を引いたのが、鍔と刀身の根元にある、大きな歯車の様な機構が付いてる事だった。大剣に関する造詣がないアヴィにも、アレがスタンダードとはかけ離れている事が分かる。

 さらに注視すれば、両刃に位置する部分はむしろ何かを内蔵しているかのように凹んでおり、ますます大剣とカテゴライズするには不格好過ぎた。

 アレでは何かを斬る、という事は不可能だろう。叩く、押し潰す。そういった野蛮な鈍器にしか思えなかった。

 しかし。この漆黒の大剣こそがシレン・グレイジュライの手にもっとも馴染む武器であり、幾多のダンジョンを共に掻い潜ってきた相棒であった。

 

「はじまりましたね」

「!」

 

 シレンの大剣に気を取られている間に、戦いの火蓋が切って落とされたらしい。サザナの顔を覆っていた黒絹が宙を舞い、一陣の風が砂をさらう。

 その細身に宿る気配が、朧気で幽かなものへと変わっていく。幾重にも研ぎ澄まされた剣の気配。離れた地でも伝わる程の、異様な空気がそこにはあった。

 今、あそこに立つのはサザナ・クロミナヅキではない。

 四雅の妖刀、魔剣(カースウェポン)のムラマサ。古くから血濡れた因果の根源が、そこに居た。

 

 

 ぶつかり合う剣の理は、草花を斬り千切る殺風を生み出した。

 緑が砕け、へしゃげた花弁が舞う。それらが落ちるよりも早く、次なる剣撃が炸裂し合う。

 

「ゼアァッ!」

「【きひっ】」

 

 紫電の一閃、黒い瞬撃。交差し弾け、再び噛み合う。剣の獣は絶え間なく咆哮をあげ、互いの牙を交わしあった。

 ムラマサの剣理が柔ならば、シレンの剣理は剛である。暴力的なシレンの攻撃を、ムラマサは滑らかな剣筋で受け流す。柔でもって剛を制しているのだ。

 しかしそれは副次的に過ぎない。ムラマサは流しているのではない。襲い来る漆黒を断とうとしているのだ。だが断つに及ばす、流すに留まっている。

 

「【⋯⋯】」

「なんで斬れないって面だな」

 

 大きく後ろに飛び退いて距離を作りながら、ムラマサは首を傾げた。そんな魔剣の疑問を、シレンは挑発的に笑った。 

 

「生憎俺は小心者でね。わざわざ強敵相手に種明かしてやるつもりもない⋯⋯ぜ!」

「【!】」

 

 手甲から取り出した小型のナイフによる急襲を、少しだけテンポを遅れながらムラマサが防ぐ。だがそこに、黒い縦の追撃が叩き込まれる。

 受けることを許さない暴。故にムラマサは月を描くようにぐるりと回り、最小限の動きでもって回避した。直ぐ様に、カウンターを叩き込む為に。

 しかし、それこそがシレンの誘いだった。

 

「『巨人の灼腕(イフリート・フォース)』」

「【!?】」

 

 今まさに斬りかからんとするムラマサを、灼熱の腕が薙ぎ払った。一切の加減なく放たれた魔法は草木を一瞬で灰に焼き、緑溢れる自然を死の世界へと塗り替える。

 さながら死神の鎌。しかし首を跳ねるに能わず、ムラマサは刀で受ける事によって直撃を防いだ。が、想定外の反撃にその威力までは殺しきれなかったのだろう。いつの日かの焼き直しの様に、ムラマサは大きく吹き飛んだ。

 

(手応えはある。でも⋯⋯)

 

 草木と硝煙の中に紛れて、ムラマサの姿は捉えられない。ダメージにはなっただろう。だがこの程度で掴める手合いではない。油断なく構えるシレンの予想は、外れなかった。

 少しの間を置いて、硝煙を切り裂く花弁型の斬撃が一直線に飛来した。

 四雅流の奥義が一つ、『咲散花(サザンカ)』である。

 

「ハァッ!!」

 

 地を裂いて迫り来る剣気を、シレンは大剣で迎え撃った。避ける気などない。真っ向から潰してやると意気を込めた一撃。黒い一撃は咲散花と数秒拮抗するも、軍配はシレンに上がった。

 轟音と共に、剣気は空へと掻き消える。しかしその拮抗似紛れて、ムラマサは既にシレンを間合いに入れていた。

 

「【シャア!】」

「ッッ」

 

 飛ぶ斬撃の次は、乱斬りの雨嵐。

 縦に、横に、多角多様に。息もつかせない連撃は、シレンに打ち返すだけの暇も与えない。

 

(なるほど。俺が合わせる余裕もないくらい速く、数多く斬れば良いって考えたか)

 

 シレンは重装備だ。故にスピードの面では上回れない。そこに光明を見出したのか、ムラマサは速度に特化した太刀を幾重にも振るう。

 

 

「『四つの方角。原初の黄。司るのは土の巨兵』」

 

 だが軽い。特化し過ぎている。斬るという意志を感じない。故にシレンは受けに徹しながら、これを牽制と判断した。本命ではない。

 経験則と分析、そして予感に従い口の中で言霊を転がしながら、シレンはムラマサを注視していた。

 

「【──】」

「(この構えは⋯⋯!)『土より出でて、土より成りて。ただ従い、ただ果たす。それこそ己と心に従う。主を護る。身を賭して』」

 

 やがて剣速を緩め、ムラマサは構えを作った。

 一度見た技だ。かつてシレンがサザナに負けた奥義が、来る。

 

「【四雅流奥義──燕返し】」

「『ゴーレム・シルド(巨兵の盾)』!」

 

 魔法発動と同時に襲い来る、四雅の奥義。殆ど同時に放たれる、切り上げと振り下ろしの神速二連。凄まじい剣撃の音が響き渡るも、あの日とは結果が違った。二撃を受けたシレンの大剣は、断たれていない。

 魔法の発動により、超硬質の魔力をそのまま大剣に覆わせて、燕返しを見事に防ぎきってみせた。

 

 

「⋯⋯ねえ、エスおねえちゃん」

「どうしたの?」

 

 戦況を静観していたアヴィは、おもむろにエスカリエへと声をかけた。

 

「今のって土幻魔法(ゴーレムスペル)だよね。その前は炎幻魔法(イフリートスペル)、前は水精魔法(ウンディーネスペル)使ってたし⋯⋯もしかしなくてもせんせいって『全属性適正者(マルチエレメンター)』?」

「そうですよ。といっても適正が中々伸び切らず、シレンも各属神(各上級)魔法は使えないみたいですから、器用貧乏って言われがちなのが、マルチエレメンターの宿命らしいですけど」

「ふうん」

 

 水。土。炎。きっと風も含めてシレンは使えるのだろう。全属性適正者は珍しい。しかし特化的な適正ではない影響か、各属性の最上位の魔法は使えない例が多く、シレンもその例に漏れなかったらしい。

 

「せんせい、色んな武器も使えるみたいだもんね。器用貧乏かぁ。うんうん、せんせいには結構ピッタリかも」

「あはは、手厳しいねアヴィちゃん。でもあらゆる状況に対応するのが冒険者の真髄、って豪語してるシレンには手数が多い方がありがたいのかもしれませんね」

 

 万能というには今ひとつ足り得ないが、オールラウンダーの資質を持つ彼には肌に合ってるのかもしれない。そんな風にシレンへの理解を示すエスカリエから目を逸らした矢先、アヴィは小さく生唾を飲み込んだ。

 

「⋯⋯なんて、悠長な話をしてられないかも」

「え?」

「あそこ。なんだか空気が変わった感じするから」

「⋯⋯!」

 

 視線の向こう。

 睨み合うムラマサとシレンの気配が、剣呑さを増していた。

 

 

 

 

 アヴィの指摘は正しかった。

 シレンとムラマサの立ち合い。そこには今までにない悪意が、まざまざと姿を現していた。

 

「【──ほう。防いだか】」

「!」

「【あらゆるを断つ神速二連の技を、剣に魔の盾を纏わせることで軽減するとは⋯⋯小賢しい事をするものだ】」

「お前⋯⋯っ」

 

 三日月に裂いた口で浮かべる嘲笑。幽鬼的な気配を禍々しく色濃くさせて、魔剣が立つ。

 これまで不気味な沈黙を保っていたムラマサが、クツクツと嘲りながら、言葉を発していた。

 

 

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