【書籍化】お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。 作:歌うたい
「⋯⋯夢なら醒めてくれ」
俺こそが、選ばれた男じゃなかったのか。
冒険者登録試験の武闘専門試験官であるガガーブは、後悔という名の氷河に溺れていた。
登録試験は魔法分野と違って、試験官との実戦形式である。直接矛を交わすことによって受験者の力量を測るもので、必然的に試験官は実力者でなければ務まらない。
ガガーブもまた、Bランクの実力を有する男である。
体格に恵まれた。才能に恵まれた。そして師に恵まれた。数多のダンジョンを双槍と共に駆け巡り、今や『四腕』の異名が囁かれるまでに成り上がった己に、ガガーブは確固たる自信を持っていたのだ。
だからこの仕事に就きながらも、新たな芽を嬉々として潰していた。勿論、選別もする。選定もする。しかし根底には嘲りがあった。
その自信は今や、粉々に四散していた。
「────」
「ひっ」
眼前に立つ受験者に、ガガーブは少女の様な悲鳴をあげていた。
可笑しな話だった。此方は誰もが見上げるほどの巨体であり、恐れなど無縁と宣えば誰もが頷きそうなほどの筋骨隆々な大男である。
対して受験者は、とかく"珍妙な服装"な女剣士であった。
なにせ黒く艶がかった革製の、
「嘘だ。これは夢だ。悪い夢かなにかなんだ⋯⋯」
「試験官殿、お戯れもほどほどにして欲しいであります。こんな昼間から夢を見るなど、筋金入りの寝坊助でも至難の技でしょうに」
「そ、そういうことを言ってんじゃねえ!」
受験者のとぼけた発言に、ガガーブの頭に血が昇る。
しかし咄嗟の語気とは裏腹に、膝はガクガクと震えていた。蛇に睨まれた蛙が如く、完全に竦み上がっている。
「く、くそう。こんなはずはないんだ。俺は、Bランクで、試験官様なんだぞ。こ、こんな変な格好の受験者に手も足も出ないなんてことがぁ⋯⋯!」
「む。失礼ながら試験官殿。この装束と刀は、冒険者になると決めた身共の為に、居候先の御方が丹精込めて作って下さった大切な贈り物であります。変などという批評はお取消しいただきたい!」
「ひ、ひいいぃっ! お、俺が悪かった、言い過ぎた!」
「はえ? あ、いえ、謝罪は受け入れますが、なにもそこまで青褪めなくとも⋯⋯」
過剰ともいえるガガーブの反応だが、無理もなかった。
最後の受験者であるサザナと相対して、まだ一分すら経っていない。なのに四腕の異名の元となった双槍は、神速の抜刀によって既に断たれて地を転がっているのだ。
彼我の力の差は圧倒的である。ガガーブにとってサザナの強さは、まさしく悪夢のようだった。
しかし。ガガーブがサザナの強さを、真の意味で悪夢めいていると実感したのは、まさかのここからであった。
「⋯⋯こほん。ともかく、ここは試験場で、貴殿は試験官であります。故に身共の装束ではなく、戦う力にこそ批評をいただきたい。構いませんね?」
「あ、ああ。もう分かった。もう分かったから、試験はこのくらいで⋯⋯」
「左様でありますか。ありがたい。では改めまして、身共の力を最大限にアピールすべく、ここからは全霊を尽くして貴殿に臨ませていただきます!」
「えっ」
サザナにとって、この場はこれからの為の第一歩である。失敗は許されない。なにがなんでも合格する為にベストを尽くさなくてはならない。
そんな切実な想いが、もう試験を終えたいガガーブの狼狽っぷりを気付かせない。
「さあ。身共を送り出してくれた、お師様達に報いる為にも、出し惜しみはしません! "身共に宿った新たな力"を今⋯⋯ここで!」
「あ、あの、おい、ちょっと⋯⋯」
全霊という言葉に偽りはない。サザナは刀を眼前に、縦に構えていた。
柄頭に片方の掌を添えて、蒼天に切っ先を掲げる。
そして、唱えた。真新しい道を歩みはじめたサザナ・クロミナヅキに宿った、彼女の法則を。
「お見せ致します、試験官殿! これが身共の【
そして、一瞬の閃光の後。
目の前に広がった光景に、ガガーブは絶句した。
「むう。変な服。変な服とは⋯⋯どこかですが、どこが。失礼な御人ですね、腹立だしい」
「うう、こんなにも素敵な衣装なのに。やはり田舎臭さが取れない身共のせいなのでしょうか⋯⋯」
「そこまでです、
「
「うう、了解でありますぅ⋯⋯」
「むう。仕方ありませんね。ですが
「⋯⋯⋯⋯、⋯⋯⋯⋯は? え? はっ?」
訳が分からなかった。
閃光が止んだと思えば、目の前で、丁々発止なやり取りを繰り広げる四人組がいきなり現れたのである。
だが全員、同じ顔だった。四人が四人とも、受験者サザナの姿形をしていた。
意味が分からなかった。
四つ子とかそういうレベルじゃない。どう見ても、さっきまで対峙していたサザナと瓜二つなのである。
違いがあるとするならば、各サザナの言動が喜怒哀楽に別れていること。そして、喜怒哀楽それぞれの顔の右上、左上、右下、左下に、同様に分割された狐の面が張り付いていることだ。それ以外は、一切が同じ。
つまり、サザナ・クロミナヅキが四人に分身したのだ。それこそがサザナに発現した唯一法、一万分の一の奇跡である。
「では一手目は
「えっ」
「むう。では二手目は
「ちょ」
「うう。では三手目は、
「あの」
「はーい。とどめは
「ま、ままま、待ってく⋯⋯!」
一人ですら歯が立たない怪物が、四人に増えた。
四人に増えた怪物達が、喜怒哀楽折々に自分を倒そうと息巻いている。
これが、悪夢以外のなんだというのか。
「「「「かかれー!」」」」
「うおわぁあああああァァァァァ!?!?!」
オーバーキルにも程がある。
己に殺到する受験者達に、試験官ガガーブは恐怖のあまり失神したのだった。
◆
シレン殿。
身共は、詫びなくてはなりません。
『ねえ、サザナちゃん。明日さ、ちょっとアヴィとお話しない?』
身共のことを弟子と認めていただいた過日。確かに、身共は四雅流を生まれ変わらせたいと告げました。
身共の今までを見つめて、見つけた、為すべきと決めた事。無論、そこに嘘偽りはありません。
ですが、あの日。シレン殿には『為すべきこと』は話せども⋯⋯『為したいこと』まではお伝えしませんでした。
『その話は、ほ、本当なのですか? シレン殿が、元々居たユニオンから追放されたなんて。あれほどの御人が、何故⋯⋯』
『うーん。なんでもそのユニオンが昇格する時に、せんせいが能力不足のお荷物だって言われちゃったらしいんだよねえ』
『な、なんなのですかその言い様は⋯⋯! 身共は認められません。シレン殿がそんな、粗雑に扱われていいはずがない!』
『まぁ、実際は他の理由があるかもってアヴィは睨んでる。でも、やっぱりちょっと気に入らないんだよねえ。せんせいはお荷物なんて思われていい人じゃないなぁって。サザナちゃんも、そう思わない?』
『⋯⋯思い、ます。シレン殿は身を呈してサザナを救ってくれたのであります。たとえシレン殿にとっては結果についてきたものに過ぎずとも、やはり恩人に変わりない。だから、悔しいです。とてもっ』
身共は、納得が出来ませんでした。
お師様は、あのムラマサを打ち破った。途方に暮れるばかりの身共に、そっと道を示してくださった。
そのような方が、仲間からの冷たく切り捨てられたのだと聞いて、本当に悔しかったのです。
『んふ。そうだよね。悔しいよねぇ。じゃあさ、サザナちゃん⋯⋯アヴィと一緒に、せんせいのこと──』
だから、身共は決めたのです。
恩返しをしたい。こんな身共を救けてくださった皆さんに。帰る場所になってくれたポンコ殿に。
そして。
シレン殿──お師様。あなたに、報いたい。
応えたい。尽くしたい。
『せんせいのこと、世に知らしめちゃおうよ?』
身共は、冒険者になりたいと思いました。
至高の冒険者に。そんな身共を鍛え上げた御仁こそ、お師様なのだと世に謳いたい。
認められるべき人なのだと叫びたい。
それが、これからを見つめて、見つけた──身共の『為したいこと』なのです。
◆
「お師様只今戻りました!」
「ああ、お帰り。その顔を見るに、問題なく行けたみたいだな」
「はえ? あ、えっと⋯⋯実は、特記時間枠登録? というのをうっかり忘れてしまいまして。それでそのまま試験の際につい身共の【
「ああ、例のチート分身使ったのか。ん、もしかしてそれで不合格に⋯⋯?」
「あ、いえ、少々お叱りの言葉を受けましたが認定自体は無事に完了致しました。はい、こちらが身共のライセンスであります」
「ああ⋯⋯、⋯⋯⋯⋯、⋯⋯⋯⋯なぁ、サザナ」
「はい、お師様! 弟子のサザナであります!」
「あー、うん、分かってるから⋯⋯で、まずは『史上四人目』おめでとう。んで、ランクもサクッと越された訳だし、いっそ俺が弟子の方がいいんじゃないかこれ」
「はえ?!」
「サザナちゃんおめでと! ふふ、これでサザナちゃんも冒険者。いよいよ"あの計画"を実行に移すことが出来るねぇ?」
「ええ、アヴィ殿。身共もこれから誠心誠意、活動に励みたく存じます!」
「うんうん、それでこそアヴィの妹弟子だよサザナちゃん!」
「はい、姉弟子様!」
「?⋯⋯なあお前ら、一体何に盛り上がっているんだ?」
「んー? んふふ。ま、丁度良いしせんせいにも教えちゃおっか。実はねちょっと作っちゃおうかなって」
「何を?」
「──ユ・ニ・オ・ン」
「なん⋯⋯だと⋯⋯」
「あーっとぉ、そういえばぁ⋯⋯ユニオンって、メンバーが三人居ないと設立申請出来ないんだったよねえ?」
「あっ」
「えっとぉ、アヴィちゃんと、サザナちゃんとぉ⋯⋯うーん二人だけだとユニオン作れないなぁ、困っちゃったなぁ♡」
「困った困ったであります」
「どっかに困った美少女二人を助けてくれる、素敵なせんせいは居ないかなぁ」
「こんなにも困っている身共達を助けてくれる、心優しきお師様はいらっしゃいませんかなー」
「「じーっ⋯⋯⋯⋯」」
「⋯⋯⋯⋯!⋯⋯⋯⋯!!」
男、シレン・グレイジュライ。
嫌な予感のあまり、脱兎の如くその場を逃げ出す。
しかしホーミング性能有りの流星群と、最強フィジカル×4の追跡から逃げ切れるはずもなく、あえなく確保となったのであった。