お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。   作:歌うたい

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第4話『メスガキ』

 

 はじめての教え子は、絵に描いたようなメスガキでした。

 

 これがシレンの率直な感想である。しかし同時に、目を見張るほどの美少女だとも思った。美少女のメスガキだった。

 髪の色もピンクと所々に薄い青の混じったツインテールと派手である。白を基調としたドレスは胸元の黒リボンや黒いスカートのワンポイントなど一見清楚だが、キャミソール風の作りによって肩から先が剥き出しになっており、幼い色香を放っていた。

 更にアメジスト色の大きな目は少し垂れがちながら常に挑発的に光っており、見た目だけでもひねくれた気性が窺えた。

 

「アヴィお嬢様。こちらが本日よりお嬢様の家庭教師を務めてくださる、シレン・グレイジュライ様でございます。指導師としての資格は有していないそうですが、あの図書館の若き魔女様からの推薦もいただいております。実力は折り紙つきかと」

「えーほんとぉ? だってだってこのおじさん、なんだか全然強そうに見えないよ? 見るからによわよわでざぁこな感じなんだけど?」

「口が過ぎますぞお嬢様」

 

 そして特筆すべきはやはり彼女の言動だろう。ナチュラルにハートマークがついて回りそうな甘い声。生意気でしかない口調。アヴィ・ブルーメイは美少女だ。だがそれ以上に完膚なきまでにメスガキであった。

 

「なぁ、おじさんってのは止めてくれないか。俺はまだ二十代だぞ」

「んふふ、分かってるよ? でもおじさんって言われた方が男の人って傷付くんでしょー?」

「つまりわざと言ってるって事だな?」

「そう言ってまーす。おじさんは耳までよわよわなのかなー? それとも頭がよわよわなのかなー? どっちにしろクソザコだね。やーい、ざぁこ♡ざぁ〜こ♡」

 

 目上に対してこの口の利き方。近年稀に見るレベルのクソガキであった。シレンの額に青筋が出来たとて、誰も不思議に思わぬレベルの生意気さであった。 

 

(⋯⋯⋯⋯マジか)

 

 しかし忘れてはいけない。彼の前世はHENTAIの国でお馴染みの日本である。

 アヴィはいわゆるメスガキと呼ばれるジャンルに相当した。というか先も言った通り、絵に描いたようなメスガキだ。コテコテのメスガキだったのだ。そんなゴリゴリのガチを前にして、シレンに湧き上がったのは怒りよりも感嘆であった。

 

(凄いな。マジモンのメスガキじゃないか。てっきり特殊性癖概念だと思ってたのに、まさか実在したとは。凄い。異世界って凄い)

 

 別にメスガキというジャンルが刺さっている訳ではない。

 彼は普通にエスカリエみたいな包容力に溢れた女性が好みである。しかしメスガキとは存在自体が創作物なのだ。ツンデレやらクーデレ以上にリアルではまずお目にかかれない、概念とさえ言っていい属性だった。

 それがドンと現れたのだ。アヴィ自身の容姿とマッチしており、個性として確立されていた。

 だから怒りよりも感心が上回ってしまったのだ。

 

「⋯⋯ねえ、せんせい。怒んないの?」

「ん?」

「アヴィ、さっきから結構ひどいこと言ってるけど?」

「ああ、言ってるな。でもなんというか、そこまで行くと一周回って個性的で面白くもあるというか。まあおじさん呼びだけは絶対許さんが」

「あ、そう。へんなの⋯⋯」

 

 あっけらかんとしたシレンに、今度はアヴィが困惑する番だった。

 当然といえば当然だ。これまでアヴィの元を訪れた指導師達は大概、ここで踵を返したものだ。このような小娘に馬鹿にされに来たのではないと吐き捨てて。

 中には所詮子供の戯言と流した者も居たが、少なくとも怒りの感情が(にじ)んでいたのだ。シレンの様な反応は初めてだったし、変に映ったのも当然である。

 まさかあまりのメスガキっぷりに感心されてるなどと、リードマインを持たないアヴィが辿り着けるはずもない。

 

「⋯⋯まあいっか。それじゃあよろしく、せ・ん・せ・い!」

 

 単に怒りが顔に出ないタイプとかなんだろう。どうせ長くは保つまい。アヴィはそう決め付けて、ニヤリと悪どく笑った。

 

 

 

 

 指導をするにも、まずは教え子を知らなくてはならない。その為にシレンが選んだ第一ステップは簡単な面談である。

 ということで家庭教師らしくアヴィの部屋で面談を持ち掛けたが、その考えは早速(くじ)かれた。アヴィが「女の子の部屋に入ろうなんて、せんせいってば変態さんなんだ。きもーい」とごねたからだ。

 怒りを誘う目的で放ったアヴィのジャブである。

 しかし当のシレンは怒るどころか、すんなりと従った。

 またもアヴィは目を丸くした。だが現代の倫理観を備えているシレンからすれば、確かにごもっともな意見だったのだ。

 ならば客室を借りたいという提案に、アヴィは少しだけ頬を膨らませるのだった。

 

「──よし。じゃあ次だ。冒険者資格を得るにはどうすればいい?」

「はぁ。まーた簡単な問題。そんなの冒険者ギルドに登録すればいいだけじゃーん。あ、でもランク認定試験っての受けなきゃだっけ?」

「そうだな。ランクについてはどこまで知ってる?」

「一番のよわよわがFで、最高がSSS。んふふ、Sがトリプルでハイ最強ーなんてお馬鹿っぽいよねえ?」

「ほほう、なかなか詳しいな」

「アヴィのこと馬鹿にしてる? こんなのじょーしきだよじょーしき。そーいえばせんせいはAランクだっけ? 顔と雰囲気は(ザコザコ)なのにねー」

 

 今度は小馬鹿にした物言いに上目遣いも加えてみる。小悪魔めいた挑発だが、それも糠に釘。手元の紙にカリカリと刻みながら、シレンは続ける。

 

「ん。じゃあ次は【唯一法(オンリー)】についてだな」

「流しちゃってさ。はいはい【唯一法(オンリー)】ね。一万人に一人の確率で発現する特別な能力(レアスキル)のことでしょ。ほんとに一万人に確かめたのか、ちょっと嘘くさいけどぉ」

「ほんとの所、どうだろうな。まあそれぐらい貴重な力だって事なんだろうが⋯⋯しかしその言い草、アヴィも持ってるのか?」

「さあどうでしょ?」

 

 【唯一法(オンリー)】とは書いて字の如く、宿った者のみに扱える魔法である。これを持つだけで価値がある、とされるほどに貴重なスキルが備わっているかどうか。

 教師の立場なら、指導の為にも知っておかなくてはならないところ。しかしアヴィは意趣返しのつもりか、曖昧に濁すだけであった。

 これにはシレンも少しムッとして言い募ろうとするが、それよりも早くアヴィが不満の声をあげた。

 

「ねーねー、さっきからつまんないよぉ。どうせならこんな知ってて当たり前な事より、もっと楽しい話して欲しいんだけどなぁ」

「つまんない、か?」

「せんせいは自分の知ってる常識とか、持ってる魔法とかあれこれ話してて楽しい? 好きな食べ物とか休みの日にやる事とか話してる方が楽しいでしょ」

「⋯⋯」

「ま、冴えない見た目のせんせいにそんな事期待する方が間違──」

「⋯⋯確かにな。お前のことを知りたいって言ってるのに、パーソナルに触れなさ過ぎるのは淡泊過ぎるか。すまなかった」

「へ?⋯⋯え、あ、うん。分かればいいよ、分かればー」

 

 まんまと大人をやり込めた立場のアヴィだが、内心では動揺していた。年の離れた大人に素直に頭を下げられると、勝ち誇るよりも先に困惑が勝ってしまっていた。 

 

「それに、これくらい知ってて当たり前だって決め付けたまま指導するのは危険でもある。独り善がりになりかねないし⋯⋯ま、俺も家庭教師ははじめてだからな。悪いけど足並み合わせに付き合ってくれ」

「⋯⋯⋯⋯ふーん」

 

 指導師とは自身に自信がなくては務まらない。

 だからこそ舐められまいと高圧的になるもので、事実アヴィがこれまで対して来た指導師は例に漏れずそうであった。

 しかしシレンは非を認め、すんなりと詫びたのだ。

 今までのどれにも被らない家庭教師の姿勢は、アヴィの目には不思議と、誠意として映った。

 だから。

 

《⋯⋯なんかこの人、今まで来たせんせい達と違うなぁ。挑発に全然乗ってこないし⋯⋯どうしよ。なんかふっつーに明日からも来ちゃいそう》

 

 ふと漏らしたメスガキならぬ迷いの心。

 挑発的な笑みで覆い隠した裏側の悩み。

 決して相手には聞かせられない、口を閉じたままの少女の本心であったのだが。

 

(⋯⋯明日からも来ちゃいそう、ねえ)

 

 それは一字一句誤りなくシレンへと届いてしまっていたのだった。

 

 

 

 

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