お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。 作:歌うたい
《なんだかこの人、今まで来た先生達と違うなぁ。挑発に全然乗ってこないし⋯⋯どうしよ。なんかふっつーに明日からも来ちゃいそう》
(明日からも来ちゃいそう、か⋯⋯歓迎されてないのは舐めた口の利き方から分かっちゃいたが、なんか含んでそうだな)
リードマイン。発動条件もタイミングも不明な読心能力。大抵は知りたくもなかったタイミングで発動するからか、シレンからして降ってくる地雷呼ばわりである。
しかし、効果的なタイミングで発動すれば役に立つ力なのは間違いない。今もこうして、挑発的なアヴィの態度にはなんらかの意味がある事も掴めた。
もう少し踏み込んでみるか。シレンがそう勇んだ瞬間、ノックの音が響いた。
「失礼致しますお嬢様、シレン殿。そろそろ喉がお渇きになられるかと思い、お茶をお持ちいたしました」
「ああ、どうも」
「わ、スコーンだ。アムロン分かってるぅ」
「お嬢様の執事でありますから。シレン殿もいかがですかな?」
「いただきます」
やって来たのはアムロンだった。
間が外れて少し勇み足になってしまったが、丁度喉が渇いていたのは事実。ついでにスコーンも付いてるとなれば、小腹を空かせていたシレンはあっさりとティータイムを迎えた。現金な男である。
「ふむ。お嬢様のご機嫌が麗しいようで、老婆心ながら安心致しました。シレン殿の教導具合は、お嬢様の肌にお合いになったようですな」
「えーそんなことないけどなぁ。ほんのちょっと常識をおさらいしたぐらいだし? 教導っていってもなにかを教えて貰った訳でもないし?」
「左様でありますか。しかしこれだけの時間が
アムロンの微笑みに、アヴィはカップを片手にむーっと唸る。いかにも自分と家庭教師の相性が悪くない、という執事の評価に不満がってる様である。
メスガキらしい、小馬鹿にした言動と天邪鬼めいた外面はブレない。しかしアヴィの内面を少し聞いたシレンには、それが単なるポーズのようにも見えた。
《断ったってどうせまたお父様が新しいの呼んで来ちゃうだけだろうしなぁ。それにこの人ならバレなさそうかな。全然怒らないし、いろいろニブそうだし。だったら⋯⋯》
「そうだなぁ。ほんとはつよつよな指導師に教えて欲しいところだけど⋯⋯アヴィちゃん優しいから、せんせいがどうしてもって言うなら、考えてあげてもいいかなぁ?」
「⋯⋯、⋯⋯ま、俺は指導師どころか家庭教師としても駆け出しなド新米だ。だから⋯⋯優しく賢い教え子は逃したくないな」
「ふーん。どうしてもー?」
「ああ。どうしても」
あ、ちゃんと中身も優しさにつけ上がるタイプなのね。そう思うもこれはエスカリエからの頼みでもあり、アヴィにも何やら気になる所があった。
大きな義理と小さな好奇心は、明日からもこの屋敷の門を潜る道を選ばせた。
「んふふ。せんせいが優しいアヴィちゃんに会えなくなるとかかわいそだし? しょうがないから我慢してあげる」
「そりゃ助かる。ならこれからもよろしく」
「よろしくー。ちゃんとアヴィを楽しませてね、せんせい」
「これはこれは、旦那様に良きご報告が出来ますな。今後ともよろしくお願いしますぞ、シレン殿」
(で、何がバレなさそうなのかは⋯⋯上手く発動しなくて分からず仕舞いか。まったく、使いにくいったらないな)
好奇心を満たす事は叶わなかったが、アヴィからの了解もあり、こうしてシレンは彼女の家庭教師として認められたのだ。
お先真っ暗な状況から、当面の職を確保出来た喜びは大きい。だがシレンには、それよりもまずしておくべき事柄があった。即ち、可及的速やかな通勤環境の改善である。
「ところで、物は相談なんだが⋯⋯⋯⋯使ってない部屋とかって、借りること出来るか?」
馬車で片道三時間はガチでキツい。主に腰が。
職を得たシレンにとって、今はなにより切実な問題だった。
◆
「なるほど。大変だったんですね、色々と」
「気難しい年頃相手ってのは分かってたがな⋯⋯アクが強いってレベルじゃないぞアレは」
所変わってエスカリエ宅。朝に告げていた通り、シレンには好物のグリルチキンが振る舞われていた。
「そもそもどういう経緯で回ってきたんだ?」
「経緯ですか。実はサリアちゃんから相談があったんですよね」
「サリアって、ギルドの受付嬢のか? あいつから相談なんて珍しい事があったもんだ」
「ええ。なんでもサリアちゃんの管理担当のクエストに、報酬も良くて実績不問とまで書いてあるのに、誰も受けたがらない指導依頼があったそうでして」
「実績不問、報酬良し。それだけ聞くと逆に胡散臭いな」
「そうですけど。今のご時世、報酬が魅力的なクエストは取り合いになるくらいじゃないですか。なのに誰も手を付けない、というのは⋯⋯」
「なるほど。大方、失敗した連中が酒場辺りで『とんでもないクエストだった』とでも吹聴し回ったか」
「そういうことでしょうね」
つまりアヴィ相手に憤り、回れ右した者達が鬱憤払しに吹聴した結果『訳ありクエスト』となり、他の冒険者達に敬遠された。そういう流れなのだろう。
実際とんでもない曲者相手の指導なので、吹聴の内容はなにも間違ってはいない。だがそれで一番困るのは、やはり中間の立場にある者である。
「依頼の受け手がなかなか見つからない。そうなると今度はサリアちゃんが条件も報酬も良くしてるのに、どうして指導師が来ないんだーって依頼主に催促されるそうでして」
「つまり誰か手頃な受け手がいないか、ってのが相談だったと」
「はい、そういうことですね」
「で、丁度金に困ってる無職の居候を推薦したと」
「はい、そういうことですね」
「せめてフォローしろよ」
「自分で言ってるんじゃありませんか」
にこりと微笑むエスカリエ。どこかしてやったりな気配も滲ませる辺り、最初から確信犯であったようだ。
「私が甘やかしてばかりの女だと思ったら、痛い目見るってことですよ。でもまさかそこまで大変なご令嬢だったとは。シレンにはひどいことをしてしまいましたね、ごめんなさい」
そこで謝ってしまう辺り、甘い女を脱せられないんだろうな。シレンはそう思ったが、口にはしなかった。
「⋯⋯ま、いいさ。エスカリエには世話になってるし。部屋も貸して貰ってる上に、こうして飯まで作ってくれてる。とても文句を言える立場じゃない」
「そう、ですか。まあ、これくらいならお安い御用ですけど。あはは」
「⋯⋯この包容力。やはりお母さんか」
「結局そこに行き着くんですかっ。分かっててからかってますよね!」
「そうでもあるぞ」
「開き直らないでくださいっ」
相変わらずの着地点に、むむっとエスカリエは眉を怒らせる。かなしいかな、愛嬌のある美人では愛らしさが勝つだけである。
しかしはたと何かを思い付いたようにエスカリエは黙り込むと、ジッとシレンを見据えた。
「⋯⋯そういえばシレン。今後家庭教師として通うことになったなら、契約の前金は支払って貰ったんですか?」
「ああ。貴族なだけあって前金だけでも大きかったな」
「それに"私の【
「ああ。おかげさまで」
「⋯⋯新居探しは、しないんですか?」
「⋯⋯⋯⋯」
「シレン?」
「いいかエスカリエ。人間ってのは一度覚えた『楽』と『贅沢』ってのを、なかなか忘れ辛くってな」
「シレンー?」
「帰った時にただいまとおかえりを言い合える相手が居る。暖かいご飯片手に互いに労れる環境がある。まさに実家の様な安心感、これを安易に手放すというのはむしろ鬼畜の所業といっても過言ではなく」
「シーレーンー?」
「⋯⋯すいませんでした。今回の一件が片付いたらなる早で物件探すんで、なにとぞ⋯⋯」
「はぁ。まったくもう、ほんとにもう。シレンは私だけにはぐうたらで、隙あらば甘えてばっかりなんですからもう」
私がお母さんなんじゃなく、貴方が子供過ぎるんです。
ぷりぷりと怒るエスカリエだが、シレンがこうなのは彼女のからかいやすい面にも原因があるのではないか。
議論が待たれる所であるが、結論は出ないまま、騒がしい夜は更けていった。