お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。   作:歌うたい

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第7話『今二番目に会いたくない顔』

 無駄に煌めく金髪を目にした途端、空を仰いだ。   

 無駄にデカい声を耳にした途端、ふうと息を吐いた。

 

──ああ、今日も良い天気だな。

 

 無駄に爽やかな横顔を浮かべるシレンだったが、ちゃんと現実逃避である。目はしっかりと死んでいた。

 何故なら向かった門の外で、顔を合わせたくないランキング第二位の男が仁王立ちしていたからである。

 

「ククク、相変わらず全てが憎たらしい男だな! ようやく化けの皮を剥がされたと思えば、性懲りもなく俺の将来に立ち塞がりおって。今日という今日こそは貴様に身の程というものを分からせてやる!」

「⋯⋯お前こそ相変わらず意味不明で無駄に元気だな。少し声量下げろよ、音圧で耳が痛いから」

 

 クローム・モーブフォウデイ。

 彼は貴族であった。シレンにとって遡ること学生時代からの繋がりである。しかし事あるごとに敵視され、やいのやいのと絡んで来る厄介な男がクロームなのだ。

 シレンのうんざり具合から察せられる通り、出来れば切りたい縁なのだろう。そういう縁こそかえって中々切れないものだから、世の中とは不条理なものである。

 

「申し訳ありませんお二人とも。お引き取りを願ったのですが、中々お帰りいただけず⋯⋯」

「いや、アムロンさんが謝ることじゃないですよ。そいつは意思だけは無駄に固い奴ですから」

「うわぁ⋯⋯なんか、あんまり関わりたくない感じのおじさんなんだけど。せんせいの知り合い?」

「ああ。俺も出来れば関わり合いたくない感じだが、知り合いだ」

「ふーん。じゃあせんせいが呼んだって訳じゃないんだ⋯⋯にしても、そこはかとなく残念臭がするおじさんだね。すっごくわがままそう。デリカシーもなさそうだし、香水もちょっとつけすぎかな。ここまでぷーんって届いてるし。あと靴の先が反り返っててキモーい。総じてキモーい」

「実際ワガママだぞ。出会った時からそうだった⋯⋯あとアヴィ、あんまりおじさんと言わないように。俺とタメだからな」

「あっ、でも顔だけならあっちの方が勝ってるね。あんなウザそうなの相手に第一印象負けちゃうせんせい、ザコすぎてかわいそー」

「無視か⋯⋯比較対象があいつ相手だと、ちょっとメンタルにくるな」

 

 恐ろしいほど正確なアヴィの嗅覚だったが、実際クロームの顔は良いのである。貴族然とした金髪と碧眼。パーツだけなら充分に恵まれているのだ。

 その分残念な要素が山積みではあるので、嫉妬はしないが無駄に悔しさを隠せないシレンであった。

 

「だ、だ、黙って聞いていれば好き勝手ほざいてくれたものだな! だがシレン、貴様の企みもここまでだ」

「なんのこと言ってるのかさっぱりなんだが⋯⋯そもそもお前、何しにここに来たんだ?」

「何しにだと? フフフ、ギロチンの紐を自ら渡そうとは殊勝なやつめ。俺が何故こんな田舎くんだりまで来てやったのか? それはただ一つ。貴様の企みを挫き、俺がブルーメイ家の指導師として勤めることだ」

「⋯⋯お前、指導師資格なんて持ってたか?」

「ない! だが貴様とて同じだろうが!」

 

 クロームの用とは、シレンにとって代わってアヴィの先生をやる事らしい。だがクロームにとってそれは建前というか、目的を達する為の手段である。

 その肝心の目的なのだが、生憎シレンには予想がついていた。何故ならば、事あるごとにクロームが絡んで来る理由でもあったからだ。

 

「聞いたぞシレン、この指導依頼はなんたらという受付嬢がエスカリエさんに候補を求め、そしてたまたま、偶然、気の迷いかなにかで! エスカリエさんが貴様を候補にあげたのだと!」

「⋯⋯⋯⋯あー、まあな」

「ならば貴様を退け、俺がこの依頼を達成してやろう! そうすればエスカリエさんは貴様ではなくこの俺に好感を持つだろう! そうとも、俺が貴様の魔の手から──エスカリエさんを奪還してみせるのだっっ!!」

「⋯⋯⋯⋯だろうと思った」

 

 エスカリエに惚れているから。それこそがクロームがシレンを敵視する理由である。惚れているが故に、幼馴染で距離の近いシレンを疎み、僻む。非常に分かりやすく、単純明快だった。

 

「ふうん⋯⋯つまりせんせいとこのおじさんとそのエスカリエさんとで、三角関係なんだぁ。なになに、ちょっと面白いじゃん」

「急に目を輝かさないでくれ。こっちは幼馴染ってだけでコレに絡まれるんだ。おかげで死ぬほど迷惑してる」

「なにがコレだ、この悪魔め! 貴様さえ居なければ、俺は今頃エスカリエさんと懇ろな関係になれたであろうに! いっつもいっつも、貴様という奴は俺の邪魔ばかり!」

「大体お前の自滅だろうが⋯⋯」

 

 自分のアプローチが上手くいかない理由の全てはシレンにある。そう豪語するが、クローム自身の問題の方が多い。そもそもアプローチも薔薇の花束を持って会いに行き、仕事中にも関わらず口説く様な真似ばかりだ。

 本当に困るんですよね⋯⋯と遠い目をして茶を啜るエスカリエの姿を見れば、シレンの存在抜きに叶わぬ恋である事は容易に察せられるだろう。気付かぬは本人ばかりであった。

 

「まあ、その三角関係はアヴィちゃんも気になるところだけどぉ⋯⋯でも、エスカリエさんはせんせいにお願いしてる訳でしょ? だったらもうおじさんの出る幕なくない?」

「勘違いしてくれるな。推薦というのはあくまでエスカリエさんの憐れみに過ぎないのだよ」

「え? 憐れみ?」

「おお。そうなのだよ、ブルーメイのご令嬢。貴殿の家庭教師に就いたその男は、エスカリエさんの憐れみを買うほどに情けのない男なのだ。何故なら、そう⋯⋯その男はまさに一週間ほど前、所属していたユニオンから追放されたばかりなのだからなあ!!」

「⋯⋯追放?」

 

 クロームが居丈高に吠えた内容は、しかしシレンにとって痛い所であった。

 実情は色々と混沌としてはいるが、グローリーを追放された事は事実。ゆっくりと向けられたアヴィの視線に、シレンは少しだけ俯いた。

 

「意外そうな反応だな。分かるぞ、ブルーメイのご令嬢。その男は昔から取り繕う事だけは上手かったからな。所属ユニオンから追い出されておきながら、そんな様子をおくびにも出さずにまんまと貴殿の家庭教師に就いた訳だ。エスカリエさんに引き続き、ここでも」

「⋯⋯せんせい。追放されたって本当なの? 怪我したからって聞いてたけど」

「⋯⋯アムロンさんが気を遣ってくれたんだろうな。すまない。追放されたのは事実だ」

「シレン殿⋯⋯」

「フハハハッ、それ見たことか。執事と結託してご令嬢を騙していたとは。何たる醜悪、何たる姑息! 貴様のような男が何かを教えようなどと、片腹痛いわ!」

 

 シレンを凹ませられたのが痛快なのだろう。クロームは一層嘲笑を響かせると、改めてアヴィへと向き合った。

 ここまで言えば、もはや自分の目的は達せたようなものだろうと、クロームは確信していた。

 

「どうだブルーメイのご令嬢! そんな惨めな男よりも、俺の方に指導されたいだろう?」

「え? 全然?」

「⋯⋯は?!」

 

 しかし、確信は秒で消え去った。

 アヴィは迷いなく、シレンを選んだのである。

 

「何故だ! ソイツはユニオンから追放されるような役立たずで無能なんだぞ! ならば俺に指導される方が断然良いはずだろう!」

「うーん。凄くない方がこっちも⋯⋯じゃなくてっ。せんせいがよわよわなんて見れば分かるし? でも教え方はそんなに問題なさそうだし、アヴィの話も結構聞いてくれようとしてたもん。追放されたのは⋯⋯あはっ。"同じユニオンの人達の見る目がなかったのさ"。なーんちゃって♡」

「な、なんだとぉ⋯⋯!」

(⋯⋯意外。いやまあ、俺相手なら手抜きがバレないって判断してるからなんだろうが⋯⋯)

 

 シレンの推測は間違ってはいない。しかし、アヴィからすればそれだけではなかった。今までの指導師達とは少し違うシレンに、興味もほんのり湧いていた。

 どこかの誰かの言い回しまで使ったのがその証だろう。シレンは気付いていないが。

 

「それに、ウザい方がヤだし」

「う、うざい? この俺が? クロームがか?」

「うん。総じてウザい」

「⋯⋯うざい⋯⋯」

(うわぁ。バッサリいったぁ)

 

 容赦のない拒絶だった。

 声色に普段の甘さもなく、伸びもしない。凄まじい一刀両断であった。

 これにはクロームも茫然とする他ない。エスカリエにやんわりと断られたり距離を空けられたりする時も、似たような顔をしていた。

 故に、この後見事に自滅するのもまた、クロームという男のお約束であった。

 

「ふ、ふん。よもや既にブルーメイの令嬢を毒牙にかけていたとは、手の早いことだな! 令嬢も令嬢だ、所詮は田舎貴族、俺よりシレンを選ぶとは馬鹿な奴め。必ずや後悔する事になるだろう!」

「⋯⋯うーん。とりあえず、今すぐ後悔する羽目になるのはおじさんの方だと思うけどぉ?」

「ふん、何を言い出すか。俺が後悔などする訳──」

「──田舎貴族で申し訳ない。だが田舎であろうと貴族は貴族。貴族とは面子を大事にする生き物。それを堂々と侮辱されるのは⋯⋯相応の覚悟がお有りとみたが、如何か?」

「えっ⋯⋯」

 

 背後から低い男の声が届いて、クロームは振り向いた。

 その先には、まさに貴族と呼ぶべきような立派かつ豪華なコートに身を包んだ壮年の男が一人。

 ブルーメイの名を冠するに相応しい青髪を風にそよがせた貴族が、ニコリと笑ってクロームの肩を掴んだ。ギリギリと軋むような音が立ったのは気の所為ではないだろう。

 

「アムロン。都会のお客様がお帰りだ。しっっっっかりと、お見送りするように」

「畏まりました旦那様。それではクローム様、こちらへ」

「え。あ、あの、ま、待つのだ。今のは言葉の綾⋯⋯「こちらへ」⋯⋯あう」

 

 二の句を継げさせないアムロンに、クロームは強制連行されていく。情けない悲鳴をあげながら遠退く姿を、シレンはあっさりと見切った。

 もはや優先すべき対象はあんなのではなく、こちらである。

 

「お父様、おかえりぃ」

「ああ、ただいま。それで⋯⋯貴方が娘を指導してくださっているシレン・グレイジュライ君か。初めまして、私はアンセム。アンセム・ブルーメイだ」

 

 アンセム・ブルーメイ。

 つまりは自分の雇い主と、シレンはようやく邂逅を遂げたのだった。

 

 

 

 

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