ヌオーが来……ぬおーっ!!!!!!!!
「私は……どうしてここにいるのですか?……」
「「!?!?」」
私はそう声を発した。本当に何が起きているのか分からない。私はシャーレに先生の補佐官として着任して、アビドスで借金の問題を解決していた筈だ。
「?…………」
私は生徒の事を思い出せなかった。正確には彼女らと過ごした時間がどうだったのか思い出すことができない。シャーレに着任しアビドスに来たという事実は覚えているが、私がそこで何をしたのかは思い出せなかった。
この現象は便宜上私は『記憶をロストする』と呼んでいる。キヴォトスに来る前の事が分からない記憶喪失と区別する為だ。この現象は脳が物理的に破壊されることによって発生するもので、魂がある程度記憶を補完しているのかデータ的な物は覚えているが、思い出や出来事は忘れてしまう。
だがまあ、そこまで気にしなくてもいいだろう。どうせ興味がないと言って関わりを殆ど持っていなかったのだろうから。これに関しては過去の自分を信じよう。
「ちょっと!どういう……!」
「アルちゃんまずいよ!風紀委員会が来てるって!」
「え?嘘でしょう!?」
「民間人もいるのに正気ですか!?……」
「取り敢えず逃げるよ!」
そう言って便利屋68は逃げてしまった。残るは私と大将だけだ。
「大将、お逃げください。風紀委員会は私が相手します」
「でも…………」
「私は貴方のラーメンの味が
相変わらず死んだ表情で私はそう言う。大将とどういう関係なのか、私は忘れてしまった。それでも先生の為に戦わなければならない。私は前に歩みを進めなければならない。例え前に進む理由を忘れ人でなくなっているとしても。
「…………分かった……」
「ありがとうございます」
そして私は散弾銃を手に風紀委員会の方へ走り出す。散弾銃を握るその手には何故か力が籠っていた。
「あれは…………シャーレの補佐官?」
「様子がおかしいですね……まさか私達は彼を巻き込んで?…………」
「そ、そんなまさかな……」
「…………そこの方々!」
私は風紀委員会の指揮官らしき人に話し掛ける。私の気分はどうしてか物凄く荒んでいる。それをどうにか悟られないよういつも通り冷たい声で質問する。
「貴方はあの時の……」
「あの時?……」
私は茶髪の少女にあの時と言われ、きっとこの人も顔見知りなのだろうと思った。それでも、彼女の事は何一つ思い出せなかった。そして、無念達は私の中で呻く。これは以前にもあったような感じがあるが、それは忘れる前にアビドス生と接触して起きたのだろうと予測し堪えた。
「シャーレ奪還の時の事を覚えていないのですか?……」
「…………すみません、忘れていました」
「酷くないですか?……」
私は忘れていたと言って誤魔化す。思い出せていないが、思い出せていないと言っていないので嘘は付いていない筈だ。
「それより……ここはアビドスの領地。他校の治安維持組織が勝手に暴れて良いのですか?」
「それは…………知らんな。私は上の指示に従っただけだからな」
「そう、ですか…………」
それを聞いた瞬間私の中で何か切れる音がした。これはきっと幻聴だ。身体に負担のかかる再生を行った為に精神にも負担がかかったからなのだろう。しかし、確実に呻く幾人かの無念を潰してまでその他の無念達が凄まじい意思を持つ。そしてそれは私の力になる。
「すみません…………出来る限り歯を食いしばって居て下さい」
「え?」
ズガッ!!!ドコーーーン!!!
そう言って私は地面を全力で蹴り凄まじい速度で私を狙っていた風紀委員に銃を振り下ろし、地面に叩き付ける。そしてまた直ぐ近くの風紀委員を銃で遥か彼方にホームランする。
初動が余りに速かった事と叩き付けた事で出た煙で私の姿が見えていない。その間に他の風紀委員を探し出し、走る勢いのままに今度は左ストレートで腹をぶん殴る。
ドッ!!!!
「っ!!!」
「何が起きて!……」
「まさか……ここまでの力を隠していたのですか!?」
「チナツちゃんどういう事!?」
「薄々おかしいと思っていましたが、異常な程の再生に加えて銃で一発ぶん殴るだけでヘイローを持つ生徒を気絶させるなんて…………やはり彼は化け物ですね……」
「え?どういう事?」
「彼は常軌を逸した力を持つ化け物、ということです」
「なんなんだそれ……!」
ごちゃごちゃ言っているが、雑兵が片付いたら迎えに行くつもりだ。安心してほしい、きちんと同じ場所に送ってやるつもりだ。
「これは……どういう事!?」
どうやら対策委員会と先生が着いたようだ。その頃には近くにいた風紀委員は一通り地に伏せていた。私は頭を持って壁に叩き付けた風紀委員をその場に捨て、先生の元へ一蹴りで向かった。
「遅かったですね…………私がある程度掃除しておきました」
「いいんだけど……その血は!……」
「問題ありません。それより、風紀委員会への対応です」
「むくろ君はもう下がって」
「嫌です」
「相変わらず先生の言うことは聞くんですね……え???」
「どうして?」
「私にも分かりません。ですが、あの集団には私の手で引導を渡したい」
「引導を渡すって、言ってること怖くない!?」
「ん、意外とキレてる」
「確かに、ラーメンを食べている時だけは目が輝いていましたよね…………」
どうやら記憶をロストする前の私は柴関のラーメンを食べていたらしい。そしてその味を大層気に入っていたようだ。ならば私がここまで精神が荒んでいるのも納得だ。
それに加えて、やむを得ない事情やそれ相応の目的があるならまだしも、下らない理由で罪のない一般市民を危険に晒す人間は一度死ななければならないと思っている。それは取り戻せなかった記憶の中で、私個人の相当な怒りと無念達の怨恨があるのだろう。その条件に触れる相手には無念達の力は動き出し、私がいつも戦う前にやっている左手を噛んで力を解放する行為をせずともここまでの力を出せる訳だ。
「分かった…………でもあんまり食らわないでね」
「大丈夫です。今はブチギレモードで絶対に食らわないので」
「す、凄い豪語するね……前は避けられないって言ってたのに」
「はい。あれは通常時の戦い方がそうなのであって特殊な場合は含んでいません」
セリカが驚いているが気にしない。今の早々にない無念達の力を引き出せる状態ならば比喩でも何でもなく絶対に当たらない。
本来なら心身共に相当な負担のかかる『トランス状態』と呼ばれる状態に、無念達の力が使えるなら反動が少ない状態で成れる。この状態は端的に言うなら身体能力と感覚が極限まで強化され、
こんなしょうもない事で使えて良い能力ではないと思う人がいるかもしれないが、無念達も私も憤慨しているのだ。倒せるかも分からない眼前の敵を倒す為ならば出し惜しみなどしていられないだろう。
そして私は左手の母指球の辺りを噛み、出血させる。
「…………」
すぐに私の感覚は研ぎ澄まされ、思考も速度を上げる。それと共に私の精神は無念達と混ざり、最早人ではなくなる。それはもう、内の無念達に操られる屍と呼ぶべきなのかもしれない。
「これがむくろ君の本気……!」
「…………」
「凄いオーラですね☆」
「…………」
「でも本当に大丈夫なのでしょうか?」
「あれだけ豪語したんだからやってくれるでしょ!」
「むくろ君は遊撃をお願い!」
「…………」
俺は無言のまま走る。風紀委員会が弾幕を張ってくるけど、そんな物は俺に当たらない。と言うか、当たるわけない。
ダダダダダダ!!!
「なんで当たらないんだ!」
「…………!」
ガシッ!!!
「ひっ!」
弾幕を掻い潜った俺は風紀委員をぶん投げてほかの風紀委員に当てる。飛来する弾丸は遅く、当たるわけもなく距離を詰めて頭突きでも何でもして気絶させる。どんな方法だろうと風紀委員は頑丈で、そうやすやすと死なないから少々雑な寝かせ方でも大丈夫なのは嬉しかった。
「来るなぁ!!!」
バン!!
「…………?」
「どうしてそれを避けられるんだ!!!」
イオリの弾丸はとても遅くて、見ただけで分かる。それ以外でもなんとなく飛んでくるのが分かるし、今はそう言う状態なのだ。
「………………!」
そして風紀委員をまた銃で殴り飛ばし、他の風紀委員に、或いは壁や地面にぶつけ、破壊の限りを尽くす。風紀委員も、兵器も、全て壊す。
壊す、壊す、壊す、壊す…………
無念から湧き上がる怨恨は力に変わり、咄嗟にガードした風紀委員の銃ですらひしゃげさせていた。
「これは…………やはりシャーレのお二方は恐ろしいですね……」
「アコちゃん!」
あれが今回の主犯である。なれば一度叩き潰さなければならない。その為には今私を囲うように展開する風紀委員を寝かしつけなければ。それからイオリもそろそろ寝かせたほうがいいだろう。
「……………!」
ダダダダダダダダダ!!!
先程より5倍の弾幕が張り巡らされる。だがそれも私の目にはゲームののんびり飛んでくる弾幕にしか見えず、それを避けつつ風紀委員の一人に距離を詰める。そしてその風紀委員を気絶させ、それを盾に少し息を整える。
そしてまた全力で地面を蹴り弾幕を越す速度で詰めてぶん殴る。そのうち風紀委員は段々と足並みが乱れていく。正しく俺はこの場所において、規格外の存在だろう。
「邪魔です!」
ハルカが部隊が混乱しまくっている私の方に来た。どうやら便利屋68も戦っているらしい。私は風紀委員から不規則に飛び交う弾丸を交わしつつハルカの死角の方の風紀委員をフルスイングで殴り、ホームランして行く。
「あ、ありがとうございます!」
「!……」
そして気付けば風紀委員は粗方倒れており、私はイオリの方へ向かう。あれを寝かせればかなり楽になる。そう考えて全速力で走る。
「なっ!?」
「………!」
イオリの近くまで跳んだ私はそのままイオリに銃床を振り下ろした。
ガン!!!
だがそれは何者かに弾かれる。弾かれてなお銃床は叩きつけられ、地面が割れたのか煙が立っていた。そして煙が晴れるとそこにはゲヘナの小さな白いモップもとい空崎ヒナがいた。
「?……」
「貴方…………シャーレの?……」
「むくろ君!ストーップ!!!」
「…………ぁ……」
無念達はゆっくりと静まり、俺ではなく私に戻る。『トランス状態』では無念達と混ざるせいで私では無くなってしまうし、言葉を交わす事もできない。だがそれでも大切な人の声位は聞ける。そして私は『トランス状態』を解き、いつもの私に戻った。私は銃を背負い直し、先生の方へ向かう。
「むくろ君!大丈夫?」
「はい。問題ありません」
「何が『問題ありません』ですか!」
「????」
「ブチギレモードにしても限度があるんじゃ?……」
周囲を見渡せば風紀委員と建物群の至る所が壊され、道路は地震でも起きたのかと聞きたくなるほどひび割れていた。私は多分目が泳いでいるが、気の所為と思っておこう。
「…………むくろ君」
「……悪いのは風紀委員です」
「弁償、お願いします」
私は責任逃れは出来ないことを悟り、諦めて受け入れる事にした。そしてそろそろ私に反動が襲いかかる時間だろう。
「う……あ……」
「え?どうしたの?」
「反動……です…………すみ……ません……」
そう言って私に痛みが襲いかかる。憎しみに身を任せた罰と取るべきそれは凄まじい痛みであり、それを私は比較的軽い反動故に左手の母指球の辺りを噛み無理矢理堪える。
そもそも、幾ら死なない身体とて無念達の力を解放すれば相応に負担がかかる。無理矢理ともなれば尚更自分の体に無念達の力が向く可能性もあり、普段遣いなど到底出来ない技だ。今回使えたのは運が良かっただけで、無理矢理使った場合最悪身体が動かなくなる。
『来るな……来るなぁ!……』『全て……壊す!……』『あーあ、いなくなっちゃった』『大丈夫!?』『お前のせいで!』『私は魔女なんだよ?』『私が……私のせいで……』『この人喰いが!!!』『全て……虚しい……』
そして何より、精神が蝕まれる。幻聴が私の脳に響き、私の意識は壊される。無念達の声が脳の処理出来る許容量を超えて雪崩込むのだ。最悪精神が崩壊し、その場合一度脳を完全に破壊して記憶をロストさせなければならない。
「フーッ……フーッ……フーッ……!」
「大丈夫!?」
誰かが背中を擦り心配してくれる。そのおかげか幾分かは楽になり、次第に痛みが引いていく。
「大丈夫……です……もう終わりました」
「良かった…………」
どうやら擦ってくれていたのはアルだったらしい。
「ありがとうございます」
「……気にしないでいいのよ?」
ふと風紀委員会の方をみると、対策委員会が相対していた。中々の時間苦しんでいたらしい。
「あ、むくろっちだー」
「ムツキさん?…………」
「やっぱりこれから付き合いが長ーくなりそうだから♪」
「よ、よろしくお願いします?」
私は便利屋68と以前関わっていたのか?……やはり私は思い出すことが出来なかった。
「こらムツキ、むくろさん困ってるじゃんない」
「それにしても酷いね……」
「それで貴方……私達の事覚えてる?」
「お、覚えてます」
「嘘は良くないわよ?」
「………………」
私は片目しかない目を逸らす。完全にバレていたようだ。しかも何故か陸八魔アルである。
「………………覚えていません」
「わ、忘れてしまったのですか!?」
「あの時脳が潰れた事が原因かと」
「脳も再生するの?……凄いね……」
「むくろさんクールでカッコイイけど……ちゃんと自分を大切にしなさい!自分を大切に出来ないと守るべき仲間も大切に出来ないわよ!」
「…………ご忠言ありがとうございます。気を付けます」
私はそう言うとすぐに去りゆく風紀委員を見る先生の元へ向かった。
「大丈夫?」
「はい、この通りピンピンしております」
「貴方凄く苦しそうにしてたわよね???」
「何の話でしょう?」
便利屋68もついてきていたのか私の発言にアルがツッコミを入れる。そして私は少し冗談が出始めていることに内心驚いた。記憶をロストする前の私は先生やアビドスの者と気を許し始めていたのかもしれない。
「それじゃあ帰ったら弁償の件、詳しく決めますよ」
「…………」
「目が泳いでるよ?」
結果帰ったら私は相応の額を復興の為に払うことになった。やはり暴れると碌なことにならないので自重しなければいけないと、心から誓うのであった。
…………………………………………………………
時は過ぎ夜暗くなった頃。私はとある建物にいる黒い服の先輩の元へ向かっていた。理由は輸血パックは用意しなくても良い旨を伝える為と、定期的な身体検査の為だ。特に『トランス状態』になったのだから、異常の有無の確認は重要だ。
「おやおや……今日来られてしまうとは」
「すみません、シャーレの職務が想像以上に忙しく…………」
「クックックッ…………いえ、良いのです。折角なら顔合わせしてもらいましょう」
私は、まさか来るとは思っていなかった。言うなれば太陽の神が、あの化け物が来るとは思っていなかった。それは私にとって最大の盲点だった。
「なんで……お前が…………」
部屋に入ってきた小鳥遊ホシノは、私の姿を見てそう言った。
『トランス状態』に何処か見覚えがあると思ったそこの君、
むくろ君のビジュアルっている?筆者が描くのってどうなのかって思ってるのと絵そんな上手ないけど……
-
描け。
-
いらない更新あくしろ。