(朝。教室。チャイムが鳴り終わった直後)
新八「えー……それでは、朝のホームルームを始めます。」
新八「起立――」
神楽「気をつけー、礼アル!」
(バラバラな声で「おはようございます」)
新八「……はい、着席。」
「今日の日直は僕志村新八とー」
神楽「黒板はもう拭いたし、窓も開けたし、
ついでに新八の存在感も限界まで薄くしておいたネ。」
新八「余計なことしなくていいから!!」
神楽「まぁ、色々あるけど今日は銀ちゃんのお話アル。前回みたく原作そのままじゃないから楽しんでってネ」
「それじゃあ嫁魂スタートアル!」
ーーーーーーーーー
【挿絵表示】
くだらぬ話 永遠に続け
桜風が吹くまで
晴天 ニヤついて
ケンケンパーで歩いて
電柱衝突間一発で神回避
飛び出す車と猫ちゃんを飛び越えてお酒落ポーズのまんまで落とし穴へ Dive!
ラララ ラララ ラララ ラララ
聴こえてくる
みんな楽しそうな歌声が
ラララ ラララ ラララ ラララ
一緒に行こうぜ!
空に爆笑が竜巻く春へ
だから
くだらぬ話 永遠に続け
踊れ!騒げ!笑え!
二度とない今日を恥ずかしげもなく大人になろう(なりたい)
桜風が吹くから
笑え!笑え!笑え!
泥だらけでも
笑え!笑え!笑え!笑え!
いつだって側にいるんだ
曇天高まって
風船ガム噛んで
大胆不敵に目指せよ桃源郷
その魂で今日も気高くあれ
ずっと側にいるんだ
あいつらが
ほら
つまらぬ雨も耳を澄ませ
ポツポツポツとリズムになって風と一緒に踊ればいい
いつの間にかハレルヤ
爆笑が竜巻く春へ
感傷も吹き飛ぶギャグで
せーの!(笑え!)
くだらぬ話 永遠に続け
踊れ!騒げ!笑え!
ありふれた今日を見違えるほど
皺を増やそう (増やそう)
桜風が吹くから
笑え!笑え!笑え!
また会う日まで
笑え!笑え!笑え!笑え!
いつだって側にいるんだ
二日後の放課後
万事屋部
ガラッ、と勢いよく引き戸が開いた。
次の瞬間。
「頼む……」
床に響く、鈍い音。
「俺を助けてくれ!!」
机に額を擦りつけ、ほとんど土下座に近い姿勢で上杉風太郎が頭を下げていた。
その光景を前にしても、部室の空気は微動だにしない。
銀時——本作の主人公の一人は、ソファに寝転がったまま、ジャンプをぺらぺらとめくっている。
「……新八、これToLOVEるダークネス入ってねぇんだけど、過去作とってきてくんない?」
まるで目の前で人が人生詰んでいないかのような口調だった。
「ついでに焼きそばパン買ってこいよ〜。もちろんお前の金でな」
「って聞けやァァァァァ!!」
机を叩き、ツッコミが炸裂する。
「久しぶりの依頼ですよ!?何いつも通りグダグダ生活送ってんですか!?」
「しゃあねぇだろォ……」
ジャンプから目を離さず、だるそうに返す。
「俺にとっての労働時間は既に働き方改革し終わってんの」
「俺の働き方ってのはな、一日24時間365日年中無休でジャンプの後輩共がどうやってその世界を生き抜いてんのか調査すんのが仕事なわけよ」
「つーかそれ!」
声を裏返しながら指を突きつける。
「丸々一年ニート生活謳歌しようとしてるだけでしょうが!!」
そのやり取りを、上杉は額を机に押し付けたまま、じっと待っていた。
「……そろそろいいか?」
控えめだが、切実な声。
「ど、どうぞ、どうぞ」
ため息をつきながらも、姿勢を正す。
「うちのバカ共は気にせず話してください」
「おい今さらっと俺ら一括りにしただろ」
上杉はゆっくりと顔を上げた。
その目には、追い詰められた者特有の必死さが宿っている。
「実はな——」
「……話すと長いが、簡潔に言う」
一度、言葉を区切る。
その間に、上杉は眼鏡の位置を静かに直した。
ただそれだけの仕草なのに、場の空気がわずかに引き締まる。
——冗談では済まない話だ。
「俺は今、金持ちの家で家庭教師をやってる」
「へぇ、中々合ってそうなバイトじゃないですか」
「とか言ってどうせ裏では臓器の一個や二個、適当なツボと抱き合わせで売り捌くような仕事なんだろ。知ってる知ってる」
「問題はそこじゃない」
低く、重い声。
冗談を遮断するような響きだった。
「教える相手が五人いる」
「ハーレムアルか? 」
「違う。地獄だ」
即答だった。
間も、迷いもない。
「全員同級生、全員問題児、1人を除いてやる気ゼロ」
「しかもその4人、姉妹で、四葉を除く全員が俺を信用してない」
「条件最悪じゃないですか……それ詰んでません?」
「なんだ、嫌われ系主人公ってやつですか。最近流行りの『追放されたけど実は最強でした』的なやつ? あー悪いけどそういう話は他所でしてくれないとーー」
「笑い事じゃない」
机に手をつき、身を乗り出す。
その姿は、すでに何度も心を削られた人間のそれだった。
「初日から拒否、無視、妨害、罠」
「飯を食わされて意識失うわ、ストーカー扱いされるわ、盗難疑惑かけられるわ」
「それもう死んでるアル。お焼香の準備するヨ」
「いや、冗談言ってる場合じゃないでしょ!重犯罪ばっかじゃないですか!? 」
「で、ここからが本題だ」
一瞬、視線を落す。
それから、ほんの少しだけ悔しそうに息を吐いた。
「なんとか三女の方を勉強に向かわせられそうだった」
「歴史が好きでな、そこを突破口にできると思ったんだ」
「だが、歴史知識で負けた」
「たった一言、俺が答えに詰まったせいで、全部振り出しに戻っちまったんだ」
「へぇ〜上杉さんが答えられないなんて珍しいですね」
「で、何の問題だったんですか? 」
上杉は少し考え込むように天井を見た。
「確か……」
「そいつから抹茶ソーダを渡された時に」
「“鼻水なんか入ってないよ”って言われて……」
一瞬、沈黙。
万事屋部の全員が、同時に首を傾げる。
「急に汚くなったアル。不潔な男はモテないヨ」
「別に俺が鼻水を流したわけじゃない!」
新八だけが、額に手を当てて小さく頷いた。
「ああ〜……それは多分」
上杉が新八を見る。
「石田三成と大谷吉継の話ですね」
「石田◯と大谷◯平?」
「戦国武将です! 」
新八は説明を始めるように姿勢を正した。
「大谷吉継は病で顔に膿が溜まっていて、食事の席で鼻水が器に落ちてしまった」
「それを見て周囲が引いた中、石田三成だけが」
「“気にするな”と言って、その器を自分で飲み干した……って逸話です」
「つまり何だ。おっさん同士が間接キス超えて、鼻水まで愛し合ったっていうBLの先駆け的な話ってことだろ」
部室に、一瞬の静寂が落ちた。
「その例え話やめてくれません?感動シーンが台無しだよ! 気持ち悪いわ!」
即座に、心の底からの拒絶だった。
だがその横で——
「なるほどな、助かったぜ!!」
何かに火が点いたように、上杉は顔を上げると、そのまま駆け出していった。
ガラッ!
引き戸が勢いよく閉まる。
「あっ、ちょっと!……あー、行っちゃった」
残された万事屋部には、微妙な空気だけが漂う。
「本当に大丈夫なんですかね、彼……」
少し間を置いて続ける。
「というか普通に逸話教えただけなんですけど……」
「さぁな」
ソファに背中を預け、銀時はだるそうに肩をすくめた。
「本人がいいって言ってんだから良いんだろ」
「ったく、こっちまで付き合ってらんねぇよ」
そう言いながら、銀時は立ち上がり、無造作にポケットから財布を取り出す。
中には、心許ないほどの小銭。
「銀ちゃん、どこ行くアルか?」
首を傾げる神楽。
「どこでも良いだろ」
靴を履きながら、投げやりに言う。
「散歩だよ、散歩」
財布を握る手に、わずかな覚悟の色が混じっていた。
「?」
理解できず、首をさらに傾げる神楽。
その様子を見て、新八は小さく息を吐いた。
(あー、なるほど)
事情を察したように、静かに笑う。
「神楽ちゃん、僕らは上杉さんの様子でも見に行こうか」
「見物アルか?」
「……応援です」
そう言って、新八も立ち上がる。
それぞれが、別々の方向へ。
ーーーーーーーーーーーーー
学校の敷地内、その一角。
人目につきにくい渡り廊下の影で、風太郎と三玖は向かい合っていた。
風太郎は腕を組み、逃げ道を塞ぐように立つ。
「三玖、お前が来るのを待ってたぞ」
三玖は一瞬だけ足を止め、面倒そうに視線を向けた。
「何か用?フータロー。私、これから行くところがあるんだけど」
空気は冷ややか。
だが、風太郎は一歩も引かない。
「俺と勝負だ」
「……は?」
「お前が得意な戦国クイズだ. もれなく全問正解してやる!」
三玖はわずかに眉をひそめ、ため息をついた。
「やだよ。懲りないんだね」
その一言が、風太郎の闘志に火をつけた。
「はっ!そんなに得意分野で負けるのが怖いか?」
物陰から様子を見ていた神楽が、思わず身を乗り出す。
「しつこい男は嫌われるってマミーが言って——」
「神楽ちゃんストップ!今は見守るターンだから!」
三玖は風太郎をまっすぐ見据え、静かに口を開いた。
「じゃあ問題」
一瞬、空気が張り詰める。
「武田信玄の《風林火山》……その“風”の意味することは?」
風太郎は自信満々に口角を上げた。
「ふ、そんな簡単な問題——」
だがその瞬間。
三玖は手すりに軽やかに腰をかけ、答えを告げる。
「正解は——」
「疾きこと風の如く」
言い終えると同時に、身を翻し、そのまま滑るように身を躍らせた。
「……っ!」
足音が遠ざかる。
「三玖ッ!」
風太郎が駆け出した時には、彼女の姿はすでに角の向こうだった。
「完全に逃げたアル」
「勝負する気ゼロですね、これ」
「さぁ行くアルよ!追跡開始ネ!」
「逃すか!!」
風太郎は迷いなく走り、角を曲がる。
——その先にいたのは。
リボンをつけた少女。
「うわ、上杉さん!」
「クオリティ低すぎだろォォォ!!
なんですかアレ!?ただリボンつけただけじゃないですかアレ!!」
風太郎は勢いのまま立ち止まり、目を見開く。
「四葉!?」
「三玖が通らなかったか!?」
リボンの少女は、にこやかに腕を伸ばした。
「あっちに走って行きましたよ!」
「サンキュー!」
疑うことなく、風太郎は再び駆け出していく。
その背中を見送りながら——
「しかも全然気づいてない!!どーなってんですかあの目ん玉!ビー玉か何かなんですか? 節穴にも程があるでしょ!!」
「うわっ!上杉さん!!」
突然の声に、風太郎は反射的に足を止めた。
「四葉!?」
目の前には、いつもの笑顔にリボンを揺らす四葉が立っていた。
「ちゃんと前見て歩かないとダメですよォ」
軽い調子の注意。
だが風太郎は答えず、じっと四葉の顔を見つめる。
視線が、鋭く、真剣になる。
「……あの……?」
その空気に、四葉の笑顔がわずかに引きつる。
「すまん、四葉……落ち着いて聞いてくれ……」
風太郎は声を低くして告げた。
「お前のドッペルゲンガーが、あそこにいる」
四葉は言われた方向を見る。
「あっ、ホントだ」
あまりにもあっさりした反応だった。
「お前、死ぬぞ」
「えぇ!!?」
ようやく事態の深刻さが伝わったのか、四葉は大げさに身をすくめる。
「死にたくないです!」
「最後に食べるなら何がいいか……」
「いや、もうお前らの観察眼が揃いも揃って死んでるアル。眼科行けヨ、」
そのやり取りの隙を突くように、遠くから静かな声が響いた。
「じゃあね……」
「っ!」
風太郎が振り向いた時には、すでに遅かった。
「あっ、待て!!」
三玖は振り返らない。
距離を保ったまま、一定の速度で走り続ける。
追いかける風太郎。
2人の足の速さは——決定的な差はない。しかし、すでに駆け出した三玖が先にいることに変わりはなかった。
息が上がる。視界が揺れる。
やがて三玖の背中は、校門の向こうへと消えていった。
「ま、また……逃げられた……」
肩で息をしながら、風太郎はその場に立ち尽くす。
「……三玖さん、かなりの策士ですね」
その様子を見ていた。
神楽が、腕を組み、ぽつりと呟く。
「それにしても——」
「足、遅っ!」
もっとも、二人もそれ以上追うことはできなかった。
万事屋部は現在、部活動中。
外出許可など出ていない。
三玖の姿は完全に見えなくなり、校内には風太郎の荒い息だけが残る。
今日もまた、
勝負はつかず、
距離だけが、ほんの少し遠ざかった。
ーーーーーーーーーーー
人通りの少ない商店街。
夕方の光は看板の影を長く引き伸ばし、どこか空気が冷えていた。
三玖は足を止め、静かに息を整える。
「……是非に及ばず。ここまで来れば……フータローも来ないはず」
胸の奥で、ようやく安堵がほどける。
「それにしても……走りすぎて疲れた」
そう呟いた瞬間だった。
ドンッ——。
「キャッ!」
強い衝撃に体が浮き、次の瞬間、地面に倒れ込む。
視界が揺れ、息が詰まった。
「ああ、おいおい嬢ちゃん……?」
低く、ざらついた声。
顔を上げると、そこには虎の顔を持つ異形が立っていた。
「ちゃんと前向いて歩かなきゃダメじゃないの?」
もう一体。
人の形をしていながら、決定的に“違う”。
(天人……!)
かつて侍の国と呼ばれた江戸の町に現れた、宇宙からの来訪者。
侍たちは敗れ、町は彼らに支配された。
その現実は、歴史ではなく“今”も続いている。
(どうしよう……)
背筋に冷たいものが走る。
(逃げようにも逃げられそうにない……警察に連絡も……)
三玖は唇を噛む。
(天人相手じゃ……無理)
「どう落とし前つけてもらおうか?」
伸びてくる手。
その影が、三玖を覆った——
その時。
「おい……」
背後から、間の抜けたようで、妙に芯の通った声がした。
次の瞬間。
ゴッ——!!
「グハァ!!」
重たい音と共に、天人の体が宙を舞い、店の外壁に叩きつけられる。
「な、なんだ貴様!!」
「高校生如きが正義の味方気取りか!?」
「我ら天人に木刀なんぞで立ち向かう気か!?」
三玖は振り返る。
そこに立っていたのは——
銀色の天然パーマに、だらしなく着崩した学生服の男。
だが、その背中は不思議と大きく見えた。
「ギャーギャーギャーギャー……」
男は木刀を肩に担ぎ、苛立たしげに頭を掻く。
「やかましんだよ、発情期ですかコノヤロー」
そして、殻になった器を見せながら叫んだ。
「見ろこれ!テメェらが騒ぎたてるから」
「俺のストロベリーパフェがー!!」
「全部こぼれちまったじゃあねぇかァァァァァ!!」
怒号と同時に、木刀が振り抜かれる。
ドンッ!
ガンッ!
天人たちは次々と吹き飛ばされ、地面に転がった。
「貴様、どういうつもりだ!我々を誰だと——」
「俺ぁなぁ!」
男は一歩踏み込み、叫ぶ。
「医者に血糖値高すぎィって言われてよォ!」
「おまけに金欠でパフェなんて週一でしか——」
「食えねぇんだぞォ!!」
最後の一撃。
天人たちは完全に沈黙した。
(……なに、この人)
三玖は呆然と立ち尽くす。
学生というには荒々しく、
不良というには、目があまりに真っ直ぐで。
天人相手に、迷いなく立ち向かう姿。
(どこかで会ったことが……)
——いや、違う。
(それより……)
胸の奥で、言葉が浮かぶ。
(戦国武将みたい……)
その時。
「ったく……」
男は木刀を肩に乗せ、吐き捨てるように言った。
「次に女のケツ追っかけるなら、獣は獣らしくゴリラのケツでも追っかけやがれ……」
「ちょっとお客さん!!」
甲高い声が割り込む。
「ああ?」
男が振り返る。
「どうしたんだよババア。そんな眉間に皺寄せて……」
「皺が増えてますよ〜」
「余計なお世話じゃ!」
店員は腕を組み、怒鳴った。
「それより、その木刀の金払ってくれ!!」
「え?」
一瞬、間が空く。
なんと振るっていた木刀はお店のものでまだお金も払っていないものだったのだ。
「……」
男はゆっくり木刀を差し出した。
「じゃあ、ありがとなババア。助かったぜぇ」
「帰るな!!」
「誰がそんな木刀欲しがるか!!」
怒鳴り声が商店街に響く中、
三玖はただ、その背中を見つめていた。
恐怖が去った後に残ったのは、
困惑と——
ほんのわずかな、胸の高鳴りだった。
「いやいや、心配せずとも欲しがるよ、ノリノリで買ってくれるよ……修学旅行生が……」
銀時は軽く手を振りながら、まるで天気の話でもするような口調だった。
「それまで待てと!?」
店員のこめかみが引きつる。
「というか、すっかり血がついてるような木刀を修学旅行生が買うか!」
「いやいや違う違う」
銀時は覗き込むように木刀を見て、うんうんと頷く。
「これはアレだから。ストロベリーパフェのストロベリーソース」
「どっちにしろ買う奴いねぇよ!!」
そのやり取りを、三玖は少し離れた場所から見ていた。
さっきまで命の危機だったはずなのに、目の前の光景はどこか現実感が薄い。
(……変な人)
なのに。
(でも——)
彼がいなければ、今ここに自分はいない。
胸の奥に残る震えは、恐怖だけではなかった。
三玖は一歩、前に出る。
「恩知るものは恩に報いる」
自分でも驚くほど、声ははっきりしていた。
「私が払う……カードで」
一瞬、空気が止まる。
「……あいよ」
店員は即座に態度を切り替え、端末を取り出した。
銀時が振り返る。
「お前、」
だが、三玖は目を逸らさなかった。
「さっきは……ありがとう」
短い言葉。
店員が満足げにレシートを差し出すと、銀時は肩をすくめた。
「悪いな。無駄遣いさせちまって」
「無駄じゃない」
三玖は小さく、しかしはっきりと首を振る。
「助けてもらった命に比べたら、安い」
その一言に、銀時の足が止まった。
ほんの一瞬だけ、言葉を失ったように黙り込む。
そして次の瞬間、いつもの軽薄そうな笑みが浮かぶ。
「命が安売りされちゃ困るんだけど」
冗談めかした声。
それでいて、どこか本音を隠すような響き。
背を向け、歩き出す。
「じゃ、俺は行くわ。甘いもん失った分、何か食わねぇとやってらんねぇ」
「あの……」
三玖の声が、彼の背中を呼び止めた。
銀時が振り返ると、彼女は少し戸惑いながら、両手で一本の缶を差し出していた。
「これ」
淡い緑色のラベル。
「こんなものしかないけど……お礼」
銀時は缶を受け取り、まじまじと眺める。
「何だよ抹茶ソーダって?」
眉をひそめる。
「抹茶をソーダで割ったってか?割り切れねぇよ。そんなんじゃ抹茶も俺の気持ちも割り切れねぇよ」
その長ったらしい文句に、三玖は一瞬きょとんとし、次いで小さく肩を震わせた。
だが、よく見ると——
彼女の指先が、わずかに震えている。
銀時はそれに気づき、軽く舌打ちする。
「……ったく」
缶を軽く振り、
「しゃあねぇなぁ。金も払ってもらったわけだしちょっとだけなら付き合うぜ。」
プルタブを開け、一口だけ口をつけた。
炭酸の弾ける音が、やけに大きく響く。
「……あっ、鼻水なんか入ってないから大丈夫だよ」
三玖が、ぽつりと言った。
「……ああ?」
銀時は怪訝そうに眉を寄せる。
「やっぱり知らないんだ……」
三玖は視線を落とし、どこか残念そうに呟く。
「ちょっとちょっと」
銀時は慌てて手を振る。
「何勝手に期待して勝手に落ち込んでんの?ひどい奴だなおい」
肩をすくめ、わざとらしく溜め息。
「銀さん、落ち込みますよ〜」
そして、ふと目を見開いた。
「あ、思い出した!」
三玖が顔を上げる。
「そういえば新八のやつが言ってたな。
石田三成が大谷吉継の鼻水を飲んで鼻水ごと愛したってやつ」
「……大体合ってる」
三玖は思わず即答した。
少し間を置いて、付け足す。
「けど……後半、ちょっと変だった」
「細かいことはいいんだよ」
銀時は缶を揺らしながら笑う。
「いちいち細かいとこまで気にしてたら、この先やっていけねぇよ?」
その言葉に、三玖の表情がわずかに緩む。
だが、次の問いで、再び曇った。
「で、お前はどうしてあんな連中に絡まれてたんだよ」
「……実は私」
一度、息を吸う。
「ストーカーに追われてる」
「マジでか!?」
銀時が素っ頓狂な声を上げる。
「女のケツ追っかけ回すアレか!?」
「うん……」
三玖は小さく頷く。
「本当に諦めが悪い。どうせ私なんかに構ったって意味ないのに」
その言葉に、銀時の笑みが消えた。
「おい」
低く、真剣な声。
「それ、どういう意味だ」
三玖は一瞬言葉に詰まり、それから自嘲気味に笑った。
「私、変だよね?」
視線が足元へ落ちる。
賑やかな商店街の音が、急に遠のいた気がした。
「クイズでも分かったと思うけど、戦国武将が好き……でも、それだけ」
「みんなと違って——」
「何の取り柄もない……」
その声は、まるで風に溶けるみたいに小さかった。
(……やっぱりコイツが、キノコ頭の家庭教師が相手してるっていう五つ子か)
銀時は心の中でそう呟く。
商店街のざわめきの中で、彼女の声だけが不自然なくらい浮いて聞こえた。
「おいおい」
銀時はわざとらしく肩をすくめる。
「そりゃねぇんじゃねぇの。歴史好きの作者が大泣きしちまうよ」
「ネットについていけねぇってだけで、歴史好きは時代遅れとか言われてさ」
「聞いたら作者が画面の向こうで号泣もんだよ?」
「…………」
三玖は何も言わず、ただ唇を噛む。
銀時は抹茶ソーダをもう一口飲み、缶を軽く振った。
「どうしてお前がそんな風になったかは知らねぇが」
一拍、間を置く。
「けどよ。前、向いて行こうぜ」
「……何で?」
絞り出すような声だった。
銀時は少しだけ空を見上げ、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「泣き顔と笑顔じゃな、世界の見え方が変わってくる」
「楽しい時はもちろん、辛ぇことも笑い飛ばせる気概がありゃあよ」
「もう怖ぇもんなんざ、そうそうねぇ」
彼は続ける。
「地獄も極楽に変わるってもんだ」
「結局、俺たちは自分の領分で、今やれることをやるしかねぇんだよ」
三玖は息を呑む。
「逃げてる暇なんざねぇ」
「そんなことしてたら、大事な“今”がまたこぼれ落ちちまう」
「……大事な、今が……」
銀時は彼女をちらりと見た。
「多分よ」
「そいつも“今”のために、お前のケツ追っかけてんじゃねぇの?」
「…………」
三玖は何も言わなかった。
けれど、胸の奥で何かが小さく揺れた。
(もしかして……フータローも同じなのかな)
(今のために、必死になってるのかな……)
「あとさ」
銀時は、いつもの軽い口調に戻る。
「本気で好きなら、別にいいんじゃねぇの?戦国武将」
「……え?」
「他の奴らが何好きかなんて知らねぇけどよ」
「どうせアイドルとかだろ?」
「それとお前の戦国武将、何が違うよ」
指を折りながら言う。
「どっちもクソはするし、汚ねぇとこばっかだし」
「それでも見えるとこじゃ見栄張る」
「……例えが全部汚い」
思わず三玖がツッコむと、銀時はニヤリと笑った。
「まぁな」
「でもよ、本当の“好き”ってのはな」
声が、少しだけ低くなる。
「そんな汚ねぇ部分までひっくるめても、目ぇ逸らさねぇで見られることを言うんだよ」
「他人の目なんざ気にせず、前向きやがれ」
「俺から言えんのは、それだけだ」
踵を返しながら、銀時は付け足す。
「あと、人生後悔したくねぇならよ」
「誘いに乗るのも、アリじゃねぇの?」
「……」
「じゃあ俺ぁこれで失礼するわ」
手をひらひらと振る。
「じゃあな、ヘッドホン」
「……ヘッドホンじゃない」
三玖は一歩前に出た。
「三玖」
「はいはい、わーったよ」
「待って!」
銀時が振り返る。
「名前……私も教えたから、名前教えて」
銀時は一瞬だけ考え、あっさりと答えた。
「坂田銀時」
「金を積まれりゃ何でもする、万事屋部の部長だ」
肩越しに振り向き、ニヤッと笑う。
「まぁ、頼りたい時はいつでも来いよ」
「もちろん、金を持ってな」
「……じゃあ」
三玖は、少しだけ勇気を出した。
「早速、依頼してもいい?」
「……へ?」
間の抜けた声を上げる銀時の背中を、夕暮れの光が照らしていた。
次の日
図書館
静まり返った図書館の一角。
ページをめくる音と、遠くで椅子が軋む気配だけが漂っている。
上杉風太郎は、机に肘をつき、深いため息を吐いた。
「はぁ……」
溜息は、静寂に溶けるように消えていく。
「せっかく新八のおかげで、三玖を勉強させられそうだったってのに……」
視線の先には、ノートを広げて鉛筆を走らせている四葉の姿だけ。
「結局、今日も勉強するのは四葉だけか……」
その時だった。
「いいえ、二人じゃありませんよ!」
明るい声が、静かな空気を切り裂く。
「……?」
上杉が顔を上げた瞬間——
「僕らも加わりますから!」
「ありがたく思えヨ」
聞き覚えのある声が、左右から同時に飛んできた。
「なっ!?」
上杉は思わず立ち上がる。
「お前ら——!」
新八はにこやかに手を挙げ、神楽は腕を組んで得意げに頷く。
さらに——
「よぉ、ガリ勉キノコ」
気の抜けた声と共に現れた銀時は、椅子にだらしなく腰掛けた。
「……どうしてここにいるんだ?」
上杉は警戒するように睨む。
「今日は別に、何も頼んでないはずだが」
「違う違う」
銀時は手をひらひら振る。
「俺らもな、こいつらの家庭教師することになったから」
「はぁ?」
上杉の眉が跳ね上がる。
「一体、何で——」
「……私が頼んだ」
静かな声が、会話を断ち切った。
上杉が振り返ると、そこにいたのは三玖だった。
「万事屋に、家庭教師をしてほしいって」
「え……」
一瞬、言葉が詰まる。
「つまり……お前、勉強やる気になったってことか……?」
三玖は答えず、上杉の横をすり抜けて本棚へ向かう。
歴史書を数冊抜き取り、静かに机へ戻った。
「ギントキのせいで……考えちゃった」
ページをめくりながら、ぽつりと零す。
「私も前に進めば、何か見えてくるんじゃないかって」
指先が、紙の端をなぞる。
「だから——」
顔を上げ、はっきりと言った。
「責任、とってよね?」
「わ、わ、わ、わ!」
四葉が目を丸くする。
「女の顔してるアルヨ」
神楽が肘で新八を突く。
「銀さん、本当に何したんですか?」
新八は真顔で詰め寄った。
「知らねぇよ!」
銀時は即座に否定する。
「俺ぁパフェ食って、依頼聞いただけだっつーの!」
「やましいことなんて、これっぽっちもしてませぇん!」
四葉は三玖の耳元に顔を寄せ、小声で囁く。
「ねぇ三玖……もしかして、恋してる?」
「!」
三玖の肩がぴくりと跳ねた。
反射的に、彼女は銀時の方を見る。
だが——
そこにいた銀時は、昨日のような迫力も輝きもなく、
無表情で鼻をほじっていた。
「……」
一瞬の沈黙。
三玖はふっと微笑み、首を振る。
「ないない」
その笑顔は穏やかで、どこか吹っ切れたものだった。
「は?」
上杉は、完全に状況が飲み込めていない。
机の前で一人、固まったまま。
——こうして、
奇妙すぎる“家庭教師+万事屋”の関係が、
図書館の片隅で幕を開けるのだった。
教えて!シャーレの先生!!
教えて!シャーレの銀ちゃん(空知節リライト)
銀時「はぁーい、今日もやってきました
教えて!シャーレの銀ちゃんのお時間でぇーす。」
銀時「本日も前回と同じく、
“作者が直接説明すると角が立つ内容”を
俺が代わりに丸く……
いや、むしろ角だらけでお届けしていきまーす。」
銀時「はい一発目!」
銀時「天人が出てきましたが、この世界はどういう世界なんですか?
簡単に説明してください。」
銀時「はい、ズバリ言っちゃうとだな。」
銀時「この世界は、
銀魂の江戸の時代から約200年後の未来。」
銀時「つまり――」
銀時「天人が襲来して、地球が一回ぐちゃぐちゃにされて、
それでも人類がしぶとく生き残った結果の世界だ。」
銀時「要するに、“銀魂の歴史を引きずったまま文明が進んだ世界”ってことだな。」
銀時「まぁ、この辺はそのうち作中でそれっぽく説明されるから、
今は“そういうもん”だと思っとけ。」
銀時「はい次!」
銀時「銀さんたちは学ランを着ていますが、
いつも学ランなんですか?」
銀時「……いいとこ突いてくるじゃねぇか。」
銀時「はい、これも当たらずとも遠からずってとこだ。」
銀時「この世界ではな、
普段着が完璧に和服なキャラは学ラン着用。」
銀時「それ以外の奴の日常服は――
基本、銀魂のいつもの服装だ。」
銀時「つまり俺とか、マダオとか、
その辺は安定の銀魂バージョンってわけだ。」
銀時「新八?
あいつはほら、アレだ。」
銀時「あの体操服みてぇな格好、
もはや制服みたいなもんだろ。」
銀時「だから問題なし。
世界観的にも、視覚的にも、
何より作者の精神的にもだ。」
銀時「というわけで――」
銀時「服装については深く考えない!
これが正解!
ファイナルアンサー!!」
銀時「考え始めたら負けだ。
銀魂は昔からそういう作品だ。」
銀時「はい、今日のシャーレの銀ちゃんはここまで!」
「ってことで時代に遅れてる作者!需要がない和服姿で街歩いてる罪で廊下に立ってなさい!」
挿絵
-
カラー
-
白黒