「「「そうですね」」」
銀八「紅白戦毎年すごいよな」
「「「そうですね」」」
銀八「毎年連帯責任のけん玉するし、コレじゃあ"繋ぐ繋がる’'じゃなくて"繋ぐ繋げる"だよな」
「「「そうですね」」」
銀八「つーわけで嫁魂始まりまーす」
【挿絵表示】
ーーーーーーーーーー
くだらぬ話 永遠に続け
桜風が吹くまで
晴天 ニヤついて
ケンケンパーで歩いて
電柱衝突間一発で神回避
飛び出す車と猫ちゃんを飛び越えてお酒落ポーズのまんまで落とし穴へ Dive!
ラララ ラララ ラララ ラララ
聴こえてくる
みんな楽しそうな歌声が
ラララ ラララ ラララ ラララ
一緒に行こうぜ!
空に爆笑が竜巻く春へ
だから
くだらぬ話 永遠に続け
踊れ!騒げ!笑え!
二度とない今日を恥ずかしげもなく大人になろう(なりたい)
桜風が吹くから
笑え!笑え!笑え!
泥だらけでも
笑え!笑え!笑え!笑え!
いつだって側にいるんだ
曇天高まって
風船ガム噛んで
大胆不敵に目指せよ桃源郷
その魂で今日も気高くあれ
ずっと側にいるんだ
あいつらが
ほら
つまらぬ雨も耳を澄ませ
ポツポツポツとリズムになって風と一緒に踊ればいい
いつの間にかハレルヤ
爆笑が竜巻く春へ
感傷も吹き飛ぶギャグで
せーの!(笑え!)
くだらぬ話 永遠に続け
踊れ!騒げ!笑え!
ありふれた今日を見違えるほど
皺を増やそう (増やそう)
桜風が吹くから
笑え!笑え!笑え!
また会う日まで
笑え!笑え!笑え!笑え!
いつだって側にいるんだ
週末・土曜日の朝
タワーマンション
休日の朝のタワーマンションは、不自然なほど静かだった。
高層階へと続く廊下は、生活感というものを徹底的に排除されたかのように無機質で、足音さえ吸い込まれていく。
その廊下の一角で——
「何だこれ! センサー反応しろ!」
上杉風太郎は、まるで命綱にすがるようにドアへと張り付いていた。
顔は引きつり、額にはうっすらと汗。
「クソ……!」
拳を握り、歯噛みする。
「あの五人だけじゃない……お前まで俺の邪魔をするのかッ!」
まるでドアそのものに恨みをぶつけるように叫び、ふと天井付近の監視カメラに気づくと、背筋を伸ばして咳払いをした。
「……あの」
声のトーンを無理やり落ち着かせる。
「三十階の中野さんの家庭教師をしている、上杉風太郎申します。このドア……壊れてますよ」
カメラに向かって丁寧に頭を下げる姿は、真面目さと必死さが奇妙に混ざり合っていた。
その少し後ろ。
「……何やってんだ、アイツ」
銀時は欠伸混じりにその光景を眺めていた。
「危ない人アル。無視するヨロシ」
神楽は即断即決で視線を逸らす。
「そうですね……」
新八も、そっと距離を取る。
——関わらない。それが正解だ、と全員が思っていた、その瞬間。
「ああ! お前ら!」
上杉がこちらに気づき、目を輝かせて振り返った。
「ちょうどいいところに!」
「いや来ないでくれない?」
銀時は即座に手で制した。
「一人で話してるオカルト系のアブナイ人には関わるなって、ババアから言われてるんで」
「何を言ってるんだ?」
上杉は本気で理解できない顔をする。
「冗談はいい。今、ここのドアが開かなくて困ってるんだ」
その言葉に、神楽が試しにドアへ手を伸ばす。
「……ホント、開かないアル」
「困りましたね」
新八も覗き込み、眉をひそめた。
「だろ?」
上杉は一気に畳みかける。
「このままじゃ家庭教師をするどころか、家に行くことすらできない」
責任感と焦燥が、声に滲んでいた。
「なるほどな」
銀時は腕を組み、妙に納得したように頷く。
「つまり俺たちは——」
一拍置いて。
「RPGでいうところの、勇者が木の棒でスライムをボコしてるシーンで、急にバグが発生して操作不能になる状態ってわけだな」
「全然なるほどってねぇよ!」
新八が即座にツッコミを入れる。
「バグってんのはアンタらの頭の方!!」
「銀ちゃんが最初から中古じゃなくて新品買ってたら、購入特典ついて序盤攻略楽だったネ」
神楽が腕を組み、もっともらしく頷く。
「いや、そういう問題じゃないから!」
新八は頭を抱えた。
「ただ単に開け方分かんないだけだから!」
高級タワーマンションの廊下で、
真剣な家庭教師と、ズレきった万事屋の会話だけが、
休日の朝に場違いな騒音として響いていた。
——この時点で、
誰一人として「普通に部屋番号を入れる」という発想に至っていないのが、最大の問題だった。
「どうする?」
上杉は額の汗を拭いながら、固く閉ざされたドアを睨みつけた。
「このままじゃ、一生家庭教師できねぇぞ……」
その声には、焦りと疲労、そして「また失敗するのではないか」という不安が滲んでいた。
「大丈夫だぁ」
銀時は根拠のない自信満々の顔で親指を立てる。
「こんなこともあろうかと、とっておきの助っ人を呼び出してんだよ」
「呼んだかしら?」
背後から、凛とした、しかしどこか不穏なほど明るい声が響く。
「姉上!?」
新八が振り返り、目を見開いた。
「姉御!」
神楽も勢いよく反応する。
「へぇ……」
上杉は現れた女性をまじまじと観察する。
「新八の姉さんか。こういうカラクリに精通してるのか?」
一瞬の期待を込めて尋ねた。
「……解錠できるのか?」
「そんな面倒なこと、必要ないわ」
お妙は微笑みながら、すっと拳を握りしめた。
その指の関節が鳴る。
「え?」
上杉の声が裏返る。
「姉上、その拳は何ですか?」
新八が青ざめる。
お妙はにこりと微笑んだまま、腰を落とし、構えを取る。
——嫌な予感しかしない。
「うりゃあああ!!
さっさと開けんかゴラァ!!!」
「姉上!!止まってください!!」
新八が必死に抱きつく。
「姉上!!」
「壊すのはまずい!マジでマズイ!!」
上杉も慌てて制止する。
「止めないで二人とも!」
お妙は目を輝かせる。
「これは新天地に行くための、大事なステップなの!」
「姉上ェェェ!!」
新八の悲鳴が廊下に響いた。
「そのステップ、前に進むどころか落下してます!!
刑務所の檻の中に真っ逆様です!!」
その時だった。
「……何してるの?」
場違いなほど落ち着いた声が、修羅場に水を差す。
「ん?」
銀時が振り向く。
「あっ、ヘッドホン」
「ヘッドホンじゃない……三玖」
淡々と訂正し、三玖は状況を一目で理解したようにドアを見た。
「もしかして、ドア開けられなくて困ってるの?」
「ギントキたちは知らなくても仕方ないけど……」
視線が、上杉に向く。
「フータローは部屋番号——」
少し間が空く。
「覚えてるわけないよね」
「お前、普通に酷いな」
上杉は即座に突っ込んだ。
「私に任せて」
三玖は気にした様子もなく、操作盤に手を伸ばす。
暗証番号を入力し、軽くタッチする。
——ピッ。
静かな電子音とともに、ドアが滑らかに開いた。
「あ、空いたアル!!」
神楽が目を輝かせる。
「良かったなぁキノコ、ぱっつぁん」
銀時は肩をすくめ、にやりと笑う。
「これで新天地に行かなくて済むぞぉ」
「全部アンタらのせいでしょうが……」
新八は深いため息をついた。
三玖は振り返り、柔らかく微笑む。
「どうしたの?」
「早くいこ」
そして、ほんの少しだけ胸を張って言った。
「家庭教師、するんでしょ?」
「「「「?」」」」
一同が揃って固まる中、
三玖だけが、一歩前へ進んでいた。
部屋に足を踏み入れた瞬間、空気が一気に騒がしくなった。
「つーわけで新しく家庭教師になりました。万事屋部の坂田銀時でぇーす。」
軽い調子で手を振る銀時。その隣で、
「同じく神楽アル」
と神楽が胸を張る。
「そしてコイツがおまけのメガネ」
「誰がメガネだ!!そしてオマケって何!?」
新八が即座に噛みつく。
「で、隣のゴリラが——」
「誰がゴリラだぁ?」
次の瞬間、銀時の襟首が持ち上がった。
空中でぶら下げられたまま、彼は必死に言い直す。
「すいません、クールビューティーなお姉さんでした。………はい」
「またですか……」
五月は呆れたように息をつく。
「皆さん、よろしくお願いします!」
四葉だけが場の空気を気にすることなく、元気よく頭を下げた。
「あはは、またクセの強い人たちが来たね」
一花は楽しそうに笑う。
「まぁそんなわけだからぱっつぁん、キノコ——」
銀時は言い終わる前にソファへ転がり、そのままジャンプを開いた。
「あとはよろしく〜」
「お昼になったら呼ぶヨロシ」
「ってオイィィィィ!!」
新八の叫びが部屋に響く。
「テメェらホントにやる気あんのかァァァァァ!!」
その騒ぎをよそに、
「新八さん、上杉さん、私は準備万端ですよー!」
四葉はノートを広げ、やる気に満ちていた。
「私もまあ見てよっかな」
一花も軽く腰を下ろす。
「まあ、いてくれるだけでもまだマシさ」
風太郎は小さく肩をすくめる。その時、宿敵である1人。
二乃が降りてきた。
「あ、まーた懲りずに来たのー?この前みたいに寝ちゃわなきゃいいけど?」
「……」
風太郎の眉がピクリと動く。
「アレはお前が薬を……、ゴホンッ」
一瞬、言いかけて飲み込んだ。
「どうだい二乃!お前も一緒に…」
「死んでもお断りよ」
即答だった。
「……」
「なら今日は俺らだけでやるか!」
その言葉を待っていたかのように、
「そうだ四葉。バスケ部の知り合いが大会の臨時メンバーを探してるみたいだけど、あんた運動ができるし、今から行ってあげたら?」
「い、今から!?でも…」
「なんでも5人しかいなかったみたいで、そのうちの1人が骨折しちゃったんだって。このままだと大会に出れないってさ。頑張って練習してきただろうに、可哀想に……」
「そうなのやるわけないだろ」
風太郎が止めるが、
「すみません!困ってる人を放っておけません!!失礼します!!」
四葉は深く頭を下げ、勢いよく部屋を飛び出していった。
「えぇ!?ちょっと!!」
新八の声も届かない。
「嘘だろ…」
「仕方ないよ、あの子、断れない性格だから」
一花は苦笑する。
「そういえば、一花も2時からバイトって言ってなかったっけ?」
「……あっ!忘れてた…!」
「お、おい…!」
引き止める間もなく、
「五月、こんなうるさいところよりも図書室に行った方がいいんじゃない?」
「それもそうですね……」
気づけば、部屋には静寂が残った。
「全員出て行っちゃったアル」
神楽が呆然と呟く。
「……ヨ、ヨーシオマエラアツマレ、ジュギョウヲハジメルゾ〜!」
無理やり声を張る風太郎。
「現実を見て、フータロー」
三玖は淡々と言った。
「もう、誰もいない」
「どーするんですかコレ!!」
新八の不安が一気に噴き出す。
「このままじゃ成績あげるどころか!!不満度上がるだけじゃないですかコレ!ホワイトどころかブラック企業へ仕事量が上がるだけじゃないですかコレ!!」
「おまえら、落ち着け」
銀時はジャンプを閉じ、ようやく体を起こした。
「全員合格させるよりも、今残った奴らだけでも教えりゃ良いじゃねぇか。どっちみちやらねぇといけねぇなら手ェつけられるところからやりゃ良いそれだけだろうが」
「そ、そうだな!」
上杉は思わず頷く。
「って良い事言ったふうな感じ出してますけどーー」
新八は鋭く指を突きつける。
「アンタ全然働いてないから、仕事してください、仕事」
「フフン!」
背後から勝ち誇った声。
「何してるのかしら?」
お妙の影が、ゆっくりと二乃に迫る。
「何って私はあの子たちに予定があるのを教えただけよ」
「そうなの〜?」
お妙はにこやかに首を傾げる。
「私には姉妹を流してるように見えたんだけど?」
「えぇーそう感じたんだぁ、アンタの気のせいだと思うけど?」
「そう、なら良いわ」
お妙の拳が、静かに握られる。
「直接聞くまでよ!」
「姉上、やめてください」
新八は必死に間に入った。
「二乃さんホントに死んじゃいます。」
部屋の緊張は、まだしばらく解けそうになかった。
二乃が腕を組み、少し苛立ったように声を張る。
「さぁ三玖、アンタもーー」
その言葉を遮るように、三玖は一歩前に出た。
迷いのない視線で、一直線に向けられる先は――銀時。
「ギントキ、勉強教えて」
部屋の空気が一瞬、止まった。
「えぇ〜何で俺なんだよ」
銀時は露骨に嫌そうな顔をし、後頭部を掻く。
「別に俺じゃなくても新八とかキノコにーー」
「お金もらったら何でもするんでしょ。教えて」
淡々とした声。
しかし、その奥には逃げ道を塞ぐような強さがあった。
「……」
銀時は一瞬だけ言葉を失い、視線を逸らす。
「……仕方ねぇなぁ」
観念したように肩を落とす。
「じゃ、逃げ若一巻を開け」
「うん」
三玖は素直に頷き、机に向かう。その様子は、先ほどまでの距離感が嘘のようだった。
「……」
その光景を見ていた二乃が、怪訝そうに目を細める。
「アンタら、いつの間にそんなに仲良くなったの?」
探るような視線。
「アンタ、こんなボサボサの天パ頭が好きだったの?」
その瞬間――
「オイ、テメェ!」
銀時が勢いよく身を乗り出した。
「天パバカにしてんじゃねぇぞ!」
指を突きつけ、妙に力説し始める。
「銀さん、ストパーになったらモテるからね!一気にみんなの人気者になる事間違いなしだからね!」
自信満々だが、どこか空回りしている。
「……」
上杉が冷静にツッコミを入れる。
「銀時、それ結局天パバカにしてないか?」
一瞬の沈黙。
三玖は少しだけ視線を逸らし、ぽつりと呟いた。
「二乃は面食いだから……」
間髪入れず、上杉がため息混じりに突っ込む。
「お前も十分酷いな」
「はあ?」
二乃の眉が跳ね上がる。
「面食いで何が悪いのよ?」
その声には、自分の価値観を疑われたことへの苛立ちが滲んでいた。
三玖は動じない。むしろ一歩踏み込み、静かな口調で言葉を重ねる。
「真の愛は良いところも悪いところも全てひっくるめて受け止める事だって、ギントキが言ってた。」
その瞬間、二乃の口元が歪む。
「なるほど」
嘲るような笑み。
「そんな言葉鵜呑みにするから、そんなダサい服を着れるんだ」
空気がピリッと張り詰める。
三玖は一瞬だけ黙り込み――次の瞬間、鋭く切り返した。
「その尖った爪がオシャレなの?」
「は?」
二乃が手元のネイルを見せつけるように指を立てる。
「あんたには分かんないかなー」
「分かりたくもない」
短く、きっぱり。
火花が散るような視線の応酬。
そこへ、場の空気をまったく読まない声が割り込む。
「でも、オシャレとか言ってる割に面食いが可愛いって話聞いた事ないネ」
神楽は腕を組み、首を傾げながら続ける。
「面は食っても男には喰われなかったってことアルな」
「ほら、神楽もそう言ってる……」
三玖が小さく頷くと、二乃のこめかみに青筋が浮かぶ。
「何よ、仲間が増えて勝った気でいるのかしら?」
慌てて新八が割って入る。
「ま、まあまあ!2人とも落ち着いて…」
しかし――
「子供の喧嘩みたいに言わないでちょうだい」
「メガネは黙ってて」
二人の声が、完璧に重なった。
「うっ……」
新八は肩を落とし、情けなく呻く。
「なんで僕だけこんなに当たりが………」
「ドンマーイ」
銀時が肩を叩き、軽い調子で言う。
「今のはしゃーない」
「そりゃやるヨ」
神楽があっさり頷く。
「全然普通の女の子だもん」
「何フォローに回ってんだ!」
新八が叫ぶ。
「女の子全員アンチ新八みたいな言い方すんな!」
騒がしく、収拾のつかないやり取りの中で、
しかしその場には――
確かに「勉強会」とは別の意味で、確かな熱が生まれていた。
お妙は一歩前に出て、穏やかな――しかし底の見えない笑みを浮かべた。
「じゃあこうするのはどう?」
その一言だけで、場の空気が静まり返る。
「中身の大事さを知るなら、中身をぶちまけて勝負すべきよ」
嫌な予感が、全員の背筋を撫で上げた。
「姉上……」
新八が引きつった笑顔のまま呟く。
「例えがアレすぎて、すでに姉上の中身ぶちまけられたんですけど」
だが、お妙は気にもしない。
「女同士の“中身”といったらコレよ!」
一拍置いて――
「料理対決!!」
その瞬間。
万事屋一同の背後に、雷が落ちたかのような衝撃が走った。
「「「かーーー!!」」」
銀時は口をかんで固まり、新八は口を開けたまま固まり、神楽は本能的に後ずさる。
お妙は悠然と続ける。
「勝負は簡単。私と三玖ちゃん、そしてあなたの三人でそれぞれ料理を作るの」
「審査員の合計点で競い合うわ」
淡々とした説明が、逆に恐ろしい。
「チームは私と三玖ちゃん。私たちが勝ったら勉強を続ける」
「逆にあなたが勝ったら、今日は勉強やめて出ていく」
「これでどう?」
二乃は一瞬だけ目を細め――すぐに不敵に笑った。
「いいわ、受けて立つわ」
三玖も小さく拳を握る。
「絶対負けない……」
「お前ら勉強ーー!」
上杉の叫びは、誰にも届かない。
「ちょっと待てェェェ!」
銀時が机を叩いて立ち上がる。
「なんでお前まで参加すんだよ!!」
「そうだ!」
上杉がすがるように振り向く。
「銀時、言ってやれ!!」
「ヘッドホンと高飛車女の一騎打ちで十分じゃねぇか!!」
「いやそうじゃねぇだろ!!」
即座に否定される。
「そうですよ姉上!!」
新八も必死に続く。
上杉は一瞬、希望の眼差しを向けた。
「新八、お前には期待してるぜ」
「2対1だと不公平だし!」
新八は真剣な顔で訴える。
「料理が増えて、僕らのお腹が死んじゃいます!!」
※実際は味が不味いと言いたいが即効でお妙の手によって処刑されるため言い方を変えている。
「いや、死んでんのはお前らの頭の方な!!」
上杉のツッコミが虚しく響く。
お妙は腕を組み、微笑んだ。
「大丈夫よ。三玖ちゃんと私は同志なわけだし」
「徹底的に潰すには、良い機会じゃない」
その言葉に――
銀時と新八の心の中で、同時に悲鳴が上がった。
((いや!!潰されるの面食い女じゃなくて、俺らの命ィィィィ!!))
こうして、
勉強のための家庭教師の現場は――
いつの間にか、生存を賭けた料理バトルの戦場へと変貌していた。
お妙はにこやかに、しかし一切の情を感じさせない声で言った。
「あとお腹の方は安心して良いわ。だって神楽ちゃんがいるじゃない」
その視線が、獲物を見定める猛禽のように神楽を捉える。
「きっと、全部食べてくれるわよ」
一瞬の沈黙。
次の瞬間――
「……あ、私、用事思い出したネ」
神楽は不自然なほど爽やかな笑顔を浮かべ、そっと後ずさる。
「銀ちゃんたち、頑張るヨロシ……」
「待てェェェ!!」
銀時と新八の叫びが、完璧なハモリで炸裂した。
「逃がさないぞ!」
新八は神楽の腕をがっちり掴む。
「神楽ちゃんも行くんだよ!ダークの先まで行くんだよ!!」
「いやアル!!」
神楽は必死に抵抗する。
「私はブラックよりホワイトが良いネ!明るい世界に飛び出したいヨ!」
「安心しろ」
銀時が肩に手を置き、妙に優しい声で囁く。
「行けるよ、明るい場所」
一拍置いて――
「体が浮いた感じになりながら、迎えの天使に導かれて!!」
「それ明るい場所じゃなくて死後の世界アル!!」
その騒動を遮るように、上杉の怒号が飛んだ。
「おい、お前らまで何やってんだ!!」
張り詰めた空気の中、お妙は首を傾げ、困ったように微笑む。
「あらあら……嬉しさのあまり騒いじゃって」
「どこが!?」
二乃が即座にツッコむ。
「完全に怯えてるわよね!?明らかにアンタの“何か”に怯えてるわよね!?」
だが、お妙はその声すら心地よいBGMのように受け流し――
ゆっくりと手を上げた。
「さぁ、始めるわよ……」
その一言で、部屋の空気が一変する。
「よーい――」
心臓が跳ねる。
逃げ場は、もうない。
「スタート!!」
宣言と同時に、
家庭教師の現場は完全に“戦場”へと変わった。
二乃はフライパンの前に立ちながら、内心で舌打ちしていた。
(アイツらがあんなに警戒するもんだから、どんな料理を作ってんだろーって思われてるかと思えば……)
ちらりと、お妙の様子を盗み見る。
(別に変なことしてないじゃない)
火加減も、手際も、すべていつも通りだ。
(やっぱり一番警戒しないといけないのは三玖じゃなくて――)
視線が自然と、お妙の方へ向く。
(アイツね)
背筋が一瞬、ひやりとした。
だが、もう引き返せない。
(ま、もうすぐできあがるんだけど)
フライパンを軽く揺すり、皿に盛りつける。
仕上げに彩りを整え、満足げに息を吐いた。
「じゃーん!旬の野菜と生ハムのダッチベイビー!」
香ばしい匂いが部屋に広がり、張り詰めていた空気がわずかに緩む。
「さ、食べてみなさい?」
試すような視線を向ける。
上杉は一口運び、少し意外そうに目を瞬かせた。
「うーん、普通に上手いな……」
新八も続いて頷く。
「ホントだ、美味しいですね」
二乃の口元が、思わず緩む。
「ふふん!」
胸を張るその横で、銀時が気のない様子で咀嚼しながら言った。
「ヘェー料理で人を見るなとはこのことだな普通に食えるわ」
神楽は腕を組み、むすっとした顔で睨む。
「美味い料理なんて作れたんだなお前、腹立たしいネ、面食いのくせに」
二乃は一瞬だけムッとし、それからふっと冷たい笑みを浮かべた。
「アンタらには二度と作ってあげないから……安心なさい」
そう言い放つ声には、勝ち誇りと苛立ちが、微妙に混ざっていた。
二乃は腕を組み、勝ち誇ったように顎を上げた。
「じゃあ採点してもらおうかしら」
放たれた言葉が引き金となり、部屋の空気は一瞬にして厳格な審判の場へと変貌を遂げた。差し出されたのは、彼女がそのプライドをかけて作り上げた料理。対する審査員たちの眼前に、無情な数字が並べ立てられる。
採点――10点満点。
上杉:10点
新八:10点
銀時:5点
神楽:2点
数字が出揃った瞬間、二乃の端正な眉がピクリと不穏に跳ね上がった。
「ちょっと!そこの2人どういうこと!?」
食後の余韻に浸り、だるそうに鼻をほじりながら銀時が手を挙げる。
「飯は美味かったけど店員の態度に圧を感じましたぁ」
やる気のない間延びした声。しかし、その言葉には「俺は妥協しねーぞ」という妙な説得力が込められていた。
「スタハラで五点減点しまぁーす」
「スタハラって何よ!完全にアンタの主観じゃない!……で、アンタは何なのよ?」
鋭い矛先が神楽へと向く。神楽は椅子に深く腰掛け、まるで老練な批評家のような面持ちで深く頷いた。
「面食いがウザかったです。メシは美味かったです。おかわりが足りなかったです」
一拍置き、慈悲のない追い打ちが放たれる。
「でも化粧は足りないどころか厚かったです」
※補足するならば、それは学生にしては少し気合が入っている程度の話であり、決して厚化粧の部類ではない。しかし、神楽の毒舌はその繊細な乙女心を容赦なくえぐり取った。
「余計なお世話よ!」
怒声が鼓膜を揺らした、その刹那。
「みんなーお待たせ〜」
――万事屋一行、一斉にビクゥゥゥ!!
まるで背後から死神に鎌を突きつけられたかのように、全員の肩が跳ね、空気が絶対零度まで凍りつく。
(来たわね、私の宿敵――ってエェェェ!!?)
二乃の驚愕も無理はなかった。運ばれてきた皿の上には、“料理”という概念を根底から覆す、あまりにも異質なナニカが鎮座していたのだ。
「卵焼きどすゥゥゥ」
黒い。
光の一切を反射せず、周囲の照明さえも飲み込んでしまうような漆黒の物体。それが、山のように盛られている。
「ちょっとアンタ何よコレ!」
「何って卵焼きよ。見たら分かるでしょ」
微笑むお妙。だが、その背後には確かな「魔王」のオーラが立ち昇っている。
(いや分からないわよ!真っ黒すぎるでしょ!存在がブラックホールそのものじゃない!)
(どうしたらあの平穏な手順から、こんな宇宙の真理に到達するようなヤバイモンが出来あがんのよ!!)
(来たな……俺たちの最後の晩餐……)
(新八がメガネになった元凶……まさか本当にあるとはな……驚きアル)
(だから僕、メガネじゃないって)
視線だけの会話が始まる。
銀時〈心の声・アイコンタクト〉
(誰が食うよ?コレ……)
新八〈心の声・アイコンタクト〉
(ここは部長の銀さんがーー)
銀時〈心の声・アイコンタクト〉
(ばばばばばバカ言ってんじゃねぇよオメェ〜!部長はお前らの生存確認しなきゃいけねぇんだよ)
(安心しろ、机にはちゃんとメガネ置いてやるから……ちゃんと供養してあげるから!!)
神楽〈心の声・アイコンタクト〉
(逃げてんじゃねぇヨ!さっきは一緒に天国いこーって言ったネ、お前も一緒に来るアル!!)
銀時〈心の声・アイコンタクト〉
(……分かった。じゃあ一斉に逝こう)
(321で逝くからな……3、2――)
その瞬間だった。
「バク」
誰よりも早く、誰よりも迷いなく。
上杉が、箸を伸ばし、黒き卵焼きを口に放り込んだ。
時間が、止まった。
シーン。
誰一人、声を出せない。
空気だけが、異様な重さで沈黙していた。
(イッタァァァァァ!!)
空気が裂けたような悲鳴が、心の中で一斉に炸裂した。
(やりやがった……!アイツ、ダークマターを何食わぬ顔で食いやがった!!)
視線の先では、上杉がゆっくりと噛みしめ――
「うん、普通に美味……ウマ……」
そこまで言った瞬間、顔色がみるみる青から白へと変わり、白目を剥いた。
ぶくぶく、と口元に泡が浮かび、
バタン!!
重たい音を立てて、床に崩れ落ちる。
沈黙。
その沈黙を、朗らかな声がぶち破った。
「良かった〜。一体どうなることかと思ったけど、喜んでくれて良かったわ」
にこやかに、心から安堵した表情。
「それも涙を流してまで」
「いや、違うわよね!!」
即座にツッコミが飛ぶ。
「どっからどう見ても“美味い”じゃなくて“不味さに倒れただけ”よねソレ!!」
だが、お妙は聞いていなかった。
「さぁ銀さんたちもーー」
「い、いやぁ俺たちはもうお腹がーー」
後ずさる銀時。新八も神楽も、揃って首を振る。
だが。
「良いから食えって言ってるだろうがァァァァァ!!」
拳と共に、恐怖が振り下ろされた。
「えぇ!!?」
逃げ場はない。
バタン!
バタン!
バタン!
次々と倒れていく万事屋メンバー。
床に転がる三つの屍。
全員、等しく白目。
等しく泡。
「見て!銀さんたちも涙流してるわ!」
満面の笑みで、勝利宣言。
「この勝負、私たちの勝利よ!!」
(ヤバ……)
背筋を冷たいものが這う。
(コイツ……普通にヤバイやつじゃない……)
(さすがに、ちょっと哀れに見えてきたわ……)
そのとき。
控えめな声が、戦場の片隅から聞こえた。
「あ、あの……私も……出来た……」
恐る恐る差し出された皿。
そこにあったのは――
ぐちゃあ。
形を失い、原型を留めていないそれ。
「お、オムライス……」
「三玖ちゃん……無理しなくて良いのよ。私、面食い女に完勝したんだから」
勝ち誇ったその声は、春の陽だまりのように柔らかく――しかし聞く者にとっては、心臓を直接撫で切る凶器のように鋭かった。
(どっからどう見てもアンタの完敗よねコレ!! 完膚なきまでに敗北してるでしょコレ!!)
心の中で血を吐くような叫びを上げながら、二乃は激しく脈打つこめかみを押さえる。理性が悲鳴を上げ、もはやツッコミという防衛本能すら追いつかない。
そんな混沌の渦中、三玖が一歩、静かに前に出た。
「いい。私の料理も……食べてもらいたい」
その声は震えるほど小さく、けれど消えることのない灯火のような、不思議な強さを帯びていた。
ーーーーーーーー
銀時たちは、底知れぬ黒い渦の中に囚われていた。
視界は泥のように暗く、意識は対岸へと遠のき、鉛のように身体が重い。
まるで奈落の底で、物理法則を無視したブラックホールにきつく抱きしめられているかのような絶望的な浮遊感。
――死後の世界って、案外キッチンの……それも生ゴミ焼却炉の匂いするんだな。
混濁する意識の中で銀時がそんな走馬灯を眺めた、その時だった。
ふわり。
一筋の救いの光……いや、確かな「食卓」の香りが漂ってきた。
「!? こ、コイツはーー!」
闇の中から、ゆっくりと形を成して現れたのは。
それは、お世辞にも美しいとは言えない、形の崩れたオムライスだった。
卵はぐちゃりとしていて、決して整ってはいない。
普段の万事屋なら、一瞥して「素人が」と鼻で笑い飛ばすであろう代物。
だが――今、この地獄の淵においては。
それはまるで、
イオンのプライベートブランド「トップバリュ」が威信をかけて世に送り出した
『プロのひと品』に見えた。
神々しく。
圧倒的な安心感に満ちて。
「大丈夫、もう怖くないよ」と語りかけてくる聖母のように。
(なんだろう……この味……)
震える手でスプーンを口に運んだ瞬間、雷が落ちるような衝撃はなかった。
高級食材の派手さも、計算され尽くしたインパクトもない。
(決して、美味しいって思える味じゃないのに……)
舌に残るのは、どこか遠い記憶にあるような懐かしい感触。
(なんか……凍えた体と心が、内側から包み込まれるような味……)
刺激の代わりに、そこには確かな「温度」があった。
「普通に美味い」
短く吐き捨てられたその一言が、この場のすべてを肯定した。
(そうか……わかったぞ。これこそが、俺たちが忘れかけてたーー!)
理解した瞬間、氷結していた胸の奥がじんわりと熱を帯びて溶け出していく。
(((愛の味なんだぁ)))
シンクロした意識の中で、全員の目からダムが決壊したようにぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
もはや、言葉による説明など無粋でしかなかった。
彼らは、魂の導きに従い、同時に――。
「10点」の札を、天高く掲げた。
「えぇ!? ちょっと!!」
二乃は信じられないものを見るように目を見開く。
「アンタらふざけんじゃ――」
食ってかかろうとした抗議の声は、途中で力なく霧散した。
三玖は、ただ静かに。
胸の奥から溢れ出す熱いものを隠すように、
そして、世界で一番幸せな秘密を見つけた子供のように、優しく微笑んでいた。
それを見た瞬間。
「良かったわね、三玖ちゃん」
優しく、すべてを見透かしたような穏やかな声がかけられる。
「うん……」
その短い返事には、千の言葉を尽くしても語りきれないほどの想いが、ぎっしりと詰まっていた。
二乃は、悔しさを押し殺すようにぐっと唇を噛みしめる。
「何よそれ……」
視線を鋭く逸らし、自分の中の動揺を吐き捨てるように。
「つまんない!」
踵を返し、足音を荒らげて部屋を飛び出していく。
ドアが閉まる拒絶の音が、静まった室内へとやけに大きく響き渡った。
残された部屋には、
頬を濡らした涙の跡と、
少し冷めかけた不格好なオムライスと、
そして――。
目には見えないけれど、確かにそこにある
ほんの少しだけ、温かくて切ない想いが、静かに漂っていた。
ーーーーーーーーーー
食器が触れ合う、カチカチという乾いた音がキッチンに規則正しく響いていた。
蛇口から勢いよく流れ落ちる水音に紛れて、どこか深い疲れを滲ませた独白がこぼれ落ちる。
「あー……。遅くなっちまったな。まんまと二乃の策にハマっちまったわけだ……今回は出直すとするわ」
背中越しに聞こえるその声には、自分自身の見通しの甘さへの悔しさと、これ以上は無理だという諦めが半分ずつ混じっていた。
「ごめん……」
ぽつりと零れた謝罪は、静かな水面に落ちた雫のように小さく、けれど波紋のように確かに胸の奥へと広がっていく。
(だが、はっきりしたことがある。なぜか知らないが二乃は俺たちに明らかな敵意を抱いている。そして新八の姉の料理がヤバイくてマズ――)
「何か言ったかしら?」
思考を断ち切るように、冷徹な響きを帯びた声が背後からぴたりと刺さった。
「い、いや!な、何も言ってねぇよアハ、アハハハ……」
引きつった乾いた笑いで必死に誤魔化しながら、背中には氷の礫を這わせたような冷や汗が伝う。
(なんで心の中まで見えてんだよ!)
「それにしても、二乃さん。アレをなんとかしないと勉強出来そうにないですね」
「そうだな……」
洗い終えた皿を慎重に置きながら、小さく重い息を吐き出す。
「正直言ってあいつと分かり合える日が来るとは思えん」
それは、今日の嵐のような洗礼を浴び、冷酷な現実を直視したからこそ絞り出された重みのある言葉だった。
「そんなことない……と思う」
少しの静寂を置いて、三玖は確信を探るように続けた。
「誠実に向き合えば分かってくれるよ」
「誠実にってどうすりゃあ良いんだよ……」
「私に言われても分からない。それを考えるのがフータローたちの仕事でしょ?」
「はぁ………」
肺の底にある空気をすべて押し出すような溜息が、今日何度目か分からないほど零れ落ちる。
「…………」
ソファーにだらしなく身体を預けたまま、銀時はただ黙々とジャンプをめくっていた。その図太い沈黙が、妙にこの場の空気に馴染んでいるのがまた無性に腹立たしい。
ーーーーーーーーー
五つ子の家での騒がしい一日を終え、一行はマンションの重厚なエントランスを抜けた。
夜の空気は、昼間の狂気じみた喧騒が嘘のように静まり返り、冷たく澄んでいる。街灯のオレンジ色の光が、黒ずんだアスファルトにぼんやりと滲み、五人の影を長く引き伸ばしていた。
歩を進めるごとに、上杉は強張っていた肩の荷がようやく下りていくような解放感に包まれていた。
銀時は片手にジャンプを丸めて持ち、もう片方の手をズボンのポケットに突っ込みながら、いつもの、拍子抜けするような調子で話しかけてくる。
「いやぁ、今日も疲れたなぁ。」
「銀さん、アレで勉強のサポートしたつもりになってるんですか?」
神楽は頬張っている肉まんの湯気に目を細めつつ、横目で蔑むように銀時を射抜く。
「銀ちゃんが今日したことは、昼飯食ってジャンプ読んだだけアルよ。寄生虫ネ、プロの寄生虫ネ。」
「良いんだよ。別に元はといえばお妙が面食い女と勝負するからこんなことになったんだ。別に俺が責任取る必要なんてありましぇーん」
「はぁ……」
呆れ果てて言葉も出ないといった様子で、新八がため息をつく。
その横で、上杉はやり取りに苦笑いを浮かべながら、無意識に、習慣的にポケットの中を探った。
――そして。
「あれ?」
足を止めた瞬間、心臓の奥がひやりと凍りつく。
常にそこにあるべき、使い古された紙の感触が、どこにもない。
焦燥に駆られ、もう一度、ズボン、カバンの中をかき回すが、指先に触れるのは虚空だけだった。
「……忘れたか。」
「急に立ち止まってどうしたの?もしかして忘れ物?」
立ち止まり、不思議そうに振り返るお妙の視線を受け、短く、自分への苛立ちを込めて息を吐く。
「単語帳をリビングに置き忘れたみたいだ。戻る。」
「戻るアルか?めんどくさいネ! 明日にするヨロシ!」
「上杉さん、一人で大丈夫ですか?僕らも一緒に――」
「いや、一人でいい。場所はわかってるし、時間もかからないだろう。すぐに戻る。」
軽く手を挙げて気遣いを制する。
銀時は頭をガリガリと掻きながら、どこか投げやりに、けれど彼なりの忠告を呟いた。
「じゃあ俺たちは先に帰るからな。くれぐれも襲ったり襲われたりすんなよ。すぐ文春が飛んでくるから。明日の一面『家庭教師の密室スキャンダル』とか勘弁だからな」
「いや、文春は関係ないですよね?」
「分かった、じゃあまた明日な!」
軽く手を振り、上杉は踵を返す。
夜の静寂に沈むマンションへ向かうその背中を、街灯の無機質な光が静かに、そしてどこか孤独に照らしていた。
ーーーーーーーーーー
マンションの前まで戻った上杉は、息を整えながらテンキーに部屋番号を入力した。
電子音が短く鳴り、インターホン越しに聞き慣れた声が返ってくる。
「……忘れ物?」
少し間を置いて、向こう側から水音が混じった声が続いた。
「シャワー浴びてるから、勝手に取っていいよ」
上杉はその場でぴたりと固まった。
眉間に皺が寄り、言葉が喉に詰まる。
「おい、三玖それで良いのか?」
だが、返事はない。
代わりに、シャワーの音が再び強くなり、こちらの声を完全に飲み込んだ。
「……はぁ」
小さくため息をつき、上杉は覚悟を決めるように扉を開けた。
軋む音を立てないよう、慎重に足を踏み入れる。
リビングに入った瞬間、微かに残る石鹸の香りが鼻をくすぐった。
そして――
ブォオオオオオ……
空気を震わせるドライヤーの音。
「……」
上杉はその場で言葉を失った。
ソファの前に、一人の少女が立っている。
背中はこちらに向けられ、長い髪を乾かしている最中だった。
体はタオル一枚で包まれており、その姿はあまりにも無防備で、日常の延長線上にある光景とは思えなかった。
上杉の思考が、一瞬で混線する。
(……タオル一枚で髪を乾かしている奴がいるんだが……)
喉が鳴る。
(もしや――み、三玖のやつ!?もう上がったのかよ!?)
だが、少女は振り返らない。
ドライヤーを動かす手だけが、規則的に揺れている。
(……いや、そういえば一花も裸で部屋にいるくらいだ)
(この家、そういうの気にしないのかもな……?)
理性が必死に言い訳を並べるが、心臓の鼓動はまったく収まらない。
(とにかく、早く単語帳だけ取って――)
その瞬間だった。
「……!」
少女がわずかに動き、ドライヤーの角度を変える。
そして、何気ない調子で口を開いた。
「三玖〜、お風呂に入ってるんじゃなかったっけ?空いてるけど」
その声を聞いた瞬間、上杉の頭の中で何かが弾けた。
(二乃だと~ッ!?!?)
背筋が凍りつく。
少女――二乃は、ゆっくりとこちらを振り返った。
だが、目を細めているあたり、どうやら視力があまり良くないらしい。
上杉が誰なのか、はっきり認識できていない様子だった。
「……?」
首を傾げたまま、平然と続ける。
「いつもの棚にコンタクトが入ってるから、取ってくんない?」
その一言が、上杉の判断力を完全に奪った。
(ど、どうする……)
一瞬で、無数の選択肢が頭を駆け巡る。
(正直に名乗る……?いや、それは絶対にダメな気がする)
想像するだけで、未来が地獄絵図になる予感しかしない。
(かといって、このまま無言で取るのも不審すぎる……)
心臓の音が、やけに大きく耳に響いていた。
上杉は胸の奥にちくりとした罪悪感を覚えながらも、とにかくこの場を早く切り抜けるため、リビングを小さく動き回り始めた。
ソファの下、テーブルの端、雑誌の山――しかし、財布はどこにも見当たらない。
その間も、背後から二乃の声がぽつりぽつりと落ちてくる。
「……お昼にしたこと、まだ怒ってるの?」
上杉は手を止めず、聞こえないふりをしたまま探し続ける。
「……あれは勢いで言っただけ。悪いとは思ってるわよ」
その言葉に、上杉の指が一瞬だけ止まった。
(……へぇ。二乃って、根はちゃんと考えてるタイプなんだな……)
――いや、違う。感心してる場合じゃない。
(コンタクトだ。コンタクトを見つけて、さっさと帰る!)
二乃が言っていた「棚」を探すため、視線を巡らせる。
だが、棚は多い。どれも似たような収納で、見当がつかない。
(……どれだ!?コンタクトが入った棚って!)
次の瞬間、少し苛立ちを含んだ声が飛んできた。
「何してんの?そこじゃないって」
背中に、冷たい汗が一筋流れる。
(……今、声が近くなった?近づいてきてる!?)
足音が、確かにこちらへ向かってきている。
「場所、変えてないわよ?」
距離が、急に縮まる。
上杉はその場で固まった。
(……ちょっと待て。背中に――)
何か柔らかい感触が、ほんの一瞬触れた気がした。
(な、何か背中に柔らかいものが当たっている気がするんだが……) (クソッ!もう限界だ!!)
理性が警鐘を鳴らす。
(逃げよう)
そう決めた、その瞬間。
「……やっぱり怒ってんじゃん!」
吐き出すような声だった。
「全部アイツらのせいだ……!」
上杉は思わず息を呑む。
「パパに命令されたからって、好き勝手にうちに入ってきて……!」
感情が、抑えきれなくなっているのが分かった。
「私たち五人の家に、アイツらの居場所なんてないんだから……!」
上杉の胸に、何かが落ちた。
(……そうか。二乃が俺たちを嫌う理由って――)
「もう決めた!アイツら全員出入り禁止!!」
その瞬間――
ドンッ。
鈍い衝撃。
上杉が何かにぶついた反動で、すぐ横の棚が大きく揺れた。
上段に置かれていた分厚い本が、ずるりと前へ滑り出す。
(……まずい!)
落ちれば、直撃する位置だった。
「危ない!」
反射的に、上杉は二乃をかばうように身体を投げ出した。
ドサッ、と床に倒れ込む音。
「……痛いわね……」
小さく漏れた声に、上杉は胸を撫で下ろす。
(……セーフ)
だが、その安堵は一瞬で打ち砕かれた。
「あれ? 上杉くん?」
背後から聞こえた声に、上杉の全身が凍りつく。
振り返ると、そこには目を丸くした五月が立っていた。
二乃も、その声でようやく状況を理解したのか、目を見開く。
「……え?」
「……上杉って……」
視線が合い、そして――今の体勢を認識する。
「えっ!?じゃ、じゃあ今、覆い被さってるのって……!!」
顔が一気に赤く染まる。
「ちょっと待って!じゃあ、さっきの……見てたってこと!?ありえない!!」
五月も慌てて声を上げた。
「ま、まさか……二乃のお風呂上がりを狙って待機していたんですか!?そんな人だとは思っていませんでした!」
「ち、違う!!」
上杉は必死に首を振る。
「俺はただ忘れ物を取りに来ただけで――!」
だが、二乃の混乱は止まらない。
「撮る私の裸を――!」
「この変態!痴漢!盗撮魔!!」
「そっちの“撮る”じゃねぇ!!」
叫び声が、夜のリビングに虚しく響いた。
ーーーーーーーーーーーー
別の場所で。
夜の街の片隅、控え室の前。
一花は仕事を終え、肩にかけたバッグを整えながら、共に仕事をしていたであろう男と向かい合っていた。
「今日はありがとうございました」
丁寧に頭を下げる一花の表情は、学校で見せるそれとは少し違う。
どこか作られたようで、それでいて完璧な笑顔。
「一花ちゃん、今日もサイコーだったよ」
軽い調子で男が言う。
「また次もよろしくッ!」
「……はい」
短く返事をして、一花は微笑む。
その背中が角を曲がって見えなくなるまで、男は満足げに手を振っていた。
一花は一人になった途端、ふっと息を吐いた。
(……疲れた)
それでも歩みは止めない。
立ち止まる余裕は、彼女にはなかった。
ーーーーーーーーーー
銀魂学園・体育館。
床に反射する照明の光、跳ねるボールの音、息の上がった声。
バスケ部の練習は、熱気に満ちていた。
「ホントありがとう!」
「中野さん、上手くて助かったよ!」
四葉は汗を拭いながら、満面の笑みを浮かべる。
「いえいえ!こちらこそ!」
「正直さ、神楽ちゃんに頼もうと思ってたんだけど」
別の部員が笑いながら続ける。
「万事屋さんいなくて困っててさ〜。ほんと助かったよ!」
「次も頑張りましょう!」
その無邪気な一言に、場の空気が和む。
少し間を置いて、先輩らしき部員が声を落とした。
「あのさ……お願いがあるんだけど」
四葉が首を傾げる。
「これを機にさ、正式にバスケ部入らない?」
「……へ?」
四葉の笑顔が、一瞬だけ固まった。
ーーーーーーーーーー
中野家の風呂。
湯船の中で、三玖は膝を抱え、静かに湯気を見つめていた。
今日一日の出来事が、泡のように浮かんでは消えていく。
「……変なこと言うから」
ぽつりと呟く。
脳裏に浮かぶ、二乃の声。
『こんなボサボサの天パ頭が好きだったの?』
三玖は、さらに身体を沈めた。
湯が、耳元で静かに揺れる。
「……そうじゃないのに」
言葉は水に溶け、どこにも届かない。
ーーーーーーーーーー
帰り道
「銀さん、大変ですよ」
新八の声に、銀時はジャンプから目を離さず答えた。
「あぁ?家賃の催促なら聞かねぇぞ」
「違います!上杉さんが……」
一瞬、間を置いて。
「……襲っちゃいました」
ズゥゥゥゥ――。
空気が、沈む。
銀時、神楽、お妙の三人が同時に顔を上げた。
「……中居ったな、アイツ」
「中居っちゃったアルな」
「中居っちゃったわね」
新八が思わずツッコむ。
「いや、“中居っちゃった”って何なんですか!?」
ーーーーーーーーーー
職員室。
机に肘をつき、ジャンプを読んでいた銀八の携帯が震える。
ピロン、と間の抜けた通知音。
「……めんどくせぇなぁ」
そう呟きながら、銀八は画面に視線を落とした。
そのメールが、また新たな騒動の火種になるとも知らずに。
銀時「次回予告〜文春には気をつけよう」
「とかでいいんじゃね?」
「てなわけで画面の向こうのオタク共〜良いお年を〜」
挿絵
-
カラー
-
白黒