空飛ぶちんちん亭   作:散髪どっこいしょ野郎

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第一話

 その世界には、IS、インフィニット・ストラトスと呼ばれる兵器が存在していた。

 

 使えるのは女性のみ。そこにイレギュラーはありえない。……ただ二人の、男を除いて。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 とある男子生徒がISを動かした、という衝撃は世界中を駆け巡った。しかもそれは一例のみならず、二人も現れたのだ。

 

 一人は『織斑一夏』。世界最強のISパイロット『織斑千冬』の弟である。彼は受験する高校を間違え辿り着いた先でISを起動させてしまったという珍事から、IS学園に通うことに。まあここらは原作を囓ってる人なら分かることだろう。

 

 肝心なもう一人の名は『(いま) (めくる)』。出自不明。両親不明。経歴が一切分からないままとある孤児院へ預けられていた。

 

 織斑一夏の騒動により急遽世界中で行われたIS適性検査。捲はどういうカラクリか、起動に成功したのだ。

 

 というわけで国の保護下に置かれた捲は現在秘匿された場所にあるホテルでIS参考書の内容を頭に叩き込むことを強制させられていた。

 

 彼からすれば突如として変わった周囲の世界。こんなことに巻き込まれたことに対する怒りはもちろんあったが、彼にはとある心の支えがあった。

 

 その支えの名はちんちん亭。作者『chin』によるサークルの書籍群である。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 織斑一夏は緊張しまくっていた。急遽入学させられたIS学園にて先頭の席に座らされていたのだから、それも当然と言える。

 

 一夏は救いを求めるようにチラチラと隣の席に座る男子生徒、今捲を見やる。

 

 彼は凜とした顔つきで着席していた。その面影は侍のそれを彷彿とさせる。──と、ここまでつらつら書いてきたが彼の脳内は『今日はどのちんちん亭書籍で致そうか』という思考だけで占められていた。侍の姿か?これが……。

 

 そんなこんなで入学初日ということもあり自己紹介をすることになった。五十音順で一夏より先にいる捲は弾かれたように席を立ち──

 

 

 

 

 

 

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「……今年は骨が折れるな」

 

 

 硬直する1-1副担任、『山田真耶』の隣で、同じくIS学園教員、織斑千冬はこめかみを抑えていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 休み時間、クラス内は先の捲の発言で持ちきりになっていた。

 

 

「オリジナル同人って何?」

 

「マゾメス……?ソープ……?」

 

 

 その大体が困惑である。

 

 

「な、なあ今。俺、織斑一夏。よろしくな」

 

「ああ、よろしく。捲でも、今でも好きなように呼んでくれ」

 

「……!ああ!よろしくな捲!俺のことは一夏でいいぞ!」

 

 

 縋るように話しかけた一夏は先程の異変は嘘だったかのように穏やかな捲に安心して、破顔した。

 

 

「あれ……意外と普通に応対してる……?」

 

「やっぱさっきのは何かの間違いだよ」

 

 

 そんなほんわかな雰囲気からこっそりと希うように現れたのは『篠ノ之箒』。一夏とは小学生時代の同級生にして共に剣道を歩んだ幼馴染みである。

 

 

「……少し、いいか?」

 

「……あれ、箒?箒じゃねーか!あ、紹介するぜ捲、コイツは篠ノ之箒!剣道で日本一になった凄い奴で──」

 

「な、なぜそのことを……!と、というかとにかく来い!」

 

「行ってやれ一夏。オレは逃げねえよ」

 

「ああ、じゃ、またな!」

 

 

 そうして立ち去る二人を思考の隅に置きながら、再び妄想に耽っていった今捲なのだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 

 無謀にも捲に声をかけたのは『セシリア・オルコット』。原作だとチョロインである彼女は、初登場時は男を見下しており、その背景には自らの両親に対する疑問などが介在していたのだが、捲も一夏も知る術は無い。

 

 こうして捲に声をかけたのも、『男というだけで特別視された哀れな凡愚に手を差し伸べてやろう』という魂胆から発せられた行為であり、そこに優しさなどは無かった。

 

 呼び止められた捲は振り向き──

 

 

「本当に誠心誠意挨拶したいと思ってる?そのデカケツ見るとそうは思えねぇな」

 

「……え?」

 

 

 あまりの返答にセシリア・オルコットは絶句した。とんでもねえモラハラ男子生徒だな。日本の未来を憂うわ。

 

 そのあまりの激震に言葉すら出てこず、セシリアは唖然としながらその場を後にした。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ここがお前たちの部屋だ。いいな」

 

「ああ。ありがとう千冬ね──痛あっ!」

 

「織斑先生、だ」

 

 

 織斑千冬は一夏たちの担任であり寮長でもある。捲と一夏は男同士ということで当然同部屋となった。ラッキースケベなんてものは存在しない。いやするかも。

 

 

「なあ捲ー、なんか奢るから勉強教えてくれないか?」

 

 

 一夏は入学前に与えられた参考書を誤って捨ててしまい、入学初日から行われる授業に全くついていけなかった。

 

 そこで成績だけは優秀な捲を教師役としてあてがうことで更なる成長を促す。同じ性別なら気も楽だろう、というバックのお偉いさん方の考えも彼らの同部屋の理由としてあった。

 

 

「オレは優しく教えらんないぞ、それでもいいか?」

 

「う゛……。……でも、頼む。いや、お願いします!」

 

「……フッ。分かったよ。じゃあシャワー浴びたら勉強始めるぞ」

 

 

 コイツとは仲良くなれそう。二人の間に発生、そして共通した思いは、友情の第一歩だった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 無事に初夜を終え、一夏たち一年一組はクラス代表を決めることとなった。色めき立つ女子たち。顔がいいことから、当然のように一夏が他薦された。

 

 

「織斑一夏くんがいいと思いまーす!」

 

「……俺ぇ!?」

 

「いいじゃないか一夏。お前さんの成長にも繋がるぞ?」

 

「じゃ、じゃあ俺は捲を他薦する!いいよな千冬ね──いってぇ!」

 

「織斑先生だ。……まあ、そうだな、今。他薦された以上お前も代表候補だ」

 

「だんだん闘気が高まってまいりましたよ」

 

 

 またしても発現した、捲の異様な言葉遣い。一夏と話している時はただの男子学生だというのに、女性が絡んだ瞬間おかしくなる。これは──と、千冬が思考していると、その声は高らかと響いた。

 

 

「納得いきませんわ!

そのような選出は認められません!

男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!」

 

 

 セシリアの進言がクラス内に響き渡る。確かに彼女の言うことにも一理ある。捲も一夏もISに乗り始めたばかりのズブの素人。一夏においてはロクに座学も備わっていない。そんな相手に物珍しさだけで自分たちのクラス代表になってもらうなど、反発も当然起こるだろう。

 

 

「じゃあちふ……織斑先生、アイツにやってもらうってのは……」

 

「お前が他薦すれば可能だ」

 

「よし、じゃ頼むぜ!えーっと……セシリア!これで俺たちも降りられるだろ」

 

「何を言っている?候補が三人現れることになるんだぞ。……ここはIS学園だ。結果はISの腕前で示せ」

 

「ええ。やはり貴方は分かっていらっしゃるようですわね、織斑先生。──決闘ですわ。織斑一夏、今捲。貴方方のような男に、私は負けませんわ!」

 

「──だらしねぇ顔しやがって。どうせ戦闘にもダラしねぇんだろ」

 

 

 捲の発言で空気が凍り付く。売り言葉に買い言葉。

 

 

「今、なんと言いました?」

 

ケツ(プライド)がデカすぎる……モラルを弁えろよ」

 

「お、おい!どうしたんだよ捲!お前そんな喧嘩っ早い奴だったか?」

 

「そこまでだ貴様ら。……今。お前の発言は不問にする。その代わり腑抜けた成果を出すようだったら……相応の処分を下す」

 

「悪法もまた法なり」

 

 

 ……こうして、織斑一夏、今捲、セシリア・オルコットの三人はISによる決闘を行うこととなった。

 

 千冬の言葉でひとまずその場はお開きとなったが、その日の授業終了後、彼女は誰もいない教室に捲を呼び出した。

 

 

「今。確かにここは如何なる機関の影響を受けない。だが通常なら国際問題だ。弁えておけ」

 

「ニュホー♡」

 

(……ダメだコイツ)

 

 

 かつてないほどの問題児となる可能性がある。千冬は早くも頭を痛めていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「しっかし、決闘っつっても俺らどうやって鍛えりゃいいんだろうな」

 

「それについてなんだが、第三アリーナを使用する許可を貰った。量産機の打鉄(うちがね)がある。それ使って特訓しよう」

 

「……捲スゲぇな。俺まだ全然この学園を把握できてねぇよ」

 

 

 それからは普通に二人でISに試乗しブレードの取り回しや射撃訓練、飛行技能の特訓をこなした。元々原作では異様に飲み込みの早い一夏とちんちん亭の徒と化した捲はメキメキと力をつけていった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 とうとうやってきた決闘当日。一夏の専用機は届くまでまだ時間がかかるということで、捲が先に舞台へ上がることとなった。

 

 

「これが捲くんの専用機です。……でも、どうしてでしょう織斑先生。このIS、届いたのがつい昨日なのにもう細かい設定ができていて……」

 

「(……これはアイツの差し金だな。まったく……何を考えているのやら)今はただ二人の男子生徒ですから、上の方もセッティングとデータ収集は迅速に行いたいのでしょう。……今、聞いた通りだ。そのISに触れてみろ」

 

「おお……!入る……!」

 

 

 待機状態はチョーカーのIS、『盂涙(うるい)』に捲が触れる。すると、世界は黒く閉ざされた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

『初めまして、捲』

 

 

 黒い世界の中で、少女の声と雨の音だけが捲に伝わる。

 

 

「うお……ッ

機体が生き物のように這い回って……ッ

ピッカピカにお掃除されちゃってるよう!

このお遊戯……雅である」

 

『……キミは、私が嫌いかもしれないけど、これだけは覚えておいて。私は、何があってもキミの隣にいるから。──たとえ、お母さんと──』

 

 

 声がノイズと雨の音で曖昧になっていく。言葉は最後まで聞き取ることができなかったが、捲には──

 

 

「ふざけんのも大概にしろよ全身ムチムチ装着し心地最高モンスターがよ。生まれてきてくれてありがとうな」

 

 

 ……しっかり伝わったのか?コレ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「逃げなかったことだけは、褒めてさしあげますわ」

 

「よちよち♡いい子じゃよ♡マゾメス赤子のあやし方なら変態オヤジにお任せあれ♡」

 

「ッ、バカにして……!」

 

 

 試合開始の合図が鳴るまでの数瞬、捲はセシリアの一挙一動を見逃すことなく捉えていた。

 

 そして、戦闘が始まる。

 

 

「さあ、踊りなさいセシリア・オルコットとブルーティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

「いつまでもごちゃごちゃうるせーよこのアホ女め。俺が世の男に代わって鉄槌を下してやる」

 

 

 セシリアのIS、『ブルー・ティアーズ』は複数のビットとレーザーライフルが主な兵装であり、射撃戦を得意とする。対する盂涙の武器は──

 

 

「そのような貧相なナイフで、よくしのぎますわね。ですが……!」

 

 

 ナイフ(正式名称は『彼岸』)一本。ハンドガンすら無い。それに対し捲は、ろくでもねぇ機体だな。死ねよ。

 

 ──とは、言わなかった。

 

 捲は理解する。これは未熟な自分に与えられた成長の機会。ならば食らい尽くすことでどこまでも駆け上がってみせる、と。

 

 だが、千日手。

 

 

「威勢がいいのは最初だけとは……やはり男は軟弱ですわね」

 

 

 一方的に撃たれるのをなんとか回避するかナイフで防御するだけしかできない。このままではジリ貧だ。

 

 となれば、移る行動は一つのみ。

 

 

「やはり、特攻してきますか」

 

 

 セシリアはどこか冷めた目で捲を見やる。この男も同じだ。お父様のように──

 

 

「ッ?」

 

 

 なんだ?一瞬、機体のコントロールが覚束なくなった。不調か?いや、先日メンテナンスしたばかり。故に、これは目の前の男がやったということ……?

 

 ……あまり長引かせる必要もない。さっさと終わらせる。

 

 と、セシリアが全弾集中砲火しようとした刹那──

 

 

『ERROR』

 

「なっ!?」

 

 

 数瞬、ティアーズが制御不能に陥る。

 

 意識を切り替えた頃には既に遅く、彼の猛攻が始まった。

 

 

「ティアーズいじりでもうヘバっちゃった?そういうところもおちゃめですね♡普段から怠惰だからだ!体力つけろ!」

 

 

 ナイフに、エネルギーの刃が現れる。これはかつて千冬が駆った『暮桜』の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、『零落白夜』と酷似していた。

 

 しかし破壊力は本家本元の零落白夜より抑えられており、エネルギー効率を良くした分一撃で決定的な打撃は与えられなくなっている。強力なことに変わりは無いが。

 

 それはそうとして、何故セシリアのビットは制御不能になったのか。それは()()()()の能力による。

 

 

『先程から……なんなんですかっ、貴方は……!』

 

 

 彼に吠えるのはセシリアではない。ブルー・ティアーズそのものだ。

 

 

「いけない子だなぁ。でもそういう怠け者なところも好きだよ。チーマーめ!」

 

 

 彼はなんと、ブルー・ティアーズを遠隔ハッキングしていた。ちんちん亭語録を流し込みISを一瞬機能不全にさせるという、なんとも馬鹿らしくなんとも凶悪な技能を使用していたのだ。

 

 

「く……っ、インターセプター!」

 

「無駄だよ。死ね」

 

 

 誰の目から見ても決着はついた。今捲。二人目の男子生徒が、イギリス代表候補生、セシリア・オルコットに打ち勝った瞬間である。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「勝ったぜ、一夏」

 

「すげぇ、すげえよ捲!俺も、お前みたいになれるか!?」

 

「一緒に特訓してきたろ。お前ならできる。ま、一旦肩の力抜け」

 

 

 ピットに戻った捲を一夏たちが出迎える。

 

 

「まあ、素人にしてはよくやったぞ今。これから長い。その大言に見合うだけの力をつけろ」

 

「さすが世界最強。教師的だね。レジプロエンジン」

 

 

 千冬は珍しく褒めながら再び思惟する。

 

 

(あの機能は私ですら知らないぞ……本当に、厄介な土産を残したな、アイツは)

 

 

 盂涙と捲が発動してみせた遠隔ハッキングは、本来戦闘用ではない。彼らの能力、その真の意味は、ISとの対話。だがそれを知るのは、この世界で二人しかいない。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「貴方たちを侮ったこと、ここに詫びます。申し訳ありませんでした」

 

「え?俺はまあ大丈夫だけど……捲にも後で言ってやってくれよ?」

 

「……あの方と関わるのは、少し」

 

「……いやまあ確かに変な言葉遣いだけどさ」

 

 

 第二戦。織斑一夏vsセシリア・オルコット。

 

 原作ほど溝渠が発生していない分打ち解けるのも早かったが、代わりにセシリアから捲に対する苦手意識が生じてしまった。

 

 このことを捲は後悔していない。生きていく以上、誰も彼も仲良しこよしではいられない。

 

 俺だけは友達でいよう、と一夏は密かに決意した。

 

 一方、ピットにて。

 

 

「いかんな。あいつ……やらかすぞ」

 

「全く……私情を持ち込むのはダメなのだがな……。今日だけは許してやると──」

 

 

 捲の言葉は最後まで続かなかった。千冬が出席簿で殴りつけたからだ。

 

 

「お前にも分かるだろう?」

 

「陰○五輪2024」

 

 

 千冬の視線は、一夏の左手にあった。閉じたり開いたりしている。それは、一夏が浮ついた時に発せられる癖なのだが、果たしてセシリアは気取っているのだろうか。

 

 一応原作とは違い初期化(ファーマット)最適化(フィッティング)は済ませてあり、加えてISの稼働経験も多少はあるため機敏な動きで避けまくっている。

 

 更に言ってしまうと、千冬は一夏にアドバイスしている。

 

 

『零落白夜は強力な武装だ。しかし相手を殺しかねない上に消耗が激しい。……使い所を見極めろ』

 

『……!ああ!ありがとう千冬姉!いててて!』

 

『織斑先生、だ』

 

 

 しかし、それを含めても一夏の専用機、『白式』は超ピーキー機体。燃費が悪く、必殺技、零落白夜も多大なるエネルギーを消費する。

 

 一見すると互角に渡り合っているようだが、それが深い落とし穴となっていることを一夏は気づけていなかった。

 

 動けている。その自覚が、気分を高め冷静さを無くし──

 

 

『織斑一夏エネルギー切れにより勝者、セシリア・オルコット』

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……ごめん!二人とも!全っ然シールドエネルギー見てなかった!」

 

「あの決着は反省文ものだぞ織斑。今を付き合わせた意味が無い」

 

「オレから見てもちょっとなぁ……あの負け方はなぁ……」

 

「本ッ当に悪い!ごめんなさい!」

 

 

 平謝りである。これで序列は一夏を負かしたセシリアを負かした捲が最上位となるが、一応一夏と捲との戦闘データを取るための理由として二人は戦うこととなった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「よし、それじゃ、恨みっこなしだぜ」

 

「……なあ、一夏。お前はどうして強くなりたい?」

 

「え?」

 

 

 捲は普段の訓練から疑問に思っていた。一夏は強くなることに貪欲だと。

 

 何かを成したい、偉くなりたい、人が強さを求めるのには必ず理由がある。

 

 場合によっては……と、身構える捲に一夏が投げかけた言葉は、

 

 

「誰かを守れるようになりたい。俺の大切な人も、それ以外も、守りたい」

 

「……そうか」

 

 

 それ以上の言葉は不要だった。第三戦目、織斑一夏vs今捲の火蓋が切って落とされた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

(……一夏)

 

 

 観客席から不安げな視線を送るのは、篠ノ之箒。彼女は小学生時代交流があった一夏に、淡い恋心を募らせていた。

 

 姉である篠ノ之束がISを開発してからというもの、日本政府からの監視や聴取を受け、更には重要人物保護プログラムにより一家は離散状態。育ち盛りの彼女には大きすぎる負担がかかっていた。

 

 そんな中縋ったのは、かつて惚れていた──そして今も惚れている──一夏との思い出。

 

 望んでIS学園に入学したわけではないが、こうして再開できたことを喜ばしく思う気持ちは確かにあった。

 

 

(……勝て、一夏)

 

 

 一夏は剣道をやめてしまった。しかし、それでも自分が彼の力になることはできるはず。箒は密かに篠ノ之流剣術を一夏に継承させるつもりでいた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「セイッ!ラァッ!」

 

「……一夏お前、どんどん強くなってないか?」

 

 

 織斑一夏が使用する白式の兵装、『雪片弐型』。一本の大きな刀剣であり、質量や遠心力、そしてかつて習っていた剣道の経験も後押しし、捲の彼岸を弾き飛ばす勢いで打ち払っていた。

 

 ナイフ一本。下手すれば白式よりポンコツな装備だが、小回りが利くという利点もある。しかしそれを踏まえても一夏は強かった。

 

 

(……そうだ一夏。お前にはもう、力がある)

 

 

 そう内心で語るのは千冬。あの時、攫われてしまった時とは違い、少年は翼を手にしている。

 

 

(精々励めよ、一夏)

 

 

 表には出さないが、やはり血の繋がった家族ということもあり唯一無二の弟である一夏を鼓舞していた。そんな千冬の背後に一人の女子生徒。

 

 

「……オルコット。この状況をどう見る」

 

「一夏さんが優勢……ですが、捲さんも諦めてはいませんわね」

 

 

 燃費の性能的に長期戦となれば一夏の敗北は必至。それまでに捲の防御を削りきられれば一夏の勝利となる。

 

 そしてなにより──

 

 

「この奥ゆかしさ……。母性と猥褻度ムッチリメスボディの成り立ちを見た気がするよ」

 

『なにぃ!?なんなのこの人ぉ!?』

 

 

 白式は捲との勝負を嫌がっていた。一方的に語録を流し込まれて嫌悪感が湧かない方が異常とも言える。

 

 

(この言葉遣い……!セシリアにやった遠隔ハッキングか!)

 

 

 意図には気づいている。しかし決めきれない。

 

 このままでは一気に形勢逆転される恐れもある。が──原作主人公は伊達じゃない。

 

 

「零落白夜ァ!」

 

「!来るかッ……!」

 

 

 彼岸にエネルギーを纏わせる捲……だが、一夏は零落白夜を発動していない。

 

 

「──ブラフか!」

 

「その、通、りぃっ!」

 

 

 叫ぶことによるブラフ。そしてフェイントを混ぜられた剣戟によりとうとう一撃入れられた。そして一度傾いた趨勢は一気に決着へと加速する──!

 

 

『今捲エネルギー切れにより勝者、織斑一夏!』

 

「や……やった……!やったぞおぉぉ!」

 

「ハァ……あとちょっとでハッキング完了したのになぁ……」

 

「ありがとな捲!俺、もっと強くなるよ!」

 

「ああ。……オレもすぐに追いついてやる」

 

 

 熱い握手。青春の芳香。観戦していた生徒たちはその熱波に焼かれた。

 

 

『……もうメクルとは戦いたくないなぁ』

 

『アハハ……ごめんね、白式』

 

 

 舞台の裏側ではコア・ネットワークを通じて白式と盂涙が会話していた。白式には、捲に対する苦手意識がすっかり根付いてしまったのだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ということで……一夏くん、クラス代表就任おめでとうー!」

 

「「「おめでとー!」」」

 

「頑張れよ、一夏」

 

「……なんで俺なんだ?捲の方がセシリアと上手く戦えてたのに」

 

 

 戦闘結果を踏まえ、一夏がクラス代表、捲はその補助となった。まあそこまで大した話ではないのでそういうものだと思って流してほしい。

 

 

「捲さん」

 

 

 一夏たちクラスがどんちゃん騒ぎを起こす中、捲は一人夜の窓際で佇んでいた。その表情からは強さへの渇望、そして微かな満足感が見て取れた。

 

 そんな捲に話しかけたセシリア。彼女は一体何を伝えるのか……。

 

 

「先日の無礼、お詫びいたします。申し訳ありませんでした」

 

 

 謝罪。確かに男を見下していたのは事実だが、(語録で)煽ったのは捲である。彼は内心喧嘩両成敗だと決めつけていた故に、予想だにしなかった言葉を投げかけられ僅かに動揺していた。

 

 

「わぁいママが謝ってくれてうれちいなぁ

全身淫乱警報」

 

「(どうして私たち女性と話す時はその妙な言い回しになるのかしら……)これから同じ学び舎で暮らす者としてよろしくお願いします。捲さん」

 

「うん!セシリア(ママ)だいすき!もうちょっと謝罪が遅かったらお仕置きだったな」

 

「その……申し訳ありませんが私には既に決めた殿方がおりまして……」

 

 

 頬を赤らめ身を捩るセシリア・オルコット。彼女はあの戦いを通して一夏に惚れていた。まったく罪な男だなと内心愚痴りながら、捲はジュースを呷った。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 後日。一夏と箒、そして捲は学園内の道場に顔を出していた。

 

 

「剣道をやめたそうだな、一夏」

 

「ああ。バイトで忙しくってな」

 

「なるほど……お前剣道やってたのか。だからあんな太刀筋が洗練されていたんだな」

 

 

 ちなみに現在は放課後。寮に帰ろうとした一夏をひっつかみ、剣道という共通の話題で繋がりを深めようとしていた。捲は勝手についてきたおまけである。

 

 

「今日から放課後、剣道をみっちり叩き込んでやる。逃げるなよ、一夏」

 

「いいぜ。体動かすのも久しぶりだしな。ところで、捲はどうするんだ?」

 

「私が教えてもいいが……未経験者にはまず素振りから始めてもらった方がいいかもしれん」

 

「オレは脇役らしく筋トレしてるよ。お若い二人同士、精々仲良くな」

 

「??じゃあなんでここに来たんだ?筋トレなら部屋でもできるのに」

 

 

 言ってしまえばただの野次馬根性である。箒が一夏にホの字ということはバレバレだったため、一夏の恋心射止めダービーがどう決着するか間近で見ておきたい、というなんとも意地の悪い気持ちから捲は介入していた。

 

 こうして、一夏の勘が戻るまでIS訓練と並行し剣術指南が行われることとなった。白式の武装は刀一本なため、ちょうどいい機会だった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 またしてもある日。捲と一夏は整備室を訪れていた。専用機を貰った以上、最低限のメンテナンスはできるようになっておきたいという理由でドアを開けたのだが──

 

 

「……あなたが織斑一夏?」

 

「ん?そうだけど。どうした──っ、いってえ!何すんだよ!」

 

 

 青い頭髪の女子生徒、『更識簪』が一夏にビンタした。捲は整備室に入室した直後にとあるISと脳内で会話していたため止めることができなかった。

 

 

「おい!俺が何したってんだよ!」

 

「……八つ当たりなのは分かってる。けど、許せないから」

 

「……なるほど、そういうことか」

 

 

 捲は一夏を引っ張り物陰へ身を寄せる。その口から発せられた言葉は語録ではなく、更識簪の現在状況だった。

 

 簪は予定通りなら専用機、『打鉄弐式』が与えられる筈だったのだが白式のデータ取りのために開発者を全て持っていかれ、未完成の打鉄弐式を単独で完成させようとしていたのだ。何故そんなことが分かったのかと言うと、盂涙と捲の特殊能力、ISとの対話により打鉄弐式から直接話を聞いたため全てを理解した捲がこうして間に挟まったのだ。

 

 

「……じゃあ、俺の所為ってことか?」

 

「お前が悪いわけじゃない。ただ単に開発元の『倉持技研』がクソだったってだけだ。まあ……それでも罪の意識を感じるなら、手伝ってやったらどうだ?」

 

「え?で、でも俺嫌われてるぜ?ISについても詳しくないし……」

 

「細かい雑用ぐらいでもできることはあるだろ。ま、オレはどーでもいいけど、お前がやりたいようにしろ」

 

「……分かった。ありがとな、捲」

 

 

 それからというもの、忙しい合間を縫って整備室に通う織斑一夏の姿が目撃されるようになっただとか。和解には、まだ時間がかかりそうだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ふんふふ~ん♪」

 

 

 宙に浮かぶキーボードを叩く女性が一人。彼女は上機嫌に鼻歌を交えてIS学園のカメラをハッキングしていた。

 

 

「いや~、やっぱりいっくんはカッコいいな~!」

 

 

 織斑一夏を監視、盗聴しながら彼女は悦に浸っていた。その声色は喜色に塗れていた。

 

 そうして眺めていた映像に、ある人物が入ってきた瞬間、彼女は更に笑みを深める。

 

 

「期待してるよ。捲」

 

 

 呟くと、別途のパソコンに視線を運ぶ。その画面には、『いっくん主人公化計画』なるものが表示されていた。

 

 

「くーちゃん、今日のご飯はー?」

 

「……オムライス、を目指しました」

 

 

 くーちゃんと呼ばれた女性はすまなさげに皿を運ぶ。そこに鎮座しているのは黒焦げの料理とも呼べない何か。それをウサ耳女は美味しい美味しいと言って食していた。

 

 これはまだ始まりに過ぎない。激動の時代が今、幕を開けようとしていた。

 

 

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